平成31年4月26日付北海道新聞

高1自殺、顧問の責任否定 アンケート廃棄「苦痛与えた」 札幌地裁

北海道指導死判決1

2013年3月に札幌市の道立高校1年の男子生徒=当時(16)=が自殺したのは、所属する吹奏楽部のトラブルで当時の男性顧問教諭から叱責(しっせき)されたのが原因として、生徒の母親が道に約8400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、札幌地裁であった。高木勝己裁判長は顧問による叱責などの指導に問題はなかったとして自殺に対する元顧問の責任を否定した。一方で高校が自殺の原因を調べたアンケートを廃棄したことで原告に精神的苦痛を与えたとして、道に110万円の支払いを命じた。

判決によると、13年1月に生徒と他の部員がメールのやりとりでトラブルになった際、元顧問は生徒のみを叱責し、全部員の前で謝罪させた。3月にも生徒が行った別の部員に関する発言について「俺なら黙っていない。おまえの家に怒鳴り込み、名誉棄損で訴える」などととがめ「他の部員に一切メールをしないこと」を部活に残る条件として要求。生徒はその翌日に自殺し、原告は16年3月に提訴していた。

判決理由で高木裁判長は、生徒のメールは全部員を動揺させ、発言も他の部員の名誉を傷つける可能性があったと指摘し「指導の必要があり、方法も違法とはいえない」と判断。「指導が自殺のきっかけとなったことは否定できないが、原因は複雑かつ多岐にわたる」と述べ、自殺との因果関係は認めなかった。

一方で高校が、在校生アンケートを道教委が定める保管期限5年を待たずに廃棄したことは「自殺の原因に対する有益な情報を確認する機会を失わせ、多大な苦痛を与えた」などとして賠償を命じた。

原告側は「控訴を検討する」とし、道教委は「判決の内容を十分検討し、今後の対応を判断する」とコメントした。(中秋良太、松下文音)

原告側「指導死の再発防止につながらない」 高1自殺判決

北海道指導死判決2

生徒の遺影を手に記者会見する母親(金田淳撮影)

「判決には納得できない。親の責任を果たせず申し訳ない」。判決後、札幌市中央区で記者会見した原告の母親(51)は、生徒の遺影を握りしめて語った。

判決は元顧問の指導を「必要性がある」とした。原告代理人の秀嶋ゆかり弁護士は「身体的な暴力を伴わないと、裁判所は指導という名の下に違法性を認めない。今回の判決では再発防止につながらない」と訴えた。

「指導死」という言葉を提唱し、わが子を亡くした全国の遺族でつくる「『指導死』親の会」の共同代表大貫隆志さん(62)は「校内に顧問の振る舞いへのチェック体制がなく、道教委も適切に助言できなかった。子どもがつらい思いをしないよう、早急な対策が必要だ」と話した。(佐藤圭史)

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