2021年2月16日付毎日新聞

黒染め強要訴訟 頭髪指導は「妥当」、不登校後の対応「違法」

黒染め訴訟の判決を受け、記者会見する大阪府立懐風館高校の高橋雅彦校長(手前)、柴浩司・府教育振興室長(中央)ら=大阪市中央区で2021年2月16日午後6時23分、木葉健二撮影

頭髪指導を巡る訴訟の争点拡大
頭髪指導を巡る訴訟の争点
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2021年2月15日付朝日新聞

大阪の校則裁判に海外から注目 明るい色の髪は「罪」か

写真・図版

府立高校の元女子生徒が起こした黒染め訴訟は海外ニュースメディアも報じた

 校則通り、茶髪を黒く染めなさい――。高校生に「髪形の自由」は認められるのか。髪形を生徒の自主性に任せすぎると就職に悪影響があるのか。海外メディアも注目した日本の「校則」をめぐる裁判の判決が16日、大阪地裁である。校則ってなんだろう。さまざまな議論が広がる。

「染色・脱色の禁止」。大阪府立のある高校の生徒手帳には、こんな校則が載っていた。

府を訴えたのは、元女子生徒。

訴えによると、生徒が2015年4月に入学すると、生徒手帳には「頭髪は清潔な印象を与えるよう心がけること」とあり、続けて「パーマ・染色・脱色・エクステは禁止する」と書かれていた。「私は地毛が茶色。黒染めする必要はない」――。そう思った。

争点となっているのは、まず、こんな内容の校則が合法かどうかだ。

 生徒側は、どのような髪形にするのかは生徒の自由で、校則は憲法13条が保障する自己決定権を侵害するものだと訴える。

 学校側は、「染色・脱色」は、生徒の関心を勉学やスポーツに向けさせ、「非行防止」につなげるという教育のためで適法だと反論する。

 頭髪指導をめぐる裁判は過去にもあった。

 古くは私立大学の学生の退学処分をめぐる裁判で、最高裁は1974年、「学校で教育を受けるかぎり、その学校の規律に服することを義務づけられる」と言及し、学校には

学則の制定権があるする一方、学則の内容が「社会通念に照らし、合理的な範囲」な場合に認められるとした。

 「丸刈り」の校則が合法かどうかが争われた裁判で、熊本地裁は85年、校則を決める学校の裁量を広く認め、合法とした。

 また茶髪にした奈良県生駒市立中学の元女子生徒が「黒染めを強要されたのは体罰だ」と市を訴えた裁判では、大阪地裁、高裁は2011年、「教育的な指導の範囲内で

体罰にはあたらない」として訴えを退け、判決は最高裁で確定した。

 ライフスタイルの自由が尊重される傾向にある近年、高校生に対する「染色・脱色の禁止」という校則を裁判所がどう判断するのか、注目される。

 そもそも、女子生徒の「地毛の色」は何色だったのかも争われている。

 母親によれば、生徒の髪は「生まれつき茶色」と学校側には何度も説明したが、聞き入れてもらえず、繰り返し黒染めを指導されたという。生徒は指導に応じたが「黒染めが

不十分だ」などとして、授業への出席や修学旅行への参加を認めないこともあり、生徒は不登校になって精神的損害を受けたとも主張する。

 これに対し、学校側は、教師たちは、生徒に頭髪指導をした際、生徒の頭髪は根元から黒色だったと確認しているという。生徒の地毛の色はあくまで「黒色」だと反論する。

(米田優人)

「日本の学校では明るい色の髪の毛は罪になる」

 この裁判は、校則のあり方をめぐって、国内外で大きな反響を呼んだ。

 2017年10月、各新聞社が女子生徒が府を訴えたという内容を報じると、ロイター通信は「調和を文化とする日本では、多くの学校でスカートの長さや髪の色に厳しい校則が

ある」と配信。英BBC(インターネット版)は「日本の生徒は髪を黒く染めさせられる」との見出しで報じた。「日本の学校では明るい色の髪の毛は罪になる」と皮肉った英字

ニュースサイトもあった。

 国内でも、元AKB48メンバーで、俳優の秋元才加さんが同様の経験があったとして「規則は大事だけど、大事な事、もっとあるはず、ってその時思ったな」とSNSに投稿するなど

著名人らも発言した。

 報道の翌11月、大阪府教育委員会は、府立の全高校にアンケートした。全日制では137校のうち9割以上の127校で、校則や指導方針のなかで「髪の染色や脱色」を禁止

していたが、府教委は「不適切と思われる校則や指導方針はなかった」とした。

 ただ、長年見直されない校則のままの学校も少なくなかったことから、府教委は「必要に応じて、時代に合うよう改めるよう」指導した。生まれつき髪が茶色だったり「天然パーマ」

だったりする生徒たちがいることに配慮し、「茶髪」禁止の表現を「染色・脱色」と見直した学校や、「パーマ」禁止とあったのを「故意のパーマ」と加える学校などもあった。

 同年の朝日新聞の調査では、全日制の都立高校の約6割で髪の毛を染めたり、パーマをかけたりしないか確認するため、「地毛証明書」を出させている実態も明らかになった。

 府教委の酒井隆行教育長は朝日新聞の取材に、「裁判は校則のあり方や指導について問題提起になった。学校、生徒、保護者が議論し、しっかりと合意がなされるよう指導

していきたい」と話す。

 学校現場からは、頭髪指導や校則の必要性を訴える声も依然としてある。

 ある府立高校の校長は「進学校の子だと『おしゃれ』とされる茶髪でも、勉強が苦手な学校の子だと『ガラが悪い』と見られがちだ。偏見がある以上、校則で髪の色を定めることは

生徒を守ることにつながる」と話す。

 別の府立高校では、この裁判が起きた後も、入学時に「地毛の色の登録」や、染色や脱色をしないよう指導を続けたという。同校では大半の生徒が卒業後、就職を目指す。

校長は「校則を通じ、身だしなみやマナーを習慣化する必要がある。就職活動ではそうした点が見られることも多いからだ」と語る。

 学校現場の実情に詳しい大阪大学の小野田正利・名誉教授(教育制度学)は「髪の色は個性のひとつとして尊重すべきだ。いまは就職などでも必ずしも茶髪が不利になる時代

ではない」と指摘。「学校側が『その人らしさ』を認め、時代にあわせて見直していくべきだ」とする。(山田健悟、米田優人)

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平成29年11月10日朝日新聞大阪本社版
教室の席なくされ、進学の夢は遠のき 髪黒染め指導訴訟
黒髪訴訟
黒染め訴訟について報じる海外ニュースメディア

生まれつき茶色い髪なのに、学校側が何度も黒染めを強要したのは違法だ――。大阪府立高校の女子生徒(18)が府を相手に起こした訴訟が、国内外で話題になっている。過去に学校側の頭髪指導を許容した司法判断もあるが、「行き過ぎ」との声が各方面から上がっている。
■「ここまで追い込むのか」
「自分で望んだわけじゃない。地毛が茶色いだけでなぜ責められ続けるの」
裁判を起こした生徒は2年生だった昨年5月、家族にそう語ったと、訴状にある。母校の中学校の指導で、生徒は学校行事の際などに髪を黒く染めた。しかし高校入学後は、頭髪など身だしなみについて記載した「生徒心得」を理由に、地毛に戻すことが認められることはなかった。髪が傷み、頭皮に痛みを感じるようになったが、教員から「不十分」とやり直しを命じられることもあったという。高校は、入学時に黒く染めていた場合は「黒色をキープする」方針だった。
昨年9月、「指導に従えないなら授業は受けられない」などと言われ、不登校に。3年生となった今年4月以降は名簿から消され、教室から席もなくなった。大学進学の目標は遠のいた。代理人の弁護士は「ここまで生徒は追い込まれなければならないのか」と憤る。
府は訴訟で争う姿勢だが松井一郎知事は「生まれついての身体特徴をなぜ変えるのか大いに疑問。(教育庁に)生徒に寄り添った対応を求めたい」と述べた。
■海外でも報道 著名人も反応
今回の訴訟は、海外の主要メディアも取り上げた。
ロイター通信は「『調和』を文化とする日本では、多くの学校でスカートの長さや髪の色に厳しい校則がある」と配信。英BBC(インターネット版)は「日本の生徒は髪を黒く染めさせられる」との見出しで報じた。「日本の学校では明るい色の髪の毛は罪になる」と皮肉った英字ニュースサイトもあった。
国内でも著名人らがツイッターで発言。元AKB48メンバーで俳優の秋元才加さんは同様の経験があったとして「規則は大事だけど、大事な事もっとあるはず、ってその時思ったな」。脳科学者の茂木健一郎さんは「髪の毛は黒、などというくだらない価値観を子どもたちに押し付ける教師、学校、教育委員会がこの時代の日本に存在することを心から悲しく思い、怒りを感じます」とつぶやいた。
■専門家「茶髪の許容度上がり、見直す必要」
「黒染め」をめぐる訴訟は過去にもある。宮城県立高校の元女子生徒は2005年、「生まれつき赤みがかった頭髪を黒く染めるよう強要された」として県に550万円の賠償を求め提訴。県は翌年「教育的配慮に欠けた」と謝罪して解決金50万円を払い和解した。
08年には髪を茶色にしていた奈良県生駒市立中学の元女子生徒が「黒染めさせられたのは体罰にあたる」と市を提訴。しかし大阪地・高裁は「教育的指導の範囲内」と訴えを退け、13年、最高裁で確定した。
今回の訴訟はどうか。子どもの権利に詳しい瀬戸則夫弁護士(大阪弁護士会)は、校則や生徒指導をめぐり司法は学校の裁量をより広く認める傾向にあるとみる。しかし「頭皮に健康被害が出たり、罰として登校を禁じたりするのは『指導を超えた強制』として違法
と認定されうる」と指摘する。
なぜ、頭髪をめぐり訴訟にまでなる指導が行われたのか。保護者と学校のトラブルに詳しい大阪大学大学院の小野田正利教授(教育制度学)は「『荒れた学校』の再来を防ぎたい、という教師の潜在意識が前に出過ぎたのでは」と分析する。
生徒の校内暴力や喫煙が社会問題化した1970~80年代の学校では、頭髪の変化は非行の端緒とされ徹底的な指導の対象となった。次第に生徒との対話が重視されてきたとはいえ、「今も公立高校の3分の1程度は頭髪指導をしているのでは」と小野田教授。「現代では茶髪の許容度は上がっており、黒髪維持の強制は見直す必要がある」と指摘する。
教育現場の思いも様々なようだ。頭髪指導を長年続けてきた別の府立高校の男性教諭(56)は「ルールを守れる人間を育て、学校の秩序も保てる」と説明する。一方で「服装や頭髪は本来個人の自由。上から抑えつけることに苦しさもある」とも打ち明けた。
「地毛が茶色い生徒の髪を黒染めさせるのは、やり過ぎ。学校が生徒ともっと話し丁寧に『落としどころ』を探れていれば、こんな大きな問題にはならなかったのではないか」(釆沢嘉高)

〈黒染め強要訴訟〉 体質的に髪が茶色いのに、黒く染めるよう教員らに何度も指導されたとして、大阪府立高校3年の女子生徒が9月、府に約220万円の賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。黒染めを重ねて頭皮がかぶれ、精神的苦痛も受けたという。府は争う姿勢。

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