平成31年4月15日神戸新聞NEXT

再調査委が認定「いじめが原因」 多可・小5女児自殺

多可町役場

多可町役場=兵庫県多可町中区中村町

兵庫県多可町で2017年5月、小学5年の女児=当時(10)=が自殺した問題で、同町がいじめとの関連を再調査するため設置した第三者委員会は15日、「いじめが最大の要因」と認定した。その上で、前回報告書にあった「女児の性格が影響している」との指摘を否定。いじめ以外に自殺の要因を認めず、いじめが自殺につながったとする報告書を発表した。(長嶺麻子、太中麻美)

同問題を巡っては18年6月、町教育委員会設置の第三者委が、学校でのいじめを大きな要因とする調査報告書を答申。遺族側から「いじめ以外に自死の原因が存在したのか」「いじめの内容を具体的にしてほしい」などの訴えがあり、再調査が始まった。

再調査委は弁護士や臨床心理士ら5人で構成し、昨年11月以降、計15回の会合を重ねた。遺族側が問題点に掲げた前回報告書の一部記述に重点を置き、同級生や教職員、遺族の計8人から再聴取した。

前回報告書では、いびつな女子グループの存在や、女児が親や教員に助けを求めなかったことを「自己完結型性格」とし、自殺直前に女児が読んだ2冊の本から「死を現実的なものと捉えなかった」と分析。自殺の背景としていたが、今回の報告書では「適切でない」とその可能性を排除した。

いじめの具体的内容では、女児は4年時から見張られ、蹴られ、下着を脱がされるなどの暴力を振るわれたり、仲間外れにされたりしたと指摘。一方でグループを離れることが許されず「行き場を失い、孤立化、無力化を深め、無理難題を解決できないと観念した」とした。

遺族は代理人を通じ「調査報告書を基に再発防止策や、これからの教育方法などを検討し、実施されることを強く望む」とのコメントを出した。

■報告書のポイント

・自殺の最も大きい要因はいじめ

・グループ内での仲間はずれや囲い込みで行き場を失い、孤立感、無力感を深めた

・4泊5日の自然学校の実施が迫り、孤立感、絶望感から解放されようと、自殺を決行

・他者に助けを求めなかったことは特異ではなく、「自己完結型性格」と把握するのは適切ではない

・「いびつな社会関係」があったとしても、自殺を招いた独自の要因として取り上げることは適切ではない

・自殺直前に読んだ2冊の本が自殺の大きな要因であるという考えは採用しない

・傍観者も、いじめの加害者であることの周知徹底を

【いじめ防止対策推進法に基づく再調査】子どもの生命や心身、財産に重大な被害が及ぶいじめ行為があった場合を「重大事態」と規定。教育委員会や学校に事実関係の調査や再発防止の提言を義務付け、弁護士や学識経験者らで構成する第三者委員会も設置できる。被害児童・生徒の保護者らは、第三者委の調査結果が地方公共団体の首長に報告される際、調査への不満などを意見書にして添付できる。首長が第三者委の調査が不十分と判断すれば、新たな調査組織を設置して再調査が実施できる。

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平成30年11月20日付神戸新聞

多可小5女児自殺 いじめとの関連再調査 第三者委が初会合

多可小5-1

多可町いじめ調査委員会の審議内容について記者会見する弁護士の吉田竜一委員長=19日夜、兵庫県多可町中区中村町、ベルディーホール

多可小5-2

多可町いじめ調査委員会で伝えた遺族の要望について、記者会見で答える遺族代理人の野口善國弁護士(左)と福田和美弁護士=19日夜、兵庫県多可町中区中村町、ベルディーホール

兵庫県多可町で昨年5月に小学5年の女児=当時(10)=が自殺した問題で、いじめとの関連を再調査する第三者委員会が19日、初会合を開いた。委員長に弁護士の吉田竜一氏を選び、遺族から再調査の目的や方法に関する思いを聞いた。来年3月を目標に再調査結果を報告する方針。

町教育委員会設置の第三者委が今年6月、いじめが自殺の要因とする報告書をまとめたが、遺族から「いじめの具体的行為が分かりにくい」などの訴えを受け、町は再調査を決めた。

遺族側は同級生の卒業を区切りにしたいと、前回調査を基にした迅速な再調査を希望。委員会では遺族代理人が、女児が同級生に受けた言動、女児の心理状態や性格について言及した報告書内容を抜粋し、重要とする事実の再確認を要望した。父親も含め約40分間、思いを伝えたという。

閉会後、吉田委員長は「遺族の気持ちに寄り添って事実を究明し、公正な調査に臨む」とし、既にあるアンケート結果などを精査し、年内3回の会合で同級生らへの再聴取なども検討するとした。(長嶺麻子)

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平成30年7月3日 神戸新聞

多可町・小5女児自殺 いじめSOS、学校見逃す

多可町小5女児自殺1

第三者委員会の会見には多くの報道関係者が詰め掛けた=2日午後、兵庫県多可町中区中村町(撮影・笠原次郎)

多可町小5女児自殺2

昨年5月に自殺した兵庫県多可町の小学5年の女子児童=当時(10)=は、いじめに苦しんでいることに、いくつかのサインを出していた。第三者委員会は、女児が「いびつな社会関係」の女子グループで仲間外れや蹴られるなど継続的な心身の嫌がらせを受けていたにもかかわらず、学校はSOSを見逃し、積極的な関与ができなかったと問題視。自殺の予見は難しかったとしながら、組織的な対応の重要性を強調した。

自殺した直後、学校側は「女児からいじめの訴えはなかった」との見方を示していたが、ほかの児童から指摘があったほか、女児が4年時のアンケートで3回、いじめの有無を問われ、「はい」に○を付けてから消し、「いいえ」に○を付けた形跡があった。ストレス状態を測る年2回の「ストレスチェック」でも高いストレスへの移行がみられていた。

第三者委は、学校がアンケート結果などを生かせず、担任がほかの児童のケアに気を取られるなど表面的な対応にとどまったため、女児の苦痛をキャッチできなかったと指摘。見逃しの要因として、いじめの組織的対応が未整備▽前思春期の発達段階にある女子グループの理解不足▽学校の統廃合による教職員の多忙-の3点を挙げた。

亡くなる直前、自殺を引き留める内容のサイトを検索したり、時期は不明ながら「死にたい、でもこわいの苦しい」と書き残したりしていた。臨床心理士は年齢や読んでいた本などから「死を現実的なものとして捉えなかった可能性もある」などと言及。精神科医は「心理的に追い詰められたのだろうが、うつ病の傾向もなく、自殺行動の直接的な原因は明確でない」とした。

調査報告を受け、岸原章教育長は「どういう思いで疲弊していったかが分かった。第三者委の提言に応えるよう努力する」と発言。国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に沿って対応してきたものの、遺族が再調査を求めたことには「一定の理解をいただいたと思っていた。ご家族の連絡を待って対応を考えたい」とした。(長嶺麻子)

◇学校の責任大きい

【全国学校事故・事件を語る会(事務局・たつの市)の内海千春代表世話人の話】いじめを個別のエピソードではなく、児童間の関係性に着目した点は評価できる。一方で、遺族が再調査を要望しており、どれだけ『事実を知りたい』との願いを踏まえた調査ができていたのか疑問が残る。教員間の引き継ぎや校内の体制も大きな課題。小学4年時にいじめのサインがありながら組織的な対応ができず、5年時も見逃した学校側の責任は大きい。いじめに向き合う姿勢が足りていないと言わざるを得ない。

【いじめの重大事態の調査に関するガイドライン】いじめによる重大事態への対応で、被害者や保護者らの意向を全く反映しない調査の進行や、調査結果が提供されないケースがあったことから、2017年3月に文部科学省が策定。自殺事案では遺族に寄り添って調査を進めるなど、学校や設置者の基本姿勢を示しているほか、第三者による調査の進め方や、調査結果の説明、被害児童生徒の支援、加害児童生徒への指導など、対応法を指南する。

兵庫県多可町で小学5年の女子児童=当時(10)=が自殺した問題で、同町教育委員会が設置した第三者委員会は2日、いじめを自殺の要因と認めた。報告書で「表面的な対応にとどまっていた」と指摘された町教委は同日の会見で、第三者委の提言を受け、小中学校にソーシャルワーカーを導入するなど再発防止に取り組む姿勢を示した。

会見の冒頭、頭を下げて謝罪した岸原章教育長ら町教委の4人。再発防止策について岸原教育長は「学校に専門的な人に入ってもらい、チームでやることが必要」と述べ、小中学校にスクールソーシャルワーカーを配置する方針を示した。

学校は、女児の異変について情報を組織で共有せず、学年をまたいだ引き継ぎもできていなかった。今後は引き継ぎの様式や内容などの基準を定める。

報告書は町教委が遺族の了解を得た上で町ホームページで概要版を公表する。

女児のSOSを学校が把握できなかったことについて、報告書は小学校の統廃合に伴う教職員の多忙も指摘した。岸原教育長は「統合前の交流学習や教員の負担軽減もしてきたが、もっと配慮すべきことがあったと思う」とした。

1日夜には全校児童の保護者会が開かれ、104人が集まった。参加者からは「学校で子どもが加害したことは知らせてほしい」との意見があったという。

第三者委の報告を受け、女児が通っていた小学校の校長は報道陣の取材に「ご遺族に本当に申し訳ない。もっと早くSOSをキャッチし、適切な対応をすれば命を守れたのでは」とうなだれた。

吉田一四町長は「二度と痛ましい事案が起こることがないよう教育委員会と連携し、再発防止に全力で取り組む」とのコメントを発表した。(森 信弘)

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