令和5年1月24日付朝日新聞デジタル
「突然死したということに」命絶った息子、耳を疑った学校側の言葉
2017年、長崎市の私立海星高2年の男子生徒(当時16)が自殺したのは、学校側がいじめ対策を怠ったためだとして、両親が学校側に約3200万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が24日、長崎地裁であった。この日、母親(50)が法廷に立ち、息子の死からまもなく6年を迎える心境を語った。
母親の意見陳述によると、遺族が学校に不信感を持ったのは、息子の死から1週間後のことだった。
「マスコミが騒いでいるので、突然死したということにした方がいいかもしれませんね」
当時の教頭(現校長)が隠蔽(いんぺい)を示唆するような言葉を電話越しに投げかけた。
さらに翌日、こう告げたという。
この学校にはいじめという認識がない」
遺族はその後、かつて海星高にいた生徒や保護者らと面会し、過去にもいじめで苦しい思いをした人がいることに気づいたという。「この学校にはいじめという認識がないために、つらい思いをしながら耐えている生徒がたくさんいるのです」
18年11月にまとまった第三者委の報告書は、学校側のいじめに対する認識不足を強く批判した。
生徒や教職員へのヒアリングを元に「いじめに対する認識不足は、生徒のみならず学園全体にも指摘できる」とした。学校には、いじめ対策委員会が設置されていたが、会議は一度も開催されず、いじめ防止の年間計画も作られていなかった。報告書は、教頭の「突然死」「転校」の発言も、「遺族への配慮に欠け、不適切」と指摘した。
「学校全体としていじめを許さない校風をつくっていれば、私の息子が亡くなることはなかったのではないか。無念でなりません」
遺族は、学校側の対応に不信感を募らせていく。「私たちはこの学校からこれでもかというくらい傷つけられてきました」
学校側は19年1月、「同級生によるいじめ」を自殺の主な要因に挙げた報告書の受け入れを拒否すると遺族に伝えた。「事実関係の裏付けが示されていない」というのが理由だった。
さらに学校側は、学校管理下で発生した事件に起因する死亡に対し支給される死亡見舞金の申請についても協力を拒み、「損害賠償請求権を放棄するなら申請に協力する」と遺族に持ちかけてきたという。
「こんな脅迫が平気でできることに、私たちは悔しくて悔しくてたまりませんでした」
法廷で陳述20分、最後に訴えたのは
生徒アンケートの「秘匿」も明らかになった。
訴状によると、学校側は生徒の死の19日後、同級生らに記名式のアンケートを実施。数十人がいじめがあったことをうかがわせる内容を記していた。だが学校側はその結果を遺族に伝えていなかった。
遺族がその存在を知ったのは昨年3月、裁判所に証拠保全を申し立て、裁判官立ち会いのもと、弁護士らが学校に資料開示を求めたからだ。
訴えは、私立学校を所管する長崎県にも向けられた。学校側は当初、「原因はいじめ」と遺族には認める発言もしたが、県学事振興課には「いじめが原因ではない」と報告していた。学校側がいじめ防止対策推進法にのっとった対策をしていないことも県は知らなかった。
「行政による学校の指導の不備が、いかに生徒の学校生活を脅かすことになるのか。長崎県にも自覚を持ってもらいたい」
法廷で話し始めて20分。母親は涙ぐみながら、こう最後に訴えた。「息子はディズニーが大好きで、ディズニーで働く夢を持っていました。息子が私たちの元に戻ってくることはありませんが、この裁判が、子どもたちを守るために必ず役に立つと信じています」
学校側は請求の棄却求める
一方、学校側はこの日、請求の棄却を求めた。学校側は答弁書で「中3以来のいじめがいつ誰がと具体的に特定されていない」と反論。報告書が「自死直前のいじめの存在は見つからなかった」などとしながら、いじめを主な要因に認定している点についても「理解できない」と主張している。
(石倉徹也)