2021年1月25日 付京都新聞

大津いじめ訴訟、元同級生に400万円賠償命令 最高裁が上告退け確定

最高裁の判決を受け、会見する男子生徒の父親(25日午後2時、大津市・滋賀弁護士会館)

最高裁の判決を受け、会見する男子生徒の父親(25日午後2時、大津市・滋賀弁護士会館)

大津市で2011年に市立中2年の男子生徒=当時(13)=が自殺したのは元同級生らによるいじめが原因だとし、遺族が元同級生らに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は25日までに、二審大阪高裁判決を不服とした両親の上告を退ける決定をした。元同級生2人に対して計約400万円の支払いを命じた二審判決が確定した。

元同級生側の賠償額は一審大津地裁判決より大幅な減額となったが、一、二審が認定した「いじめと自殺の因果関係」を支持した形で、遺族側の代理人弁護士によると、いじめによる自殺を一般的に生じうる「通常損害」と認めた判決が最高裁で確定するのは初めて。この自殺問題は、13年のいじめ防止対策推進法施行の契機となった。

最高裁決定を受け、大津市内で会見した父親は「加害者にはこの判決を重く受け止め、今からでも遅くないので、真摯[しんし]に息子に対して犯した罪と向き合い、猛省してもらいたい」と求めた。

二審判決は一審判決を踏まえ、元同級生らの一連の加害行為を「いじめ」と断じた上で、自殺に及ぶことは、社会でも認知され一般的にあり得るとし、元同級生らの損害賠償義務を認定。一方、「両親は家庭環境を適切に整えられず、男子生徒を精神的に支えられなかった」などとして、賠償額を一審判決の計約3750万円から減額した。

一、二審判決によると、男子生徒は11年9月以降、元同級生らに殴打されたり、ハチの死骸を口にのせられたりするなどのいじめ行為を受け、同10月11日、自宅マンションから飛び降り死亡した。

遺族は12年2月、元同級生らと市に約7700万円の損害賠償を求めて提訴。過失責任を認めた市とは15年に和解金1300万円を支払うなどの内容で和解し、分離された元同級生らとの訴訟が続いていた。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

2020年10月13日付NHK大津放送局

大津の中学生いじめ自殺から9年

大津市で、中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺してから、11日で9年になりました。
県内の学校では、いまもいじめ行為が後を絶たず、亡くなった生徒の父親は「行政や学校が手を取り、真剣に対策してほしい」と訴えています。
平成23年10月11日、大津市の中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺してから、11日で9年になりました。
県によりますと、県内の小中学校や高校などで確認されたいじめ行為は、平成30年度は6847件と過去最多になり、いまも、いじめ行為が後を絶ちません。
大津市では、7年前にいじめ対策推進室を設けるなど対策に力を入れてきましたが、今年度からは、いじめ以外の課題にも取り組みたいとしていじめ対策を見直しました。
具体的には、いじめ相談に関わる臨床心理士を4人から3人に減らし、夜間に子どもの相談に乗る専用ダイヤルを廃止しました。
一方で、無料通信アプリLINEを使ったいじめ相談は継続し、市内の公立の小中学校に配置していた、いじめ対策担当の教員は「子ども支援コーディネーター」として、いじめだけではなく、不登校や虐待などの相談にも応じています。
大津市の佐藤健司市長は「いじめは深刻な子どもの人権問題で、引き続き対策に力を注いでいきたい。一方で、不登校や児童虐待などで多くの子どもたちが苦しんでいる実態があり、解決に向けて取り組んでいきたい」とコメントしています。
亡くなった生徒の父親は「いじめは人を死に追い込む恐ろしい行為で、対策の見直しや予算の削減で危機意識が薄れるのではないかと不安がある。いじめを1つでも少なくするために、行政や学校、保護者が手を取り、真剣に対策してほしい」とコメントしています。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

子の死から9年、父親が思い語る 大津の中2いじめ自殺

令和2年10月10日付共同通信

2011年、大津市立中2年の男子生徒=当時(13)=がいじめを苦に自殺して11日で9年となるのを前に、父親(55)が共同通信の取材に応じた。原因究明を求め奔走する中で他の被害者に出会い、助言や専門家につなぐ支援を始めた。活動を支えるのは「同じ思いをする人がもう現れないように」との願いだ。しかし生徒と先生の距離が遠い学校の現状に、懸念は拭えないままという。

11年10月11日、出勤した後、息子はマンションから転落し死亡。学校はいじめの情報を含むアンケートを公表しなかった。12年に加害者らを提訴。一方で被害者の相談に乗り、弁護士につなぐなどの支援を始めた。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

2020年3月/14日付共同通信

大津いじめ訴訟、両親が上告 中2男子生徒自殺

大津市で2011年に市立中2年の男子生徒=当時(13)=が自殺したのはいじめが原因だとして、両親が加害者側の元同級生らに損害賠償を求めた訴訟で、元同級生2人に計約400万円の支払いを命じた大阪高裁判決を不服として、両親が14日までに最高裁に上告した。12日付。  この自殺問題はいじめ防止対策推進法成立のきっかけとなった。  2月27日の高裁判決は一審大津地裁判決と同じく、いじめと自殺の間に因果関係があると認定。一方で「両親は家庭環境を整えることができず、生徒を精神的に支えられなかった」などとして、賠償額を一審判決の計約3750万円から約10分の1に減らした。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

令和元年8月26日付朝日新聞滋賀版

越直美・大津市長に聞く いじめ防止への取り組み

夏休みが終わり、新学期が始まる。でも、いじめや人間関係などに悩み、「学校に行くのがつらい」と感じている子どもらの救いとなる居場所はあるのだろうか。小学生と高校生の時にいじめに遭い、今はいじめ防止の政策を進める側となった大津市の越直美市長(44)に取り組みへの思いなどを聞いた。(山中由睦(よしちか)、新谷千布美)

――市長自身も、子ども時代にいじめを受けた経験があるそうですね

小学3年と高校生の時です。親に相談することもできず、休めない。学校に行くことが苦痛でした。

自分の居場所は小学校の時は家に帰ってから。学年が違う友達がいて、私がいじめられていることを知らないので一緒に遊べました。高校の時はクラスで話す人がいなくて悪口を言われても、授業が終わって所属していた水泳部に行くと違うクラスの友達がいました。放課後になるのが待ち遠しかった。

自分がクラスでいじめられている時、それ以外のコミュニティーがあるということも居場所の一つなんだと思っています。

――「居場所」で、いじめられていることを打ち明けられましたか

言えなかったです。いじめられている人間であるということが、恥ずかしいと思っていたので相談はしませんでした。ただ相談できなくても、いじめを受けていることを知らない友達がそばにいたのは良かったと思います。

――市立中学2年の男子生徒が自殺してから8年。子どもの居場所をつくるため、市はどんな取り組みをしてきましたか

子どもの居場所づくりはとても大事。学校以外にフリースクールをつくるとか、(夏休み明けに)学校に行きたくないと思えば、全然行かなくてもいいと思う。いじめられた子どもの声を聞くと、「学校に行きたいけれど行けない」という子どももいます。いじめた人は学校に行っているのに。加害者は学校に行けて、いじめられた子どもが学校から疎外されてしまうのは絶対におかしい。

行きたいと思った時に行ける場所や教室を、学校内につくる必要があると考えています。

――大津市では市立の55全小中学校に、いじめ担当の教員を配置していますね

担任を持たない「いじめ対策担当教員」を置き、いじめの情報が行き渡るようにしています。2010年度に市内のいじめの認知件数は53件でしたが、昨年度は3648件。いじめの対策担当教員が情報を収集し、それまで見逃していたいじめを見つけられるようになったのは大きな成果です。

保健室も大事な居場所です。保健の先生に「おなかが痛い」って言って会いに行くだけでもいい。学校の中の居場所。大津市は学校に1人ずつだった保健の先生を複数配置し、研修を受けてもらい、「こころとからだの先生」に認定する取り組みを進めています。

――学校の外では、いじめ対策推進室を設置し、相談調査専門員が相談を受ける窓口を設けました

教育委員会以外で相談できる場所をつくるためです。相談調査専門員に臨床心理士や弁護士がおり、自宅や公園など学校以外の場所で子どもから話を聞きます。

ただ相談室に本人が連絡することは、すごく勇気がいることです。子どもたちのコミュニケーションの手段は電話よりSNSに移っています。知らない人にいきなり電話するのはハードルが高いので、17年に無料通信アプリ「LINE」の相談窓口を設けました。

昔と違うのは、今は家に帰ってからもいじめが続くということです。大津市では小学生の5割、中学生の8割がスマートフォンや携帯電話を持っています。学校でのリアルないじめがSNS上でも続いてしまう。家に帰ってから助ける手段として、LINEの相談窓口はSNS上の「居場所」なのかなと思います。

――いじめ対策で足りないと感じていることは

いじめが見つかる件数は増えたけれど、先生がいじめと思っていなかったり、発見してもその後の対応がよくなかったりしたこともあります。

大津市では、いじめの疑いがあれば24時間以内に学校が教育委員会に報告書を提出します。これまでに約1万件の報告書があります。どういう対応だと解決し、逆に重大事態になってしまうのかをAI(人工知能)で分析しています。これから先生が大量退職する時代を迎えます。若い人がたくさん入っても「経験がないからいじめの対応ができない」ということがあってはなりません。

 

いじめなどの主な相談窓口(大津市調べ)

《大津市》

*おおつっこほっとダイヤル

電話0120・025・528

弁護士や臨床心理士らの相談調査専門員が、いじめなどに関する相談に応じる。平日の午前9時~午後5時(火曜日は午後8時まで)。

*おおつ子どもナイトダイヤル

電話077・523・1501

夜間も相談員が対応する。午後5時~翌午前9時。第3日曜日は24時間対応している。

《県》

*こころんだいやる

電話077・524・2030

おおむね30歳くらいまでが対象。午前9時~午後9時。

《県教委》

*いじめで悩む子ども相談員

電話077・567・5404

電話だけでなく、直接会う相談にも応じる。平日の午前9時半~午後6時。

《県警》

*少年課大津少年サポートセンター

電話077・521・5735

少年補導に携わる職員が、いじめや非行などの相談に乗る。平日の午前8時半~午後5時15分。

《滋賀弁護士会》

*こどもの悩みごと110番

電話0120・783・998

弁護士が20歳未満の子どもやその保護者を対象に応じる。水曜日の午後3~5時。

大津いじめ自殺問題 大津市立中学2年の男子生徒(当時13)が2011年10月に自殺。市教育委員会はいじめと自殺との因果関係は不明として調査を終えたが、生徒の両親が12年2月に市や元同級生3人らに損害賠償を求めて提訴(3人のうち2人が賠償命令を受けたが控訴し、大阪高裁で係争中)。一方で市の第三者調査委員会が13年1月に「(元同級生2人の)いじめが

自殺の直接的要因」とする報告書をまとめたことを受け、市は15年3月、責任を認めて両親と和解した。この問題をきっかけに「いじめ防止対策推進法」がつくられ、13年9月に施行された。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年4月20日 京都新聞

「子どもの命優先の法改正を」 被害生徒の父ら意見書提出

学校でのいじめ被害を受けた児童生徒の家族有志と大津市は19日、いじめ防止対策推進法の改正に向けて議論している超党派国会議員勉強会(座長・馳浩元文部科学相)に対し、いじめを根絶して子どもの命を守る同法の趣旨をより強める方向で法改正を急ぐよう求める意見書を提出した。

2013年の同法施行以降もいじめ事案が相次いでいることを受け、超党派勉強会は被害者家族の意見も聞きながら改正法の条文案づくりを進めている。昨年12月にまとめられた条文案は教職員によるいじめの放置・助長を明確に禁じ、懲戒処分の対象とすることなどを盛り込んでいたが、今月に示された座長試案では懲戒規定が削除された。

同勉強会事務局次長の小西洋之参院議員らに意見書を提出した後、文部科学省で被害者家族らが会見した。11年にいじめを苦に自殺した大津市の男子中学生=当時(13)=の父親(53)

は、懲戒規定の削除について「教師が萎縮すると考えたのだろうが、学校がいじめ防止対策をしっかり決めれば現場の教師に責任を押しつけられることがなくなる。大人の都合ではなく、子どもの命を優先した法改正を求める」と強調した。大津市役所で会見した越直美市長も「学校現場で子どもの命を守ることを第一に考え、事件の反省に立った大津の取り組みを生かしてほしい」と述べた。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年3月7日付京都新聞

大津いじめ中2自殺損賠訴訟、元同級生の1人が控訴

大津市で2011年に市立中2年の男子生徒=当時(13)=が自殺したのは元同級生によるいじめが原因として、遺族が元同級生3人らに計約3800万円の損害賠償を求めた訴訟で、約3750万円の支払いを命じられた元同級生2人のうち1人が6日、大津地裁の判決を不服として大阪高裁に控訴した。

2月19日の地裁判決は、いじめと自殺の因果関係を明確に認めた上、悪質ないじめが自殺に結び付くことは一般的に予見可能であるとの異例の司法判断を下した。

遺族側は控訴しておらず、「誠に残念。判決を真摯に受け止めて自らの責任と向き合っていただきたかった」とコメントした。

 

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年2月21日付神戸新聞社説

大津いじめ訴訟 加害者の重い責任認めた

いじめが自殺の原因と明確に認め、多くの被害者や遺族に救済の道を示した判決といえる。

大津市の中2男子いじめ自殺訴訟で、大津地裁は加害者側の元同級生2人に、ほぼ請求通り計約3750万円の支払いを命じた。

2012年に遺族が、元同級生と市に賠償を求めて提訴した。その後、市の第三者委員会がいじめと自殺の因果関係を認定し、過失責任を認めた市は遺族と15年に和解した。

一方、元同級生側は「遊びの延長だった」と反論し、訴訟が続いていた。

判決は、元同級生2人が顔面に落書きしたり、蹴ったりする暴行など執拗ないじめ行為があったことを認定した。「いじる」「いじられる」という上下関係の固定化などから、絶望感を抱き、

男子生徒は死にたいと願うように至ったと指摘した。

いじめ自殺を巡る損害賠償訴訟では、加害者側が自殺を予見できたとする立証が原告側には高いハードルだった。

判決の根拠となったのは、「息子だけの裁判ではない」との思いで闘い続けた遺族側が提出した証拠だった。地裁は全校生アンケートなど約500点を丹念に分析し、自殺は予見できる事態だった、と結論付けた。

「遊び」や「いじめと思っていない」は加害者側がよく使う表現だが、繰り返された行為自体の悪質性を基に重い責任を認めたのは画期的といえる。

大津のいじめ自殺問題は、深刻ないじめ被害への対策を社会が求められる契機となった。いじめを定義した議員立法の「いじめ防止対策推進法」成立にもつながった。

全国の学校でのいじめ認知件数が急激に増えるなど、積極的な状況把握への意識が根付いた学校が増えたのは確かだ。

しかし、いじめを理由にした自殺は後を絶たず、学校や教育委員会の不適切な対応もいまだに多い。遺族側への情報開示や調査する機関の独立性は大きな課題として残っている。

いじめの危険性に警鐘を鳴らした判決である。学校関係者は異変を見逃さないこと、被害者の目線でとらえることの大切さを改めて認識し、いじめの根絶を実現しなければならない。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年2月20日付京都新聞

中2自殺、元同級生側に賠償命令 大津地裁「いじめが原因

  大津市で2011年10月、中学2年の男子生徒=当時(15)=が自殺したのは元同級生によるいじめが原因として、遺族が元同級生3人と保護者に計3800万円の損害賠償を求めた訴訟で、大津地裁(西岡繁靖裁判長)は19日、元同級生2人に約3700万円の賠償を命じる判決を言い渡した。西岡裁判長は「いじめが自殺の原因で、予見可能性はあった」と述べた。もう一人の同級生について判決は、「一体となって関与していたとまではいえない」として、賠償を命じなかった。

裁判で遺族側は、男子生徒が自殺の前日に「ぼく死にます」との電話を元同級生にかけていた経緯などから、いじめを苦に自死したと主張。一方、元同級生側は男子生徒に馬乗りになるなど一部の行為自体は認めたものの、いじめではなく、「遊びだった」などと反論。いじめと自殺の因果関係が大きな争点になった。

訴訟は、遺族が12年2月、大津市や元同級生3人、保護者を相手取り、計約7700万円の損害賠償を求めて提訴。当初、市側は争う姿勢を示したが、後に自殺との因果関係や過失責任を認めたため、15年に和解が成立している。

大津いじめ事件は、いじめの問題を社会に広く投げかけ、学校に常設の対策組織を置くことを明記した「いじめ防止対策推進法」が成立するきっかけとなった。

「いじめが危険行為と認定された」中2自殺賠償判決で原告父が涙

男子生徒の自殺から、7年4カ月余り。19日の大津地裁判決は、いじめを自殺の原因と認定しただけでなく、いじめが「被害者を自死に追い詰める」という危険な行為であることを司法が認めた。

弁護士は「いじめ自殺を二度と繰り返さないという司法のメッセージだ」と高く評価し、父親は「これまでのいじめ訴訟を大きく前進させる。ここまでの画期的判決が出るとは」と涙を流した。

この日、男子生徒の父親と母親は、法廷で並んで判決を聞いた。ほほえむ息子の遺影をハンカチに包み、手元にしのばせていた。

「男子生徒を格下と位置づけ、暴行がエスカレートしていった」「自殺の主たる原因はいじめ行為や関係性にあった」。判決が読み上げられるほどに、父親は涙をこらえきれない。「原因を家庭に求めることはできない」。うつむいていた母親もハンカチで目元を覆った。公判が終わっても父親はしばらく立ち上がれず、おえつした。

なぜ、自ら命を絶ってしまったんだ-。息子の自殺の直後、父親は分からなかった。ひょうきんで、友達も多かった男子生徒。もしかして、自分の子育てに至らない点があったのか。思い悩んだ。

しかし、中学校が実施したアンケートで、同級生に殴られ、ハチの死骸を食べさせられ、教科書を破られるなどのいじめを受けていたと知った。でも、学校はいじめが自殺の原因だと認めない。

「何とか息子の名誉を回復させてあげたい」。両親は大津地裁に提訴した。裁判は丸7年、審理は33回に及んだ。

判決後の会見で、父親と遺族側代理人の石田達也弁護士は「いじめは、一般的に人を死に追い込む危険な行為だと初めて認められた。大きな一歩だ」と何度も強調した。いじめ自殺の裁判の多くは、全国で加害者側の自殺の予見性を否定しており、遺族は悔しい思いを続けていた。

7年間、父親は全国のいじめ被害者や遺族との交流を重ねてきた。全国から応援の手紙を何通も受け取った。今も苦しむ人がこんなに多くいるのか。息子の名誉を回復させるために始めた裁判は、いつしか「全国のいじめ被害にあった多くの子どもたちと遺族のため」に変わっていった。

判決後、息子への思いを聞かれた父親は「息子は、きょうの判決を勝ち取るために生まれてきたのかな」と声を震わせた。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

平成31年2月20日付京都新聞社説

大津いじめ判決 悲劇繰り返さぬ社会に

  大津市の中学2年の男子生徒がいじめを苦に自殺した問題で、大津地裁はいじめと自殺の因果関係を認め、元同級生2人に約3700万円の賠償を命じた。

遺族の提訴から7年余り。問題は社会に大きな波紋を広げ、いじめ防止対策推進法成立のきっかけとなった。いじめと自殺の因果関係が認められる例はまれだという。

判決を重く受け止めたい。命令を受けたのは元同級生だが、悲劇を繰り返さない社会をどうつくるのか、厳しく問われているのは大人である。

判決は「自殺はいじめが原因で、予見可能だった」とした。「友人関係を上下関係に変容させて固定化し、男子生徒を精神的に追い詰めた」と判断。いじめではなく遊びの認識だったという元同級生側の主張を退けた。

近年は「いじり」と呼ばれる行為があり、外部から見るといじめとの境界があいまいだ。被害者は笑っていても、内面では深く傷ついているともいわれる。

当事者の子どもはもちろん、学校や保護者ももっと被害に敏感になるべきだ。判決はそう問いかけているようにも思える。

大津の問題を受けて、さまざまないじめ対策が取られるようになったが、いじめを苦にした自殺は後を絶たない。

全国の小中学校、特別支援学校の2017年度のいじめ認知件数は過去最多の41万4378件だった。被害の掘り起こしが進んでいるともいえるが、ようやく実態把握の緒に就いたとみるべきだ。

今回の問題では学校・市教委の隠蔽体質が批判を受けた。重大ないじめの調査のため全国の教委が設置する第三者委員会についても、文部科学省は「特別な事情がない限り、調査結果は公表が原則」との立場だが、報告書が公表されないケースが少なくない。

具体的な事例から学ばないと、教訓は生かせない。子どもを守ることより、組織防衛や事なかれ主義が前に出る現状を変えない限り、いじめは根絶できないと認識するべきだ。

施行から5年が過ぎたいじめ防止対策推進法は、超党派の国会議員が改正に向けた議論を進めている。より実効性のある対策が求められる。

近年はパワハラやセクハラなど個人を傷つける事案に、社会が厳しい目を向けるようになった。体罰や虐待も含め、子どもを取り巻く環境だけが旧態依然であってはならない。今回の判決を、いじめをなくす契機としたい。

シェアShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn