【9月21日付 河北新報】
全ての仙台市立学校を対象にした緊急調査結果が報告された市いじめ問題対策連絡協議会。
いじめ認知後の対処が問われている=10日、仙台市役所上杉分庁舎

◎(上)情報共有
仙台市立中1年の男子生徒=当時(12)=がいじめを苦に自殺した問題では、男子生徒のSOSを
くみ取れず、組織的な対応に至らなかった学校の課題が浮き彫りになった。教育現場はいじめ防止に
どう取り組み、解決にはどんな壁があるのか。宮城県内外の教師たちに学校の実情を聞いた。
(仙台・中1いじめ自殺問題取材班)

<人事評価で萎縮>
男子生徒の自殺を調査した第三者委員会は、生徒が通っていた中学校内の情報共有や連携の
不十分さを指摘した。いじめの対応が担任ら一部教員にとどまり、学校を挙げての指導には結び
つかなかった。
「情報共有が図られるかどうかは、職員室の雰囲気や人間関係が大きい」
学校の現状をこう話すのは仙台市内の中学校の男性教諭(59)。管理職の中には、いじめの情報を
伝えても「担任の指導不足だ」と取り合おうとしない人もいるという。「人事評価を気にして、言うのを
やめておこうと萎縮することはあるだろう」と語る。
教諭によると、同じ学年の教師間では情報交換を密にしても、学年が異なるとおろそかになる
「学年セクト」も存在するという。
宮城県内の40代の女性講師は「報告しても無駄という雰囲気が強く、担任が1人で抱え込んでしまう」
と憂う。いじめを認知したら学年主任に報告するルールが勤務先の中学校にはあるが「傷害や暴行など
学校保険の対象となる事案でないと、校長や教頭には伝わらない。報告するようないじめがあれば(担任
らは)翌年、高い確率で転勤になる」と話す。

<抱え込む担任も>
岩手県矢巾町では7月、いじめを受けていた中学2年の男子生徒(13)が自殺した。
同県の中学校に勤める女性教諭によると、男子生徒の自殺以降、いじめ対応について情報共有を
心掛ける動きが広がっている。「なかなか言い出せない若手や、問題を抱えた生徒を任せられて多忙な
ベテランがおり、簡単なことではない。しっかり話ができる人間関係が重要だ」と風通しの良い職場づくり
の大切さを指摘する。
宮城県内の60代の元小学校長も「全職員と保護者、教育委員会の情報共有が何より大切だ」と強調。
「あるいじめ事案を担任が大したことないと判断しても、他の教師はそう思わない場合もある。担任が
1人で抱え込んでしまうところに落とし穴がある」と訴える。
仙台市教委は今回の問題を受け、いじめに組織的な対応をするよう全市立学校に指示した。12歳の
少年の悲劇を二度と繰り返さないためにも、情報共有を出発点にして学級や学年、立場の枠を超えた
「学校力」の結集が求められている。

いじめ問題へのご意見をお寄せください。宛先は河北新報社報道部「仙台・中1いじめ自殺問題」取材班。
ファクスは022(224)7947。メールアドレスはhoudou@po.kahoku.co.jp

<教師といじめ>多忙な教師、余裕なく

◎苦悩する教育現場/(下)疲弊

<家庭ないがしろ>
仙台市立中1年の男子生徒=当時(12)=がいじめを苦に自殺した問題をめぐり、市教委の第三者
委員会は報告書で学校対応の問題点を挙げる一方、当時の状況についてこう言及した。
「男子生徒の件以上に注意を要する生徒間トラブルがあった」
「教職員が置かれる多忙の中では優先順位を付けて対応することはやむを得ない面がある」
教師たちが、授業や部活動と並行して生徒指導に追われていた様子がうかがえる。
市教委の内部資料によると、2014年度に市立学校の教職員が勤務時間外に在校した時間は月平均で
小学校37時間、中学校67時間、高校46時間。いずれも増加傾向にあり、中学は突出して多い。
市内の中学校で学年主任を務める男性教諭(56)は「試験問題の作成や採点、評価を勤務時間内にする
余裕はなく、自宅に持ち込む。土日の休みは顧問を務める部活でつぶれる。家庭は正直ないがしろだ」と
こぼす。不登校の生徒も多いといい、「生徒や保護者への個別対応に膨大なエネルギーを使う」と打ち明ける。
市内の別の中学校の男性教諭(59)は「生徒指導が優先され、授業が軽んじられている」と自嘲気味に話す。
「時間的、精神的余裕をなくしている教師が生徒を追い詰めていないか心配だ」と顔を曇らせた。

<心の病 57人休職>
教育現場の疲弊は、病気休職した教職員数に表れている。14年度は市立小中学校と高校で計168人が
病休に入り、うち57人は心の病が原因だった。
小学校長の経験がある市内の60代男性は「いじめをめぐり、保護者からの苦情などを気に病む教師は
少なくない。(病休で)一人が倒れると他の教師にしわ寄せが及ぶ」と語り、多忙と疲弊の悪循環を指摘する。
事態の改善に向け、校長と教育委員会の奮起を促すのは市内の公立高校の男性校長。「校長に責任を取る
姿勢がなければ教頭以下の先生は混乱する。教委も命令するだけで責任を取ろうとしない。校長と教委の
責任の所在と範囲が明確になっていない」と言う。
今回の自殺では、遺族の意向を踏まえた市教委の判断で学校名などが非公表のままとなっている。前出の
男性教諭(56)は「当該校の教師は生徒にきちんと説明したいはずだ。その責任を果たせず、苦しんでいると思う」
とおもんぱかった。

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【9月21日付 河北新報】
自殺した男子生徒が通っていた中学校近くの公園に置かれた献花台=21日午後5時ごろ、仙台市内

仙台市立中1年の男子生徒=当時(12)=が昨年9月下旬、いじめを苦に自殺した問題で、男子生徒が
通っていた中学校近くの公園に21日までに献花台が置かれた。設置者は不明だが、台上には追悼の花束が
手向けられていた。
献花台には花束やお菓子、ノートなどが置かれている。ノートには「守ってあげられなくごめんね」「安らかにねむってください」など、自殺した男子生徒に向けたとみられるメッセージが書かれている。
近所の男性(63)は21日午前8時半ごろに献花台があるのを確認した。関連ははっきりしないが、インターネット上の掲示板に同日早朝、「献花台を設置した」との匿名の書き込みがあった。献花台の設置を受け、公園を管理する市区役所の担当課は同日、不法占有に当たるとして、台のそばに撤去を求める張り紙を掲げた。

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