2023年1月22日付朝日新聞

(窓)ちゅうにも届け、母の18年

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仲良しの3兄妹だった。(左から)ちゅうちゃんこと次男の安達雄大さん、長男の鉄朗さん、長女の七海さん。小さい頃、鉄朗さんは「雄大」が発音できず「ちゅうだい」となっていた。そこから雄大さんに「ちゅう」という呼び名がついた=七海さん提供
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(右から)七海さん、母の和美さん、鉄朗さん=2022年10月

  寒い冬の夜、自室のパソコンで開いた原稿は、18年前のあの日の記憶から始まっていた。

福岡市の安達七海さん(25)は一文一文を丁寧に目で追うにつれ、手が震え目頭が熱くなった。

原稿に記されていたのは、初めて知る母の苦しみ。そして8歳上の兄、「ちゅうちゃん」と呼んだ雄大さんのことだった。

友達が多くて、サッカーや釣りが大好きだった、ちゅうちゃん。青空が見えると外に駆けだしていった。家族でよく行ったキャンプでは、率先してテントをはったり、火をおこしたり。青空の下で汗を流す兄は頼もしかった。

しかし、2004年3月10日、事件は起きた。

知り合いの家でバザーの準備をしていると、母親の和美さんの携帯電話が鳴った。「ちゅうが学校でケガしたらしいけん、ここで待ってて」。そう言い、慌ただしく出て行った。

翌日、家族の誰かから、ちゅうちゃんが亡くなったことを聞いた。

その後のことはおぼろげだ。ひつぎに入り、仏間に寝かされたちゅうちゃんが怖く見えたこと、火葬場で大泣きしたこと。それ以外の記憶が抜け落ちている。

長崎市の市立中学校に通っていたちゅうちゃんは、ライターを持ち込んでいたところを先生に見つかった。トイレの掃除用具入れに押し込まれ、ほかに喫煙している友人の名を挙げさせられた。

指導が終わったのち、「トイレに行く」と告げ、校舎から飛び降りた。残されたノートには、友人や親への感謝と謝罪の言葉が並んでいた――

事件の後、ちゅうちゃんがいなくなった食卓は広く感じた。そんな中でも不安を覚えずにすんだのは、母のおかげだった。「今日は何したと」。以前と変わらず、その日あったことを優しく聞いてくれた。

その一方で、毎日のように人に会いに行っているようだった。弁護士や支援者の人たちだと、後から知った。約2年後、教師の行きすぎた指導があったと、長崎市を相手に損害賠償を求める裁判を始めた。介護の仕事をしながら自分と同じように校内で子どもを亡くした親と連絡を取り、教師の指導のあり方を考える勉強会にも参加した。

事件から4年後の08年6月、長崎地裁は自殺の予見は難しかったとして市側の過失は認めなかった

ものの、指導が自殺につながったと認定した。

七海さんは看護大学を卒業し、独り立ちをした。21年9月、母から「本を出したいんだ」とLINEが届いた。不適切な指導で子どもが亡くなる事実、教師の指導のあり方について、社会に問題提起したい――。そして、「日に日にちゅうの記憶が薄れていく。今のうちにちゅうの記録を残したい」。

4カ月後、母が書いた原稿が送られてきた。

事件当日の様子、責任を認めない学校側との苦しい交渉、そして努めて子どもの前で明るく振る舞っていたこと――。原稿を読み、必ず出版させてあげたいと思った。

ネットで資金を募るクラウドファンディングを使うと、母が支援活動で出会った仲間や、ちゅうちゃんの同級生から想像以上の支援が集まった。本のタイトルは「学校で命を落とすということ」。

表紙は、兄が大好きだった青い空の色。ちゅうちゃんにも届けと思いを込めた。

(田中紳顕)

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2023年1月13日付朝日新聞デジタル

願いを校長かなえず 自死した女児の手紙、いじめについて「よんで」

 愛知県豊田市で2019年、小学6年の女児2人が自死した問題で、太田稔彦市長と昨年12月に面談した遺族側が12日、市役所で記者会見を開いた。市長がいじめの加害児童への指導には「応じられない」と回答したことについて、「失望を禁じ得ない」とした。司法に委ねる意向は示さなかった。

  • 小6女児2人自死「いじめとの関連否定できない」 市の再調査チーム

 代理人の西口誠、長尾美穂の両弁護士が会見した。遺族の希望で、女児が残した手紙を初めて公開。いじめについて、1人が別の友だちに「死ね」「キンがつく」などと言われたことが記されていた。校長にあてて、「全校生徒によんでください」とあるが、その願いはかなえられなかったという。

 加害児童はすでに中学校も卒業した。遺族は「再発防止には、加害児童がいじめをした事実に向き合うことが必要不可欠」と訴えている。市長との面談後も、遺族の気持ちは「現行法制度下でも県教委と連携して加害児童に指導することができないとは思えない」とした。

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会見した遺族側代理人の西口誠(右)、長尾美穂の両弁護士=2023年1月12日、愛知県豊田市役所、中川史撮影
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女児が書き残した手紙(裏)。いじめについての詳細と、手紙を書いた3つの理由が記されている=2023年1月12日、中川史撮影
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女児が書き残した手紙(表)=2023年1月12日、中川史撮影

 愛知県豊田市で2019年、小学6年の女児2人が自死した問題で、太田稔彦市長と昨年12月に面談した遺族側が12日、市役所で記者会見を開いた。市長がいじめの加害児童への指導には「応じられない」と回答したことについて、「失望を禁じ得ない」とした。司法に委ねる意向は示さなかった。

  • 小6女児2人自死「いじめとの関連否定できない」 市の再調査チーム

 代理人の西口誠、長尾美穂の両弁護士が会見した。遺族の希望で、女児が残した手紙を初めて公開。いじめについて、1人が別の友だちに「死ね」「キンがつく」などと言われたことが記されていた。校長にあてて、「全校生徒によんでください」とあるが、その願いはかなえられなかったという。

 加害児童はすでに中学校も卒業した。遺族は「再発防止には、加害児童がいじめをした事実に向き合うことが必要不可欠」と訴えている。市長との面談後も、遺族の気持ちは「現行法制度下でも県教委と連携して加害児童に指導することができないとは思えない」とした。

 会見では、遺族の提案する指導方法では「うまくいくとは思えない」という市長とのやり取りが紹介された。加害児童が指導の呼び出しに応じない可能性や反論して受け入れない事態は「想定のうち」として、遺族は「指導を試そうともしない市長の姿勢には、失望を禁じ得ない」とコメントした。

今後改めて市教委と県教委に対し、加害児童に対する指導を申し入れる考え。また、法的措置も検討したが、「罰を求めているのではない」として現時点で損害賠償などを求める考えはないことも明らかにした。(中川史)

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2022年12月27日付朝日新聞デジタル

「一生許せない」 叱責され飛び降りた元生徒、教諭の免職を申し入れ

 男性教諭から長時間叱責(しっせき)され、校舎から飛び降りて大けがをしたとして、静岡県中部の県立高校の元女子生徒(22)が県などに賠償を求めた訴訟で、県に220万円の支払いを命じた判決が確定したことを受け、元女子生徒と代理人の小川秀世弁護士は26日、教諭の懲戒免職処分を求める文書を県教育委員会に出した。記者会見した元生徒は「私と同じように苦しむ人が死を決断するまで追い込まれないように、考えるきっかけになって欲しい」と話した。

 5月の一審・静岡地裁の判決によると、男性教諭は2016年10月、研修に参加できなくなったと申し出た元生徒を翌日未明まで電話などで叱責し、学校でも直接叱り、元生徒はこの直後に校舎3階から飛び降りて腕を骨折するなどした。静岡地裁は「教育的指導の範囲を逸脱している」として県に賠償を命じた。

 申入書では、教諭の長時間の叱責は「生徒の生命にもかかわるようなきわめて危険性の高い行為」で、「他の教員や生徒も見えないところで行われた、きわめて悪質なもの」と指摘した。

 元生徒は「『学校をやめろ。選択肢はないからな』と脅された恐怖は忘れられない。私は楽しみにしていた修学旅行などに参加できなかったのに、今でも変わらない生活を送り続けている教諭を一生許すことはできない」と涙ぐみながら語った。

 県教委の担当者は取材に対し、「申し入れの内容を精査して、今後の対応を検討したい」と話している。(小山裕一)

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2022年12月26日付朝日新聞デジタル

聖カタリナ高の野球部寮で集団暴行 元部員が学校法人など提訴

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聖カタリナ学園高校野球部のグラウンド。寮は敷地内にある=2022年11月17日、松山市河野別府、三島庸孝撮影

聖カタリナ学園高校(松山市)の野球部寮で部員らから集団暴行を受けたとして、元部員(15)が同校を運営する学校法人や当時の野球部監督らに約3570万円の損害賠償を求める訴訟を松山地裁に起こした。代理人弁護士が26日、明らかにした。提訴は23日付。

 訴状によると、元部員は1年生。野球部寮で5月、1、2年の部員9人から次々と暴行を受け、左肩が上がらなくなるなどのけがを負い、「甲子園の夢をあきらめ、転校せざるをえなくなった」と主張。昨年11月に同様の集団暴行があった際、学校法人や監督らが適切な対応を怠ったため、今年5月の集団暴行につながったとしている。

 集団暴行をめぐり、学校側が設置した第三者委員会が10月に出した報告を踏まえ、同校は11月、いじめ防止対策推進法に基づく重大事態と認め、愛媛県に報告した。学校法人は「訴状が届き次第、適切に対処していきたい」とコメントした。(神谷毅)

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2022年12月26日付毎日新聞

 児童いじめで教諭を減給処分 滋賀県教委「人権侵害」と判断

野洲市立小学校での「担任によるいじめ」などで教諭の懲戒処分を発表し、記者会見で謝罪する滋賀県教委の有田知浩・教職員課長(中央)ら=滋賀県庁で2022年12月26日午後4時7分、庭田学撮影
野洲市立小学校での「担任によるいじめ」などで教諭の懲戒処分を発表し、記者会見で謝罪する滋賀県教委の有田知浩・教職員課長(中央)ら=滋賀県庁で2022年12月26日午後4時7分、庭田学撮影

 滋賀県野洲市の市立小学校で男性教諭(51)が特定児童に対し、不適切な言動で「担任によるいじめ」を繰り返した問題で、滋賀県教委は26日、この教諭を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分にした。同校校長に対し、管理監督責任を問い文書訓告を行った。

 毎日新聞の取材や県教委の発表によると、教諭は今年5~7月、授業中に被害児童に対し「本当に言葉を知らんな」「スルー(無視)しよう」などと発言し、他の児童によるいじめを誘発した。県教委は、教諭が児童の人権を侵害したと判断した。学校は教諭のいじめ行為を認めて8月に開いた学級の保護者説明会で謝罪。2学期から担任を交代させた。教諭は8月から体調不良で休んでいるという。

県教委は他2件の懲戒処分も発表。公立中学校の女性教諭(39)は後輩の男性教諭に対するパワーハラスメントで戒告となった。「うるさい」「なんでそんなあいさつやねん」「転職した方がいいんちゃう」などと不適切な言動をした。

町立中学校で女子生徒2人のスカート内を盗撮、県迷惑防止条例違反で11月に罰金50万円の略式命令を受けた男性教諭(24)を懲戒免職とした。【庭田学】

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2022年12月24日付朝日新聞デジタル

熊本の中1自死、校長ら16人懲戒処分 「死」つづるノート報告せず

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教職員の処分を公表し、謝罪する熊本市教委の遠藤洋路教育長(左)ら=2022年12月23日、熊本市役所、堀越理菜撮影

 熊本市教育委員会は23日、7事案で教職員計25人を懲戒処分などにし、発表した。このうち2019年に中学1年の男子生徒が自死した問題の関係では、生徒が小学6年時の校長ら16人が懲戒処分などとなった。

 男子生徒が自死した問題では、調査委員会が小学6年時の担任教諭の不適切な指導と自死との関連を認め、市教委はこの教諭をすでに懲戒免職としている。

 市教委によると、この問題の関係者では今回、計26人が懲戒処分や措置の対象となり、退職者を除く16人が懲戒処分などとされた。

 小学校の当時の校長(62)は、生徒が「死」などと書いていたノートについて報告を受けたが保護者に伝えなかったなどとして減給10分の1(2カ月)。当時の教頭(50)は、自死後もこのノートについて市教委に報告しなかったなどとして、より重い停職14日となった。

 また、繰り返されていた担任教諭の体罰や暴言の未然防止や、自死後も含めた適切な対応がされていなかったなどとして、市教委の関係者ら7人を戒告。遠藤洋路教育長(すでに3カ月の減給が決定)ら6人を訓告、当時の学校管理職1人を厳重注意とした。

 遠藤教育長は「反省と教訓を踏まえて二度とこうしたことが起きないように今後の対応をしっかり考え、よりよい学校、教育委員会づくりに全力を尽くしたい」と、改めて謝罪した。外部の有識者を交えた協議を行うなどして、再発防止のための新たな体制づくりをしたいと考えを述べた。 亡くなった男子生徒の母親は取材に、処分について「校長と教頭の処分は軽いなと思う。特に、校長の責任は相当重いはずなのに教頭よりも処分が軽いのは驚きだ」と話した。また、今後の対応については「教育現場で体罰だけでなく、暴力が伴わない不適切な言動についても、しっかり問題と認識して対応していってほしい」と訴えた。

女子児童盗撮など 7人処分

 男子生徒の自死の問題以外では、計7人が懲戒処分となった。

 勤務する小学校の更衣室などで女子児童を盗撮したとされる小学校の男性教諭(26)は懲戒免職となった。スリルを味わったり、性的な欲求を満たしたりするためだったと話しているという。保存されていた盗撮のデータを消去させ、市教委に対してデータはなかったと虚偽の報告をしたとして、校長(55)は停職6カ月。

 市体罰等審議会で、女子児童の脇腹をつつくなど児童を不快にさせる性的な行動など計5件が暴言等と認定された小学校の男性教諭(40)は停職1カ月。教頭は厳重注意。そのほか、同審議会で体罰などが認定された、小中学校の教諭計4人も戒告や減給となり、うち1件で校長が厳重注意となった。(堀越理菜)

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2022年12月23日付朝日新聞デジタル

生徒を壁に押しつけ平手打ち、髪つかみ暴言 高校教諭を懲戒処分

 熊本市東区のマリスト学園高校で、50代の男性教諭が4人の男子生徒に対し、髪をつかんで怒鳴ったり、平手打ちにしたりするなどの行為や暴言を行っていたことが22日、学校への取材でわかった。

 同校によると、教諭は今年6月、授業中に担任のクラスの男子生徒の髪をつかんで大声で怒鳴り、口元をマスクの上から押さえて、椅子に座っていた生徒の胸元をつかんで体を押した。また、別の男子生徒に対して休み時間に教室の壁に肩を押しつけて頰を平手打ちした。別の男子生徒2人にも指導中にパイプ椅子を投げたり、そばにあった丸椅子を足で蹴ったりした。

 6月下旬に、授業中の教諭の行為を目撃していた複数の生徒から相談があり、学校が7月にクラスの全生徒に聞き取り調査をした結果、4件の行為が明らかになったという。教諭も「自分自身がコントロールできなかった。あってはいけないことだった」と認めているという。

 学校は8月に保護者会を開き、管理職や男性教諭が謝罪。男性教諭のほか、校長ら管理職4人を就業規則に基づき9月12日付で懲戒処分とした。学校は処分の内容を明らかにしていないが、松山秀峰校長は「生徒の心のケアや再発防止に努めたい」としている。

 学校を所管する熊本県私学振興課も報告を受けており「法令にのっとって適切に対応することや生徒のケア、再発防止策について助言をした」という。(大貫聡子)

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2022年12月23日付朝日新聞デジタル

「暴力がない、地域に開かれた学校へ」 事件から10年、桜宮高校は

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スポーツ体験会で、桜宮高校ボート部の生徒とボートに乗り込む中学生(手前)。助言を受けながらこぎ方を学んだ=大阪市都島区、林敏行撮影

 大阪市立(現・大阪府立)桜宮高校のバスケットボール部主将だった男子生徒が、顧問から暴力を受けて自殺した事件から23日で10年が経つ。暴力をなくすことと「地域に開かれた学校」を掲げてきた同校のいまを取材した。(宮崎亮)

 全校生徒約840人のうち4割が人間スポーツ科学科に属する桜宮高校。各運動部は全国・近畿大会での実績を重ねてきた。

 事件は2012年に発生。顧問が体罰をした背景について、大阪市教育委員会は「生徒に対する暴力を指導の一環と位置づけ、指導方法として効果的だとの考え」を持っていたと指摘した。

 事件後、同校では体罰の再発防止と、生徒の主体性を重視した改革を学校全体で進めてきた。

 全教職員が怒りの感情を抑える「アンガーマネジメント」などの研修を毎年受講。全部活動の顧問と管理職は定期的に会議を開き、現状や在り方を話し合っている。

 主将らが集って望ましいリーダー像を考える研修会も開催。全校生徒が命の大切さを伝える講義を受けている。

 さらに、「地域に開かれた学校」を意識した取り組みを続けてきた。

 生徒は府内全域から入学しているため、小中学校と比べて地元とのつながりが薄くなり、校内の様子がわかりにくいとの指摘があったためだ。

 今月中旬の土曜日の朝。同校の地元・大阪市都島区の公園沿いの川で、ボート部員らが中学生2人を指導していた。ボート部は男女とも、5人乗りで来春の全国大会出場を決めている。

 中1の男子生徒(13)は桜宮高3年の菅起人(すがたつと)さん(17)と2人乗りボートに乗った。菅さんの助言を受けながら往復2キロ余りをこぎきり、「すごくわかりやすく教えてもらいました」と笑顔を見せた。

 生徒がボートに乗るのは、この日が5回目。都島区の五つの市立中学校の生徒が参加するスポーツ体験会「桜宮スポーツクラブ」の活動だ。休日の部活動を地域に移行する実践研究の一環で、昨秋から大阪市教育委員会が始めた。設備が充実し、地域交流に力を入れる同高が協力することになった。

 バスケットボール、サッカー、バレーボール、陸上、ボートの5種目から選び、桜宮高の顧問と生徒の指導を受けられる。1人が複数種目を体験することもでき、今年度は延べ約400人の中学生が参加した。

「自分の頭で考え、助け合うこと大事に

高校生にとっても、得るものは少なくない。2年の岩永歩(あみ)さん(17)は、

初心者の中学生にこぎ方を教える際、いかにわかりやすい言葉で説明するかを工夫する。

「教えながら自分自身が『あ、先生が言ってたのはこういうことだったんだ』と気づく

こともある。その後の自分たちの練習でも、フォームの基本をより意識できます」と話す。

地域交流では毎秋、住民を招いたフェスティバルを開催している。13年から始めた

「大運動会」が形を変えたものだ。生徒が様々な催しを用意して共に楽しんでいる。

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大阪府立桜宮高校の森口愛太郎校長=2022年12月12日、大阪市都島区、宮崎亮撮影

  今月中旬、赴任5年目の森口愛太郎校長(60)に、桜宮高校の「いま」について聞いた。

いまもどこかの学校で体罰が起きると、ニュースでは必ずと言っていいほど「2012年に桜宮高校では……」と報じられる。実際に起きたことですし、学校として受けとめなければいけません。

体罰の報道があるたび毎年、「桜宮、いま大丈夫やろな。変わったんやろな」という電話がかかってくる。相手は名乗らない方ばかりですが、校長室で受話器を取り、「大丈夫です。

生徒たちは頑張っています」と伝えています。

スポーツ指導で知られる高校ですが、「勝てばよい」という考えで指導はしていません。

生徒が自分の頭で考え、コミュニケーションを取りながら互いを助け合うことを大事にしています。

ある日の朝礼では「人間は社会に出たら一人では絶対に生きていかれへん。自分の思いを伝え、相手の思いをしっかり聞いてほしい。コロナ禍で『しゃべるな』と言われるけど、私はやっぱり君たちにしゃべってほしい」と伝えました。

生徒や教職員が入れ替わっても、学校として絶対に風化させてはいけないと思います。

新しく赴任した教員には必ず、何年経ってもご遺族がおられるということを日頃から意識するよう伝え、「事実があったことを受けとめ、生徒指導にあたってほしい」と伝えています。

事件があって、桜宮がいかに変わったのか。学校を訪れた人にそれを感じ取ってもらえるように、これからも取り組んでいきます。

桜宮高校の暴力事件

20121223日、バスケットボール部の主将だった2年生の男子生徒が自殺した。生徒に繰り返した暴力が自殺の大きな要因になったとして顧問は懲戒免職となり、139月に傷害と暴行の罪で懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けた。同12月、両親ら遺族は大阪市を相手取り提訴。東京地裁は162月、約7500万円の損害賠償を市に命じる判決を出した。

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2022年12月22日付朝日新聞デジタル

「部活は子どものため」当たり前に 桜宮高暴力事件10年、被害者の両親は

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生徒が自殺の4日前、顧問宛てに書いた手紙。部員に止められ、実際には渡さなかった

 大阪市立(現在は府立)桜宮高校バスケ部の主将だった男子生徒(当時17)が、当時46歳だった顧問の暴力を苦に自殺してから10年。両親は、息子が残した教訓を学校現場で生かしてほしいと願う。

「僕は今、キャプテンとして部活に取り組んでいます」

そんな書き出しで息子がルーズリーフにつづった文章を読むたび、母親(54)は胸が締め付けられる。

10年前の12月19日に顧問に向けて書いた手紙だった。

「なぜ翌日に僕だけがあんなにシバき回されなければならないのですか?」「僕は問題起こしましたか。

キャプテンをしばけば解決すると思っているのですか」

手紙は部員に止められ、渡さずじまいだった。

手紙を書いた3日後。顧問は「プレーが意に沿わない」と大勢の選手がいるコートで延々と息子の顔を殴った。

「30、40発たたかれた」。息子は帰ってくると、母親にそう言った。

母親はその夜、息子の部屋のドア越しから机にルーズリーフが置かれているのを見た。「冬休みに入るこのタイミングで勉強しているなんておかしいな」。違和感を持ったが、「はよ寝なさいね」と声をかけただけだった。翌日の12月23日、息子は自殺した。

後に、あのとき、机に置かれていたルーズリーフは家族にあてた「遺書」だったことがわかった。

「どうしたら救えたのか。いまもそんなことを考えてしまうんです」

10年が経ち、その遺書に抱く思いがより強くなった。きちょうめんに、行間びっしりにつづられた文字、家族への感謝と思い出について理路整然と書かれた文章、文面の中にあった「覚悟」という言葉……

「17歳だった息子に死を覚悟させるなんて。部活動っていったい何なんでしょうか」

顧問だった元教諭は、自殺の前日に息子を十数回たたき、口を切る約3週間のけがを負わせるなどしたとして、2013年9月に傷害罪などで有罪判決を受けた。体罰が自殺の一因になったとも指摘した。

当時、学校での教員の暴力が公判廷で裁かれたのは異例だった。刑事裁判で、顧問は「主将として精神的、

技術的に向上してほしかった」「今は間違った行為だったと思う」などと述べた。

父親(53)が裁判を通じて感じたのは、部活が子どもへの視点に乏しいということだ。顧問の地位を守り、名誉を得るための場になっていたのではないか、という疑問ももった。「部活がいかに大人のための『特殊な場所』になっていたかを思い知りました」

今なお、学校の部活動では、顧問らによる子どもへの暴力が後を絶たない。父親は「いっそのこと、部活動を廃止するくらいでないと暴力や暴言はなくならないのではないか、とさえ思う」と語る。

仏壇のそばには息子が使っていたバスケットボールが置かれ、壁には笑顔でほほえむ息子の写真が何枚も飾られている。息子が家族に書き残した遺書と、顧問にあてた手紙を「息子が理不尽と真っ向から向き合った証しだ」と感じている。

「決して暴力的な指導はしてはならない。部活動は子どものためのもの。そんな当たり前のことが当たり前になってほしい」(長野佑介)

「体罰禁止」通知、根絶難しく 文科省

文部科学省はこの10年、体罰の実態把握や再発防止に力を入れてきた。

13年1月、体罰の実態について綿密な全国調査を初めて実施。国公立・私立の小中高校などを対象に、児童・生徒、保護者にアンケートもした。12年度に体罰や暴力を受けた児童・生徒は1万4208人だった。

13年度も9256人だったが、文科省が同年3月、体罰の禁止を明記した通知を全国に出したことなどで、翌14年度は1990人と大きく減った。20年度は871人となっている。

各地の教育委員会が把握する体罰の件数は13年度に4175件。部活動中の体罰は29・7%だった。

20年度は485件で、部活動中は19・2%だった。

18年にスポーツ庁が出した運動部活動に関するガイドラインでは、体罰だけでなく、生徒の尊厳を否定する発言も禁じた。

それでも体罰は根絶されなかった。遺族からの要望も後押しし、文科省は今年、教職員向けの「生徒指導提要」を12年ぶりに改訂。部活動における「不適切指導の例」も新たに例示した。「大声で怒鳴る」「指導後に教室に一人にする」など7項目を具体的に記している。(宮崎亮

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2022年12月22日付朝日新聞デジタル

今日もみんなが殴られた、語った息子はもういない だから母は訴える

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中学の卒業前にあった下級生とのお別れ試合後、笑顔で写真に納まる山田恭平さん(左)と母の優美子さん=山田優美子さん提供
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中学3年の夏、地区大会に選手として出場した山田恭平さん(中央)=山田優美子さん提供
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次男・恭平さんが自殺した山田優美子さん。野球部の副部長だった教諭は他の部員へ暴力をふるい、恭平さんはそれに苦しんでいた=2022年11月4日午後5時25分、大阪市内、小若理恵撮影
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次男・恭平さんを亡くした山田優美子さんは愛知県から鹿児島県の屋久島に移住し、大切な人を自殺で失った人のための保養所を営んでいる=2022年11月20日午前9時7分、鹿児島県屋久島町、小若理恵撮影
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スポーツと体罰 桜宮事件から10年 現場編

 「将来、子どもを指導するかもしれない学生のみなさんに、一人の高校生に起こったことを聞いていただきたいと思います」

 日本体育大学世田谷キャンパスで16日にあった「学校・部活動における重大事故・事件から学ぶ研修会」。講演をしたのは、鹿児島県に住む山田優美子さん。

 優美子さんの息子・恭平さんは、2011年6月、自ら命を絶った。愛知県立高校の野球部員だった。高校2年生、16歳だった。

 高1の夏休みごろから「ちょっと嫌だ。すぐ殴る」と、副部長についてもらすようになったこと。

 泣きそうな顔で帰宅し、「きょうもみんなが殴られた。一人は倒れたところに蹴りが入った」と語ったこと。

 将来、保健体育教員を目指したり、スポーツ界や教育界に進んだりする可能性が高い学生たちに、40分にわたって訴えた。

 「みなさんの一挙手一投足が、子どもに与える影響を知っておいてほしいです」

 恭平さんが自殺するまでに何があったのか。

 経緯を調べた県の第三者調査委員会は14年2月、最終報告書を公表した。以下の出来事が記録されている。

 11年5月下旬、副部長の教諭は、校内でトランプをしていた野球部員5人に、平手打ちをしたり、蹴ったりした。恭平さんはそれを目の当たりにしていた。

 恭平さんは、このときは直接暴力を受けなかった。だが、報告書は「自分の周辺で体罰を見聞きし、そのことで心を痛めていた」と認定。「体罰自体の存在に悩む者がいる。それゆえに体罰は禁止しなければならない」とした。

 父母間の暴力を見聞きすることも虐待の一種とみなす「DVウィットネス」の考え方をふまえ、「本人が体罰を受けていないから無関係という短絡的判断はやめたほうがよい。身近に体罰があることに影響を受ける子があることも含めて、体罰をなくしていく重要性を認識しなければならない」などと指摘した。

 恭平さんが亡くなった直後から、優美子さんは野球部副部長の体罰やパワーハラスメントが自殺の原因と考えていた。

 「私が知る限り、野球部以外の悩みをあの子は抱えていませんでした」

部員6人の証言

学校は直後の初期調査で、「生徒が直接体罰を受けたことがなかった」として、体罰と自殺の原因とは無関係と即断した。

だが、優美子さんによると、同級生部員6人が、副部長の体罰についてこんな証言を残している。

自殺の約1カ月後のことだ。

「正座でバットでつつかれ、ボール投げられ……

「エスカレートしてきた。最終的にはみんな蹴られる。マジで半端ねえ、あいつ」

「左から順番にはたかれて……

こうした証言を頼りに、優美子さんは第三者委に「野球部内で何があったのか。全容を知りたい」と、全同級生約300人と野球部の13年生約90人への聞き取り調査を求めた。

しかし、第三者委が文書で依頼した生徒63人のうち、聞き取りに応じたのは7人。そのうち野球部員は1人だった。

聞き取りが難航したことについて、第三者委員長だった故・加藤幸雄氏(日本福祉大名誉教授)は「話しにくくなったり、話したくないと思ったりしたのではないか」と当時の取材に語っている。

報告書には次のような考察もある。

「体罰については、多様な考え方が存在する。体罰によって鍛えられるのであれば体罰を辞さないといった積極的支持さえある。野球部にもそういう空気があった」

優美子さんによると、恭平さんが亡くなった5カ月後の11月、保護者数人が弔問に訪れ、こんな会話を交わした。

「野球部っていうのは、殴る蹴るは当たり前の世界なんですよ」

恭平さんは、幼いころから暴力や大きな声を出す大人が嫌いだった。だから優美子さんは聞き返した。

「じゃあ、弱いやつは死ねっていうことなんですね」

保護者は続けた。

「殴られて甲子園に行けるなら、いくらでも殴ってくださいって言いますよね」

その言葉を思い出すと、優美子さんはいまでも怖くなる。

大阪市立(現・大阪府立)桜宮高校のバスケ部主将が元顧問の暴力を受け自殺した問題では、元顧問への寛大な処分を求める内容の嘆願書が他の保護者から出された。

優美子さんはいま、教員の不適切な指導などで子どもを亡くした親たちでつくる「学校事故・事件を語る会」と「指導死親の会」のメンバーとして、体験を伝えている。

「殴られるのは自分たちが悪いせいだと思わされるスポーツ文化なんて間違っている」(小若理恵、中小路徹

 

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