令和元年6月14日付神戸新聞

中2女子自殺のいじめ認定、大阪 泉佐野市教委

 大阪府泉佐野市で自殺した市立中2年の女子生徒について、いじめが認定されたことを受け謝罪する奥真弥教育長(中央)ら=14日
大阪府泉佐野市で自殺した市立中2年の女子生徒について、いじめが認定されたことを受け謝罪する奥真弥教育長(中央)ら=14日

大阪府泉佐野市で今年1月にマンションから飛び降り自殺した市立中2年の女子生徒について、市教育委員会は14日、生徒へのいじめがあったと認定する調査結果を公表した。いじめが自殺に影響を与えたかは、判断できないとしている。

遺族の要望を受け、同級生らに聞き取り調査をした。市立佐野中に通学していた女子生徒は、昨年秋ごろから一部の生徒から無視されるようになり、仲間はずれにされるなど、いじめと認められる行為が確認された。

女子生徒が学校にいる際「しんどい」「死ぬって言ったらどうする?」と紙に書きこむ様子があったことも判明した。

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令和元年6月14日付南海日日新聞社

いじめ断定「瑕疵ない」 教委回答、遺族は不信感 奄美市中1自殺

2015年に鹿児島県奄美市の公立中学1年男子生徒=当時(13)=が自殺した問題で、自殺翌日に生徒を「いじめた側」と誤って断定したと第三者委員会から批判を受けていた市教委が、5月31日付で遺族に提出した文書で「瑕疵(かし)はなかった」との見解を示していたことが分かった。遺族側は13日、奄美市内で記者会見を開き「いじめと断定したことを正当化しようとしている」と批判し、再発防止へ取り組むとしている市教委へ不信感を示した。

遺族は自殺の原因を「担当教諭の不適切な指導と家庭訪問」とした第三者委報告書(18年12月)を受けて、4月に要田憲雄教育長宛て要望書を提出。報告書への見解や遺族に対する謝罪、再発防止などを求めていた。

市教委は5月31日、要望書に対する回答書を遺族に提出。報告書で認定された自殺原因を重く受け止め、生徒指導・支援や家庭訪問の在り方を検証し、再発防止策を構築するとした。

一方、市教委が自殺翌日に同市であった臨時校長会で男子生徒を「いじめた側」としたことについては、同級生が男子生徒に「嫌な行為をされた」と訴えたとする学校側の報告やいじめ防止対策法などを基に判断したと説明。「当時の状況下での判断としては瑕疵はなかった」とした。

遺族は回答書に対し「第三者委の報告書が把握していない事項を持ち出していて、第三者委の調査結果に対する異議といえる」と指摘。「報告書を真摯(しんし)に受け止めておらず、言動不一致」と怒りの声を上げた。

第三者委は報告書で、当該学校の教員や生徒への聞き取りなどの結果▽不適切な指導と家庭訪問時の対応が自殺の原因▽男子生徒の同級生への行為をいじめと断定できない▽明確な判断材料がないにも関わらず、市教委が経緯を「いじめ」と断定した―などとしていた。

遺族の会見後、市教委の元野弘学校教育課長は回答書で「いじめ」と断定した経緯について「当時の関係者への聞き取りを基に記した。自殺翌日の朝に当時の校長から教育委員会で教育長らが報告を受けた。当時の学校教育課長らから第三者委の調査でその日の朝のことは聞かれていないので報告していないと聞いている」と述べた。

回答書ではこのほか▽当時の校長が第三者委の設立や詳細調査の再考を遺族に促した不適切な対応を謝罪する▽要望書に対する正式見解は遺族に行えば十分と考えている―などと記し、他の多くの要望には「再発防止検討委員会で検討していきたい」としている。

男子生徒の父親(40代)は会見で「報告書提出後も市内の学校で体罰が起こるなど、同じ過ちが繰り返されている。被害に遭うのは子どもたち。再発防止のため今後も行動したい」とも語った。

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令和元年6月13日東京新聞

係争中で答えられない」川口市立中いじめ問題  市議会一般質問「責任持って」と母親

 川口市の市立中学校でいじめに遭った元男子生徒(16)が市を提訴した問題で十二日、市議会六月定例会の一般質問で初めてこの問題が取り上げられた。文書開示に関する判断や対応の遅れなどが問われたが、市教育委員会は「係争中のため答えられない」などとする答弁に終始。元生徒の母親は「係争中でも、責任を持って答弁する必要がある」と市教委の対応を批判している。 (森雅貴)

 いじめ問題を質問したのは碇(いかり)康雄市議(川口新風会)。元生徒が市の条例に基づき、いじめに関する記録の開示を請求したが、市教委が一部しか開示しなかった理由などを尋ねた。

 市教委の山田浩一学校教育部長は「当時は第三者委員会の審査中であったことから部分開示とした」と説明。いじめの原因については「係争中のため、法的な場を通して説明していく」と述べるにとどまった。

 また、碇市議は、訴訟で市教委が新たに開示して元生徒に送付したと説明した文書などが、十二日現在も元生徒に届いていない問題で、なぜ文書を直接渡さずに郵送したかも質問。山田部長は「確実に届けるため郵送した」と述べたが、議場からは「手渡しの方が確実だ」とのヤジが飛んだ。

 いじめ防止対策推進法は、いじめに関する調査結果など必要な情報を被害者の児童・生徒と保護者へ適切に提出することを定めている。

 閉会後、元生徒の母親は、情報を出さない市教委の姿勢に不満を示した。これまで市議会で取り上げられなかった点についても「憤りを感じる」とし「いじめ問題の重要性を理解してもらいたい」と話した。

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令和元年6月13日付東京新聞

市教委職員、情報漏らす 川口いじめ 第三者に調査内容

埼玉県川口市の市立中学校の元男子生徒(16)がいじめで不登校になった問題で、市教育委員会の男性職員が元生徒にかかわる情報を第三者の女性に漏らしていたことが十二日、関係者への取材で分かった。職員は本紙の取材に対し、情報を伝えたことを認めており、有識者は「教育公務員として信じられない行為」と問題視している。元生徒は、市がいじめに対して適切に対処しなかったなどとして裁判を起こしている。

女性によると、女性は職員が市教育研究所副所長だった二〇一八年四~十月の間、自分の子どもについて頻繁に相談していた。同年十月に電話で相談している中で、職員が突然、「担当の件ではないが」と前置きし、元生徒側と市教委の間のトラブルについて話し始めたという。これらのやりとりは音声データに残されており、職員は「一生懸命調べた」と発言し、元生徒のいじめへの市教委の対応について報道されていることは間違いだという趣旨を伝えていた。

職員は当初、本紙の取材に「記憶にない。事実なら地方公務員法違反に該当する」との認識を示していた。その後、音声の中で自分の名前が出ている部分があることが分かると、情報を伝えたことを認め「現時点でコメントできない」とした。

元生徒の母親によると、職員が語った内容は「事実と違う」という。「その職員とはその時点まで話したこともない。わざわざ市教委内部で調べ、うそを第三者に告げていたのはショックだ。とても許せない。相当の処分を期待する」と話した。

教育評論家の尾木直樹さんは「市教委の職員としてあきれた行為。市民の教育行政への信頼を失墜させ、不信感を抱かせる。背景や原因を徹底的に調べ、今後、市民に知らせる必要がある」と指摘している。 (森雅貴)

 

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令和元年6月10日神戸新聞NEXT

市尼崎高 全校アンケートで34人「体罰受けた」

市立尼崎高の校舎
市立尼崎高の校舎

 兵庫県尼崎市立尼崎高校の体罰問題で、同市教育委員会は10日、全校生徒955人を対象にしたアンケートで34人が「体罰を受けた」と答えた、と発表した。また保護者へのアンケートで、既に教員の体罰が確認された男子バレーボール部と硬式野球部以外に、四つの部活動で体罰があったとの指摘も上がった。さらに、新たに2人の教員が過去の体罰を認める記述をしたことも分かった。

市教委は、男子バレー部の3年生部員が平手打ちされ鼓膜が破れるけがをした暴行を受け、5月下旬にアンケートを実施。この日の総合教育会議で結果を報告した。生徒は大半の917人、保護者は901人、教員は全70人が回答した。

市教委によると、73人の生徒が「体罰を目撃した」とも回答。教員では既に体罰が認定された男子バレー部の監督(51)とコーチ(28)、硬式野球部のコーチ(25)のほか、2人が体罰を認めた。市教委の松本眞教育長は「男子バレー、硬式野球部を中心に体罰を容認する空気があったと思う。子どもの安全を守る学校として極めて問題だ」と厳しい表情で受け止めた。

保護者が男子バレー部と硬式野球部以外に体罰があると指摘した四つの部活動のうち、三つは生徒のアンケートでも記載があったという。

また全校アンケートとは別に硬式野球部員に体罰の有無を尋ねたところ、回答した部員77人のうち、8割以上の65人が30代男性部長の体罰を「見聞きした」と答えた。一方、部長は市教委に対し「記憶にない」と話しているという。監督の体罰を見聞きしたとする部員も1人いた。

市教委は体罰に関する調査を進める一方、今月中にも再発防止を目的に専門家でつくる「有識者会議」を発足させる方針を示した。(大盛周平)

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令和元年

子どもたちの死、繰り返したくない 動き出した遺族たち

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伶那さんの写真が飾られた祭壇。本を読むことが好きで、中学に進学するのを楽しみにしていた=横浜市

最愛の子を学校事故で突然失い、悲しみに直面する遺族。残された自分たちに何ができるのか。絶望の淵で死を受けとめ、前に向かって歩み出す原動力となったのは、同じ悲劇を繰り返したくないという願いだった。

横浜市の松田容子さん(50)は、小学校の卒業旅行中の2013年2月に亡くなった娘の伶那(れいな)さん(当時12)の死因を調べなかったことを今も悔やんでいる。

長野県のスキー場。宿の前で友人とそり遊びをしていると、突然、「疲れた」と座りこんだ。その後、友人が気づいたときには倒れていた。救急隊が駆けつけたが、心肺停止だった。

学校から連絡を受け、現地に向かった容子さんは、電車の中で医師から「蘇生措置をやめてもいいでしょうか」と電話で告げられた。何とか助けてほしいとすがったが、「これ以上続けても、伶那さんが苦しむだけ」と言われ、夫と相談して承諾した。「まだ現地に着いてもいないのに……」。電車の中で声を出して泣いた。

死亡診断書は「心不全」。伶那さんは大きな病気やけがをしたことはなかった。医師には「死因を調べるには解剖するしかない」と言われたが、別の病院に運ぶ必要があり、すぐにできるか分からないという。夫は「かわいそうだ」と反対した。着の身着のまま家を出ており、下の子を祖父母に預けていたことも気がかりで決断できなかった。

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卒業旅行中に亡くなった伶那さんの遺影。これまで大きなけがや病気をしたことはなかった=横浜市

容子さんが知りたいと思っていた倒れた時の対応について、学校から詳しい説明があったのは半年後。学校は滞在中の自動体外式除細動器(AED)の場所を事前に把握せず、約1キロ離れた別の宿から借りていた。駆けつけた教諭が胸骨圧迫(心臓マッサージ)をしたというが、同行した看護師は「確認できなかった」と述べていた。非常時のマニュアルもなかった。

本当のことが知りたくて、訴訟について弁護士に相談すると、「死因が分からなければ難しい」と断られた。医療記録を複数の医師に見てもらったが特定できない。「死因が分からないままでは、遺族は前に進めない。しかし、死の直後に解剖するか遺族に判断させるのは酷だ」

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長女の伶那さんを突然死で亡くした松田容子さん=横浜市

容子さんは、子どもの死を全数登録し、複数の専門家の検証によって予防につなげる制度が必要だと感じ、法制化を目指す活動に参加している。「Child(チャイルド) Death(デス) Review(レビュー)」と呼ばれ、海外では成果を上げている。国内でも昨年12月に成立した成育基本法で体制の整備が盛り込まれたが、実現への歩みは始まったばかりだ。

事故後、容子さんは心肺蘇生などの救命措置や子どもの安全管理などの資格を取り、学校や保育園などに講師として赴く。その傍ら、遺族としての経験を講演などで語っている。その際、必ずこう伝える。「私がどんなに頑張っても娘を助けることはできない。変えられるのはこれから先のことだけ。未来は変えていける」(北林晃治)

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子どもの安全管理に関するシンポジウムで自身の経験について講演する松田容子さん=東京都千代田区

転倒したゴールの下敷きに

福岡県大川市を流れる筑後川の近くに昨夏、一面のヒマワリ畑ができた。小学校のゴール転倒事故で梅崎晴翔(はると)君(当時10)を亡くした祖父清人さん(69)が、孫の残した種で花を咲かせたいと植えた。この種を事故防止のシンボルに育てようという取り組みがある。

17年1月13日、市立川口小4年だった晴翔君は、体育の授業でサッカーのゴールキーパーをしていた。味方の得点に喜んでハンドボール用ゴールのネットにぶら下がり、転倒したゴールの下敷きになった。文部科学省は13年、転倒防止のために杭などでゴールを地面に固定するよう通知していたが、学校はゴールを固定しておらず、市教育委員会は過失を認めて謝罪した。

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ヒマワリ畑と梅崎清人さん=2018年7月、福岡県大川市

清人さんは、近くに住む晴翔君がよく自転車で遊びに来たこと、風呂で背中を流してくれたことを思い出す。「愛敬があり、走るのも泳ぐのも速かった。サッカーが大好きだった」

事故の1カ月ほど前、晴翔君がヒマワリの種をまいてほしいと持ってきた。最初の夏はつらくて植えられなかった。1年が経ち、「大切な孫が託した種。頑張って増やそう」と思うようになった。昨夏、100平方メートルの畑にまき、できた種を訪れた人に「晴翔と事故を忘れないで」と渡した。

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ヒマワリの種と梅崎清人さん=福岡県大川市

事故は、04年に静岡市の中学校でサッカーゴールが倒れて3年の男子生徒が犠牲になったのと同じ日に起きた。子どもの事故予防に取り組むNPO法人「Safe Kids Japan」は、ゴールの固定を呼びかける日にした。杭や砂袋でゴールを地面に固定した写真を学校に送ってもらいネット上で公開。清人さんからヒマワリの種をもらい、事故防止のシンポジウムの参加者らに贈っている。山中龍宏理事長は「転倒事故がなくなるまで続けたい」と話す。

清人さんは今年も種をまいて、咲いた花を仏壇に供えた。ヒマワリ畑は今月下旬に満開を迎える。「ヒマワリを育てることで、学校の安全に社会が目を向けるきっかけになれば」と願う。(木村健一)

 

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令和元年6月2日サンテレビNEWS

学校の対応について考えるシンポ 学校での事故や事件

学校での事故や事件で子どもを亡くした遺族などが学校側の対応をテーマにしたシンポジウムを2日に兵庫県神戸市内で開きました。

このシンポジウムは学校での事故やいじめ、体罰などで子どもを亡くした遺族などで作る「全国学校事故・事件を語る会」が開いたものです。

2日は会の代表世話人で1994年、当時11歳の長男が担任からの体罰の後に自殺した内海千春さんが「学校が事故・事件に責任を持って対処し、可能な限り遺族との対話を続けていくことが重要」と指摘。

その上で「事実を明らかにし、学校と遺族の対話の土台をつくることが第三者委員会の使命だ」と語りました。

「全国学校事故・事件を語る会」は今後も活動を続けていくということです。

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令和元年5月30日付神戸新聞

市尼崎体罰保護者説明会 謝罪求める声と厳しい指導なくなることへ懸念の声

兵庫県尼崎市立尼崎高校の体罰問題を受け、全校生徒の保護者を対象にした説明会が29日夜、同校であった。桑本廣志校長(58)が謝罪し、市教育委員会が男子バレーボール部の体罰について調査した内容を説明した。

同校では9日、男子バレー部で指導する男性臨時講師(28)の体罰が発覚。部員が10回以上平手打ちされ、一時意識を失って鼓膜が破れるけがをした。18日には硬式野球部でも男性臨時講師(25)による体罰が判明。19日に男子バレー部の保護者向け説明会を開いたが、他の保護者からも要望があり対象を広げた。

同校によると、この日は保護者約400人が参加。保護者からは、男子バレー部の監督(51)に謝罪を求める声が出た。ただ、厳しい指導がなくなるのを懸念する声もあったとしている。母親の一人は取材に「このままでは子どもを通わせられない。切実に体質を変えてほしい」と話した。

一方、女子バスケットボール部で体罰が発覚した西宮市の市立中学校でも29日、保護者説明会があった。ボランティアでコーチを務め、部員2人の尻を蹴った保護者の40代男性について、指導者から外すとの説明があったという。(大盛周平、風斗雅博、小谷千穂、初鹿野俊)

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令和元年

10年前、弟が教師の指導中に自殺 司法修習生の兄 学校の事件・事故で「被害者に寄り添える弁護士に」

中尾さん

山口地裁前で思いを語る司法修習生の中尾基哉さん=山口市で2019年5月12日午後3時24分、樋口岳大撮影

埼玉県内の私立高校で教師から指導を受けている途中に飛び降りて命を絶った男子生徒の兄が今、弁護士を目指して山口県で司法修習している。弟を失って29日で10年。「学校が弟を1人にしなければ、命を絶つことはなかった」と苦しみを抱えてきた兄は「学校に関係する事故や事件の被害者に寄り添える弁護士になりたい」と決意を語る。

 司法修習生の兄は、埼玉県加須(かぞ)市出身の中尾基哉さん(30)。1月から9月までの予定で山口県の裁判所や検察庁、弁護士事務所などで実務を学び、早ければ今年末に埼玉で弁護士登録する。

 中尾さんによると、学校側の説明では、2009年5月29日、高校3年だった弟(当時17歳)は、英語の試験中にメモを見ているのを試験監督の教師に見つかった。教師はメモと答案用紙を取り上げて「こんなことをしてはいけない」と言い、弟は試験が終わるまでの約20分間、自席でうつむいていた。

 試験終了後、教師は弟を3階の教室から2階の職員室に連れて行こうとし、2階に下りたところにいた生活指導主任を呼び止めて事情を説明した。主任は弟がかばんを持っていないのを見て取りに行くよう指示。しかし弟は教室へは行かず、最上階の4階の廊下の窓から飛び降りた。

 「強いショックを受けていたはずの弟を、なぜ1人にしたのか」。中尾さんは強い疑問を感じた。高校ではカンニングが見つかると全科目が0点になる。自責の念を抱えた弟が卒業や進学への不安にも襲われて激しく動揺したことは容易に想像できた。ホームルーム中の教室に1人でかばんを取りに行かせず、教師が代わりに取りに行ったり、付き添ったりする配慮をしていれば「生きていたはずだ」と感じた。

 しかし、中尾さんら遺族に学校側から謝罪はなかった。母はふさぎ込み、仕事も近所付き合いもやめた。苦しんでいた時、提訴のために相談した弁護士に救われる思いがした。

 「学校相手の裁判は勝てない」と何人かに断られ、やっと引き受けてくれたのは東京の弁護士だった。中尾さんたちの話を丁寧に聞き、弟が命を絶つまでに感じていたであろう苦しみにも思いを巡らせ、裁判の書面を作ってくれた。「こんなに人を助けられる仕事があるのか」。中尾さんは弁護士を志した。裁判は学校側と和解した。

 幼い時はけんかもしたが、よく家族でキャンプやスキーなどに出かけ、仲のいい兄弟だった。「兄ちゃん、しっかり頑張れよ」。弟が背中を押してくれている気がする。【樋口岳大】

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令和元年5月24日付東京新聞

前橋・高2女子死亡 県いじめ対策委 遺族要請も委員交代せず

制服がかかったままの部屋=前橋市で

前橋・高2女子死亡1

前橋市の県立勢多農林高2年だった伊藤有紀さん=当時(17)=が2月に自殺したとみられる問題で、県教育委員会が第三者として依頼した県いじめ問題等対策委員会の委員1人について、父親(63)が公平・中立の観点から交代を要請したものの、実現していないことが23日、分かった。文部科学省の「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」は、第三者委による調査の公平・中立性などに対する遺族の要望を「十分に配慮する必要がある」と求めている。 (菅原洋、市川勘太郎)

高校時代に笑顔を見せる伊藤有紀さん=遺族提供

前橋・高2女子死亡2

「県教委の対応に納得できず、不信感が募る。娘を亡くして絶望しているのに、つらさに追い打ちを掛けられた」。父親は目を潤ませながら声を絞りだす。

父親が問題にするのは、五人いる委員のうち一人が桐生市で二〇一〇年に小学六年の女子児童が自殺した問題で、この調査委の委員を務めた事実だ。報告書はいじめが自殺原因の一つと認めながらも、両親から聞き取りせずに「家庭環境などの要因も加わった」と指摘。両親が強く反発した経緯がある。伊藤さんの父親は「人道的な調査ではない。両親から話を聞いていないのに、どうして家庭環境も指摘できるのか」と疑問を投げ掛ける。

父親は県教委の対策委には五人全員に不満がある。委員三人は前身の委員会の設置当初の一一年から委員。うち一人は県の審議会や別の委員会でも長年委員を務める。別の審議会で長年委員を務める人もいる。県の委員ではそれぞれ報酬が出ている。残る委員も県内の公職を務める。

全国では、いじめの第三者調査に対して公平・中立の観点から厳しい批判が続出し、各地で遺族側から第三者委の委員を地元以外から推薦するなどの動きが相次いでいる。

父親は「県から長年報酬を受け取ったり、県などと付き合いがあったりする人が、公平・中立にできるのか」と語気を強めた。

父親は今月上旬に県教委へ委員の交代を電話で求め、十七日に県教委を訪れたが、「特定の委員を除外しない」などと文書で回答があった。県教委の総務課は「桐生の委員会と委員一人が重なる事実を確認したが、父親が求めた事実関係を調査したものの、確認できなかった」と述べた。

県教委は二十二日夜、二回目の対策委を開き、父親から委員交代の要請があった件を報告。本年度をめどに報告書などを出せるように目指す。

三月末に同校による基本調査で一部でいじめがあったと認めたが、父親は「学校は都合のいいことは認めて後は認めない。不十分」と批判している。

 

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