令和5年2月18日付東京新聞
八王子中2自死「学校管理下のいじめ確認できない」死亡見舞金を支給せず 日本スポーツ振興センター
東京都八王子市で2018年8月、市立中学2年永石陽菜(ひな)さん=当時(13)=が自殺した問題で、災害共済給付制度を運営する日本スポーツ振興センター(本部・東京都)が「学校の管理下で行われたいじめが確認できない」などとして、死亡見舞金の不支給を決めていたことが、関係者への取材で分かった。
2023年2月11日付琉球新報デジタル
わが子を失った遺族の訴えを県は厳粛に受け止めるべきだ。その上で、なぜ高校生が自死に追い込まれたのかを明らかにし、「指導死」防止策を早急にまとめてほしい。
2021年1月、運動系の部活に所属していた県立コザ高校2年の男子生徒が自ら命を絶った問題で、生徒の自死は教諭だった元顧問のパワーハラスメントが原因などとして、遺族が県に損害賠償を求め、那覇地裁に提訴した。
提訴の理由について遺族はコメントで「沖縄県に対して、『指導死』による息子の死を認めてもらいたいという気持ちからです。一人の指導者からの暴言や侮辱も明らかな体罰だということ、そして、指導という名の執拗(しつよう)なパワハラがあったときちんと認めてもらいたいと考えています」としている。さらに高校や管理職、県教育委員会に対しても責任を認めるよう求めた。
県や県教委、高校関係者は遺族の切実な声に真摯(しんし)に向き合い、事実関係を法廷で明らかにすべきだ。それを踏まえ責任の所在について明確な審判が示されるべきである。
訴状によると、元顧問は生徒を叱る際に「気持ち悪い」「キャプテンを辞めろ」などと発言。部活動外の時間に雑用を強要したり、携帯電話で緊急ではない連絡や指示をしたりした。暴言を伴う激しい叱責(しっせき)によって「自死を選択せざるを得ない心理状態に追い込まれた」と主張している。
これほどの暴言を浴びせられ、生徒は相当なダメージを負ったはずだ。訴状はさらに「元顧問が指導中に暴言等に及ぶことがあると把握していたが、何らの対処もせず、放置していた」として、学校長らの責任を厳しく指摘している。問題は生徒と元顧問の関係だけにとどまらない。周囲の教諭らはなぜ元顧問の行為を止めきれなかったのか検証すべきだ。
提訴を受け、玉城デニー知事は「(自死事案は)本来あってはならない事件であり非常に遺憾に思っている。訴状が届き次第、適切に対応していきたい」と述べた。それを言葉だけに終わらせてはならない。県は総務私学課内に第三者委員会を設置し、再調査を進めている。遺族が納得できる結果を出してほしい。
命を絶った生徒は極端な勝利至上主義の犠牲者だったとも言える。部活の在り方を考え直さなければならない。
コザ高校の出来事を受け、生徒自身が部活動のあるべき姿を協議する高校生検討委員会(県教育庁主管)が今月、「県高校部活生メッセージ2023」を発表した。指導者に対しては「私たちは人形ではない、理不尽な指導をやめてほしい」、学校に対しては「指導者を集めて、指導方法を改めて調査してほしい」と求めている。まっとうな要望であり、県教委の施策に反映されることが望ましい。
生徒の死を無にしてはならない。県は「指導死」の防止に全力を挙げるべきだ。
2023年2月10日 付北海道新聞
2023年2月8日付朝日新聞デジタル
熊本県立東稜高校に通っていた男性(23)のいじめ被害を調査した第三者委員会が、調査報告書で同校や県教育委員会の対応を問題視したことを受け、県教委は7日、対応策を公表した。従来通りの対応が多く、報告書で求められた新たな対応は一部にとどまった。
昨年10月に公表された報告書は、いじめを認定したうえで、男性が被害を訴えたのに認めなかった学校の対応を問題視。学校と県教委に対し、いじめへの理解徹底などを求めていた。
この日、県教委は定例委員会で対応策を示した。いじめの理解徹底については、県立学校長と管理職に報告書と、元生徒の男性が提出した意見書を共有し、被害者を中心に考えるいじめ防止対策推進法の考えを説明するなど新たな取り組みを実施したと説明した。
一方で、報告書で求められた調査記録の保管や事案に応じた調査主体の決定については、以前からの対応を継続。学校が誤った対応をした場合に是正できるよう、県教委が重大事態の認定を学校とは異なる立場で検討すべきだと報告書が指摘した点は「生徒や保護者から重大事態としての調査の申し出があった場合は必ず県教委に報告する旨の周知を図る」にとどめた。
男性の母親は取材に「報告書が出ても県教委から謝罪はなく、知事宛てに要望書を出しても回答はない。今回の対応策についても一切説明はなかった」と県のこれまでの対応に不満を述べた。対応策の内容は分からないとしたうえで「当事者に問題点や改善点を聞かず、県教委が独自に考えた対応策では不十分だと思う。今後、対応策の内容を見て抗議や要望などを考えたい」と話した。(長妻昭明)
2023年2月5日 付北海道新聞
学校がいじめの認定に至らなかった理由について、加害者側から聞き取りはできていたが、広瀬さんが入院していた病院側から川で自殺を図った経緯を本人に聴取しないよう求められたという。広瀬さんが19年8月に転校したため「本人に確認できなかった」と弁解した。
2023年1月25日付朝日新聞デジタル
大阪市立桜宮高男子バスケットボール部の主将が、顧問からの暴力などを理由に自死したことが明らかになり、この1月で10年が経つ。以来、スポーツにおける反暴力の啓発については、競技団体だけでなく、大学でも様々な取り組みを行ってきている。3回にわたってリポートする。
昨年12月16日、「学校・部活動における重大事故・事件から学ぶ研修会」が日本体育大学で開かれた。
「将来、子どもを指導するかもしれない学生のみなさんに、一人の高校生に起こったことを聞いていただきたいと思います」
日体大の学生たちに、そう語り始めたのは、山田優美子さん。教員の不適切な指導などで子どもを亡くした親たちでつくる「学校事故・事件を語る会」のメンバーだ。
優美子さんの息子・恭平さんは2011年6月、自ら命を絶った。愛知県の県立高校の野球部員だった。
山田さんは、部員たちが監督から暴力的な指導を受けても、受け入れるしかなかった現実を、涙を交えて語った。
「今日もみんなが殴られた。1人は倒れたところに蹴りが入った」と、恭平さんが泣きそうな顔で山田さんに語っていたこと。
恭平さんも練習中、監督からパワハラの標的になっていた状況を、死後にチームメートから聞いたこと。
恭平さんが亡くなった時のことは、「頭が痛いと欠席した翌日、学校に送り出しました。でも、恭平はそのまま別の場所で亡くなりました。私は第一発見者でした」と語った。
そして自責の念。「自分は何もしなかった。野球を取り上げてはいけないと、本人の退部の申し出が却下されても、『退部を認めてください』と、監督に親の立場で言わなかった。甘く見ていました」
最後にこう語りかけた。
「みなさんの一挙手一投足が、子どもに与える影響の大きさを知っておいてください。先生の言葉、目線一つで、生徒が死ぬしかないようなことになる存在でもあるのです」
「私の話を聞いて、教師になるのが怖くなった方がいるかもしれません。その怖さを知った方にこそ、教師になってほしいです。皆さんのまっすぐな目を、とても頼もしく思います」
■指導現場に出る前に情報を
この研修会は、スポーツにおける体罰問題に詳しい南部さおり教授(スポーツ危機管理学)が、16年から始めた。今回はコロナ禍で3年ぶりだった。
日体大には、保健体育教員やスポーツ関連の職を目指す学生が多い。それは、運動部活動をはじめ、子どものスポーツ指導に携わる可能性が高い、ということでもある。
そこで、運動部活動での重大な事件・事故の被害者遺族に、起こったことのリアルを伝えてもらう。
「部活動で何が起きているか、スポーツ活動の中でどうすれば子どもの命を守れるか、本気で考えたい」。
学生たちにそんな場を、という南部教授の意図だ。
今回は、柔道事故の撲滅を目指す「全国柔道事故被害者の会」の代表、倉田久子さんも講演をした。
11年に当時高校1年の息子を、柔道部での練習中に頭を打った事故で亡くしている。取材に「スポーツに死と隣り合わせの面があるということを、指導現場に出る前に、情報として得ておくことに意義があると感じます」と話した。
スポーツ文化学部3年で、アーチェリー部マネジャーの秋元香穂さんは研修会に参加し、「普段は講義を受ける形で学ぶが、経験された方の言葉は重い。教育関係の仕事を目指している中、より真摯に学びを深めていきたいと思いました」と話した。(編集委員・中小路徹)
令和5年1月24日付朝日新聞デジタル
2017年、長崎市の私立海星高2年の男子生徒(当時16)が自殺したのは、学校側がいじめ対策を怠ったためだとして、両親が学校側に約3200万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が24日、長崎地裁であった。この日、母親(50)が法廷に立ち、息子の死からまもなく6年を迎える心境を語った。
母親の意見陳述によると、遺族が学校に不信感を持ったのは、息子の死から1週間後のことだった。
「マスコミが騒いでいるので、突然死したということにした方がいいかもしれませんね」
当時の教頭(現校長)が隠蔽(いんぺい)を示唆するような言葉を電話越しに投げかけた。
さらに翌日、こう告げたという。
遺族はその後、かつて海星高にいた生徒や保護者らと面会し、過去にもいじめで苦しい思いをした人がいることに気づいたという。「この学校にはいじめという認識がないために、つらい思いをしながら耐えている生徒がたくさんいるのです」
18年11月にまとまった第三者委の報告書は、学校側のいじめに対する認識不足を強く批判した。
生徒や教職員へのヒアリングを元に「いじめに対する認識不足は、生徒のみならず学園全体にも指摘できる」とした。学校には、いじめ対策委員会が設置されていたが、会議は一度も開催されず、いじめ防止の年間計画も作られていなかった。報告書は、教頭の「突然死」「転校」の発言も、「遺族への配慮に欠け、不適切」と指摘した。
「学校全体としていじめを許さない校風をつくっていれば、私の息子が亡くなることはなかったのではないか。無念でなりません」
遺族は、学校側の対応に不信感を募らせていく。「私たちはこの学校からこれでもかというくらい傷つけられてきました」
学校側は19年1月、「同級生によるいじめ」を自殺の主な要因に挙げた報告書の受け入れを拒否すると遺族に伝えた。「事実関係の裏付けが示されていない」というのが理由だった。
さらに学校側は、学校管理下で発生した事件に起因する死亡に対し支給される死亡見舞金の申請についても協力を拒み、「損害賠償請求権を放棄するなら申請に協力する」と遺族に持ちかけてきたという。
「こんな脅迫が平気でできることに、私たちは悔しくて悔しくてたまりませんでした」
生徒アンケートの「秘匿」も明らかになった。
訴状によると、学校側は生徒の死の19日後、同級生らに記名式のアンケートを実施。数十人がいじめがあったことをうかがわせる内容を記していた。だが学校側はその結果を遺族に伝えていなかった。
遺族がその存在を知ったのは昨年3月、裁判所に証拠保全を申し立て、裁判官立ち会いのもと、弁護士らが学校に資料開示を求めたからだ。
訴えは、私立学校を所管する長崎県にも向けられた。学校側は当初、「原因はいじめ」と遺族には認める発言もしたが、県学事振興課には「いじめが原因ではない」と報告していた。学校側がいじめ防止対策推進法にのっとった対策をしていないことも県は知らなかった。
「行政による学校の指導の不備が、いかに生徒の学校生活を脅かすことになるのか。長崎県にも自覚を持ってもらいたい」
法廷で話し始めて20分。母親は涙ぐみながら、こう最後に訴えた。「息子はディズニーが大好きで、ディズニーで働く夢を持っていました。息子が私たちの元に戻ってくることはありませんが、この裁判が、子どもたちを守るために必ず役に立つと信じています」
一方、学校側はこの日、請求の棄却を求めた。学校側は答弁書で「中3以来のいじめがいつ誰がと具体的に特定されていない」と反論。報告書が「自死直前のいじめの存在は見つからなかった」などとしながら、いじめを主な要因に認定している点についても「理解できない」と主張している。
(石倉徹也)