2021年4月22日付毎日新聞

学校側「15歳。危険予知は可能」 半身不随のチア元部員親が涙

部活の強豪校で知られる岡崎城西高の正門。右奥の建物は事故現場の体育館=愛知県岡崎市中園町川成で2021年4月6日、川瀬慎一朗撮影

 「当時15歳であるから、ある程度の危険予見は可能」――。21日名古屋地裁で開かれたチアリーディング部練習中に大けがをしたのは、安全対策が不十分だったなどとして元女子部員(18)が岡崎城西高校(愛知県岡崎市)を運営する学校法人に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論。請求棄却を求めた学校側の主張は、元部員側の責任を追及するものだった。専門家からは、本来、子どもの健康を保証すべき学校側の姿勢に疑問を呈する声も。両親が毎日新聞の取材に応じ「なぜ対策が取られなかったのか。学校側は私たちに向き合って」と涙を浮かべて訴えた。【川瀬慎一朗】

現在、元部員は車椅子で大学に通い、心理学を学ぶ。母親は仕事をやめ、片道1時間、高速道路を使って送迎している。母親は「娘は神経を痛めたため体調を崩しやすく、送った後も毎日心配」と語る。元部員は事故でふさぎ込み、「何もしたくない」と将来を悲観していたころもあったという。今も下肢が動かず感覚がないが、装具をつけて立つ練習をするなど努力を重ねている。

 活発だった元部員は小学生の時からチアダンスを始め、アクロバティックな技が加わるチアリーディング部にあこがれた。2018年4月、同部が全国大会の出場経験もある強豪として知られる同校に入学した。

練習はほぼ毎日あり、朝練、昼練、夕練と続く。父親(55)は「帰宅は午後9時を過ぎることもあり、毎日疲れている様子だった」と語る。同部では、当時部員だった姉(19)も事故の数カ月前に脳しんとうで救急搬送されていたという。指導者不在の時間も多く、練習メニューは先輩が作っていた。母親(48)は「先輩が『やるよ』と言えば従わざるを得ない状況だったのだろう」と話す。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

2021年4月16日付毎日新聞

「部活の実態、学校で共有」 宝塚の中2転落事故で市教委が陳謝

報告書を公表し、記者会見で頭を下げる兵庫県宝塚市教委の森恵実子教育長(中央)ら幹部=同市役所で2021年4月15日午後2時0分、土居和弘撮影

 15日、兵庫県宝塚市立中学校で2019年6月、吹奏楽部の女子生徒(当時2年)が部活動中に校舎から転落し重傷を負った事故について、弁護士らによる第三者委員会の調査報告書が公表された。顧問の男性教諭(31)による女子生徒への叱責を直接の原因だったと認定した上で、背景に部活内でのコンクールの成績を重視する姿勢や、学校で部活が「ブラックボックス化」し適切に管理できる体制がなかったことなどを指摘、部活のあり方を強く批判した。一方、生徒の母親が代理人弁護士を通じて手記を明らかにし、今も癒えない心情を吐露した。【土居和弘、稲田佳代】

「被害に遭われたお子様、保護者の方には心身ともに大きな苦痛を与え、深くおわびします」。市役所で開かれた記者会見の冒頭、市教委の森恵実子教育長ら幹部は頭を下げた。

報告書では、男性教諭の指導は部員への叱責が大半で、褒めることがほとんどなかった▽強圧的な指導が日常的に部員に大きなストレスを与えていた――など、指導上の問題点を列挙。第三者委は問題の背景にも言及した。当時の吹奏楽部について、コンクールで好成績を上げることに重点が置かれ、練習でもミスを許さない緊張感があったと指摘。学校では部活の活動実態について校長らが把握せず、教員間で情報共有ができていないなどとし、外部から実態が分からない部活の閉鎖性を「ブラックボックス」と批判した。

森教育長は「顧問任せだった部活を、学校で実態を共有する体制に改革する」と強調。市教委は生徒が望む部活動にするため、生徒との対話を重視する指導に改めるよう顧問に促し、実践例を紹介する研修も開く方針だ。また、生徒や顧問教員らを対象とした「部活動アンケート」を毎年実施し実態を把握するほか、専門家や教職員らからなる部活動の運営検討会も設置し、各校の活動を検証するとした。

一方、市教委はこれまでに、顧問の男性教諭が生徒側と謝罪の場を持てていないことを明らかにし、報告書の公表を踏まえ、謝罪の機会を探るとした。

「再発防止策の徹底を」女子生徒の母

女子生徒の母親は15日、手記を公表した。その中で母親は女子生徒について、「真面目にコツコツ頑張る子」と紹介。「音楽を楽しみたい」と吹奏楽部へ入部したが、時折、顧問の男性教諭が他の部員を厳しく叱責している様子を見て、「あんな風に怒られたくないな」と話していたことを振り返った。

また、転落後に駆けつけた教諭に、一瞬意識が戻った女子生徒が「先生すいませんでした」と謝ったことや、母親が病院で女子生徒と対面した際にも、最初に「ごめんね。ああするしかなかってん」と話し、母親が「ごめんね。生きててくれて良かった」と応じたことも明かした。

手記によると、女子生徒は約4カ月半入院し、計8回の手術を受け、現在もリハビリや治療を続けている。母親は「大きな傷は一生涯消えず、目にするたび事件を思い出してしまうかと考えると、心に治癒することのないつらい後遺症を残してしまった」と心配する。そんな中でも、女子生徒は家族の支えで勉強に励み、今春、志望高校に入学した。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

2021年4月15日付神戸新聞NEXT

「廊下で楽器100回たたけ」顧問が叱責、絶望の女子生徒が校舎から転落 宝塚市教委報告書

宝塚市役所=宝塚市東洋町
宝塚市役所=宝塚市東洋町

宝塚市立中学校で2019年、部活動中だった2年生の女子生徒(当時)が校舎から転落した問題で、同市教育委員会は15日、女子生徒が吹奏楽部の顧問だった30代の男性教諭から強く叱責され、恐怖感や絶望から突発的に飛び降りたとする調査報告書を公表した。

問題を巡っては、市が設けた第三者委員会が昨年3月、非公表の報告書を作成。兵庫県教委は顧問を停職1カ月の懲戒処分とした。女子生徒は体の複数箇所を骨折し、手術を受けて現在も通院しており、生徒の母親は「処分が軽すぎる」として公表を求めたという。

報告書によると、女子生徒はコンクールに向け音楽室で練習中、顧問から「トライアングルの音が合っていない。廊下で100回たたいてこい」と厳しい口調で退室を命じられた。廊下で練習したがうまくできる気がせず、戻っても再び叱られると感じ校舎から転落。駆け付けた顧問に「ごめんなさい」と繰り返した。

顧問は機嫌に波があって他の生徒も怖がっており、女子生徒は別の生徒が怒られる様子を見てストレスや恐怖心を感じていたという。第三者委は「顧問の指導が直接原因になったことは否定できない」とした。

一方、市教委は「精神的な体罰」に当たるとして、県教委に男性教諭の懲戒処分を厳しくするよう求めたが見直されなかった。

女子生徒の保護者は15日、手記を公表し「教諭が軽い処分ですぐ復職し、強い憤りを感じた」と説明。「『自分で落ちた』という程度の扱いで、事件が終息してしまったように感じた。理不尽に叱られてどれほどつらかったか」とつづった。(西尾和高)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn