平成30年12月25日付朝日新聞

部活指導、問われる「言葉の暴力」 高3自殺、顧問「殴る蹴るはしてない」

バレーボール

新谷翼さん=遺族提供

スポーツの現場で、体罰や暴力の根絶に向けた取り組みが続く中、「言葉の指導」のあり方も問われている。岩手県で7月、バレーボール部員だった県立高校3年の男子生徒(当時17)が自ら命を絶った。遺族側は顧問の暴言が男子生徒を追い込んだと主張。県教育委員会は第三者委員会の人選を進めており、早期に初会合を開いて自殺との因果関係を調べる方針を示している。

男子生徒は、新谷翼さん。父の聡さん(51)は「翼が生きていたこと、翼に何が起こったかを知ってもらいたかった」と名前を公表した理由を説明した。

中学、高校で全国選抜チームの合宿に参加した経験があり、約197センチの長身をいかして活躍していた。しかし7月3日朝、自室で亡くなっている翼さんを家族が見つけた。

葬儀後、机の引き出しから自筆の遺書が出てきて、「恩を仇(あだ)で返してしまいごめんなさい」などと家族への謝罪のほか、バレーボールが「一番の苦痛」で、「ミスをしたら一番怒られ、必要ないと、使えないと言われた」と記されていた。

単身赴任中だった聡さんが、翼さんと最後に顔を合わせたのは7月1日夜。社会人チームとの試合後、一家で食卓を囲んだ。翼さんは仲間と1セット奪えたことをうれしそうに話していた。「宝物のような存在で、いまだに実感がわかない。長期合宿にでも行っているんだろうなと……」

遺族側は、県教委が部活の生徒や顧問だった男性教諭(41)らから聞き取った調査結果から、「言葉の暴力」があり、自殺につながったと訴えている。

調査によると、翼さんは男性教諭から、「バカ」「アホ」、「背は一番でかいのに、プレーは一番下手だな」などと言われたといい、男性教諭はおおむね発言を認めている。

ただ、殴ったり蹴ったりはしていないとして指導の行き過ぎを否定し、「3年生になり、高いレベルにいってほしいという思いはあった」「翼さんだけをターゲットにして怒ったこともない」と答えている。

自殺から5カ月以上になるが、第三者委はまだ開かれていない。

聡さんは「男性教諭が暴言を吐いていたことは明らか。それ自体許されないことなのに、『指導の一環』という言葉でひっくるめて容認しているのではないか」と述べ、学校と県教委の対応に不信感を示す。

(加茂謙吾)

■「暴言は人権侵害」 専門家指摘

言葉の暴力でスポーツの指導者が処分されるケースも出ている。神戸市では8月、市立中の女子バスケットボール部の顧問教諭が、部員たちに「単細胞」「ゴキブリ」といった不適切な発言を繰り返したとして、戒告処分を受けた。

大阪市立桜宮高校バスケットボール部主将が顧問から体罰を受け、自殺した事件などが問題になった2013年、日本オリンピック委員会(JOC)や日本体育協会(現・日本スポーツ協会)は「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を採択。「言葉や態度による人格の否定、脅迫、威圧、いじめや嫌がらせ」などを「暴力行為」とした。

文部科学省も「身体や容姿にかかわること、人格否定的な発言」を許されない指導とするガイドラインを作成している。

スポーツ指導において、殴らなければ許されるという安易な考えはなくなっていない。早稲田大学の友添秀則教授(スポーツ倫理学)は「暴言は、指導者にすべての権限を握られている生徒への人権侵害だという本質が理解されていない。誤ったスポーツ指導だと学校の管理職が心がける必要がある」と指摘する。

(編集委員・中小路徹)

■岩手県教育委員会が部員や顧問らに行った聞き取り調査の内容

<男子生徒に顧問が行ったとされる言動>

顧問の説明

<バカ><アホ>

(言葉の)前後に付け足す形で言う癖がある

<脳みそ入っていないのか>

(指導が)「脳みそに入っていないのか」と言ったと思う

<そんなんだから、いつまでも小学生だ>

同じ指摘を繰り返すようなときに発言したかもしれない

<(体が)大きいからできないんだ><背は一番でかいのに、プレーは一番下手だな>

発言はしているかもしれない

<どこにとんでるんだ、バカ><だからお前はいつもこうなんだよ>

言うと思う

<助言を求めても無視する>

同じことを言いたくないので何もしゃべらないでジェスチャーや目線などで「いいよ」と言うことはある

 (社説)学校と指導死 奄美の悲劇から学ぶ

生徒がものを言えない雰囲気が、自分の学校にも満ちていないか。先生一人ひとりが胸に手を当ててもらいたい。

鹿児島県奄美市で3年前、中学1年の男子が自殺した。いじめに加わったと担任に疑われ、家庭訪問を受けた直後だった。ところがよく調べると、いじめといえる言動はなく、誤解に基づくものだった。市の第三者委員会がそう結論づけた。

教師の一方的な指導に追いつめられての死を、遺族らは「指導死」と呼ぶ。公の統計はないが、教育評論家武田さち子さんの調べでは、この30年間に全国の小中高校で、未遂を含め少なくとも76件おきているという。

国の指針は、背景に学校生活がからむ自殺については、詳しく調査のうえ、検証結果を地域で共有するのが望ましいとしている。とりわけ教員の行いに原因がある指導死は、学校側の対応次第で根絶できるものだ。徹底した取り組みを求める。

改めて思うのは「性悪説」に基づく指導の危うさだ。

報告書によると、担任は生徒らの言い分をよく聞かないまま反省と謝罪を強いた。学校全体も「毅然(きぜん)たる対応」を生徒指導の方針に掲げ、細かな校則違反も厳しく点検。

この担任によるものだけでなく、体罰や暴言が以前から目撃されていた。

そんな雰囲気では、身に覚えのないことで叱られても、中学生が抗弁できなくて当然だ。亡くなった生徒も「何でおれが」と漏らしていたようだ。

生徒の「指導」から「支援」へ――。発想の転換を促す報告書の指摘は、重い。

チームワークの欠如も指摘された。担任は自分だけで対処しようとし、校長や一部の同僚はその様子を目にしながら、任せきりにしたとされる。組織で対応する意識を持ち、時間をかけて生徒の言い分を聞いていれば、と思わずにいられない。

一方で、教員の働きすぎが大きな社会問題になり、負担の軽減が求められている。「一体どうしろというのか」との声が、現場から聞こえてきそうだ。

だからこそ、周囲の力も借りた対応が大切になる。

まず思い浮かぶのは養護教諭だ。教室では言えない本音も、保健室では話しやすいと言われる。スクールカウンセラーや事務職員の存在も大きい。教育委員会などが設ける、地域の相談窓口との連携も深めたい。

少し引いた立場から複数の目が注がれる。そんな環境をつくることで、教員ひとりにかかる負担の軽減と、逸脱行為の歯止めが両立できるといい。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月22日付朝日新聞宮城版

仙台中2自殺、いじめと強い因果関係 第三者機関が結論

仙台市立中学校に通う2年の男子生徒が2016年に自殺した問題で、遺族の再調査要請を受け、市の第三者機関「いじめ問題再調査委員会」(委員長=村松敦子弁護士)は21日、報告書を郡和子市長に提出した。部活動やクラス内での複数のいじめを認定し、自殺との「強い因果関係があった」と結論づけた。
生徒は2016年2月、自宅で亡くなった。市教委の第三者機関「いじめ問題専門委員会」(委員長=本図愛実・宮城教育大教授)は昨年3月、いじめの詳しい事実は特定せず、いじめによる精神的苦痛が自殺の一因とする調査結果をまとめた。これに対し、遺族が「公平・中立性のない答申には納得できない」と批判。当時の市長がいじめ防止対策推進法
に基づく再調査の実施を決めた。
再調査委は、教師や同級生、同じ部活動の生徒らからの聞き取りやアンケートの結果をもとに、部活動の後輩らから「キモイ」などと言われた▽クラスで無視された▽差別的言動、などの事実を把握し、同法が「心身の苦痛を感じているもの」と定義するいじめと認定した。
こうした事態が中学1年から続いた結果、亡くなる前月にはSNSで友人にいじめの悩みを訴え、自殺をほのめかしていた。報告書は「いじめの問題は自死と強い因果関係があった」と結論づけた。
また、生徒は2回のアンケートでいじめの被害をうかがわせる記述をしていたが、教師は事実を丁寧に聞き取らなかった。報告書は、学校の怠慢が事態を悪化させた大きな要因、と判断した。
今回の報告書は、当初の答申が「生徒には発達上の課題があり、からかいの対象になりやすかった」と指摘した点に対し、「いじめの原因を、いじめられた本人の特性や属性に帰属されるかのように読み取ることが可能な説明は、厳に慎むべきである」と厳しく批判した。
仙台市では14年以降、市立中学校の男子生徒が計3人、いじめを受けた後に自殺している。(高橋昌宏)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月21日付朝日新聞熊本版

熊本・高3自殺、中間報告 同級生からの暴言認定

熊本県北部の県立高校3年の女子生徒(当時17)が5月、いじめをうかがわせる遺書を残して自殺した問題で、県教委の第三者機関が20日、中間報告をまとめた。

授業中に複数の生徒が「死ねばいい」などと発言していたと認定した。ただ、いじめかどうかについては触れなかった。

県いじめ防止対策審議会(会長=岩永靖・九州ルーテル学院大准教授)が県教育長に答申し、女子生徒の遺族に報告した。

県教委によると、女子生徒は5月17日、午前中の授業後に体調不良を訴え早退。数時間後、自宅で意識を失っているところを祖母が見つけ、病院に運ばれたが18日に亡くなった。

遺族によると、居間に遺書が残され、同級生から「よう学校に来られるね」「死ねばいいのに」などの言葉を浴びせられ、「誤解なのに」「とても苦しかった」「もう死にたい」と書かれていた。女子生徒が自殺した後の学校による調査では、同級生からの暴言があり、インスタグラムでのやりとりが暴言の背景になったとの指摘があったという。

審議会は6月に第1回の会合を開き、同級生や友人、教職員への聞き取り調査をしてきた。

遺族は審議会の委員について、遺族が推薦するメンバーを含めるよう求めていたが、県教委は応じなかった。これまでに委員3人が「審議される事案の関係者と関わりがある」「体調不良」などの理由で交代していた。(池上桃子)

 

「娘に寄り添い審議を」高3自殺、母親が思い語る

 

「娘がどんな思いで、どんなことに傷ついて、追い詰められていったのか知りたいです」。熊本県北部の県立高校3年の女子生徒(当時17)が5月に自殺した問題で、20日、県いじめ防止対策審議会は中間報告をまとめた。女子生徒の母親(45)は県庁で記者会見を開き、涙ながらに苦しい思いを語った。

中間報告では、女子生徒が自殺した日の授業中に「死ねばいい」「うそしかつかん」「何回言ってもわからん」などの発言があったことや、インスタグラムの動画に男子生徒と一緒に映り込んでいたことが複数の生徒の間で話題になっていたことなどを事実と認定している。

母親は「これまで私たちが把握していたことがほぼ事実としてわかった。当日のことが娘にとっては限界だったのかと思う。どういう気持ちで娘にそういう言葉を放ったのか、言った子の気持ちも知りたい」と話した。

「死ねばいい」の発言に関して中間報告では「普段から掛け合いの言葉でも使っていた」と注釈をつけている。母親は「軽く使われている言葉というニュアンスになっているのが気になる。娘にとっては重い言葉だった」と述べた。

母親は女子生徒が早退した後に帰宅し、泣きはらしたようなまぶたでスマホをいじっている姿を見たという。「学校で何かあったんじゃないかということはわかっていた。あの時仕事に戻らなければ止められたんじゃないか。後悔しています」と声を詰まらせた。

審議会は教育や医療、福祉などの専門家6人で構成される。全校生徒へのアンケートや、生徒や教員への聞き取り調査を続けてきたが、1回目の会合があった6月からこれまでに3人の委員が交代した。母親は「引き継ぎに問題がないと説明を受けているが、不安がないと言えばうそになる。これ以上の交代はないようにしてほしい」と述べた。

母親はこの日、娘が大切にしていたぬいぐるみを抱えて県庁を訪れた。「娘は遺書でしか言葉を残せていない。娘に寄り添った審議を続けてほしい」(池上桃子、田中久稔)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月19日付毎日新聞

体育授業中に中3死亡、両親提訴へ 両親「納得いく説明ない」 大分

大分市の私立岩田中で2016年5月、中学3年の男子生徒が体育の授業中に死亡した問題で、生徒の両親が20日にも同校運営の学校法人「岩田学園」と授業を担当した教諭に対し、計約4900万円の損害賠償などを求めて大分地裁に提訴することが分かった。

死亡したのは柚野凜太郎さん(14)。16年5月13日、体育館で体力測定のシャトルラン中に意識を失って心肺停止状態となり、2日後に死亡した。

訴状では、担当教諭が柚野さんの体調をシャトルランの実施前も実施中も確認しなかったことについて「注意義務違反がある」と主張。柚野さんが倒れた際、教諭が人工呼吸をせず、まず事務室に知らせに行ったことについて「ロスがなければ救命されていた」などと訴えた。柚野さんの父、真也さん(44)は「学園側から納得のいく

説明がなく、提訴することになった」と話している。

学園が設置した第三者委員会は昨年7月公表の報告書で、教諭の対応の一部について「安全配慮義務上、問題があった」と指摘したが、死亡との因果関係は「不明」としている。学園側は「教諭は精いっぱいの対応をした。法的なレベルで問題があったとは考えていない」としている。【田畠広景】

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月14日付NHK大阪放送局

水泳中死亡 コーチ過失認め和解

5年前、東大阪市内のプールで水泳教室の練習中に死亡した男性の両親が損害賠償を求めていた裁判は、指導していたコーチの過失で男性が熱中症になって死亡したことを教室側が認め、4000万円を支払うことで和解が成立しました。 平成25年8月、東大阪市内の屋内プールで開かれた障害者向けの水泳教室で、國本考太さん(当時24)が意識を失い死亡しました。 國本さんの両親は指導していた女性コーチが適切な処置を取らなかったため熱中症になって死亡したと訴えて、教室を運営するNPO法人などに損害賠償を求めていました。 1審は去年、法人側に770万円の賠償を命じましたが、コーチの過失で死亡したとまでは言い切れないと判断したことから両親が控訴していました。 両親の弁護士によりますと2審の大阪高等裁判所はコーチの過失と死亡との因果関係を認める見解を示したうえで、双方に和解するよう促したということです。 そして、12日、コーチがみずからの過失により熱中症になって死亡したことを認め、法人側が4000万円を支払うことなどで和解が成立しました。 コーチは和解の席で両親に謝罪したということです。 國本さんの母親は取材に対して「息子は帰ってきませんが、和解でようやく顔向けできます。水泳中に熱中症で命を落とす危険があるということを知ってもらいたい」と話しています。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月14日付朝日放送

【大阪】水泳クラブ熱中症死亡訴訟で和解成立

水泳の練習中に熱中症を発症して死亡した男性の遺族が賠償を求めていた裁判で、指導者側の過失と熱中症との因果関係が認められ、大阪高裁で和解が成立しました。 国本考太さん(当時24)は、2013年8月、東大阪市の室内プールで、障害者向けの水泳クラブの練習中に熱中症で意識を失い、搬送先の病院で死亡しました。考太さんの両親は、高温多湿の中、過酷な練習をさせたことが死亡の原因だとして、当時、指導していた女性コーチらを相手取り提訴。1審の大阪地裁は「水分補給などの注意義務を怠った」として、コーチ側に770万円の賠償を命じましたが、死亡との因果関係は認めなかったため、両親が控訴していました。裁判は12日、熱中症による死亡と安全配慮義務違反との間に「因果関係」があることを確認した上で、コーチ側が経緯を謝罪し、4000万円を支払うことなどで和解が成立しました。考太さんの母親は「『間違っていることは、訂正せねばならない』という言葉を裁判官さんからいただいたことが、すごく嬉しかった」と和解について話しました。水泳指導中の過失と熱中症との因果関係が認められた裁判例は、全国初とみられます。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月11日付朝日新聞

調査求めた父、校長は「金目当てと…」 奄美の中1自殺

鹿児島県奄美市で2015年、市立中1年の男子生徒(当時13)が自殺し、その問題を調べていた市の第三者委員会は、生徒をいじめの加害者と誤認した担任教諭の指導や家庭訪問で心理的に追い詰められた末の自殺と認定した。学校や市教委の対応も不適切と指摘した。

  「過ちが繰り返されないように、息子の死と真剣に向き合ってほしい」。自殺した男子生徒の40代の父親は訴える。

「まじめで努力家。やさしい性格だけど、弟を泣かせることもある普通の、かわいい子」。涙をぬぐい、父親は続けた。

釣り好きで、海に連れて行くと喜んだ。幼いころからサッカーが好きで、中学でゴールキーパーの正選手に。自殺前日も試合に出た。翌朝、並んで歯磨きをした母親が「大きくなったね」と声をかけると笑顔をみせ、買ってもらったばかりのスパイクを手に元気に登校した。

その夜、悲報が届いた。「誰に聞いても変わった様子はなかった。自殺は冗談だと思った」と、父親は今も信じられない。自殺の原因について学校側は「不明」と繰り返したが、市内の校長を集めた会議で市教委は「いじめた側が責任を感じて自殺した」と説明した。「うつ病」「自殺願望があった」など我が子の名誉を傷つける根も葉もないうわさが地域に流れ、「傷ついた家族に追い打ちをかけられ、本当にきつかった」と振り返る。

第三者委員会での調査を求めると、校長から「(遺族が)金目当てと言われる」「生徒が動揺する」などと再考を促された。「不手際を追及されたくないのだろうな」と感じ、怒りを抑えるのがやっとだった。

第三者委の報告書は、いじめの加害者の疑いを晴らし、自殺は担任の不適切な指導が原因とした。だがこれからが本当のスタートという気持ちだ。何を誤り、どうすべきだったか。学校や市教委自らが検証し、再発防止に向けて本気で動く。「それだけが遺族の願いです」(外尾誠)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月9日付毎日新聞デジタル

奄美中1自殺 父無念「担任が話聞いてくれれば」 生徒、作文で「生きることに感謝」

「担任が、息子や同級生たちの話をしっかり聞いてさえいれば、息子は死なずに済んだ」。死亡した男子生徒の父は、遺影の前で無念を語った。

奄美中1-1

サッカー部でゴールキーパーとしてプレーしていた男子生徒のスパイクとグローブ。生徒は亡くなる前日にも試合に出場していた=鹿児島県奄美市で樋口岳大撮影

男子生徒は真面目で責任感が強く、勉強熱心で成績も良かった。小学1年からサッカーを始め、中学のサッカー部ではたった1人のゴールキーパーとしてチームを支えた。

亡くなる前日もいつも通り試合に出場していた。残されたグローブは、繰り返しシュートを受けて擦り切れ、大きな穴がいくつも開いている。家族は仲が良く、生徒は学校での

出来事をよく話していた。

男子生徒が亡くなる約2カ月前の2015年9月15日にも、11月2日に欠席した同級生が授業後に泣きだしたことがあった。報告書によると、担任は「嫌なことがあったら話すように」と言い、同級生は生徒10人の名前と行為を挙げた。その中に「消しゴムのかすを投げる」と男子生徒の名前が挙がり、担任は生徒を指導した。

生徒は帰宅後、母に「同級生がちょっかいを出してきたのに自分が怒られた」と不満を述べていた。11月4日に指導を受けた後の下校時にも友人に「意味が分からない。

前もあった」「何で分かってくれないのか」などと語っていた。帰宅後に担任が家庭訪問した時、祖母が様子を見に行くと男子生徒は号泣していた。直後、生徒は命を絶った。

「なぜ、息子は自殺をして罪を償うというところまで追い詰められなければならなかったのか。疑問に答えてほしい」。昨年5月の第三者委初会合で、父はそう訴えた。

第三者委の聞き取りでは、日常的に暴力や暴言などがあった担任の指導が複数の生徒の証言から浮かび上がった。「ベルトをつかまれ、突き飛ばされた」「怒って教卓を倒した」「部活の練習でミスをした女子生徒にボールを当てた」「たばこの吸い殻の入ったコーヒー缶を顔付近めがけて投げられた」……。男子生徒らへの指導の際にも担任は

別の生徒をたたいていた。

11月4日の指導では男子生徒は当初、自分が同級生にしたことを思い出せない様子で、担任も「本当にちょっかいを出したのか」と疑うほどだった。しかし、担任はその後も謝罪をさせたり、叱責したりしていた。

父は「担任の高圧的な姿勢が、無実の人に自白を迫る誤った指導につながった」と感じている。

◇   ◇

奄美中1-2

男子生徒の仏前には、生徒が好きだった郷土料理の鶏飯(けいはん)と刺し身が供えられていた=鹿児島県奄美市で樋口岳大撮影

男子生徒が毎日欠かさなかった自宅学習のノートにはびっしりと丁寧な文字が書きこまれている。一方、男子生徒の遺書は、同じ人物が書いたとは思えないほど乱雑で、殴り書きした筆跡だった。

第三者委は遺書などから、人一倍責任感が強かった生徒が「言われなきこと」で担任から「(同級生が)学校に来られなくなったらお前ら責任取れるのか」と叱責されるなどし、心理的圧力を感じたと推察。さらに、家庭訪問で担任から「誰にでも失敗はある」などと言われたことで、男子生徒は、同級生をサッカーに誘うなど関係を保とうとした努力が否定され

「これが失敗なら、これ以上どう頑張れというのか。もう、死ぬしか責任を果たせない」という怒りや絶望感を抱いたのではないか、と考察した。

◇   ◇

男子生徒は、亡くなる1、2カ月前の作文に、曽祖父から戦争体験を聞き「僕は、生きていることに感謝するようになった」と書いていた。戦争で左腕を失った曽祖父が右腕だけで抱きかかえてくれたことに感謝し「両腕以上の愛情で支えてくれた」と記していた。

「息子は命の大切さも、家族から受けた愛情も十分に感じていたのに、命を絶たなければならなかった。同じことはどこでも起こりうる。どの先生も子供を追い詰める可能性があることを肝に銘じ、子供の立場に立って考えてほしい」。生徒の遺書と、作文を見つめ、父はそう訴えた。

■   ■

奄美中1-3

自殺した中学1年の男子生徒が書いた作文=2018年12月、森園道子撮影

 

<男子生徒が亡くなる1、2カ月前に書いた作文>

語り継がなければならないこと

僕のひい祖父は、日本のために戦った一人であった。

ひい祖父が若い頃、赤紙が届いてフィリピンに行ったそうだ。写真を見れば、堂々としていて、男らしかった。

戦場に行ったが、左腕を無くして帰ってきたそうだ。左手に銃弾が貫通し、その後、破傷風になり、自ら左腕を切り落としたという。

だが、ひい祖父はどんなときも決して涙を見せることはなかったという。

そして年月がたち、僕が生まれた。ひい祖父はとても喜んでいたという。僕は成長していった。ひい祖父は僕と毎日遊んでくれていつも笑顔だった。とても幸せそうな毎日だった。

そんなある日、ひい祖父は戦争について語ってくれた。空は米軍の飛行機、海は戦艦、陸上では銃弾が飛びかっていたという。また「絶対に戦争はしてはいけない。戦争をしても何もいいことはない。今はとてもいい世の中だ。幸せだ。お前は生きていることに感謝しろ」と、ひい祖父はよく語ってくれた。だが、ひい祖父も年をとり、しゃべれなくなっていった。

僕は、生きていることに感謝するようになった。

あなたは、一分、一秒を大切にしていますか。生きていることに感謝していますか。

今、友達と遊んだり、会話をしたりしているのが僕の日常生活だ。あたり前のように感じるかもしれないが、戦争が起きている頃の時代の人々は、いつ友達や家族がいなくなるか分からないというのが、この頃の人々の日常生活なのだ。今、僕達はお金があれば何でも手に入る。

しかし、お金で買えないものもある。

一つは、命。ひい祖父は、僕に戦争について伝えることで、命の大切さを教えてくれた。戦争に行った友人も亡くなり、身内も襲撃されたという。戦争に対する怒り、悲しみは、はかりしれないものだと思う。

だから、僕は、大切なものをすべて失うからもう二度とやってはいけないと思う。

二つ目は、愛情だ。ひい祖父は片腕しかないのに、僕をよく抱きかかえていたという。そして、僕がふざけて高い所から落ちそうになったときに片腕で支えてくれた。僕にとっては、両腕以上の愛情で支えてくれたと思う。

ひい祖父は、僕が六年生の頃の十二月に、家族に見守られながら亡くなった。僕もひい祖父の死に立ち会うことができた。とても落ち着いた表情だった。心の中でありがとうと言った。

戦争に行ってつらい思いもたくさんしてきたと思うが、僕に語ってくれたことを僕は、語り継がなければならない。

 

奄美市の第三者委が認定した男子生徒の自殺を巡る主な経過

2015年9月15日 同級生が授業後に泣いた。担任に「嫌なことがあったら話すように」と言われ、同級生は男子生徒ら10人の名前と行為を挙げた。男子生徒には「消しゴムのかすを投げられた」とした。担任は放課後に10人を指導し、同級生に謝罪させた。男子生徒は、友人や家族に「同級生からやってきたのに、自分が怒られた」と不満を述べた

10月5日 男子生徒が家族に、担任について「意味の分からないところで怒る。目を見るのが怖い」などと話す

11月2日 同級生が欠席。同級生の母親が担任に「友達に嫌がらせを受けるので行きたくないと言っている」と伝えた

3日 男子生徒はサッカーの試合に出場

4日朝 同級生が登校。担任が紙を渡し「他の生徒からされた嫌なことを書くように」と告げる。同級生は、男子生徒を含め5人からされた行為を記入。男子生徒については「別の生徒が男子生徒に方言を教えて一緒に言ったりする」などと書く

昼 男子生徒が別の教室にいた同級生に給食を持って行き、「サッカーをしよう」と誘う

放課後 担任が生徒5人を指導。担任は男子生徒らに紙を渡し、やったことを書かせたが、男性生徒は何をしたのか思い出せない様子で、担任も「本当にちょっかいを出したのだろうか」と疑うほどだった。男子生徒は「自慢話の時、『だから何?』と言った。話を最後まで真剣に聞けていなかった」と書いた。担任は「責任取れるのか」などと5人を叱責し、謝罪させる。

男子生徒は「意味分からんこと言ってごめんなさい。これからも仲良く遊びましょう」と言い、泣く。男子生徒は下校時、友人に「意味が分からない」などと不満を言う午後5時40分ごろ 男子生徒帰宅

同6時ごろ 担任が事前連絡なしに男子生徒宅を訪問。生徒に「誰にでも失敗はあることなので、改善できればいい」などと言い、生徒は泣いていた。自宅は両親不在で、祖母らしかいなかった

同6時55分ごろ 帰宅した母親が首をつっている男子生徒を発見

5日 市教委が臨時校長研修会で「いじめた側の子が責任を感じて自殺した」などと説明

9~12日 市教委が教職員30人から聞き取り

18~27日 中学の教員が、サッカー部員と同じ学級の生徒、同月4日に担任から指導を受けていた生徒らから聞き取り

30日 校長が市教委に「(自殺の)原因は特定できなかった」とする基本調査報告書を提出。担任による指導の具体的な内容には触れず

16年1月8日 市教委が全校生徒にアンケート。「男子生徒がいじめてるとか見たことがない」などの回答。教員について「いきなり切れてたたく」「暴力を振るう先生が何人もいる」などの回答も

5月19日 遺族が市に第三者委の設置を申し入れ

8月16日 校長が遺族に「第三者委設立を(市に)お願いすることを再考できないか」などと発言

17年5月14日 第1回第三者委開催

18年12月9日 第三者委が市に報告書を提出

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月9日付朝日新聞デジタル

奄美の中1自殺、担任の誤解による指導が原因 第三者委

鹿児島県奄美市で2015年11月、市立中1年の男子生徒(当時13)が自殺し、その問題を調べていた第三者委員会が9日、報告書をまとめ市に提出した。生徒をいじめの加害者と思い込んだ担任教諭による指導と家庭訪問によって、心理的に追い詰められた末の自殺と認定。対応を担任に一任し、十分な事実確認をしなかった学校側の対応についても「拙速で不適切な指導につながった」と厳しく批判した。

市が設けた第三者委(委員長=内沢達・元鹿児島大教授)は弁護士や精神科医ら6人で構成。17年5月から学校関係者や当時の生徒らに話を聞き、22回の会合を重ねた。

報告書によると、男子生徒は15年11月4日、同級生に嫌がらせをしたとして、他の生徒4人とともに担任から「(同級生が)学校に来られなくなったら責任をとれるのか」などと叱責された。下校後、事前の連絡なく家庭訪問をした担任が帰った直後、遺書を残して自宅で自殺した。

生徒が指導の対象となったのは、嫌がらせを苦に学校を欠席した同級生に提出させた「嫌なこと」の中に、悪口を言った1人として名前が出たためだった。

実際は、生徒が発した方言が悪口のように誤解されただけで、第三者委が「いじめとは到底いえない」とする内容に過ぎなかった。生徒は約2カ月前にも担任から同じ内容で謝罪を強いられたが、同級生を遊びに誘うなど気遣っていた。一連の指導に「意味が分からん」と周囲に不満を述べていたという。

報告書は、まじめで責任感が強かった生徒にとって、責任を問う担任の叱責(しっせき)は「心の重荷」になったと分析。さらに家庭訪問で親に言うほどの問題だと思わされた上、家庭訪問の際に生徒にかけたとされる「誰にでも失敗はある」との言葉で、自分の気遣いなどが否定されたように感じたのだろうと指摘。こうした担任の対応が生徒を「(心理的に)追い詰めたことは明らかで、自殺の原因」と結論づけた。

9日の記者会見で、第三者委のメンバーは、いじめが疑われる事案の基本とされる学校として組織での対応がなかった点について、「一人でやると思い込みにつながる」と指摘。

自殺翌日、市教委が「いじめた側が責任を感じて自殺」と関係者に説明した点にも触れ、学校側の責任を回避する意図があった可能性も示唆した。

内沢委員長は「教師はいつも正しいという見方を改めてほしい。市教委や学校自らが検証しないと同じことが繰り返される」と訴えた。

遺族は「息子がいじめに関わった訳ではないとの報告に安堵したが、まだ心の整理ができていません」とのコメントを発表した。(外尾誠)

 「善意」で誤った指導、子どもの自殺招く 懸念が現実に

鹿児島県奄美市の男子中学生の自殺を調査した第三者委員会が強く訴えたのは、「生徒の立場に立った指導をしなかったことが問題の本質」ということだ。委員長の内沢達・元鹿児島大教授は「子どもへの向き合い方を根本から変えていかなければ、また同じようなことが起きる」と危機感をあらわにした。

2013年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」は、学校側が子どものSOSに気づかないまま、「トラブル」だと過小に扱った結果、いじめによる自殺といった悲劇が起きたという反省から生まれた。同法をきっかけに、「いじめをしっかり把握し、早い段階で芽をつもう」という対応が学校現場で積極的に進められるようになっている。文部科学省の

まとめによると、小中高校などから報告されているいじめの件数は17年度に41万4378件あり、前年度より約9万件増えた。

その一方、同法は「被害者」の保護と、「加害者」への指導を求めている。施行時から、対立軸に分けて過剰に対応すれば、かえって子どもたちを追い詰めるのではないかと心配されてきた。今回の第三者委の調査も、「いじめを見つけ、解決のために指導しなければならない」という善意によって、男子生徒が自殺に追いこまれたと結論づけた。

いじめに詳しい、小野田正利・大阪大教授(教育制度学)は「よかれと思った指導が子どもを追い詰め、懸念されていたことが現実となってしまった」と話す。「学校も、誤った指導に気づけなかった。子どものことを一番に考え、実態に合ったいじめ対策を考えなければならない」と指摘する。(貞国聖子)

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成30年12月1日付河北新報

八戸高専生自殺図る 昨年6月 重い障害、調査委設置へ

八戸高専(八戸市)は30日、2017年6月に当時3年の男子学生が自殺を図り、重度の障害を負ったことを明らかにした。関係者によると、学生は「教員に裏切られた」といった趣旨の発言をしており、同校は自殺未遂の背景を調査する第三者委員会を本年度中に設置する見通し。  同校や運営する国立高専機構(東京)によると、学生は昨年6月28日、八戸市内の高さ約30メートルの橋から飛び降り、一命を取り留めたが下半身不随となった。

復学を目指していたが「授業を受けるのが困難」との理由で今年9月に自主退学した。  学生の母親から9月、自殺未遂についての調査を求める投書が機構に届いた。投書によると、学生は恋愛関係のトラブルを学校に相談したが、その対応に不信感を持ったという。投書で母親は「教員に裏切られた」「教員の心ない対応が自殺未遂につながった」などと主張している。  同校は保護者の求めに応じ、弁護士や精神科医などでつくる第三者委で調査する方針。  30日に記者会見を開いた同校の円山重直校長は「学生が自殺を図ろうとしたことは残念。事故前の本校の対応は適切だったと考えている。その是非は調査委員会に任せたい」と話した。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn