平成30年9月25日朝日新聞兵庫版

調査不足指摘 いじめメモ隠蔽問題

神戸市垂水区で2016年に市立中学3年の女子生徒が自殺し、いじめをうかがわせる他の生徒からの聞き取りメモが隠蔽された問題が、混迷の度を深めている。

「首席指導主事が指示し、前校長が了承した」とされるが、他の市教委幹部も昨夏の段階で隠蔽を認識していた疑いが浮上。有識者からも調査不足との指摘が相次いでいるためだ。だが、市教委は早くも幕引きの構えを見せている。

「事実関係がちゃんとしていないのに早すぎる」「なぜこんなに急ぐのか」 19日、神戸市議会文教こども委員会。居並ぶ市教委幹部を前に、複数の市議から厳しい質問が噴出した。

市議たちが問題にしたのは、市教委が設置した「組織風土改革のための有識者会議」の「中間とりまとめ」と市教委の対応だ。

有識者会議は「メモを巡る対応は首席指導主事と前校長の2人のみで行われ、他の職員からのチェックが働かなかった」との前提で3回議論し、「指揮命令系統の明確化」などを今月11日に提言した。

そのわずか3日後、市教委は生徒指導を専門に担う「児童生徒課」の新設を柱とする10月1日付の組織改革概要を発表した。「素早く組織をいじることで幕引きを狙っているように見える」(市立中学校のある校長)との声が上がるほどの手際の良さだった。

だが当の有識者会議でさえ、中間とりまとめの冒頭で「(隠蔽の)動機や経緯が非常に不合理で、詳細に解明されることが望ましい点が多く残されている」と釘を刺し、課題が山積していることを強調する。

「隠蔽は首席指導主事が指示し、前校長が従った」と認定したのは、市教委が委託した弁護士2人による6月1日付の調査報告書だ。だが、報告書の内容を否定したり、報告書に反映されていなかったりした新たな文書が最近、相次いで出てきた。

一つは、前校長が7月13日付で提出した陳述書だ。

調査報告書は、前校長が首席指導主事の指示に従った理由を「できればメモがないことにしてやり過ごしたいという思いを有していた模様である」とした。だが、前校長は「そんな発言はしていないし、そう思ったことも一度もない」と反論。「一にも二にも教育委員会から指示があったからだ」と主張した。

二つ目は、共産党の味口俊之市議の情報公開請求で開示された、現校長と学校教育課長との昨年8月23日の電話対応記録だ。

記録によれば、現校長は(1)メモは市教委の指示で廃棄されたと前校長から聞いた(2)メモは学校に残っている――の2点を伝え、メモが破棄されたと記された第三者委員会の報告書の訂正を求めた。だが、同課長は「遺族説明は終わっている」などとして拒否した。

記録は学校教育部長と総務部長にも共有されていた。つまり、複数の市教委幹部が昨年8月の時点で隠蔽が行われたとの認識を持ちながら、真相にふたをしようとしていたのではないか、との疑惑だ。

未解明の点はほかにもある。なぜ首席指導主事は上司に相談することなく独断で隠蔽をはかったのか。昨年8月にメモが学校にあることが分かり、教育長(当時)が調査を指示したのに、なぜ現物を確認することなく調査は立ち消えになったのか――などだ。

全容解明にほど遠い段階で組織改革を始めた市教委の姿勢に、遺族側は不信感を募らせる。今月18日、「仮に時間がかかったとしても徹底的な原因解明をまずは行うこと、その上で組織風土改革を検討することを求めたい」とする所感を有識者会議と市教委に出した。

だが、市教委は新たに調査するつもりはないという。後藤徹也・教育次長は取材に「我々に強制調査権がない中で、これ以上調べても事実解明には限界がある。

弁護士による調査報告書をもって区切りとしたい」と話した。(野平悠一、西見誠一)

 

  • 学校教育課長と現校長の昨年8月23日の電話対応記録(抜粋)

校長:具体的には、メモの廃棄についてである。これについて前校長は、委員会の指示であったといっている。(中略)実際にメモの一部は学校に存在している。

学校教育課長:第三者委員会の聞き取りからできた報告書であり、第三者委員会に意見をすることは難しい。

校長:第三者委員会の報告でも、誤った情報については訂正する必要があるだろう。また、事前に学校とのすり合わせがなされていない。杜撰である。

学校教育課長:すでに、遺族説明も終わっており報告書は固まっている。

※開示記録には伏せ字がありますが、一部を取材で補いました。

 

◇神戸の中3自殺問題

神戸市垂水区の市立中学生3年生自殺問題 市教委が設置した第三者委員会の調査報告書はいじめがあったと認定したが、自殺の原因は特定しなかった。

いじめメモ隠蔽問題を受け、久元喜造市長は今夏、市長部局に新たな調査委を立ち上げて自殺の経緯を調べている。

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平成30年9月21日東京新聞

「いじめ対策怠った」 高1自殺、都を提訴

東京都立小山台高校一年の男子生徒=当時(16)=が二〇一五年に自殺したことを巡り、生徒が悩みを訴えていたにもかかわらず学校側が対策を怠ったことが自殺につながったなどとして、母親が二十日、都に約九千三百万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。

訴状などによると、生徒は高校入学後、同級生から嫌がる呼び名の連呼や無視などのいじめを受けた。一五年九月、JR中央線大月駅(山梨県大月市)のホームから飛び込み、電車にはねられて死亡した。

生前、学校のアンケートに「悩みがあるので相談したい」と回答し、早退や保健室通いを繰り返していた。しかし学校側は、本人にどんな悩みがあるのか尋ねるなどの対策を取らず、そのことが自殺を招いたと主張している。また、自殺後に都教委に調査を十分に行うよう求めると、担当者から「ほかの生徒や保護者から苦情がきている」などと怒鳴られ、精神的苦痛を受けたとも訴えている。

都教委は一七年九月、「いじめを認定するのは極めて困難」とする調査結果を公表。遺族は再調査を求め、都の知事部局の検証チームが今年七月、都教委の調査は不十分だったとして、いじめ防止対策推進法などに基づき再調査することを決めた。

再調査の結果が出る前に踏み切った提訴。東京・霞が関の司法記者クラブで会見した母親は「優しくて思いやりのある子でした。『科学者になって人の役に立ちたい』といつも言っていた」と涙声で語り「学校や都教委からは説明も謝罪も一切ない。裁判で息子の人権と名誉を回復したい」と声を振り絞った。都教育庁は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。

(蜘手美鶴)

 

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平成30年9月20日朝日新聞

いじめメモの隠蔽、複数の市教委幹部が認識か 中3自殺

神戸市垂水区で2016年に市立中学3年の女子生徒が自殺し、いじめをうかがわせる他の生徒からの聞き取りメモが隠蔽された問題で、昨年8月、現校長が市教委の学校教育課長に「メモは学校にある」と電話で伝え、メモが破棄されたと記された第三者委員会の報告書の訂正を求めたのに、同課長が「遺族説明は終わっている」などと拒否していたことがわかった。

メモ隠蔽問題を調査した弁護士の報告書は、隠蔽は首席指導主事の指示だったと認定したが、他の市教委幹部も真相にふたをしようとした疑いが強まった。

昨年8月23日に現校長と学校教育課長が話した内容を一問一答形式で文書にした記録が市教委にあり、共産党の味口俊之市議が情報公開請求して開示された。

記録によると、現校長は①メモは市教委の指示で廃棄されたと前校長から聞いた②メモは学校に残っている――の2点を伝え、第三者委の報告書の訂正を求めた。

だが、同課長は「第三者委の聞き取りからできた報告書であり、意見することは難しい」「すでに、遺族説明も終わっており報告書は固まっている」と述べ、訂正を拒んだ。

この記録は上司の学校教育部長と総務部長にも共有された。

現校長とのやりとりについて、今年6月の市議会で問われた同課長は「どのような話をしたか覚えていない」などと答弁。学校教育部長も「報告を受けたが、何の話か分からなかった」と述べた後、「聞いたかどうかあいまい」と修正し、市教委が組織ぐるみで隠蔽した疑いを否定していた。

19日の市議会で、「現校長とのやりとりを文書で共有しながらなぜ『覚えていない』と答弁したのか」などと追及した味口市議に対し、同課長は「着任したばかりで事情が分からなかった」と釈明した。

市教委が設置した第三者委の調査報告書はいじめがあったと認定したが、自殺の原因は特定しなかった。メモの隠蔽問題を受け、久元喜造市長は今夏、市長部局に新たな調査委を立ち上げて自殺の経緯を調べている。(野平悠一、西見誠一)

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平成30年9月14日毎日新聞

転落生徒にいじめ「学校に責任」報告書公表せず

千葉県柏市の市立中学校で2015年3月、校舎から転落し意識不明の重体となった当時2年生の女子生徒について、市教委がいじめを受けていたとする報告書を作成していたことが毎日新聞の情報公開請求で判明した。報告書は「組織的対応をしなかったため、転落を未然に防ぐことができなかった」と学校の責任に触れていたが、市教委は内容を明らかにしてこなかった。

県警によると、生徒は校舎4階の教室で所属する部活動の部員数人と話をしていた途中で教室を出た後、駐車場に倒れているのが発見された。4階から飛び降りるのを目撃した生徒もいた。

市教委は同級生らから聞き取りし、16年3月に第三者の検証を経て報告書とその添付文書を市長に提出した。

これら文書は公表されず毎日新聞は同4月、市に情報公開請求した。しかし非開示と決定されたため行政不服審査法に基づく審査を請求。市の審議会が2年かけて審査した結果、「不開示の理由は当たらない」と非開示決定を取り消し、一部が今月3日開示された。

それによると、「(転落の)直接の原因は判断できなかった」としつつも「(生徒が)いじめを受けてきた」と指摘。担任教諭については「女子生徒や保護者からの相談でいじめの認知ができたにもかかわらず、安全配慮義務を果たさなかった」とし、「いじめを過小評価し状況の重大性を十分認識しなかった」と学校側の対応を批判していた。

また、開示された別の文書には「記者会見は行わない」「個人に関する情報として不開示情報の扱いをお願いしたい」などとあった。

市教委の担当者は非開示にしていたことについて「一切出さないでほしいという家族の要望があった。隠蔽とは考えていない」とし、「いじめが起きたことは大変遺憾で責任も感じている」と謝罪した。【橋本利昭】

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平成30年9月13日付毎日新聞

球拾いで川に転落・死亡 野球部員遺族が監督ら告訴

昨年11月に石川県立金沢西高野球部1年の男子生徒(当時15歳)が球拾い中に川に転落し死亡した事故で、父の松平忠雄さん(47)が同部の監督ら指導者3人を業務上過失致死容疑で金沢西署に告訴した。同署は受理し、同容疑で捜査している。【日向梓】

受理は先月28日。同署は、事故直後から同容疑を視野に捜査を始め、部内での注意喚起や指導について監督らの過失の有無を調べている。

事故は昨年11月5日午前10時半ごろ、同校グラウンドに隣接する新大徳川(水深約2・5メートル)で発生。男子生徒は、練習試合中に外野ネット(高さ約8メートル)を越えて川に落ちたホームランボールを拾おうとした際、誤って川に転落。2日後に搬送先の病院で死亡した。

松平さんは取材に、告訴した理由について「このままでは事故が風化してしまいそうだと感じた。息子は先輩たちをまねてボールを拾っただけ。指導者には、部員を指導監督し安全を守る責任があることを第三者に判断してほしい」と話した。

同高の山越善耀校長は12日、「告訴については詳細を把握していないためコメントできない」とし、事故については「以前から無理にボールを拾わないように指導していたが、事故が起こった以上、徹底されていない部分もあったと思う」と話した。

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平成30年9月12日付朝日新聞

新潟・高1いじめ自殺「担任の対応影響」第三者委が結論

2016年11月、学校にいじめの相談をしていた新潟市内の県立高校1年の男子生徒(当時15)が自殺した問題で、新潟県教育委員会の第三者委員会は11日、調査報告書を県教委に提出した。いじめがあったと認定し、担任教諭や学校の対応が自殺に影響を与えたと指摘した。

報告書によると、男子生徒は16年9月以降、一部の生徒から不愉快なあだ名で呼ばれるようになった。同年11月にかけて、あだ名に関係する合成画像がLINEに投稿されたり、悪口を言われたりした。

男子生徒は10月末から11月中旬までに担任教諭に3回、いじめについて相談をしていた。男子生徒がネットで自殺方法を検索したのが3回目の相談の2日後だったことなどから、第三者委は「孤立感を救ってほしいという担任教諭への期待が裏切られたことが、自殺の決行に最も影響を与えた」と結論づけた。

報告書は、学校の行動計画で定められているいじめを認知した際に開く対応委員会が開催されなかった点も指摘。「組織的対応が実行されなかったことが、3回の相談を受けながら最悪の事態を招いた根本的な原因」とした。

報告書を受け取った県教委の池田幸博教育長は「重く受け止めている。危機感を共有することが第一歩だ」と述べた。(加藤あず佐)

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平成30年9月11日朝日新聞

館山中2自殺、いじめとの因果関係解明できず 第三者委

千葉県館山市で10年前に市立中学2年の田副勝(たぞえしょう)さん(当時13)が自宅で首をつって亡くなったことについて、いじめの有無などを調べていた市の第三者調査委員会は10日、金丸謙一市長に報告書を提出した。所属していた野球部などでいじめに遭っていたと認定したが、自殺との因果関係は解明できなかったとした。

勝さんは2008年9月10日に自殺した。弁護士や教育の専門家らでつくる第三者委は16年の発足後、当時の在校生らにアンケートや聞き取りを実施。野球部の練習試合の帰りのバスで他の部員に制汗スプレーを吹きつけられ「臭いぞ」と言われたことなどをいじめと認定した上で、自殺の原因について「すべてが学校生活や部活動での問題にあったと断定する証拠はなく、全容解明に至らなかった」とした。

学校は自殺の直後に全校生徒を対象に調査を行い、「いじめにつながる事実はあったが、死と直接結びつく原因はわからない」としたが、5年間の保存が必要な調査用紙を廃棄していたことが後に判明。市教育委員会の再調査では「臭い、うざい、死ね」と言われていたとの回答を公表していなかったことも明らかになり、遺族が第三者委による調査を市に求めていた。

第三者委の報告について、委員長の大野精一・星槎大学大学院教授(心理学)は記者会見で「もっと調査が早ければ関係者の記憶も鮮明で、関連資料も残っていた」と指摘。勝さんの父義春さんも会見で「100%満足とは言えないが、調査委は限られた権限の中でよく調べてくれた。市長には子どもの目線を大切にするよう学校や市教委の意識改革をやってほしい」と話した。

(川上眞)

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平成30年9月7日朝日新聞西部本社版

始業式直後の中3自殺 母親「悩んでいる様子なかった」

鹿児島市内の公立中学3年の男子生徒が自宅で自殺した問題で、母親が6日、朝日新聞などの取材に応じ、「悩んでいる様子はなかった」と話した。「学校や先生方は事実を話してほしい」と語り、第三者委員会の設置を求める考えを示した。学校側は同日、報道各社の取材に、「調査中」と繰り返した。

市教育委員会によると、男子生徒は夏休みの宿題を一部提出しなかったため、3日の始業式の直後、担任の女性教諭から10分程度の個別指導を受けた。この際、体験入学した高校の寮生活への不安を漏らしたという。

一方、母親は「進路に悩んでいる様子はなかった」と反論。生徒は漁師になる夢を持ち、数カ月前からは塾に通って成績も上がった。夏休みに鹿児島県内の高校に体験入学した後も、「めっちゃ楽しかった」と喜んでいたという。

笑顔がかわいい子だったといい、母親は「料理が得意で、釣った魚をさばいてくれた。成績も上がり頑張っていたのに」と声を震わせた。

指導についても、「宿題を忘れた複数の生徒のうち、息子だけが最後まで残され、指導は約40分に及んだと他の生徒らから聞いた」と話した。

学校側は、校長が中学校で約1時間にわたって取材に応じた。進路に対する不安の有無などの点について、母親の認識と食い違いがみられることに対して問われると、「調査中」と繰り返した。個別指導の場に居合わせた教職員らから聞き取りを進めており、今後は生徒の同級生らからも聞き取りたい、とした。(小瀬康太郎、野崎智也)

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平成30年9月7日朝日新聞西部本社版

高校男子バレー部員、父「顧問指導で自殺」 校長は関連否定 岩手

岩手県の県立高校3年の男子生徒(当時17)が7月、自宅で自殺した。生徒は男性教諭(41)が顧問を務めるバレーボール部に所属。部活の悩みなどを記したメモを残しており、父親は「顧問の指導が自殺につながった」と主張している。

男子生徒は7月3日朝、自室で亡くなっているのを家族が見つけた。自室に残されたメモには「ミスをしたら一番怒られ、必要ないと、使えないと言われました」などと記されていた。

県教委が部員に聞き取ったところ、顧問がボールを男子生徒の顔面付近にあてたり「そんなんだから、いつまでも小学生だ」と発言したりしていたといい、遺族は顧問の指導が自殺につながったと主張している。

顧問も一部行為については認めているが、指導の行き過ぎを否定。高校の校長は「将来への不安が自殺につながったと思う」と述べ、自殺との関連を否定している。県教委は第三者委員会を設置し、調査する方針。

この顧問は前任の高校のバレーボール部で過剰な指導があったとして、元部員が顧問や県を提訴。盛岡地裁は一部で不法行為があったと認め、慰謝料などの支払いを命じた。訴訟は仙台高裁で係争中。(加茂謙吾)

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平成30年8月17日毎日新聞

鳥栖 中1いじめ、謝罪の市 提訴で態度一変「知らない」

鳥栖中1いじめ1

弁論準備手続きの後、佐賀地裁近くの公園であった支援者との集まりで弁護団の説明を聞く原告の男性(中央)=佐賀市で2018年7月18日、森園道子撮影

鳥栖中1いじめ2

弁護団や支援者との集まりで、心境を語る原告の男性=佐賀市で2018年7月18日、森園道子撮影

 

市は記者会見で「犯罪に等しい」いじめと認めたが…

佐賀県鳥栖市立中で6年前、当時1年の男性(19)が同級生十数人から約7カ月にわたって殴る、蹴る、エアガンで撃たれるなどの暴行を受け、多額の金を恐喝された。市教委は記者会見で「犯罪に等しい」といじめを認め謝罪したが、男性が学校の責任を問う訴訟を起こすと態度を一変させた。校長が「エアガンの威力は小さい」とする報告書を提出するなど責任回避の姿勢を強め、今も重度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ男性はさらに傷つけられている。【樋口岳大】

殴られる、蹴られる、首を絞められる、プロレスの技をかけられる、エアガンで撃たれる、殺虫剤を顔に吹き付けられる--。男性によると、激しいいじめは2012年春の入学直後から始まった。カッターナイフや包丁を突き付けられたり、のこぎりで切られそうになったりしたこともあった。

毎日のように金も恐喝された。お年玉や入学祝いなど自分の貯金が底を突くと、当時脳梗塞で入院していた母(48)が医療費のため自宅に置いていた金なども持ち出すしかなく、男性は被害は約100万円に上ると主張する。

暴行を受け続けるうち「いじめが学校にばれたら、加害者から自分も家族も殺される」という強い恐怖を覚えるようになった男性は被害を周囲に言えず、プール授業を休むなどして学校にも家族にも体の傷を隠した。同年10月にいじめが発覚後、体のあちこちにできた赤黒い内出血痕や傷を見た母は絶句した。

いじめ発覚後、男性は重度のPTSDと診断され、登校できなくなった。県警は捜査に乗り出し、同級生数人を児童相談所に通告した。

鳥栖中1いじめ3

同級生から繰り返し受けた暴行であざができた男性の左ひざ。いじめが発覚した2日後の2012年10月25日に撮影された。男性は体のあちこちにこうした傷ができていた=家族提供

「重大ないじめと言っているが、犯罪に等しいだろうと思っている」。鳥栖市の天野昌明教育長は13年3月に開いた記者会見で陳謝した。

市教委は会見で、男性が同級生十数人からたたかれたり蹴られたり、エアガンや改造銃で撃たれたりしたうえ、数十万円を恐喝されたと説明。学校の保護者や市議会にも同様の説明をし、同5月号の市報には「今回、市内中学生による深刻ないじめ事案が発生し、市民の皆様に大きな衝撃を与え、ご心配をおかけしたことをおわび申し上げます」と記載した。

男性と家族は「これから前を向いて生きるためには、残忍な暴力と、学校が対応を誤った事実を明らかにする必要がある」として、15年2月、同級生8人とその保護者、市に計約1億2700万円の損害賠償を求め、佐賀地裁に提訴した。すると、市は態度を一変させた。ほとんどの暴行を否定する同級生の言い分に沿う形で、「犯罪に等しい」行為とまで断じたいじめを「知らない」と主張するようになった。

市が裁判に証拠として提出した当時の校長作成による16年3月の「報告書」が、市側の保身姿勢を際立たせている。

報告書には、校長室で校長自ら市の代理人弁護士にエアガンを向けて撃つ「実験」写真を載せ、校長は「弁護士によればビリッと感じたが、痛いというほどではないということだった」と書いた。さらに「メーカーなどでは、いわば『おもちゃ』なのだから、危険性がないように工夫されている」と記載。市はこの報告書を基に訴訟で「威力は小さい」と主張している。

エアガンについて、メーカー側は「弾が目に入ると最悪失明する恐れがある」と警鐘を鳴らし、「人に銃口を向けてはいけない」としている。男性側代理人の渡部吉泰弁護士は「男性はエアガンで繰り返し撃たれて負傷し、脅迫されていた。それを校長が『撃っても威力が弱い』などと主張するのは、訴訟の中でとはいえ、異様だ」と指摘する。

鳥栖中1いじめ4

男性へのいじめ問題を受け、「加害生徒を別室登校させる」などと発表する佐賀県鳥栖市の天野昌明教育長(中央)ら=2013年4月5日、上田泰嗣撮影

市はかつていじめを認めた理由について、訴訟の中で「当時は多額の現金が脅し取られたことや、激しい暴行があったことを加害生徒に認めさせようとする(男性の)母親らの要請が厳しく、学校や市教委はそれに従う形で対応せざるを得なかった」と説明している。その後、訴訟で認めなくなった理由について、市教委は取材に「事実関係は被告生徒らの認否や陳述書などで明らかになった点も多い」などと回答した。

男性は「改造して威力を増したエアガンや電動エアガンでも撃たれた。皮がむけた傷が多数でき、傷痕がクレーターのようになった。撃たれた後は、体の芯の部分からの痛みが続いた。

風呂に入る時は激痛を感じた」と証言し、「市がいじめを『なかったこと』にし、責任逃れをしようとしている。ボロボロになった自分を更に追い詰めるのか」と憤る。

男性は20日から始まる尋問で初めて証言台に立ち、被害体験や心境を語る。「当時を思い出すと身も心も壊れそうになる。でも、大きな壁を乗り越えられるよう、頑張りたい」と打ち明けた。

いじめで重度のPTSDと診断 6年後の今も苦しみの日々

7月下旬の夜、男性(19)は佐賀県鳥栖市の自宅の部屋の隅にうずくまり、ガタガタと震えていた。「ごめんなさい。(金を)持って来ますから」「ごめんなさい」。両手で抱えた膝に顔をうずめ、うわ言のように繰り返す。家族の呼びかけは耳に入らず、汗も止まらない。市立中1年のころに激しいいじめを受け心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された男性は、6年たった今も、頻繁によみがえる当時の記憶に苦しめられている。

「毎日毎日、拷問を受けるうちに人格が壊され、暴力を受けても痛みを感じなくなった。生きている感覚が薄れていき、やがて『死んでもいい』と考えるようになった」と男性は語る。

2012年10月にいじめが発覚し、PTSDと診断されて中学に登校できなくなった。その後も暴力を受け続けている感覚が体から抜けず、繰り返しいじめの記憶がフラッシュバックした。

苦しみのあまり何度も命を絶とうとし、家族はひとときも目を離せなくなった。

鳥栖中1いじめ5

被害者の男性が両親に書いた手紙=2018年8月13日、森園道子撮影

15年4月、暴力を振るった同級生たちとは別の高校に進学したが、フラッシュバックはなくならなかった。入学直後に5階の教室から飛び降りようとしたため、教師がすべての窓を開けられないように固定した。高校の校長は「卒業後の進路の話をしても、『その頃、僕はおるかわからんけんねえ』と話していた。いつも目が離せなかった」と振り返る。

「正直、死にたくなんかないけど、家にいる時も、外にいる時も、昔のことを思い出してどうしようもありません。毎日が死にたい、死にたいとそればかり考えてしまいます(中略)大人になって父さん、母さん、妹を支えていくつもりですが、その代わりに僕が死なないように守ってくれませんか?」

2年前の夏、県警などがいじめ被害者らを支援する集まりに通っていた時に両親に宛てた手紙には、そう記した。

外を通る自転車の音、街で見かけた制服姿の中学生、偶然通りかかったいじめの現場となったグラウンド……。こうしたものがきっかけになり、今も頻繁にフラッシュバックは起きる。

いじめられていた時の記憶が映像となって頭の中を流れ出すと止まらなくなる。

この6年、精神科で男性の診療を続ける医師は「同級生から逃げ場がなく強い支配を受けたことによる重度のPTSDで、家族らの支えで何とか生きている状態だ」と言う。さらに、男性が鳥栖市などに損害賠償を求めた訴訟で、いじめを「知らない」と主張している市の姿勢について、「『大人に裏切られた』という男性の不信を上塗りし、回復を遅らせている」と批判した。

男性の支援を続ける「全国学校事故・事件を語る会」代表世話人の内海千春さん(59)=兵庫県たつの市=も「いじめの事実を認めない市の姿勢は、苦しみながら何とか生きようとあえいでいる男性への加害行為だ。被害者救済の視点が完全に抜け落ちている。行政は自らの調査で把握した事実は事実として認めるべきだ」と語った。

東京成徳大の石村郁夫准教授(臨床心理学)らは16年、大学生268人を対象にしたいじめに関する調査結果を発表した。それによると、95人が主に小中学校時代にいじめの被害を受け、このうち39%(37人)がPTSDの基準を満たしていた。

石村准教授は「いじめが一過性のものではなく、被害者を長期間苦しめることが改めて確認された。被害者には長期的なケアが必要だ」と指摘。そのうえで「いじめられた記憶自体はなくならないが、そのつらさを周囲に理解されることが生きていく糧になる。逆に学校や教育委員会がいじめを隠蔽して非を認めなければ、症状を悪化させる」と警告する。

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