平成30年7月5日 朝日新聞岩手版
父親「胸中で忘れないで」 矢巾中2自殺から3年
岩手県矢巾町で中学2年の村松亮さん(当時13)がいじめを苦に自ら命を絶ってから5日で3年。我が子を失った父親は、家族と一緒に少しずつ前を向こうとしている。対策の不備を指摘された学校現場では、悲劇を繰り返さないよう、対策を進めている。
村松さんが亡くなったJR矢幅駅。矢巾町は毎年命日になると献花台を設けてきたが、今年は遺族の意向で設置を見送ることにした。「本当に思ってくれる人が、胸の中で忘れないでくれればいい」。村松さんの父親はそう話す。
2015年7月5日夜、村松さんはこの駅で電車に飛び込み死亡した。村松さんが担任とやりとりしていた生活記録ノートには、悪口や暴力などのいじめを訴える記述が複数あった。
「もう生きるのにつかれてきたような気がします。氏(死)んでいいですか?」。自殺をほのめかす記述も残していた。
学校は村松さんが1年生の時から継続的にいじめを受けていたと認定。父親は同級生4人を県警に告訴した。
盛岡地検は当時14歳の少年について暴行の非行内容で送検したが、盛岡家裁は16年12月、「証拠が足りず非行事実は認定できない」として不処分とする決定を出した。それから約1年半。父親は「報道されたことで、地域の人は誰がやったのかわかっている。社会が罰してくれた」と話す。
損害賠償請求権は3年で時効を迎える。父親は家族とも相談し、民事提訴はしないことにした。「(提訴して)子どもの足を引っ張りたくない。被害者が加害者より不幸になるのはおかしいと思う」。提訴すれば長期戦になる可能性が高く、それだけ負担も増す。「家族はいま、笑って生活しようとしている」。父親はかみ締めるように話した。(御船紗子)
学校、予防へ集会・相談員
村松さんが通っていた矢巾町の中学校。2日、「生命・安全・安心を考える集会」があった。いじめ自殺問題をきっかけに毎年7月、外部講師を招いている。今年は東日本大震災を経験した中学校長が全力で生きる大切さを訴えた。3年生の女子生徒は「いじめを止める勇気を持ちたい」と話した。
いじめ問題を調査していた第三者委員会は16年12月、報告書で「学校内の情報共有が不十分」と指摘。これに先だち町教委は「いじめ問題相談員」を新設した。相談員は各校のいじめ対策会議に出席して問題を共有。各校の相談にも電話で応じ、気になる生徒がいれば学校を訪問している。
町教委によると、17年度のいじめ認知件数は506件で15年度から5倍以上に増えた。これまで問題視されていなかったいじめが顕在化したことが主な原因で、現場の教員からの連絡も多くなったという。和田修教育長は「子どもたちの命を守るため、大人たちが常に連携していくことが大切」との談話を出した。
いじめ問題を巡っては、13年にいじめ防止対策推進法が成立。いじめの定義を「児童・生徒が心身の苦痛を感じているもの」と明確にした。これにより県教委の認知件数も増えている。県教委は今年度から、いじめへの理解を深めるために研修講座を実施。いじめを予防する学級集団づくりを模索している。(井上啓太、大西英正)