【10月24日 河北新報】

◎山形大 加納寛子准教授に聞く

-報告書は教師の対応を批判しました。

<初期対応に問題>
「初期段階できちっと対処しなかったことが最大の問題といえる。担任は2013年5月中旬、加害生徒を含むグループがクラス内で悪口を言っていることを把握し、指導したが、加害生徒らに『チョロいもんだ』と思わせ、いじめをエスカレートさせた可能性がある。この時点で傍観者を含めた指導を徹底していれば、以後のいじめは防げただろう」
「女子生徒はSOSを十分に発していた。母親が担任に相談した6月には既に解決は手遅れだったと見られる。9月に顧問が開いた部活動のミーティングの対応はひどい。先生公認のいじめの場となってしまった。いじめが進んだ場合、被害者と加害者を対面させること自体不適切で、双方を離す、加害生徒を完全に隔離するしかない」

-報告書をどう読みましたか。

<ストレスを理解>
「加害者教育の視点が決定的に欠けている。これでは何回でもいじめによる自殺が起きる。いじめは基本的に加害者が問題を抱え、繰り返す傾向がある。全く責任がない被害者の成育歴を調べても無意味だ。加害生徒と親について、もっと踏み込む必要があった」

-どう加害生徒を指導していくべきでしょうか。

「いじめを徹底してやめさせることが重要だ。米国の一部小中高では一定期間別室登校させ、一緒に勉強するカウンセラーが加害生徒の内面、ストレスを理解し、自分を見つめ直す指導をしている。被害者がみんなで学ぶ機会を失うことが多い日本とは逆だ。この制度は日本も導入すべきだし、十分できる」(聞き手は山形総局・伊藤卓哉)

かのう・ひろこ 早稲田大大学院国際情報通信研究科博士課程満期退学。04年山形大助教授、
07年准教授。専門は情報教育。宮城県青少年問題協議会委員。44歳。岐阜県出身。

<天童いじめ自殺>自死予防の視点必要

◎宮城教育大 久保順也准教授に聞く

-報告書を読み、どのような印象を持ちましたか。

<軽いノリの感覚>
「亡くなった女子生徒の無念や遺族の意向に応えようと、調査委員会が多岐にわたり調査したことが分かる。明るく真面目で積極性もあった女子生徒が、徐々に追い詰められていく様子が痛々しく、悔やまれる」
「クラスや部活動であった事は、この年代の女子にはよく起こる現象。その意味ではどこの学校でも起こり得る問題で、普遍的な出来事と言えるだろう。いじめに加担した生徒は少数でも、周りが受け流したためにエスカレートする。この構図は1980年代からずっと指摘されている」 「加害生徒からすると、悪口はちゃかす、いじるという感覚だったのかもしれない。軽いノリでやった事が深刻な被害を招く『一見軽微と思われるいじめ』に当たる。傍観した生徒も矛先が向かうのを恐れたというより、ノリを壊したくない感覚に近かったと思う」 -学校の対応はどう評価していますか。
「部活動の顧問が2013年9月に開いたミーティング。陰口の問題を解決しようと企画したと思われるが、意図した流れにならなかった。加害生徒は納得せず、いじめはエスカレートした。加害生徒に謝罪させ、関係をリセットするやり方は常とう手段だが、直後のフォローや継続的なモニタリングこそ重要になる。
事後のフォローが十分だったか振り返る必要がある」
「天童の件はいじめ事案であり、自死事案でもある。報告書からは学校がいじめに対応した形跡は
うかがえるが、自死予防に動いたようには見えない。いじめ対応は加害生徒の指導に主眼が置かれ、被害生徒のケアが二の次にされてしまうことがある。教師は自分の生徒が自殺するとは考えたくないだろうが、自死予防は危機管理上も必要な視点で、いじめ対応と並行して実践されるべきだった」
-加害生徒や傍観した生徒に当事者意識が足りないという指摘があります。

<「一人じゃない」>
「いじめ防止の教育は昔から『いじめは駄目、傍観は駄目』という知識を教える。だから、子どもたちは
良くない事は知っているが、それと自分たちの行為が結び付かず、いじめが繰り返されている。北欧には何がいじめに当たるか、子どもたち自身に考えさせるプログラムがある。当事者意識が自発的に生まれるように工夫する必要がある」
-傍観者をいじめ予防の「キーマン」にするには。
「傍観者の中には、いじめを問題視しながら行動に移せない子どもがいる。そうした子どもに、表立って
何かしなくても裏でできる事があると、日常的に教えることが大事だ。いじめを直接先生に言えないなら、
親を通して匿名で伝える方法がある。いじめを止められなくても、登下校時に声を掛けて一人じゃないと伝えればいい。具体的な選択肢を並べると、傍観者が動いてくれる可能性がある」(聞き手は山形総局・長谷美龍蔵)

くぼ・じゅんや 東北大大学院教育学研究科博士課程満期退学。07年宮城教育大講師、10年准教授。
専門は臨床心理学。仙台市生徒指導問題等懇談会委員長。38歳。釜石市出身。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

Post Navigation