2021年2月10 日付毎日新聞

いじめを苦に自殺した女子生徒の両親ら遺族が兵庫県加古川市に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論後、記者会見する遺族側代理人の渡部吉泰弁護士=同県姫路市で2021年2月10日午前11時1分、韓光勲撮影拡大
いじめを苦に自殺した女子生徒の両親ら遺族が兵庫県加古川市に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論後、記者会見する遺族側代理人の渡部吉泰弁護士=同県姫路市で2021年2月10日午前11時1分、韓光勲撮影

兵庫県加古川市で2016年9月、市立中2年の女子生徒(当時14歳)がいじめを苦に自殺したのは学校が適切な対応を怠ったためであり、自殺後の調査でもいじめを示唆していた情報を隠すなど実態解明に後ろ向きな態度で深く傷つけられたとして、両親が市に約7700万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、神戸地裁姫路支部(倉地真寿美裁判長)であった。両親が意見陳述で学校と市教委への不信と再発防止のための体質改善を訴えたが、市側は請求棄却を求めて争う姿勢を示した。

被害生徒の父は法廷で「娘の死を置き去りにし、反省の気持ちをみじんも感じない姿勢を許すことができない」と市教委の姿勢を批判。母は「この事案を決して忘れず、教訓にしなければならない」と訴えた。

神戸地裁姫路支部=兵庫県姫路市で2021年2月10日午後1時35分、韓光勲撮影拡大
神戸地裁姫路支部=兵庫県姫路市で2021年2月10日午後1時35分、韓光勲撮影

一方、市側は答弁書で、自殺の原因となったいじめがどの行為なのかが明らかでないと主張。代理人弁護士は「学校の注意義務違反と、生徒の自死との間に、法的因果関係は認められない」と述べた。

市教委の第三者委員会の調査報告書を基にした訴状などによると、被害生徒は1年生だった15年夏ごろから、部活動で仲間外れにあっていた部員と親しくしたことで多数派による無視や仲間外れを受けるようになった。クラスでも小学校の頃からの嫌なあだ名で呼ばれ、無視や陰口も言われるなどのいじめを受け、クラス替えとなった2年生になっても続いた。

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2021年2月10日付神戸新聞NEXT

加古川・中2自殺訴訟 きょう10日「口頭弁論」

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 兵庫県の加古川市立中学校2年の女子生徒=当時(14)=が2016年にいじめを受けて自殺した問題で、生徒の遺族が同市に約7700万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、神戸地裁姫路支部である。3年前、第三者委員会が調査を経ていじめを自殺の原因と認めたが、その後、事実確認などを巡り市と遺族の溝は深まり、訴訟に至った。行政による遺族らへの対応や支援に明確な規定はなく、「遺族を支える専門的な担当が必要だ」との声も上がる。(斉藤絵美)

 「これまでのさまざまな第三者委の報告書には、背景調査や再発防止策は示されているが、事態をどう収束させるかについては書かれていない」。学校での事故やいじめ、体罰などで子どもを亡くした遺族らでつくる「全国学校事故・事件を語る会」代表世話人の内海千春さん(61)は話す。

16年9月、女子生徒がいじめをほのめかすメモを残して自殺したことを受け、加古川市教育委員会はいじめ防止対策推進法に基づく重大事態と判断し、第三者委を設置。第三者委は17年12月に報告書をまとめ、学級や部活動でのいじめが自殺の原因と認定した。

しかしその後、学校が「紛失した」としていた、いじめの存在を示すメモを部活動の顧問らが破棄していたことが判明。さらに、事実関係などについて話し合う中で、市が「法的責任はない」という姿勢に固執したことなどから、遺族は「深く傷つけられた」として訴訟に踏み切った。

これに対し岡田康裕市長は、「メモ自体の存在は隠していない」と隠蔽(いんぺい)を否定。「司法の場で判定してもらわざるを得ない」とした。

いじめの調査に関わる遺族らへの対応について、文部科学省は「寄り添いながら調査を進める」と指針で示す程度。内海さんは、日航ジャンボ機墜落事故(1985年)や尼崎JR脱線事故(2005年)で加害企業が置いた遺族担当者を例に挙げ、「被害者、加害者の本音を聞くコーディネーター的な専門職を行政に設置してほしい」と望む。

さらに内海さんは「学校や教育委員会は沈静化にのみ躍起になり、遺族の怒りの裏にある実態を見ようとしない」と指摘。「行政に厳しい発言をするのは非難ではなく、『助けてくれ』という叫び。遺族は救済すべき人ということを忘れないで」と訴えている。

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中2女子いじめ自殺 同級生も不登校 教員の圧力感じ転校

 いじめを受け自殺した女子生徒が通っていた中学校。同級生もクラスの輪に入れない時期があったが、女子生徒と励まし合って通った=兵庫県加古川市で2021年2月5日午前11時5分、藤顕一郎撮影拡大
いじめを受け自殺した女子生徒が通っていた中学校。同級生もクラスの輪に入れない時期があったが、女子生徒と励まし合って通った=兵庫県加古川市で2021年2月5日午前11時5分、藤顕一郎撮影

3年8カ月前、いじめを原因に自殺した中学2年の女子生徒(当時14歳)を巡る調査で、学校側の対応に不信感を募らせた同級生が別の中学校に転校した。被害生徒に寄り添い、加害生徒に注意を促したものの、いじめはやまず、守れなかったことを悔いて学校に通えなくなった。そんな同級生に対し、学校側は第三者委員会による調査の有無や被害生徒の両親とのやり取りを問いただした。こうした事実は一切明らかにされず、学校側からの謝罪はいまだにない。「いじめ対応で不登校になった生徒がいたことを隠し続けたいのではないか」。同級生の母が抱いた不信感は今も消えない。

友の死に「(自分は)役立たずや」

亡くなった女子生徒は校内の駐輪場で自転車を分解されたこともあった=兵庫県加古川市で2021年2月5日午前11時6分、藤顕一郎撮影拡大
亡くなった女子生徒は校内の駐輪場で自転車を分解されたこともあった=兵庫県加古川市で2021年2月5日午前11時6分、藤顕一郎撮影

自殺した生徒と同級生は2015年4月、兵庫県加古川市の市立中に入学し、同じクラスになった。好みの漫画や猫の話をするうちに友達になった。部活動は違ったが、カラオケや花火大会に一緒に出かけ、自宅も行き来してよく遊んだ。友へのいじめに同級生が気づいたのは2学期ごろ。自転車が分解され、悪口を書かれた紙を投げつけられている姿を見かけた。

 「よくないよ」。加害生徒の一人に注意すると、「それ以上言うな」と反発された。3学期からは自らもクラスメートから無視されるようになった。それでも、母には「私が学校に行かなくなったら(被害生徒の)居場所がなくなる。頑張って行かないと」と話したという。この頃から、被害生徒に「一緒にいると癒やされるよ」と勧められた猫を飼い始めた。春休みには2人で体を寄せ合ってプリントシールを撮った。

2年生では違うクラスとなり、一緒に過ごす時間は減ったが、朝は廊下で「おはよう」と声を掛け合った。だが、夏休み明けから被害生徒を見かけなくなった。体調が悪いのかと心配していたが、16年9月、彼女は自ら命を絶っていた。

 そのことを学校で知った同級生は泣き声をあげながら帰宅し、母にこう漏らした。「役立たずや。何もしてやれなかった」

亡き友の家に花を持って訪れた。一緒に過ごした1年生の3学期、教室での出来事を、彼女の両親に伝えた。2人ともクラスで無視され、プリントの配布を外されたり、机に落書きをされたりしたこと。休み時間を一緒に過ごし、どちらかが学校を休んだ時には、一人になったこと。彼女から「1年間仲良くしてくれてありがとう‼ 2年生でも一緒のクラスがいいね~」との手紙をもらっていた。

 その後、同級生は自室で布団にこもるようになり、学校に行けなくなった。

教諭「弁護士はつけているのか」

16年11月になって市教委は被害生徒が自殺し、「いじめ」の文言が入ったメモが残されていたと発表し、自殺の原因を調査するため大学教授や弁護士らによる第三者委員会を設置した。翌年2月、同級生は自宅で第三者委の聞き取りを受けた。母も立ち会う中、自分が見聞きしたことを包み隠さず伝えた。

同級生が学校に呼び出されたのはこの直後だった。学年主任の教諭から個室で「もう調査はあったのか」と聞かれた。答えずにいると、「最初に呼ばれると思ったのに」と言われた。被害生徒の両親と会ったことを明かすと、「何を話したのか」「弁護士はつけているのか」などと何度も聞かれた。

 その後も2、3回、学校に呼び出され、母が学校に抗議した。同級生が再び学校に通い始めると、教諭らがげた箱で待ち伏せていたこともあった。教諭らの質問攻めに遭うことを恐れ、また学校への足は遠のいた。見かねた母は教諭らに「学校を変わることも考えている」と伝えたが、「転校なんてできるはずがない」とあしらわれたという。学校が信じられなくなり、同級生は17年6月、市外の中学校に転校した。

いじめを受けて自殺した女子生徒の両親が加古川市を相手取った訴訟が続く神戸地裁姫路支部=兵庫県姫路市で2021年2月5日午前10時26分、藤顕一郎撮影拡大
いじめを受けて自殺した女子生徒の両親が加古川市を相手取った訴訟が続く神戸地裁姫路支部=兵庫県姫路市で2021年2月5日午前10時26分、藤顕一郎撮影

校長は「知らない」

第三者委がまとめた報告書によると、被害生徒は1年生だった15年夏ごろから、所属していた部活動で無視や仲間外れ、嫌なあだ名で呼ばれるなどのいじめを受け、2年生まで続いた。自殺の3カ月前に行った校内アンケートで被害生徒はいじめを訴える回答をしていたが、学校は対応しなかった。報告書は自殺の原因をいじめと認定し、「学校が対応していれば無力感から脱することができ、自死行為をせずに済んだと考えるのが合理的」と総括した。

一方、被害生徒の部活動の顧問らが部員を集めていじめの状況を紙に書かせたが、部員同士のトラブルとして処理し、メモをシュレッダーで破棄。第三者委には紛失したと報告していたこともその後に判明した。ただ、第三者委の聞き取りで部員らの証言は得られており、調査結果には影響しなかったという。

県教委は18年11月、重大ないじめに対処していなかったとして当時の校長を戒告処分とし、学年主任と担任を訓告、部活動の顧問ら2人を厳重注意とした。被害生徒の遺族は20年9月、学校側が適切に対応していれば自殺は防げたなどとし、市に損害賠償を求めて神戸地裁姫路支部に提訴。2月10日に第1回口頭弁論がある。

第三者委の調査などを同級生から聞き出そうとしたことについて、学年主任だった教諭は毎日新聞の取材に対し、被害生徒の裁判があることを理由に「すみません」と述べてコメントしなかった。同級生が転校するまでの経緯について当時の校長にも尋ねたが、「17年3月末で異動し、何も知らない」と話した。市教委は「個別事案についてはプライバシーの観点からお答えできない」とした。

同級生は19年4月から県内の私立高校に通う。20年末、病気で亡くなった友人の墓参りでクラスメートが学校を休んだことがあり、帰宅して母親に言った。「お墓、私も行った方がええよな」。母の目には、被害生徒の死に向き合い始めているように映った。母は言う。「学校側は『不登校は良くない』と決めつけ、娘に寄り添うどころか、何か情報を得ようと追い回した。今も許せない。いじめや、被害生徒が亡くなったことにきちんと向き合ってほしかった」【藤顕一郎】

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 中2女子いじめ自殺 同級生も不登校 教員の圧力感じ転校

いじめを受け自殺した女子生徒が通っていた中学校。同級生もクラスの輪に入れない時期があったが、女子生徒と励まし合って通った=兵庫県加古川市で2021年2月5日午前11時5分、藤顕一郎撮影
いじめを受け自殺した女子生徒が通っていた中学校。同級生もクラスの輪に入れない時期があったが、女子生徒と励まし合って通った=兵庫県加古川市で2021年2月5日午前11時5分、藤顕一郎撮影

3年8カ月前、いじめを原因に自殺した中学2年の女子生徒(当時14歳)を巡る調査で、学校側の対応に不信感を募らせた同級生が別の中学校に転校した。被害生徒に寄り添い、加害生徒に注意を促したものの、いじめはやまず、守れなかったことを悔いて学校に通えなくなった。そんな同級生に対し、学校側は第三者委員会による調査の有無や被害生徒の両親とのやり取りを問いただした。こうした事実は一切明らかにされず、学校側からの謝罪はいまだにない。「いじめ対応で不登校になった生徒がいたことを隠し続けたいのではないか」。同級生の母が抱いた不信感は今も消えない。

友の死に「(自分は)役立たずや」

亡くなった女子生徒は校内の駐輪場で自転車を分解されたこともあった=兵庫県加古川市で2021年2月5日午前11時6分、藤顕一郎撮影

 自殺した生徒と同級生は2015年4月、兵庫県加古川市の市立中に入学し、同じクラスになった。好みの漫画や猫の話をするうちに友達になった。部活動は違ったが、カラオケや花火大会に一緒に出かけ、自宅も行き来してよく遊んだ。友へのいじめに同級生が気づいたのは2学期ごろ。自転車が分解され、悪口を書かれた紙を投げつけられている姿を見かけた。

「よくないよ」。加害生徒の一人に注意すると、「それ以上言うな」と反発された。3学期からは自らもクラスメートから無視されるようになった。それでも、母には「私が学校に行かなくなったら(被害生徒の)居場所がなくなる。頑張って行かないと」と話したという。この頃から、被害生徒に「一緒にいると癒やされるよ」と勧められた猫を飼い始めた。春休みには2人で体を寄せ合ってプリントシールを撮った。

2年生では違うクラスとなり、一緒に過ごす時間は減ったが、朝は廊下で「おはよう」と声を掛け合った。だが、夏休み明けから被害生徒を見かけなくなった。体調が悪いのかと心配していたが、16年9月、彼女は自ら命を絶っていた。

 そのことを学校で知った同級生は泣き声をあげながら帰宅し、母にこう漏らした。「役立たずや。何もしてやれなかった」

 亡き友の家に花を持って訪れた。一緒に過ごした1年生の3学期、教室での出来事を、彼女の両親に伝えた。2人ともクラスで無視され、

プリントの配布を外されたり、机に落書きをされたりしたこと。休み時間を一緒に過ごし、どちらかが学校を休んだ時には、一人になったこと。

彼女から「1年間仲良くしてくれてありがとう‼ 2年生でも一緒のクラスがいいね~」との手紙をもらっていた。

 その後、同級生は自室で布団にこもるようになり、学校に行けなくなった。

教諭「弁護士はつけているのか」

 16年11月になって市教委は被害生徒が自殺し、「いじめ」の文言が入ったメモが残されていたと発表し、自殺の原因を調査するため大学教授や

弁護士らによる第三者委員会を設置した。翌年2月、同級生は自宅で第三者委の聞き取りを受けた。母も立ち会う中、自分が見聞きしたことを

包み隠さず伝えた。

 同級生が学校に呼び出されたのはこの直後だった。学年主任の教諭から個室で「もう調査はあったのか」と聞かれた。答えずにいると、「最初に

呼ばれると思ったのに」と言われた。被害生徒の両親と会ったことを明かすと、「何を話したのか」「弁護士はつけているのか」などと何度も聞かれた。

 その後も2、3回、学校に呼び出され、母が学校に抗議した。同級生が再び学校に通い始めると、教諭らがげた箱で待ち伏せていたこともあった。

教諭らの質問攻めに遭うことを恐れ、また学校への足は遠のいた。見かねた母は教諭らに「学校を変わることも考えている」と伝えたが、「転校なんて

できるはずがない」とあしらわれたという。学校が信じられなくなり、同級生は17年6月、市外の中学校に転校した。

 

校長は「知らない」

 第三者委がまとめた報告書によると、被害生徒は1年生だった15年夏ごろから、所属していた部活動で無視や仲間外れ、嫌なあだ名で呼ばれる

などのいじめを受け、2年生まで続いた。自殺の3カ月前に行った校内アンケートで被害生徒はいじめを訴える回答をしていたが、学校は対応しなかった。

報告書は自殺の原因をいじめと認定し、「学校が対応していれば無力感から脱することができ、自死行為をせずに済んだと考えるのが合理的」と総括した。

 一方、被害生徒の部活動の顧問らが部員を集めていじめの状況を紙に書かせたが、部員同士のトラブルとして処理し、メモをシュレッダーで破棄。

第三者委には紛失したと報告していたこともその後に判明した。ただ、第三者委の聞き取りで部員らの証言は得られており、調査結果には影響しなかった

という。

 県教委は18年11月、重大ないじめに対処していなかったとして当時の校長を戒告処分とし、学年主任と担任を訓告、部活動の顧問ら2人を厳重注意

とした。被害生徒の遺族は20年9月、学校側が適切に対応していれば自殺は防げたなどとし、市に損害賠償を求めて神戸地裁姫路支部に提訴。

2月10日に第1回口頭弁論がある。

 第三者委の調査などを同級生から聞き出そうとしたことについて、学年主任だった教諭は毎日新聞の取材に対し、被害生徒の裁判があることを理由に

「すみません」と述べてコメントしなかった。同級生が転校するまでの経緯について当時の校長にも尋ねたが、「17年3月末で異動し、何も知らない」

と話した。市教委は「個別事案についてはプライバシーの観点からお答えできない」とした。

 同級生は19年4月から県内の私立高校に通う。20年末、病気で亡くなった友人の墓参りでクラスメートが学校を休んだことがあり、帰宅して母親に言った。

「お墓、私も行った方がええよな」。母の目には、被害生徒の死に向き合い始めているように映った。母は言う。「学校側は『不登校は良くない』と決めつけ、

娘に寄り添うどころか、何か情報を得ようと追い回した。今も許せない。いじめや、被害生徒が亡くなったことにきちんと向き合ってほしかった」【藤顕一郎】

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2021年1月8日付神戸新聞NEXT

加古川・中2自殺 市長「予見の可能性、主張に隔たり」メモ隠蔽を否定

女子生徒がいじめを受けて自殺した問題について話す岡田康裕・加古川市長=8日午後、加古川市役所
女子生徒がいじめを受けて自殺した問題について話す岡田康裕・加古川市長=8日午後、加古川市役所

兵庫県加古川市立中学2年の女子生徒=当時(14)=が2016年にいじめを受けて自殺し、遺族が同市を提訴した問題で、岡田康裕市長は8日の会見で、「自殺に至ることを(当時の)担任や部活動の顧問らが予見できたかどうかは、(遺族側と)主張に隔たりがある」と述べた。副顧問がいじめの存在を示すメモをシュレッダーで破棄していたことには、「メモ自体の存在は隠していない。隠蔽ではない」との認識を示した。

岡田市長は、女子生徒の自殺について「何とかして防げなかったのかと自責の念を感じながら、重く受け止めている。申し訳なく思っている」と話した。その上で「訴訟にならない形での解決を願っていたが、どうしても代理人との間で埋めきれないところが出てしまった。司法の場で判定してもらわざるを得ない」との見解を示した。

一方、遺族側は8日、市教育委員会が7日に市側の法的責任を否定する見解を公表したことに対し、代理人弁護士を通じて反論のコメントを出した。「この4年間、市教委の対応に誠意を感じ感謝の気持ちを抱くことはなかった。私たち家族と市教委との隔絶した認識の差を感じざるを得なかった。本当の意味の反省がない限り、同じことは繰り返されるのではないか」と批判した。(斉藤正志)

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2021年1月7日付け神戸新聞NEXT

加古川・中2自殺 教育委員会、法的責任を否定 シュレッダーでのメモ破棄は認める

加古川市役所=加古川市加古川町北在家
加古川市役所=加古川市加古川町北在家

 兵庫県加古川市立中学2年の女子生徒=当時(14)=が2016年にいじめを受けて自殺し、遺族が同市を提訴した問題で、市教育委員会は7日、「調査から得られた事実や過去の裁判例などに照らせば、法的責任は認められない」とする見解を発表した。「法的責任を否定したからといって、生徒の命を軽視しているものではない」としている。

当時の部活動の顧問、副顧問がいじめの存在を示すメモをシュレッダーで破棄し、そのことを副顧問が認めた音声データがあることについては「市教委も既に調査済みで、音声データも把握している」と言及。「事実の評価については、今後、裁判の中で明らかにしていきたい」とした。

その上で「法的責任の有無については立場が異なっても、生徒の死を重く受け止め、再発防止に向けて引き続きご遺族と協力していきたいという意向には変わりがない」としている。

遺族は5日、昨年9月に提訴した理由について「教育委員会が最後まで法的責任はないという考えに固執したことによって、話し合いは決裂し訴訟に踏み込んだ。交渉過程でも誠意を感じることはなく、娘の命を軽視しているとしか思えなかった」とのコメントを出していた。(斉藤正志)

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2021年1月7日神戸新聞NEXT

兵庫県庁3号館
兵庫県庁3号館

 兵庫県加古川市立中学2年の女子生徒=当時(14)=が2016年にいじめを受けて自殺した問題で、教員の処分が適正になされていないとして、遺族側が兵庫県教育委員会に対し、再調査を求めていたことが6日、関係者への取材で分かった。当時の部活動の顧問、副顧問が、いじめの存在を示すメモをシュレッダーで破棄していたことについて、市教委が県教委に報告していなかった点を問題視している。

県教委は教職員の処分権限を持っており、18年11月、16年当時の校長を戒告の懲戒処分とした。顧問を懲戒に当たらない厳重注意とし、副顧問は処分していない。

関係者によると、遺族が18年6月、市教委職員の同席の下、副顧問から話を聞いたところ、17年までの第三者委員会の調査で「紛失した」とされていたメモを、破棄していたことを明かした。副顧問は遺族が話を聞いた1カ月前に校長に報告し、校長は顧問に確認したと説明したという。

遺族は昨年9月、学校側が適切に対応していれば自殺は防げたなどとして、市に損害賠償を求めて提訴。同12月28日付で提出された再調査の要請書で、遺族側は「真相究明を妨害し、隠蔽(いんぺい)と評価されるべき重大な非違行為を把握しないまま処分を下したということであれば、適正な処分ということはできない」としている。

県教委は「処分の基になる調査を行う加古川市教委と内容を共有した」と説明。「今後、第三者委員会をやり直したり、その報告書の内容が変わったりすれば、処分を再検討することもあり得る」とする。

市教委は「県教委には事実に基づいて報告している。詳細については裁判に関わることなので答えられない」としている。

(斉藤正志、斉藤絵美)

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2021年1月6日付朝日新聞デジタル

加古川・中2自殺で提訴 遺族がコメント発表

兵庫県加古川市立中学校2年の女子生徒(当時14)が、いじめを苦に自殺してから4年。遺族が昨年、市を相手取り、約7700万円の損害賠償を求める訴訟を神戸地裁姫路支部に起こした。市が設けた第三者委員会が自殺の原因をいじめだと認定してから、市教委と続けてきた話し合いが決裂したという。2月10日に開かれる第1回口頭弁論を前に、両親が提訴に至った思いを代理人を通じて発表した。要旨は次の通り。

娘が私たちの前からいなくなってから4年経ちますが、遺族にとっては昨日のような出来事で、毎日いつもの調子で帰ってくるのではないかと錯覚さえする日々を送っております。

娘と交わした我が家にとってはほんのささやかな明るい未来の約束、それすらかなわなく置き去りになってしまった現実を胸に、自分自身の自責、加害者への恨み、教育委員会への憤りで一日が始まり一日が終わり悲壮感は尽きません。一歩進みたいが進めない。このような状況は想像できるでしょうか。

第三者委員会の答申後、私たちは関係者の協力で当時の教員と面談し、報告書の内容だけでは不明な経緯の確認作業と、教育委員会がとった行動に、遺族は深く傷つけられました。学校側の対応に納得するものは一つとして無かったのですが、市教委や学校に事実に向き合って教育の現場で再発防止を実現してほしいと願って、水面下で遺族側から和解策を提示し対話を試みました。しかし、教育委員会が最後まで法的責任はないという考えに固執したことによって、話し合いは決裂し訴訟に踏み込んだのが経緯であります。

この交渉過程でも教育委員会の誠意を感じることはありませんでした。娘の死を置き去りにしようとしている対応姿勢が続き一層怒りが募りました。和解策についても、本来は遺族から申し入れすることでなく、自ら組織としてどうすべきかと打診してくるのが筋ではないでしょうか。そうした姿勢に、娘の命を軽視しているとしか思えませんでした。

「遺族に寄り添う」という言葉を口にしますが、それはあまりに軽く、心に響くことはありませんでした。この訴訟は4年間、教育委員会と協議した果ての最終手段であり遺族の怒りだと理解してください。

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2021年1月5日付神戸新聞NEXT

加古川・中2自殺 市提訴の遺族「市教委は娘の死を置き去りに」

加古川市役所=加古川市加古川町北在家
加古川市役所=加古川市加古川町北在家

兵庫県加古川市立中学2年の女子生徒=当時(14)=が2016年にいじめを受けて自殺した問題で、遺族が5日、代理人弁護士を通じてコメントを出し、市を提訴した理由を明かした。17年に第三者委員会が自殺はいじめが原因だと認定した後も、市教育委員会は法的責任はないとの考えに固執して話し合いが決裂したといい、その姿勢は「娘の命を軽視している」と指摘している。(斉藤正志)

コメント全文は次の通り。

娘が私たちの前からいなくなってから4年と月日はたちますが、遺族にとっては昨日のような出来事で、毎日いつもの調子で帰ってくるのではないかと思わせる錯覚さえする日々を送っております。果たされなくなった娘と交わしたわが家にとっては、ほんのささやかな明るい未来の約束、それすら叶わなく置き去りになってしまった現実を胸に、自分自身の自責・加害者への恨み・教育委員会への憤りと、日々その闘いで一日が始まり一日が終わり悲愴感は尽きません。一歩進みたいが進めないこのような状況は想像できるでしょうか。

第三者委員会答申後、私たちは関係者の協力で当時の該当教員と面談し、報告書内容だけでは不明な経緯の確認作業と後の教育委員会がとった行動(加害者高校推薦など)に、遺族は深く傷つけられました。学校側の対応に納得するものは一つとして無かったのですが、市教委・学校に事実に向き合って教育の現場で再発防止を実現してほしいと願って、水面下で遺族側から和解策を提示し対話を試みました。しかし、教育委員会が最後まで法的責任はないという考えに固執したことによって、話し合いは決裂し訴訟に踏み込んだのが経緯であります。

この交渉過程でも教育委員会の誠意を感じることはありませんでした。娘の死を置き去りにしようとしている対応姿勢が続き一層怒りが募りました。和解策についても、本来は遺族から申し入れすることでなく、自ら組織としてどうすべきかと打診してくるのが筋ではないでしょうか。そうした姿勢に、娘の命を軽視しているとしか思えませんでした。

「遺族に寄り添う」という言葉を口にしますが、それはあまりに軽く心に響くことはありませんでした。

この訴訟はこの4年間教育委員会と協議した果ての最終手段であり遺族の怒りだと理解してください。

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2021年1月4日神戸新聞NEXT

いじめSOSを教員が何度も黙殺 加古川・中2自殺、非公開報告書の全容判明

加古川市役所=加古川市加古川町北在家
加古川市役所=加古川市加古川町北在家
 兵庫県の加古川市立中2年の女子生徒が2016年にいじめを苦に自殺した問題で、生徒のSOSやいじめの兆候を学校の教員が何度も黙殺し、対応を怠っていた実態が明らかになった。共同通信が4日までに入手した、非公開部分を含む第三者委員会の報告書全文に記載されていた。

17年12月作成の報告書の非公開部分によると、いじめの始まりは小学5年。女子生徒が嫌がるあだ名が付けられ、無視が始まった。15年に入学した中学でもあだ名は浸透。クラスのムードメーカーが無視や悪口を率先し、他の生徒も逆らえなかった。3学期にはあからさまに無視され、「ミジンコ以下」と書かれた紙を渡された。

部活動でも陰口や仲間外れが並行。生徒は同11月、母親に「部活をやめたい」と訴えた。いじめを把握したはずの顧問らは部員同士のトラブルとして片付けた。

16年4月、2年生になりクラスが替わっても、いじめは続いた。生徒は孤立を深め、夏休み明けの9月、命を絶った。

担任に提出するノートに1年の3学期ごろから「しんどい」「だるい」との記述を繰り返したが、1、2年時の担任はいずれも「部活や勉強についてだと思った」といじめとの認識を否定した。

16年6月のアンケートで生徒は「陰口を言われている」「無視される」などの質問に「あてはまる」と回答した。「のびのびと生きている」「生活が楽しい」には「あてはまらない」と答え、判定結果は「要支援領域」だった。最も注意を要するとの警告を担任は保護者に明かさず、三者面談では提出物の遅れを指摘しただけだった。

報告書は「いじめは明白だったにもかかわらず、見過ごされた」と認定。市教育委員会は「関係者への配慮」を理由にいじめの内容や経過を非公開とし、「学校が対応すれば自殺は防げた」など指摘の一部を公開するにとどまっていた。

学校の対応を巡っては、生徒の部活動で顧問らがいじめの存在を示すメモをシュレッダーにかけ、第三者委に破棄したことを明かさなかった問題も判明。遺族は昨年9月、損害賠償を求め市を提訴している。

遺族の代理人弁護士によると、遺族は当時の担任や顧問らに聞き取りを重ねてきた。その上で、市教委がいじめの事実に向き合っていないという不信感があり、第三者委の調査で分かっていない部分が明らかになることも求めて、やむなく提訴に踏み切ったという。

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