令和5年1月24日付朝日新聞デジタル

「突然死したということに」命絶った息子、耳を疑った学校側の言葉

写真・図版

長崎地裁での口頭弁論後、取材に応じる生徒の両親=2023年1月24日午後2時48分、長崎市万才町、石倉徹也撮影
写真・図版
昨年11月の提訴後に会見する父親(右)=2022年11月4日、長崎市

 2017年、長崎市の私立海星高2年の男子生徒(当時16)が自殺したのは、学校側がいじめ対策を怠ったためだとして、両親が学校側に約3200万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が24日、長崎地裁であった。この日、母親(50)が法廷に立ち、息子の死からまもなく6年を迎える心境を語った。

 母親の意見陳述によると、遺族が学校に不信感を持ったのは、息子の死から1週間後のことだった。

 「マスコミが騒いでいるので、突然死したということにした方がいいかもしれませんね」

 当時の教頭(現校長)が隠蔽(いんぺい)を示唆するような言葉を電話越しに投げかけた。

 さらに翌日、こう告げたという。

この学校にはいじめという認識がない」

遺族はその後、かつて海星高にいた生徒や保護者らと面会し、過去にもいじめで苦しい思いをした人がいることに気づいたという。「この学校にはいじめという認識がないために、つらい思いをしながら耐えている生徒がたくさんいるのです」

1811月にまとまった第三者委の報告書は、学校側のいじめに対する認識不足を強く批判した。

生徒や教職員へのヒアリングを元に「いじめに対する認識不足は、生徒のみならず学園全体にも指摘できる」とした。学校には、いじめ対策委員会が設置されていたが、会議は一度も開催されず、いじめ防止の年間計画も作られていなかった。報告書は、教頭の「突然死」「転校」の発言も、「遺族への配慮に欠け、不適切」と指摘した。

「学校全体としていじめを許さない校風をつくっていれば、私の息子が亡くなることはなかったのではないか。無念でなりません」

遺族は、学校側の対応に不信感を募らせていく。「私たちはこの学校からこれでもかというくらい傷つけられてきました」

学校側は191月、「同級生によるいじめ」を自殺の主な要因に挙げた報告書の受け入れを拒否すると遺族に伝えた。「事実関係の裏付けが示されていない」というのが理由だった。

さらに学校側は、学校管理下で発生した事件に起因する死亡に対し支給される死亡見舞金の申請についても協力を拒み、「損害賠償請求権を放棄するなら申請に協力する」と遺族に持ちかけてきたという。

「こんな脅迫が平気でできることに、私たちは悔しくて悔しくてたまりませんでした」

 

法廷で陳述20分、最後に訴えたのは

生徒アンケートの「秘匿」も明らかになった。

訴状によると、学校側は生徒の死の19日後、同級生らに記名式のアンケートを実施。数十人がいじめがあったことをうかがわせる内容を記していた。だが学校側はその結果を遺族に伝えていなかった。

遺族がその存在を知ったのは昨年3月、裁判所に証拠保全を申し立て、裁判官立ち会いのもと、弁護士らが学校に資料開示を求めたからだ。

訴えは、私立学校を所管する長崎県にも向けられた。学校側は当初、「原因はいじめ」と遺族には認める発言もしたが、県学事振興課には「いじめが原因ではない」と報告していた。学校側がいじめ防止対策推進法にのっとった対策をしていないことも県は知らなかった。

「行政による学校の指導の不備が、いかに生徒の学校生活を脅かすことになるのか。長崎県にも自覚を持ってもらいたい」

法廷で話し始めて20分。母親は涙ぐみながら、こう最後に訴えた。「息子はディズニーが大好きで、ディズニーで働く夢を持っていました。息子が私たちの元に戻ってくることはありませんが、この裁判が、子どもたちを守るために必ず役に立つと信じています」

 

学校側は請求の棄却求める

一方、学校側はこの日、請求の棄却を求めた。学校側は答弁書で「中3以来のいじめがいつ誰がと具体的に特定されていない」と反論。報告書が「自死直前のいじめの存在は見つからなかった」などとしながら、いじめを主な要因に認定している点についても「理解できない」と主張している。

石倉徹也

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

2022年11月4日毎日新聞

海星高いじめ自殺 学校側は第三者委報告書を拒否 遺族が提訴

提訴後に男子生徒の遺影を置いて記者会見する両親ら=長崎市の県庁で2022年11月4日午後2時27分、中山敦貴撮影
提訴後に男子生徒の遺影を置いて記者会見する両親ら=長崎市の県庁で2022年11月4日午後2時27分、中山敦貴撮影
 長崎市の私立海星高2年の男子生徒(当時16歳)が2017年4月に自殺したのは、学校側がいじめ防止対策推進法に基づく対策を怠ったのが原因などとして、遺族が4日、高校を運営する学校法人に約3200万円の損害賠償を求め長崎地裁に提訴した。

訴状などによると、生徒が中高一貫の中学3年時から、生徒のおなかが鳴ってしまうことを同級生にからかわれるいじめが始まった。おなかの音がしないよう間食を取るため入った掃除用具置き場を無理やりこじ開けようとするなどのいじめも受けた。高校進学後も同様のいじめが続き、生徒は孤立を深めていった。

遺族側は、学校側はいじめ防止対策推進法に基づき、いじめを早期発見する体制をつくり適正に対処する義務を負っていたのに、それを怠ったと主張している。

生徒の自殺を巡っては、学校法人が設置した第三者委員会が「同級生によるいじめが主要因」とする報告書を18年にまとめたが、学校側は受け入れを拒否した。こうした対応についても遺族側は「法の趣旨や法が規定するいじめ防止制度を否定するもので許されない」と指摘した。

学校側は「訴状を受け取っておらず、コメントは差し控える」としている。【中山敦貴】

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

2020年4月21日付朝日新聞

長崎)いじめ自殺遺族に死亡見舞金 独立行政法人

写真・図版

記者会見で話す母親=2020年4月20日午後1時45分、長崎市尾上町の県庁、横山輝撮影

  長崎市の私立・海星高校の男子生徒(当時16)が自殺し、「いじめが主な原因」とした第三者委員会の報告書を学校側が受け入れていない問題で、独立行政法人日本スポーツ振興センター(東京)が遺族に対し、死亡見舞金の給付を決めたことがわかった。決定は3月27日付。 男子生徒は2017年4月、市内の公園で自殺。学校側が設置した第三者委は自殺といじめの因果関係を認める報告書を18年11月にまとめたが、学校側は「論理的飛躍がある」として受け入れを拒んでいる。

 同センターは災害共済給付制度に基づき、学校の管理下で発生した事件に起因する死亡に対し、死亡見舞金を支給している。

 同センターの通知書によると、学校が提出した災害報告書では死亡の原因は「不明」とされていたが、第三者委が報告書でいじめと自殺の因果関係を認めたことを重視。いじめで「強い心理的

負担が生じていたものと推定できる」として、支給を決定した。

 男子生徒の両親は、自殺から3年となった20日、長崎県庁(長崎市尾上町)で記者会見。代理人弁護士は「学校の見解と第三者委の調査結果が食い違うという極めてまれなケース」と説明。

父親(52)は「報告書が重んじられたことについては息子も報われたと思う。ただ、ゴールは学校側が報告書を認めることだ」と話した。

 学校側の代理人弁護士は取材に「現段階ではノーコメント」としている。(横山輝)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年4月21日付朝日新聞長崎版

いじめ報告書「問題ある」 自殺問題で私立高側

  長崎市の私立高校の男子生徒(当時16)が2017年4月に自殺し、学校側が設置した第三者委員会がまとめたいじめと自殺の因果関係を認める報告書について、学校側が「(内容に)問題がある」と改めて不服とする姿勢を示していたことがわかった。20日、遺族が明らかにした。

遺族によると、2月下旬に会見を開き報告書の内容の受け入れを求めて以降、学校側から遺族に対し内容についての見解が示されたのは初めて。

遺族は男子生徒の三回忌にあたる20日を前に、学校側の弁護士に、報告書に対しての考えを文書で質問。遺族によると、18日付の回答文書は、「遺書などについて十分な考察がなされていない」「論理的な飛躍がある」などと指摘。学校側は有識者に意見を聞くなどした結果、「報告書には問題がある」と判断したという。

男子生徒の自殺を巡っては、第三者委が18年11月に報告書を作成。学校側が「事実関係の裏付けが示されていない」などと、内容を不服として受け入れない考えを示していたという。学校側は朝日新聞の取材に「コメントは差し控える」としている。

男子生徒が亡くなって2年になるこの日、遺族は現場となった長崎市内の公園を訪れ献花した。母の日によく贈ってくれたというカーネーションの花を選んだ母親は「命日の直前にこのような結果を示され残念。息子にどう報告したらいいのかわからない」と報道陣の取材に話した。(横山輝)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年3月6日付朝日新聞長崎版

私立高の対応「適切でない」 いじめ自殺問題で県

長崎市の私立高校の男子生徒(当時16)が2017年4月に自殺し、第三者委員会が作成した「自殺の主な原因が同級生によるいじめ」とする報告書を学校側が不服として受け入れない考えを遺族に伝えた問題で、長崎県は5日、「遺族への対応が示されない状態が長く続くのは適切ではない」との見方を示した。

この日の県議会文教厚生委員会で、山田朋子氏(改革21)が第三者委の報告書を認めない学校の姿勢は異例だと指摘し、県の考えを質問。私立学校を所管する学事振興課の松尾信哉課長が「報告書を真摯に受け止め、対応を一刻も早く遺族にお示しするよう指導している」などと答えた。

いじめ防止対策推進法は、いじめにより重大な被害が発生した疑いが認められるとき、学校の設置者が都道府県知事に報告するよう定めているが、同課によれば、その規定には期限がない。

松尾課長は「強制力はないが、指導を続けていく」と答弁した。

昨年11月に第三者委がまとめた報告書は、自殺の主な要因として、空腹時のおなかの音をからかうなどの「同級生によるいじめ」を挙げたうえで、「教師による理不尽な指導」「学習に対する悩みや焦り」などが重なったと指摘していた。(横山輝)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年3月2日付西日本新聞

長崎・高2自殺、遺族が卒業式で涙 「学校は変わって」

長崎高2自殺卒業式

男子生徒が通った私立高卒業式に出席し、遺影を胸に思いを語る遺族=1日午前11時40分ごろ、長崎市(写真の一部を加工しています)

2017年4月に自殺した長崎市の高校2年男子生徒=当時(16)=が通った私立高で1日、卒業式があり、両親と兄の3人が遺影を携えて出席した。学校側は遺族の参列を拒んでいたが、前日に急きょ認めたという。取材に応じた父親は「良い学校に生まれ変わってほしい」と訴えた。

式は非公開。遺族によると、校長は式辞の最後に「かけがえのない友を失ったことを忘れないでほしい」と述べた。式の間、両親は涙を流しながら男子生徒を思い浮かべたといい、母親は「同級生には心の痛みが分かる人になってほしい」と声を震わせた。

自殺の原因を調べた第三者委員会は「同級生のいじめが主要因」とする報告書をまとめたが、学校側は「事実の裏付けが示されていない」として受け入れを拒否している。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年2月26日付西日本新聞

長崎高2自殺、いじめ認定に学校異議 第三者委の報告「不服」

長崎私立高2

「よく体や手が震えて」などと記された男子生徒の手記。いじめ認定の証拠の一つになった

 

長崎市の私立高2年だった男子生徒=当時(16)=が2017年4月に自殺したことを受け、原因調査のため学校側が設けた第三者委員会が「自殺は同級生のいじめが主要因」とする報告書をまとめていたことが分かった。だが学校側は、いじめの認定を不服として報告書を受け入れない考えを男子生徒の両親に伝えており、学校自身が第三者委の調査結果を認めない異例の事態になっている。

11年の大津市立中生徒の自殺問題を機に成立したいじめ防止対策推進法は、いじめを把握しながら対応を怠った学校や教育委員会の姿勢を改めるため、重大事案発生時に第三者委など調査組織の設置を義務付けている。文部科学省によると、調査結果に対し、問題の根幹となるいじめの存在自体を学校側が否定する例は「聞いたことがない」としている。

両親や関係者によると、男子生徒は17年4月20日に学校から帰宅後に外出し、戻らなかったため長崎署に行方不明者届を提出。21日、市内の公園で自殺しているのが見つかった。

自宅には、亡くなる約1カ月前に男子生徒が書いたとみられる手記が残されていた。数年前から空腹時のおなかの音を同級生に「さんざんdisられた(侮辱された)」などと記され、教室内の物音も男子生徒が発した音としてからかわれたと訴えている。

生徒の死を一部保護者らにしか明らかにせず、原因を調べない学校の姿勢に不信を抱いた両親が調査を求めると、学校側は弁護士らでつくる第三者委を設置し、同年7月に調査を始めた。

約1年半後の昨年11月にまとめた報告書は、本人の手記や同級生へのアンケートから、おなかの音を侮辱する行為や、男子生徒が音が鳴らないよう休み時間に別室で間食する際に、ドアを無理やり開けた同級生の行為をいじめと認定した。

ところが学校側は今年1月、報告書を受け入れない意向を両親に通知。今月開いた保護者会でも「(報告書は)いじめがあったとする裏付けが薄い」などと主張したとみられる。報告書は男子

生徒が卒業するはずだった3月までに総括することなどを提言しているが、宙に浮いているという。

両親は「学校はいじめ自殺があったことに真剣に向き合い、次の被害者を生まないため誠実に行動してほしい」と要望。西日本新聞の取材に同校の担当者は「微妙な事柄のため検討中で、現時点でコメントできない」としており、自殺の有無を含めて回答していない。

◇    ◇

法理念と差を埋めよ

いじめ問題に詳しい関西外国語大・新井肇教授(生徒指導論)の話 いじめの重大事件の背景調査は、事実を明らかにすることで学校が再発防止や改善に役立てるために行われる。

第三者が調査することで、身内だけでは気付きにくい問題点を洗い出すことが可能になる。いじめの定義が浸透していない教育現場もみられ、法の理念と現場とのギャップを埋める作業も必要だ。

×    ×

【ワードBOX】いじめ防止対策推進法

2013年施行。自殺など心身に深刻な危害が及ぶ「重大事態」について学校側に調査と報告を義務付け、文部科学省は再発防止のため報告内容を尊重するよう指導している。第三者委員会の調査が不十分として再調査や委員交代を遺族側が求めるケースなど法律が想定していない事例もあり、運用面で模索が続いている。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn