2020年10月29日付朝日新聞

丸刈り・大声あいさつ強制 行き過ぎ指導、元生徒提訴へ

写真・図版

学中に受けた「指導」について話す男子生徒=2020年10月14日午前11時25分、広島市中区

行き過ぎた生徒指導により、退学を余儀なくされたとして、広島県呉市の私立呉港(ごこう)高校に通っていた男子生徒が29日、同校を運営する学校法人と校長らを相手に約180万円の損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こす。学校側は事実をおおむね認めて和解を望んでいるが、生徒側は提訴に踏み切る構えだ。

訴状などによると、男子生徒は同校に入学直後の昨年4月、通学途中の電車内でスマートフォンを操作しているのを同校の教諭に見つかり、没収された。母親が学校で注意を受け、スマホを返してもらえたのは2週間後だった。

同年5月には、授業の教材を忘れたとして、担任教諭の指示で自宅まで取りに帰らされた。電車で往復3時間。学校に戻ると授業は終わっていた。同校は他の生徒にも同様の指導をしており、「帰宅改善指導」と呼ばれているという。

さらに男子生徒を追い込んだのが「校内反省指導」だ。昨年5月、友人らと放課後に校外で喫煙したと疑われ、この指導を受けるように校長から通告された。

男子生徒は髪を丸刈りにし、約20日間、授業を受けられず、別室で自習を強いられた。休憩や登下校時間も含めて一日中私語は厳禁とされる一方、下校時に教員に会うと声を張り上げてあいさつするよう指導された。毎朝、前日に書かされたA4判1枚の反省文を大声で読み上げさせられもした。「内容が幼稚園レベル」「お前はこの学校にいらん」などと教員から罵倒されることもあったという。

男子生徒は大声の強制でのどに炎症を起こしたとして、通院のために欠席すると母親が学校に連絡したところ、「かすれた声で頑張り、努力の姿勢を示せば、反省の意思が伝わる」「休ませては駄目だ」などと言われたという。

 部活顧問からも体罰 教諭「殴打は4回でなく3回」

7月にも、提出物を忘れたとして所属していた運動部の顧問の教諭に拳で4回、胸を殴られたという。同校によると、教諭は「殴打の回数は4回ではなく3回」と主張している。男子生徒は体罰の翌日から学校へ通えなくなり、昨年11月に退学を決め、今年2月に通信制高校に編入学した。

訴状では、校内反省指導などについて「生徒に苦痛を与えるだけで、合理性・相当性を著しく欠く」などとして、校長や教員は児童・生徒に懲戒を加える際に「教育上必要な配慮をしなければならない」と定める学校教育法施行規則に違反していると主張する。

同校の加賀英雄教頭は朝日新聞の取材に対し、「そういったことがあった」と事実をおおむね認めた上で、「退学の時期と体罰の時期がずれており、体罰が退学の原因になったとは考えていない」と話した。体罰をした顧問の教諭を処分したというが、内容は「個人情報にあたる」として明らかにしなかった。

同校では10年ほど前から、問題があった生徒に反省を促すため、校内反省指導を続けてきたという。今春から、校内反省指導の期間を原則2~4日に短縮し、丸刈りの強制はやめ、スマホの校内への持ち込みも許可するなど指導方法を「改善した」という。男子生徒の訴えについては「訴状が届いてから検討するが、できれば和解したい」としている。

一方、男子生徒は取材に対し「友だちの前で丸刈りで先生にあいさつするのは恥ずかしかった。学校全体として(体罰を含む厳しい指導を)認める体質なんだなと思った」と話し、「友だちもできて仲良くなれたのに、学校生活は終わってしまった」と悔しさをにじませた。男子生徒の父親は「若者が暴力で人生を狂わされたことに(学校は)自覚を持ってほしい」と語った。(西晃奈)

 識者「教員側の『あなたたちのため』が最大の病」

「有無を言わさず型にはめる体質。生徒に意味があることだと思ってやっているのか」。原告の代理人弁護士は、力で制圧しようとする生徒指導の是非を司法に問いたいという。

生徒指導をめぐっては、1990年、神戸市の兵庫県立高校で女子生徒が教諭が閉めた鉄製の門に挟まれて圧死する事件が起きた。門を閉めた教諭は業務上過失致死罪に問われ有罪が確定。兵庫県が遺族に6千万円を支払うことで示談が成立した。最近では、2017年に大阪府立高校の女子生徒が髪を黒く染めるよう強要されたとして賠償訴訟を起こし、大阪地裁で係争中だ。

名古屋大大学院の内田良准教授(教育社会学)は「基本的に学校の外に出たら学校の管轄外なのに、越権のような形で介入し、暴力的な指導で囲い込んでいる。本来は警察や福祉機関が対応すべきだ」と批判。「当事者(教員側)は人権侵害だと思っているわけではなく、『あなたたちのためですよ』と思ってやっている。それが最大の病だ」と指摘する。

さらに「ツーブロック」の髪形を禁止する東京都立高校の校則が話題になったことにも触れ、「教室や学校の秩序を保つという考えが非常に根強い。それをよしとする社会の風潮も問われなければいけない」と問題提起。「(今回の事案は)学校の行き過ぎた生徒指導の問題が極端にわかりやすい形で出てきた。非常に悪質だ」と話している。(宮崎園子)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn