2022年10月28日朝日新聞デジタル
「指導気をつければ守れる命がある」 中2自殺事件の母親が手記出版
手記を手に会見する安達和美さん=2022年10月27日午後、長崎市尾上町、寺島笑花撮影
2004年3月、長崎市立中学校で指導を受けている最中に自殺した安達雄大さん(当時14)の母・和美さん(61)が今月、事件後の18年間をつづった手記「学校で命を落とすということ」(あっぷる出版社、税込み1650円)を出版した。指導が子どもの命を奪うことがあるということ、その後遺族に起きる現実。「再発防止を考えるきっかけに」と願う。
「32歳になった雄大はどうしていただろうか」。本は、雄大さんの18回目の命日から始まる。この日、小さな子どもを抱いた雄大さんの同級生が何人もお墓参りに来てくれた。「でも、想像がつかない。私の中の雄大は、あの日のまま、笑っている」
担任の指導、目張りした教室で
雄大さんは中学2年の3月、掃除中にライターで遊んでいるところを担任に見つかり、たばこの所持が発覚。放課後に指導を受けている最中、「トイレに行く」と告げて校舎の4階から飛び降り、自殺した。その後の調査などで、雄大さんへの指導がトイレの掃除用具入れの中やアルミホイルで目張りした多目的教室で行われていたことや、担任が関係する生徒の名前を挙げさせていたことが明らかになった。
学校側は当時の会見で「不適切な指導はなかった」と説明。和美さんらが求めた第三者調査委員会の設置を拒否し、市教委に「自殺」ではなく「事故」として報告していた。事実の解明を求めて06年、長崎市を相手に提訴。地裁判決では「自殺の予見は困難」として市側に過失があるとはいえないとしたが、指導と自殺の因果関係は認めた。
事件の後、多くの遺族と出会ったという和美さん。「もっと早く指導が見直されていれば、息子が死ぬことはなかったのでは」。事実を知ってもらうことが再発防止につながると考え、自助グループを立ち上げるなど、活動を続けている。
手記は「遺言のつもり」で書いた。支援を呼びかけたクラウドファンディングでは200万円が集まり、全国から応援のコメントが届いた。本には生前の雄大さんの様子や、雄大さんが亡くなった日のこと、他の遺族との出会いや、その後の家族の生活が記されている。「わずか2時間で自殺まで至ってしまう、信じられない現実が実際に起こっている」と和美さん。「普段の指導に気をつけるだけで守れる命がある。いつか全国の学校に置いて、教育委員会や先生方に読んで頂きたい」 18年間、「顔では笑いながらも、生きているだけで精いっぱいだった」という和美さん。
それでも、子どもの自殺や不登校、つらい事件を目にするたび、「現場は変わっていない。せめておかしいと言い続けよう。1人じゃないと発信し続けよう」と活動を続けてきた。
本は、こう締めくくられている。「雄大が生きた証しがよりよい世界へと少しでも繫(つな)がることを願っています」(寺島笑花)