【10月28日付 東京新聞夕刊】

スイミングスクールで亡くなった国本考太さんの遺影に手を合わせる母親=大阪市都島区で

全国の小学校で二〇一四年度に把握されたいじめの件数が、過去最多になった。教育現場で起きたいじめや事故で亡くなったり、深刻な被害を受けた子どもの親ら二十一人は、手記「問わずにはいられない-学校事故・事件の現場から」を自費出版し、「誰もが被害の当事者になり得る。その時にどうすればいいか、考える手助けになれば」と願う。 (上田千秋)
「学校や教育委員会は批判を恐れて必ず隠蔽に走る。最終的に守ってあげられるのは親しかいない」。
執筆者の一人で、兵庫県在住の男性(52)が話す。
男性の長男は神戸市立小学校の五年生の時、壮絶ないじめを経験した。同級生十三人の標的になり、殴る蹴るの暴行を受けて「死ね」「消えろ」と罵声を浴びせられ続けた。
次第にエスカレートし「金を持ってこい」と脅された長男は、男性が趣味で集めていた旧札の一万円などをこっそりと持ち出すようになった。金額が五十万円を超え、ようやく気が付いた男性が訴え出ても学校は
事実を認めようとせず、転校させるしかなかった。今、長男は立ち直り、大学に通っている。
男性は「全国学校事故・事件を語る会」(兵庫県)のメンバーとして、他の被害者の相談にも応じる。
「いじめでは先生に相談した後に自殺するケースが非常に多い。勇気を振り絞って打ち明けたのに、何もしてもらえず絶望してしまうからだ」と訴える。
「自分の子どもが生きた証しを世に残したい」。そんな親たちの願いをかなえたいと、男性は会の活動などを通じて知り合った遺族らに執筆を呼び掛け出版が実現。手記を寄せたのは、いじめのほか、教員の過剰な指導を苦に自殺したり、部活動中に顧問が適切な対応を取らなかったために熱中症や事故で命を落としたりした子どもの保護者らだ。
一三年八月、発達障害と知的障害があった大阪市都島区の国本考太さん=当時(24)=は、NPO法人が運営する障害者向けのスイミングスクールで水泳中、熱中症のため亡くなった。国本さんの母(56)も手記を寄せた一人。「コーチがハードメニューを課さなければ、考太は突然に命を落とすことはなかった」と無念を記している。
手記を編集した取次代理店「L.C.研究所」(兵庫県尼崎市)代表の田原圭子さん(49)は「子を持つ親だけでなく、教員も手に取って、学校現場と世の中の常識は違うことを知ってほしい」と話している。
二百五十四ページ、定価千二百円(税抜き)。ネット書店のアマゾンで購入できる。問い合わせはL.C.研究所=電06(6430)9306=へ。

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