2学期始業日に命絶った中学生の息子 3年間、疑問を募らせた母親

2021年9月3日朝日新聞

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仏壇に供えられた花やバスケットボールとともに、調査報告書のファイルが置かれていた(中央下)=2021年9月2日午後0時12分、鹿児島市、奥村智司撮影
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第三者委の調査報告書を開く母親=2021年9月2日午後0時16分、鹿児島市、奥村智司撮影
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報告書を遺族や鹿児島市教委に提出後、記者会見する調査委員会のメンバー=2021年6月30日午後3時37分、鹿児島市、奥村智司撮影

 2018年9月、鹿児島市の男子中学生が2学期の始業日に自ら命を絶って、3日で3年がたつ。関係者への聞き取りを重ねた第三者委員会の報告書が6月末にまとめられた。「あの日何があったのか知りたい」と調査を望んだ生徒の母親に、報告書の受け止めを聞いた。

中学3年の生徒は始業式後、宿題の一部を提出しなかったとして担任教師から集団指導の後、個別指導を受けた。その日のうちに宿題を提出するよう指導され、いったん戻った自宅で自死した。

間もなく校長らによる「基本調査」が行われたが、「個別指導の状況が分からない」と遺族側が詳細調査を求め、鹿児島市教委が有識者による第三者委を19年1月に設置。今年6月、100ページに及ぶ報告書が市教委と遺族に提出され、7月にほぼ全文が市教委のホームページに掲載された。

報告書は、大声での叱責(しっせき)もあった個別指導について「自死の引き金になった可能性は高く、影響として最も大きいと考えられる」と判断を示した。生徒の母親は今回の報告書について、「原因や背景にふれなかった基本調査より、当日の状況が分かる内容になっている」として、「全体的に、第三者委の『公平中立』の立場からは精いっぱいのところを書いてもらった」と受け止めを語った。

約10分とされる個別指導は、宿題をめぐる叱責の後、進路相談に移る。報告書に記されたそのやり取りから「息子が先生に追い込まれて頭が真っ白になっていることが伝わって、読んでいて胸がどきどきした」と母親は言った。

報告書は一方で「個別指導単体では自死するほどのストレスを与えるとは考えられない」とも言及し、「2学期の初日という環境の変化の大きい日」だったことがひとつの要因になった可能性を指摘した。「学期明けの問題はかねて言われていること。配慮してほしかった」

遺族への説明、拒んだ教師が言った「組織ですから」

報告書は教育委員会や学校現場への「対策と提言」で結ばれる。生徒の通っていた学校で、机や椅子を蹴ったり、大声で怒鳴ったりする指導があり、連帯責任や根拠のないルールで生徒が縛られていた状況を列記し、生徒の人権を踏まえた学校へ、あり方の見直しを求めた。「社会一般で許されない言動が、なぜ学校では、教師には許されるのか」。3年間、この疑問を母親は募らせてきた。

報告書で「(遺族への)事故後の対応は極めて不十分」と批判があるように、市教委と学校側の説明などをめぐる姿勢に、母親は不信を抱いてきた。連れ立って自宅に来た教師たちに質問していた途中、回答を拒んだ一人が口にした「組織ですから」の一言を忘れることができない。「教師である前に、人として生徒の前に立ってほしいです」。作成に2年半を要した報告書の提言がいかされることを強く望む。

仏壇脇には、いまも生徒の遺骨を置いている。「どうしても離れがたくて。報告書が出たら納骨しようと思っていたのですが……」。報告書は一つの「区切り」にはなったが、かけがえのない存在を失った現実が続く。友達の同級生たちは今年、高校3年生になった。受験などで忙しい中、毎月、位牌(いはい)に手を合わせにやって来るという。(奥村智司)

調査委員会報告書の「対策と提言」の要旨

・児童生徒の成長の視点に立って指導を見直す(大声で恐怖感情を与えて教師の意に沿う行動をさせない、連帯責任をやめるなど)

・児童生徒の人権を踏まえて学校のルールを見直す(生徒が主体的に守れるよう校則を見直すなど)

・児童生徒への自殺予防教育の推進と教職員のストレス対策の実施

・自殺の事案が起きた際、遺族と保護者会へ適切に情報開示をする

・遺族と学校をつなぐコーディネーターを派遣する仕組みをつくる

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3年前の中3自殺 「担任の個別指導が引き金」 第三者委が鹿児島市教委に最終報告 大声で叱責、対応の不備も

2021年7月1日南日本新聞社

杉元羊一鹿児島市教育長(左)に報告書を手渡す調査委員会の有倉巳幸委員長=6月30日午後、鹿児島市教育総合センター

 報道陣の質問に答える鹿児島市の杉元羊一教育長=6月30日午後、鹿児島市教育総合センター
 報道陣の質問に答える鹿児島市の杉元羊一教育長=6月30日午後、鹿児島市教育総合センター

2019年1月設立の調査委は弁護士や精神科医ら5人で構成。学校や生徒らに聞き取りし、結果をA4判約100ページにまとめた。

提出後に会見した調査委によると、個別指導で生徒が涙を流した理由を「信頼関係の希薄な担任に、進路の不安が露見し動揺したため」と推測。「受験や夏休み後の登校というストレスが重なったところに(叱責を含む)個別指導が行われ、限界を超えた」と分析した。

市教委や学校の対応について「(遺族側が)不信感を抱くやりとりがあった」と指摘。担任の指導法について「生徒や保護者で受け止めに差があることを踏まえた説明が必要だった」と強調した。

再発防止策などで、生徒に恐怖を与える指導の改善や適切な情報開示といった6項目を提言した。委員長の有倉巳幸鹿児島大学教授(教育心理学)は「社会全体で活用してほしい」と話し、時期は未定ながら報告書を公開する方針を示した。杉元教育長は「(指摘を踏まえ)指導の在り方などを見直す」と述べた。

生徒は18年9月3日に自殺。学校によると、未提出の宿題について担任から個別指導を受け涙を流していた。その後、自宅で自殺しているのを家族が発見した。

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平成30年9月7日朝日新聞西部本社版

始業式直後の中3自殺 母親「悩んでいる様子なかった」

鹿児島市内の公立中学3年の男子生徒が自宅で自殺した問題で、母親が6日、朝日新聞などの取材に応じ、「悩んでいる様子はなかった」と話した。「学校や先生方は事実を話してほしい」と語り、第三者委員会の設置を求める考えを示した。学校側は同日、報道各社の取材に、「調査中」と繰り返した。

市教育委員会によると、男子生徒は夏休みの宿題を一部提出しなかったため、3日の始業式の直後、担任の女性教諭から10分程度の個別指導を受けた。この際、体験入学した高校の寮生活への不安を漏らしたという。

一方、母親は「進路に悩んでいる様子はなかった」と反論。生徒は漁師になる夢を持ち、数カ月前からは塾に通って成績も上がった。夏休みに鹿児島県内の高校に体験入学した後も、「めっちゃ楽しかった」と喜んでいたという。

笑顔がかわいい子だったといい、母親は「料理が得意で、釣った魚をさばいてくれた。成績も上がり頑張っていたのに」と声を震わせた。

指導についても、「宿題を忘れた複数の生徒のうち、息子だけが最後まで残され、指導は約40分に及んだと他の生徒らから聞いた」と話した。

学校側は、校長が中学校で約1時間にわたって取材に応じた。進路に対する不安の有無などの点について、母親の認識と食い違いがみられることに対して問われると、「調査中」と繰り返した。個別指導の場に居合わせた教職員らから聞き取りを進めており、今後は生徒の同級生らからも聞き取りたい、とした。(小瀬康太郎、野崎智也)

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