平成29年11月10日朝日新聞大阪本社版
教室の席なくされ、進学の夢は遠のき 髪黒染め指導訴訟
黒髪訴訟
黒染め訴訟について報じる海外ニュースメディア

生まれつき茶色い髪なのに、学校側が何度も黒染めを強要したのは違法だ――。大阪府立高校の女子生徒(18)が府を相手に起こした訴訟が、国内外で話題になっている。過去に学校側の頭髪指導を許容した司法判断もあるが、「行き過ぎ」との声が各方面から上がっている。
■「ここまで追い込むのか」
「自分で望んだわけじゃない。地毛が茶色いだけでなぜ責められ続けるの」
裁判を起こした生徒は2年生だった昨年5月、家族にそう語ったと、訴状にある。母校の中学校の指導で、生徒は学校行事の際などに髪を黒く染めた。しかし高校入学後は、頭髪など身だしなみについて記載した「生徒心得」を理由に、地毛に戻すことが認められることはなかった。髪が傷み、頭皮に痛みを感じるようになったが、教員から「不十分」とやり直しを命じられることもあったという。高校は、入学時に黒く染めていた場合は「黒色をキープする」方針だった。
昨年9月、「指導に従えないなら授業は受けられない」などと言われ、不登校に。3年生となった今年4月以降は名簿から消され、教室から席もなくなった。大学進学の目標は遠のいた。代理人の弁護士は「ここまで生徒は追い込まれなければならないのか」と憤る。
府は訴訟で争う姿勢だが松井一郎知事は「生まれついての身体特徴をなぜ変えるのか大いに疑問。(教育庁に)生徒に寄り添った対応を求めたい」と述べた。
■海外でも報道 著名人も反応
今回の訴訟は、海外の主要メディアも取り上げた。
ロイター通信は「『調和』を文化とする日本では、多くの学校でスカートの長さや髪の色に厳しい校則がある」と配信。英BBC(インターネット版)は「日本の生徒は髪を黒く染めさせられる」との見出しで報じた。「日本の学校では明るい色の髪の毛は罪になる」と皮肉った英字ニュースサイトもあった。
国内でも著名人らがツイッターで発言。元AKB48メンバーで俳優の秋元才加さんは同様の経験があったとして「規則は大事だけど、大事な事もっとあるはず、ってその時思ったな」。脳科学者の茂木健一郎さんは「髪の毛は黒、などというくだらない価値観を子どもたちに押し付ける教師、学校、教育委員会がこの時代の日本に存在することを心から悲しく思い、怒りを感じます」とつぶやいた。
■専門家「茶髪の許容度上がり、見直す必要」
「黒染め」をめぐる訴訟は過去にもある。宮城県立高校の元女子生徒は2005年、「生まれつき赤みがかった頭髪を黒く染めるよう強要された」として県に550万円の賠償を求め提訴。県は翌年「教育的配慮に欠けた」と謝罪して解決金50万円を払い和解した。
08年には髪を茶色にしていた奈良県生駒市立中学の元女子生徒が「黒染めさせられたのは体罰にあたる」と市を提訴。しかし大阪地・高裁は「教育的指導の範囲内」と訴えを退け、13年、最高裁で確定した。
今回の訴訟はどうか。子どもの権利に詳しい瀬戸則夫弁護士(大阪弁護士会)は、校則や生徒指導をめぐり司法は学校の裁量をより広く認める傾向にあるとみる。しかし「頭皮に健康被害が出たり、罰として登校を禁じたりするのは『指導を超えた強制』として違法
と認定されうる」と指摘する。
なぜ、頭髪をめぐり訴訟にまでなる指導が行われたのか。保護者と学校のトラブルに詳しい大阪大学大学院の小野田正利教授(教育制度学)は「『荒れた学校』の再来を防ぎたい、という教師の潜在意識が前に出過ぎたのでは」と分析する。
生徒の校内暴力や喫煙が社会問題化した1970~80年代の学校では、頭髪の変化は非行の端緒とされ徹底的な指導の対象となった。次第に生徒との対話が重視されてきたとはいえ、「今も公立高校の3分の1程度は頭髪指導をしているのでは」と小野田教授。「現代では茶髪の許容度は上がっており、黒髪維持の強制は見直す必要がある」と指摘する。
教育現場の思いも様々なようだ。頭髪指導を長年続けてきた別の府立高校の男性教諭(56)は「ルールを守れる人間を育て、学校の秩序も保てる」と説明する。一方で「服装や頭髪は本来個人の自由。上から抑えつけることに苦しさもある」とも打ち明けた。
「地毛が茶色い生徒の髪を黒染めさせるのは、やり過ぎ。学校が生徒ともっと話し丁寧に『落としどころ』を探れていれば、こんな大きな問題にはならなかったのではないか」(釆沢嘉高)

〈黒染め強要訴訟〉 体質的に髪が茶色いのに、黒く染めるよう教員らに何度も指導されたとして、大阪府立高校3年の女子生徒が9月、府に約220万円の賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。黒染めを重ねて頭皮がかぶれ、精神的苦痛も受けたという。府は争う姿勢。

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