平成29年6月6日朝日新聞宮城版

いじめ問題、専門家3人に聞く

3年で3人の男子中学生が自殺した仙台市の教育界には、どんな問題があり、解決の糸口はどこにあるのか。
いじめ問題について、専門家3人に聞いた。

仙台本田
■被害者より加害者の病理、深刻 本田秀夫さん(53) 信州大医学部付属病院子どものこころ診療部長 いじめで心に傷を負った子供たちの診察をしていると、必ずしも全ての学年を通じていじめられていたわけではない、ということに気づきます。つまり、いじめが起きにくいクラスがあるということ。先生らによって一人ひとりの個性を引き出す教育環境ができていれば、子供は他人のあら探しをして攻撃する必要がなくなるからです。
それとは反対に自殺した男子生徒が口に粘着テープを貼られたり、頭をたたかれたりしたのは、クラスになじめない子はいじめてもいいという雰囲気を、先生が率先して醸し出した可能性があります。
公立学校は「みんな仲良く」「みんな一緒に頑張ろう」という文化が強く、それがいじめの温床になりやすい。「みんな」という文化に入ってこないと異質だとみなすわけですから。
いじめ問題というのは実は、被害者より加害者の病理の方がより深刻です。自分の傷を癒やすために他人をいじめている場合も多く、精神医学的な対応が必要ですが、いじめをする子供たちは診療を受けには来ない。
別の子供との関係で虐げられているかもしれないし、親子間の虐待が他の子への攻撃性として出ているかもしれない。
ですが、ほとんどの親は自分の子がいじめをしていると気づいていません。
だから、いじめが分かったら双方の家庭を巻き込み、当事者全員に面接をして話し合わなければならない。その意味で、今回のケースでいじめた側の親に報告すらしなかったことは、とてもまずかった。当事者が認識を共有して一発で解決に導き、二度といじめを許さない雰囲気をつくらないと、いじめは水面下で陰湿化してしまいます。
中学生の各教科の習熟度は勉強が得意な子だと高校生並み、苦手な子は小学生レベルというケースもあります。
運動能力や社交性、性格も実に多様。「みんな一緒に」の理念だけで教室を運営するのは無理があります。本気でいじめ対策に取り組むのなら、日本の教育体制を根本的に見直す必要があります。(聞き手・森治文)

精神科医。著書に『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』など。

仙台香山

■いじめの対象、誰でもなりうる 香山リカさん(56) 精神科医
大人たちは「いじめが起こるのは、被害者と加害者との関係に何か問題あるからではないか」と原因と結果を論理立てて解釈しようとしますが、それは大きな間違い。残念ながら今の学校では、いじめは突然、何の前触れもなく、そして誰にでも起こります。
子供たちの話を聞いていて感じることは、今の子供は対人関係に非常に敏感だということです。自分がいま、「相手からどう思われているか」「私の言葉を相手がどう受け止めているか」を常に考えて行動し、言葉を発している。また、相手や周りから「何を期待されているか」「何を要求されているか」に過剰に気を使う。
子供はいつ何時、自分がいじめの対象になるかわからないということを、実によく知っています。いま、いじめられている子の次は自分がターゲットになるかも知れない。だから周りの微妙な空気の変化を察知することに全精力を使う。
学校関係者や保護者は、子供たちのちょっとしたしぐさ、そぶり、会話に注意して下さい。「うちの子は大丈夫」「我が家のしつけはしっかりしているから」とは思ってはだめ。繰り返しになりますが、いつでも、誰もが、被害者になり得るのです。
いじめの渦中にある時、自分に何が起こっているのか正確に把握できる子供なんて、まずいません。いじめている側も、いじめているという意識はありません。被害者は「いじめられているなんて思いたくない」と考えるし、加害者は「自分のやっていることは、よく話題になっているいじめなんかじゃない」と思いがちです。
これは学校関係者も同じかもしれません。子供たちが言い争いをしていても、「ふざけているんだろう」。追いかけっこをしていても、「活発な子供のことだから」と考えて、なるべく過小評価してしまいます。「うちのクラスでいじめがあるわけがない」と思い込もうとする。
まず、「これは、いじめだ」と早期に判断して対処を始めるべきです。そこから、すべてが始まります。(聞き手・石川雅彦)

立教大学現代心理学部教授。著書に『いじめるな!』(共著)、『若者の法則』など。

尾木

■先生の子供観がゆがんでいる 尾木直樹さん(70) 教育評論家
今回、仙台市で体罰をした2人の先生は、ごく普通の先生だったのだと思いますよ。教育熱心な、生徒に慕われている先生かもしれない。ただ、そんな先生が何げなく拳でたたいたり、口に粘着テープを貼ったりするようなことをしてしまう点に、仙台の異常さがあると思います。
そもそも、先生の子供観にゆがみがあるのではないでしょうか。授業中に周囲の雰囲気にかかわらずしゃべり続けたり、立ち上がって歩き回ったりする子供は、現代の教室では珍しくはありません。いまの教育現場は、クラスにそんな子もいることを前提に、教育活動をしていくことが常識となっているんです。
その子を「変な子」と異端視せずに、まず同じ目線になって「私はあなたの仲間よ」と伝え、その子の気持ちを理解しようとする。そこから、すべての指導が始まるんです。
今回の体罰に使われた拳や粘着テープは、「よそ者扱い」の典型的な例です。教育の基本原理・原則である「個に寄り添う」という理念を行政や現場が理解・共有できていないと思います。仙台の遅れは、そこです。まずは教師の側が子供の人権やいじめに対する感性を高めなければ、子供を守ることはできません。いま、しっかり、そこにメスを入れるべきです。
私はいろいろな教育現場を回っていますが、現場には素晴らしい志や能力を持つ先生がたくさんいて、日々頑張っている。
ただ、その本心を声に出すことができない、あるいは、彼らの声がなかなか実践に反映されていないような雰囲気がある。
これは仙台市だけの問題ではありません。
その原因の一つとして、教職員の過重労働問題があります。疲れ切っている先生たちは、正常で健全な心を持ち続けることが難しくなっているのでしょう。命の大切さやいじめが重大な問題であることは頭では理解している。しかし、その健全な正義感や問題意識、感受性が発揮できないところまで追い込まれているのかもしれません。そのような状況で真っ当な教育ができるわけはありません。(聞き手・石川雅彦)

法政大特任教授。著書に『いじめ問題をどう克服するか』『取り残される日本の教育』など。

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平成29年6月3日河北新報
<仙台中学生自殺>児童生徒と個別面談へ

仙台中3いじめ

校長らにいじめや体罰の防止を呼び掛ける奥山市長

仙台市教委は2日、全市立学校などで夏休み前半までをめどに、担任教諭が児童生徒と個別面談する方針を明らかにした。宮城野区の市教育センターであった緊急合同校長会で各校長に指示した。
市内では、2年7カ月間に市立中学生3人がいじめ絡みで自殺する問題が相次いだ。個別面談は児童生徒と担任教諭が直接向き合い、いじめなどに適切に対応することで自殺防止を図るのが狙い。
合同校長会には今回初めて、奥山恵美子市長と文部科学省の担当者が出席した。奥山市長は講話で、4月下旬にいじめを訴えて自殺した青葉区折立中2年の男子生徒が教員による体罰も受けていた問題に言及。
「教員一人一人の在りようが問われている覚悟をもってほしい」と呼び掛けた。
折立中の問題で市教委は当初、いじめの重大事態に位置付けなかった。文科省の松林高樹生徒指導室長は「事実関係が確定した段階ではなく、『疑い』が生じた段階で重大事態として調査する必要がある」と強調した。

<宮城県議会>いじめ防止条例検討開始

県議会のいじめ・不登校等調査特別委員会が2日、県議会棟で開かれ、いじめを巡る防止対策の推進や自治体、学校、保護者の責務などを示した条例制定の検討を開始した。
仙台市で起きた中学生のいじめ自殺問題を踏まえ、委員からは「再発防止のため、実効性のある条例が必要」「条例制定でいじめを許さないという強いメッセージを発信するべきだ」などの意見が相次いだ。
一方、「既存の子育て条例を肉付けする形でも対応できるのではないか」と慎重な見方もあった。吉川寛康委員長は「条例制定は一つの選択肢。拙速に進めず、現場の実情を調査した上で効果的な対策を検討したい」との考えを示した。
いじめ防止などに関する条例を巡っては、北海道や東京など6都道県が独自の条例を制定している。

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平成29年5月30日河北新報

中3女子飛び降り大けが いじめ調査へ

仙台市立中3年の女子生徒(15)が太白区のマンションから転落し、脚などを骨折する大けがをしていたことが29日、分かった。市教委によると、27日午後7時ごろ、マンション4階から飛び降りたとみられる。
意識はあり、命に別条はないという。
市教委は29日午後に記者会見し、「調査が終了しておらず、いじめの可能性を完全に否定できない」として、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態と捉えて調査する方針を明らかにした。
昨年度、学校が2回行ったアンケートには、いじめを示唆する回答はなかった。女子生徒はインフルエンザを除いて欠席したことはなく、飛び降りる前日まで普段通り登校していたという。
市教委は、いじめの重大事態とした理由について(1)今後の調査でいじめ被害が明らかになる可能性がある(2)中学生がマンションから飛び降りた事実-の2点を挙げた。
加藤邦治副教育長は、いじめ被害を訴えていた青葉区の折立中2年の男子生徒(13)が4月26日、マンションから飛び降り死亡した事案に触れ、「折立中の事案では当初、(いじめの有無で)判断を迷った部分もあり、その反省を踏まえた」と説明した。

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