【9月29日 河北新報】

◎悲劇をなくすには(上)NPO法人ジェントルハートプロジェクト(川崎市)理事 小森美登里さん(58)

仙台市立中1年の男子生徒=当時(12)=がいじめを苦に自ら命を絶ってから1年が過ぎた。
悲劇を生んだいじめをなくすには、学校や児童生徒、保護者がどう対応すればいいのか。少年の苦しみから何を学び取ればいいのか。いじめ自殺で子どもを亡くした親や、弁護士、研究者の3人に聞いた。
(仙台・中1いじめ自殺問題取材班)

<市教委判断誤り>
-仙台市のいじめ自殺問題をどう受け止めるか。
「公表に1年も費やした市教委の判断は間違っている。最初にすべきは遺族のケア。それと速やかな公表に向けた説得だった。高校1年の娘をいじめ自殺で亡くした私の場合もそうだったが、親は悲しみに打ちひしがれ、冷静な判断ができない。市教委が遺族に寄り添い、予見できる混乱を丁寧に説明すべきだった」

-遺族は非公表を望んでいる。
「真実を明らかにするには公表が必要なプロセスだと伝えれば応じるはずだ。親が公表しろと言えば公にし、事実を伏せろと言えば隠すようでは、いじめ自殺の対応にばらつきが出る。悲劇を繰り返さないためにも、一貫性のない対応は絶対に避けるべきだ」

-公表に時間がかかったことによる弊害は何か。
「真相を究明する機会を逸した。いじめた子どもと教師、保護者だけに聞き取りをしても、状況を正確に
把握できない。直後にクラスメートや同じ部活の子どもたちに話を聞かないと、真実にはたどり着けない」
「保身に走りがちな学校は『子どもの言うことは曖昧で信用できない』との論法を好む。学校の内部事情
を知らない専門家より、事実を見聞きしていた子どもの方がよほど信頼できる。むしろ早く聞き取らないと
さまざまなうわさが広がり、真実がかすんでしまう」

<生徒ら傷付いた>
-今も事実を伏せられ、学校や教師を信じられない子どもも少なくない。
「いじめ自殺を『無かったこと』にされた結果、どれだけ多くの友人たちが傷付いたか、周りの大人たちは想像できるだろうか。真実に向き合えなければ立ち直りへのケアもできない。必要なのは学校全体で事実を受け止め、悼み、思い切り泣くことだ」
「加害者が反省する機会を逃した可能性もある。加害者から本音を聞き出せるのは、いじめ自殺の発覚からせいぜい3日。加害者の親、教師は『いじめられた子にも原因があった』などと誤った弁護の仕方をしがちだ。更生する機会を奪われたとすれば、彼らは大人の事情が生み出した第二の被害者だ」

<こもり・みどり>98年7月、一人娘で高校1年の香澄さん=当時(15)=をいじめ自殺で亡くした。03年、いじめのない社会づくりを目指すNPO法人「ジェントルハート プロジェクト」を夫や支援者らと設立。理事を務める。12年、文科省いじめ問題アドバイザーを務めた。

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