平成31年2月28日付朝日新聞西部本社版

自殺生徒は「学習障害」「能力異常に低い」教職員が発言

山口県周南市で2016年、県立高校2年の男子生徒(当時17)が自殺したことをめぐり、教職員が県の調査検証委員会の聞き取り調査に対し、「いじられて嬉しい人もいる」などと発言していたことがわかった。生徒の両親は27日、記者会見し発言を批判。県教育委員会に、いじめ自殺に関係した教員の処分や再発防止などを申し入れた。

検証委は昨年5~11月、教職員20人にいじめの有無について聞き取り調査を実施。今月5日に公表した報告書とともに、調査概要をまとめた非公表の文書を遺族に渡していた。

両親によると、非公表の文書には複数の教職員が聞き取り調査に「(からかいや揶揄などで)いじられて嬉しいという人もいる」「(男子生徒は)学習障害」「能力が異常に低い」「(いじめに)大きな問題はない」などと発言したと記載されていた。

検証委は「いじりと呼ばれていた行為は、いじめにあたる」と報告書で認定した。両親は会見で、こうした発言について「激しい憤りと強い疑問を感じずにはいられない」と批判。母親は「同じことが繰り返されないよう、県教委は学校を指導してほしい」と語った。

両親はこの日、いじめが自殺の主な要因と認定した検証委の報告書を踏まえ、「いじり」は「いじめ」だとの認識を学校現場に徹底▽教員向けにいじめ防止の研修を実施し、経過と成果を遺族に報告▽いじめ自殺に関係した教員の処分――などを求める申入書を県教委に提出した。

県教委学校安全・体育課の原井進課長は両親に対し、いじめ自殺を防げなかったことを「心からおわびを申し上げます」と初めて謝罪。申入書の内容については「検討し、丁寧に対応したい」と話した。(棚橋咲月)

県の調査検証委員会が実施した聞き取り調査に対する教職員の主な発言

・「いじられて嬉しいという人もいる」

・「(自殺した生徒は)学習障害」「異常に字が汚い」「能力が異常に低い」

・「(携帯用ゲーム)ポケモンGOがすごく流行っていた。ゲームも好きそうだったので、それが原因だった」

・「いじられながらも相手をしてもらった方がいい」

・「(遺族の)お父さんは今回大きな『いじめ』があったと思っているかもしれないから、これを説得するのは難しいかもしれないけど、大きな問題はない」

・「靴下の色を言われてむかつく人もいるし、何とも思わない人もいる」

・「自分たちはいじりを行っていた生徒も知っているが、みんな良い子」

※遺族が山口県教委に提出した申入書から

「見殺しにされた…」自殺生徒の両親、教職員発言に憤慨

山口県周南市で2016年7月に県立高校2年の男子生徒(当時17)が自殺したことについて、県の調査検証委員会の聞き取りに対する教員らの発言が明らかになった。27日に県庁で記者会見した遺族の両親は教員らのいじめに関する認識に対して怒りを口にし、関係した教員らの処分を県教育委員会に求めた。

「傷つき、苦しめられた息子を見殺しにしたのと同じ」「激しい怒りを感じる」。県教委への申し入れ後、記者会見した両親は教職員らの発言について、厳しい言葉で批判した。

今回明らかになったのは、県の検証委が昨年5~11月に教職員20人に聞き取った内容をまとめたもの。男子生徒に対する、いじめやいじりについて、「いじられながらも相手をしてもらった方がいい」「(いじりをした生徒も)みんな良い子」などといった教員らの発言が、両親に示された聞き取り調査の概要に記されていた。

特に両親が指摘したのは、亡くなった男子生徒について教員が「能力が異常に低い」「学習障害」「やりとりもかみ合わない」「質問に対してくどくど言い訳をする」とした発言。母親は「一方的

に人格を否定する内容に、憤りを超えた強い感情を遺族として抱く」と批判し、「真実から目を背ける教員に子どもを指導する資格などない」と訴えた。

今回の発言には「どこまで本人が傷ついていたかがわからない。体調とかもあると思う」「進路は悩んでいたと思う」とするものもあった。これらについて、両親は「責任転嫁するかのような発言には強い憤りを覚える」とし、関係教員の処分を強く求めた。

両親はこの日、県教委学校安全・体育課の原井進課長らと面会した。原井課長は自殺を防げなかったことを初めて謝罪し、「真摯(しんし)に受け止め、丁寧に対応することで再発防止に全力で取り組む」と話した。

いじめの有無を調べていた県の検証委は今月5日、報告書を公表。男子生徒に対し、LINEメッセージによる仲間はずれなど18項目のいじめを認定し、自殺の主要因になったと結論づけた。

教職員からも部活動の押しつけなど5項目の「いじめに類する行為」があったとした。(棚橋咲月、井上怜)

 

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平成31年2月6日付朝日新聞

「オマエの荷物全部池に捨てる」 高2自殺でいじめ認定

山口興2自殺

山口県の村岡嗣政知事(左)に報告書を手渡す、県いじめ調査検証委員会の堂野佐俊委員長=2019年2月5日、山口県庁

山口県周南市で2016年、県立高校2年の男子生徒(当時17)が自殺し、いじめの有無を調べていた調査検証委員会は5日、報告書を公表した。LINEメッセージによる仲間外れなど、いじめがあったと認定し、自殺に影響があったと結論づけた。

男子生徒は16年7月の未明、駅構内で貨物列車にはねられ死亡した。スマホに「オマエの荷物全部池に捨てる」「顧問に退部届けもらって」というメッセージが残っていた。

報告書などによると、テニス部に所属していた男子生徒は同月、野球部顧問に「助っ人」を頼まれて入部。テニス部の練習に十分参加できず、部のLINEグループから強制的に退会させられ、部室の荷物引き取りを求められた。

検証委はLINEの強制退会について「つながりを重視する現代の高校生にとって残酷な行為の一つ」として、いじめと認定した。

検証委は教職員らの聞き取りを実施。別の生徒から身体的特徴を揶揄したあだ名をつけられ、リボンを頭に付けられてスマホで撮影されるなど計18項目のいじめを認定した。教職員も野球部の雑用を押しつけるなど「いじめに類する行為」があったと指摘した。

そのうえで「教職員による十分な配慮と対応があれば、自死は防げた可能性があった」と指摘した。

県教委は16年8月に第三者委を設置し、17年11月に「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」とする報告書を公表。遺族が再調査を求め、検証委が調べていた。

(井上怜、棚橋咲月)

 

男子生徒のLINEに残された主なメッセージ

(テニス部員から)

「部室にあるオマエの荷物全部池に捨てる」

「顧問に退部届けもらって」

「さよなら」

「しねや」

(亡くなる直前、友人と)

「たすけて」

「野球部には行かんって野球部顧問にいっとって」

「なんか俺もう無理やわ」

「なにが?」(友人)

「いろいろ」

「俺もう無理かも」

「どうしたん」(別の友人)

※報告書と遺族への取材から

 

男子生徒の自殺をめぐる主な経緯

2016年7月 山口県周南市で県立高校2年の男子生徒(当時17)が列車にはねられ死亡

8月 県いじめ問題調査委員会が調査開始

17年8月 男子生徒の遺族が調査委にいじめと自殺の因果関係を明確に盛り込むよう求める意見書を提出

11月 調査委が報告書を公表。「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」と結論

12月 遺族が県に再調査申し入れ

18年2月 調査検証委員会が初会合

19年2月 検証委が調査報告書を公表

 

◆調査検証委員会の報告書の骨子

・「仲間はずれ」など、学校生活での多くの要因が複雑に絡み合い相乗的に作用したことが自死に大きく影響した

・雑用の押し付けや、全校生徒の前で名前を呼び周囲が笑うなど5項目で教職員からの「いじめに類する行為」があった

・女子生徒の制服のリボンを頭に付けられてスマホで撮影されるなど18項目を「いじめ」と認定

・教職員による十分な配慮と対応があれば、自死は防げた可能性があった

 いじめ認定へ家族3人3カ月、執念のLINEロック解除

いじめ認定へ

男子生徒が通学に使っていたリュックサック(手前)と部活用のバッグ。部屋はずっとそのままにしてある=山口県周南市、棚橋咲月撮影

LINE

山口県周南市で県立高校2年の男子生徒(当時17)が2016年に自殺し、調査検証委員会が5日、いじめによる自殺と認定した。「息子は生きたかったはず」。生徒の母親は話す。

16年7月、教員の要請でテニス部と野球部を掛け持ちになると、息子は疲れ、いらだつようになった。亡くなる2日前、「何でそんな顔しちょるん」と聞くと「俺にもいろいろあるんじゃあ」と言い返された。これが最後の会話となった。

「人懐っこくて、曲がったことが嫌いな自慢の息子」。追い詰められていたことになぜ気づけなかったのか。高校に問い合わせると「変わったところはなかった」と告げられた。

息子が残したスマホのLINEアプリ。閲覧には4桁のパスコードのロック解除が必要だった。「0000」から家族3人で順番に試し、途中であきらめかけた時もあったが、3カ月かけて解除。

履歴に友人に送ったメッセージが残っていた。「なんか俺もう無理やわ」「なにが?」「いろいろ」

履歴をたどると、野球部の練習でできた手マメの写真を送って「つらい」と漏らし、足が遠のいたテニス部の部員から「しね」「オマエの荷物全部池に捨てる」と書き込まれていた。テニス

部員のLINEグループからの強制退会の記録も残っていた。通信記録は県の第三者委に提供した。

今も息子の死を受け入れられず、部屋は当時のまま。仏壇は息子が好きだった抹茶入りのお菓子やパンダのグッズで埋め尽くされる。食事は必ず息子の分もつくる。「報告書を必ず再発防止につなげてほしい。学校は子どものどんなサインも見逃さないでほしい」(棚橋咲月)

 

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平成31年2月6日付朝日新聞西部本社版夕刊

教員によるいじめに「最も怒り」 高2自殺、両親が会見

山口県周南市で2016年、県立高校2年の男子生徒(当時17)が自殺したのは、いじめが主な要因だったとする県の調査検証委員会の報告書が公表されたのを受け、男子生徒の両親が6日会見した。父親は「学校の対応がきちんとしていれば息子は亡くならずにすんだ。報告書を重く受け止めて」と訴えた。

男子生徒は16年7月、駅構内で貨物列車にはねられ死亡した。いじめの有無を調べていた県の調査検証委員会は、LINEメッセージによる仲間はずれなどのいじめや、教職員によるいじめに類する行為があったと認定し、自殺の主要な要因になったと結論づけた。

会見に臨んだ父親は時折声を震わせながら、「最も驚き、怒りを感じたのは教員によるいじめ。子どもたちへの接し方をいま一度問い直してほしい」と要望した。母親は「報告書が出て終わりではない。再発防止に向けてどう行動に移していただけるか見つめていきたい」と話した。(棚橋咲月、藤牧幸一)

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平成31年2月5日付東京新聞夕刊

山口高2自殺 教職員の「いじめ」認定 雑用押し付けなど

山口県周南市で二〇一六年、県立高二年の男子生徒が自殺した問題で「県いじめ調査検証委員会」(委員長・堂野佐俊(どうのさとし)山口学芸大教授)が同級生からのいじめがあったと認定し、教職員も雑用を押し付けるなどの「いじめに類する行為」をしていたと認めた報告書をまとめたことが五日、分かった。検証委は同日、村岡嗣政知事に報告書を手渡した。

午後に概要を公表し説明する。

一三年成立のいじめ防止対策推進法は生徒の行為のみをいじめと定義し、教職員は含まない。だが検証委は部活顧問ら教職員が関与した五つの事例について、男子生徒のストレス要因になったとしていじめに類する行為と判断した。遺族側代理人の石田達也弁護士は「異例の認定で学校の責任は重い」と話した。

報告書によると、五つの事例は(1)全校生徒の前で名前を呼んだ(2)雑用を押し付けた(3)試験中に「ちゃんとやったんか」と話し掛けた(4)対応に困るようなことを言った(5)不必要に

名前を連呼した。

男子生徒がストレスを感じたと判断した理由として、全校生徒の前で名前を呼んだことに関し「ツイッターへの投稿やテストの問題用紙に、名前を呼ばれることは恥ずかしく嫌だったと主張している」と指摘。雑用の押し付けについては「嫌だと友人に伝えており、理不尽さや負担を感じていたと考えられる」とした。

検証委は報告書で教職員の行為に他の生徒が同調し、次のいじめを生み出す端緒となる可能性があると強調。適切ないじめ対策と部活動運営、教職員による十分な配慮と対応があれば、自殺を防ぎ得た可能性があると結論付けた。

山口県光市の県立高に在学していた男子生徒は一六年七月、周南市の駅で貨物列車にはねられ死亡。県教育委員会は一七年十一月、他の生徒からのいじめがあったと認めた第三者による調査部会の報告書を公表した。遺族側が再調査を求め、県常設の検証委が同級生や教職員などを聞き取りした。

検証委は報告書で他の生徒からのいじめについて、調査部会が認めなかったものも含め十八事例を認定した。

 ◆教員のいじめも規定を

<教育評論家で法政大特任教授の尾木直樹さんの話> 教員の「いじめ」に踏み込んだ画期的な報告書で知る限り例はない。できるだけエピソードを取り上げストレスを検証したのは緻密で丁寧。一つ一つの事例は体罰より軽く見え、他人からは大したことではないと思えるかもしれないが、被害者の生徒にとっては深刻ないじめだ。指導する立場の教員がふざけたり、いじったりすることでいじめにつながっており、生徒との距離感が問われている。いじめ防止対策推進法にも、教員によるいじめの規定を盛り込むべきではないか。

 

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平成30年2月8日朝日新聞

山口・高2自殺 県再調査の人選、遺族が反発

山口県周南市で2016年7月、県立高校2年の男子生徒(当時17歳)が自殺した問題で、再調査をすることになった県の第三者委員会の人選に遺族が反発を強めている。遺族側は県とのしがらみがない委員らによる調査を求めてきたが、県は常設の第三者委で週内にも調査を始める意向だ。いじめが起きた時のために第三者委を常設する自治体は多いが、被害者側が不信感を抱くケースは珍しくなく、専門家は対応の必要性を指摘する。【土田暁彦】

男子生徒の自殺については、県教委の第三者委がいったん調査したが、遺族は、いじめと自殺の因果関係や部活動での顧問の指導に関する調査が不十分だったとして再調査を要請。遺族側は、委員長の大学教授ら複数の委員が県などと雇用関係にあったことなどで不信感を強めていた。

こうした経緯も踏まえ、昨年12月に遺族と面会した村岡嗣政知事は「遺族の気持ちにしっかり寄り添いたい」として、県教委ではなく、県の知事部局に設置する第三者委で再調査することを決めた。

県は「いじめ問題に迅速に対応するため」として、条例で常設の第三者委を設置しており、県内の大学教授や弁護士ら計5人の委員を任命している。

再調査はこの委員会に委ねることにした。

これに対し、遺族側は、遺族が推薦する県外の団体を通じて委員を新たに選ぶよう要望。県は「新たな委員会を設置したり、委員を代えたりするのは迅速な対応という第三者委の趣旨に反する」とし、新たな委員を加えることも、条例で「委員は5人以内」と定めているため「条例改正が必要で時間がかかる」と難色を示している。

男子生徒の同級生の卒業も今春に迫り、生徒の母親は「同級生への聞き取りだけでも早くしてほしいが、常設の第三者委で十分な調査ができるのか不安がある」と話している。

 

福島、奈良では県外委員

いじめ防止対策推進法に基づく国のいじめ重大事態調査ガイドライン(2017年3月)は、調査組織の構成や人選について遺族から要望がある場合、「必要ならば調整を行う」と明記している。山口県のように第三者委を常設しても、「臨時委員」や「専門委員」などを置くことで、遺族の意向を反映させたケースもある。

福島県は条例で「臨時委員を置くことができる」と規定している。15年9月に県立高2年の女子生徒が自殺した問題では、「公平性を担保するため県外の専門家を入れてほしい」との遺族の要望を受け、宮城県の弁護士ら2人を臨時委員に加えて再調査を実施。部活動でのいじめと自殺との因果関係を認め、結論が覆った。

15年12月に奈良県立高1年の男子生徒が校舎から転落死した事案では、大阪府などの弁護士ら3人を条例上の専門委員として加え、「いじめや学校からの指導で受けた心身的苦痛によって自殺した」と認定した。

福島、奈良両県のケースで遺族側代理人を務め、いじめ調査に詳しい石田達也弁護士(滋賀弁護士会)は「臨時委員らの役割は常設の第三者委の調査をチェックすることにある。(臨時委員などの規定がない)山口県の条例は硬直的で、遺族の意向を調整する余地がない」と指摘している。【土田暁彦】

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平成29年12月28日共同通信

山口の高2男子自殺、再調査決定 県知事が遺族に伝達

山口県周南市で昨年7月、県立高2年の男子生徒が自殺した問題で、村岡嗣政知事は27日、いじめが原因だったかどうかの再調査を実施する方針を決め、両親に伝えたと明らかにした。県庁で両親と面会後、記者団に語った。

県教育委員会は11月、他の生徒からのいじめがあったと認めたが「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」とする第三者委員会の調査報告書を公表。遺族側はいじめが原因として今月12日、知事宛ての再調査の要望書を送付した。要望書では第三者委の調査は不十分で、委員の人選も問題などと指摘している。

 自殺した男子生徒の両親から要望書を受け取る山口県の村岡嗣政知事=27日午前、山口県庁
 周南知事再調査
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平成29年11月22日毎日新聞
周南いじめ自殺 部活指導の適否、第三者委が判断放棄

周南いじめ
高校2年生の自殺事案を検証した最終報告書について記者会見する第三者委の委員長、田辺山口大教授(左から2人目)ら
=山口市の県庁で2017年11月21日午後1時2分、土田暁彦撮影

 山口県周南市で昨年7月、県立高校2年の男子生徒(当時17歳)が自殺した問題で、県教委設置の第三者委員会(委員長、田辺敏明山口大教育学部教授)は21日、記者会見し、生徒が自殺の8日前から参加していた野球部の練習で、顧問の指導が適切だったかについて、県教委に判断を委ねる方針を示した。遺族らは「第三者委の責務を放棄している」などと反発している。
 第三者委は記者会見で最終報告書の概要版(21ページ)のみを公表。本体の報告書(183ページ)は「生徒への聞き取りが、公表を前提にしたものでなかった」として非公表とした。
 毎日新聞が独自に入手した最終報告書は、学校生活で一部にいじめがあったと認定し、野球部での練習もストレス要因に
なったとした。一方、野球部の詳しい練習内容には踏み込まないまま「練習メニューに加減がなされていた」などの顧問の
主張を載せ、顧問の指導について「練習における配慮が十分だったか検討の余地がある」と記載するにとどめている。
 会見で、顧問の指導の適切さを判断しなかったことについて田辺委員長は「運動部の練習が適切なのか客観的な基準が分からない」と述べ、県教委に判断を任せる意向を示した。
 遺族は「顧問の指導を含む教員の対応について第三者委の調査が不十分」として、村岡嗣政知事に第三者委の構成員を代えるなどして再調査するよう要望する意向だ。
 いじめ調査に詳しい野口善國弁護士(兵庫県弁護士会)は「第三者委は顧問の言い分をうのみにせず、別の教員や生徒の
証言に照らして事実認定すべきだ」と指摘。また、「学校事故事件遺族連絡会」世話人の山田優美子さん(48)は「そもそも身内の県教委では信頼できないから第三者委を設置したはずだ。あくまで県教委は調査される側であり、県教委に判断を
委ねるのは見当違いで、第三者委の責務を放棄している」と話している。【土田暁彦、祝部幹雄】
 ◆最終報告書の骨子
・男子生徒は学校生活で日常的にからかわれるなど“いじり”を受け、一部はいじめに該当する。
・生徒は野球部の顧問に頼まれ、練習に参加。元々所属していたテニス部員から無料通信アプリ「LINE(ライン)」に
「部室の荷物を捨てる」などと書き込まれたのは、いじめに該当し、両部の顧問らは連携不足があった。
・個々のいじめや“いじり”は、多数あるストレス要因の一つで、一つ一つの影響は少ない。いじめのみを自殺の原因と
考えることはできない。

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平成29年11月12日毎日新聞
山口高2自殺 学校責任触れず いじめ一部認定 最終報告

山口県周南市で昨年7月、県立高校2年の男子生徒(当時17歳)が自殺した問題で、県教委設置の第三者委員会がまとめた最終報告書を、毎日新聞が独自に入手した。生徒が学校生活で日常的に“いじり”を受けるなどしていたとし、一部にいじめもあったと認定。テニス部員なのに頼まれて参加した野球部での無理な練習もストレス要因になったとしたが、教諭の配慮不足など学校側の責任に触れておらず、遺族側は再調査を求めることも検討する。
第三者委の委員長、田辺敏明・山口大教育学部教授ら委員2人と県教委の担当者2人が11日、遺族宅を訪問。今月2日に手渡している最終報告書について説明したが、遺族によると生徒の自殺に対して県教委からの謝罪はなかった。報告書を巡っては、県教委が「報道機関などに提供しない」とする「誓約書」の署名を求め、遺族側が反発していたが、県教委はこの日、改めて署名を求めた。遺族側は応じなかった。
報告書によると、生徒は教室や部活動で日常的にやゆされるなどし、生徒を「いじられキャラ」と見ていた教諭もいた。
ところが教諭らは「それで人間関係が保たれている」などと問題視せず、中には「私もいじっていたが寄ってきた」と話す教諭もいた。しかし、生徒は「とても恥ずかしい」とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に書き込んでいた。
部員数が少ない野球部の顧問教諭から「助っ人」を頼まれ練習に参加すると、テニス部員から一方的に無料通信アプリ「LINE(ライン)」のグループを退会させられ、部室の荷物を「早く持ってけ」などと伝えられた。これらはいじめに当たると認定された。しかし、報告書は「友人関係が壊れたわけでなく、ほころびた」とし、両部の顧問の対応についても、他の部員に転部のいきさつを説明しないなど連携不足があったと指摘するにとどめた。
生徒は野球部の練習についても悩み、SNSに手の指の皮がむけた写真とともに野球部の練習がつらいことを書き込んでいた。
生徒が顧問とは別の教諭らに手のまめを見せ「眠れない」などと訴えたが、教諭らは「自分で決めたことだ、頑張れ」徐々に慣れる」と応じただけだった。
報告書はこれら複数のストレス要因を指摘した上で「いじめのみを自殺の要因と考えることはできない」と結論づけ、自殺の原因を特定しなかった。また、生徒の訴えなどを見過ごした教諭や学校の責任についても言及しなかった。
遺族は説明に訪れた第三者委の委員に対し「自死は教諭の配慮不足といじめが原因と考えている。報告書に記載してほしい」と求めたが、委員は「それはできない」とした。遺族は生徒の死後、「1日200~300本バットを振らせた」と語った野球部顧問の指導についても調査するよう要望していたが、委員は「いじめ問題調査委員会だから記載は控えた。別の部署が検討する」と答えたという。【土田暁彦】

顧問らの不手際で居場所なくしたのでは
元教師で「全国学校事故・事件を語る会」代表世話人の内海千春さんの話 転部を巡る顧問らの不手際で生徒は居場所を
なくしたのではないか。いじめがエスカレートする潜在的な状況を教諭らが放置した問題があり、顧問の指導や生徒との
関わり方も調べなければ、生徒が亡くなった理由をゆがめる。

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平成29年7月6日毎日新聞
山口・高2自殺 「知らぬ間に調査委」遺族、公平性に疑念

山口県周南市で昨年7月26日、県立高2年の男子生徒(当時17歳)が自ら命を絶った。生徒は「助っ人」として参加した野球部の練習のつらさを訴えていたほか、スマートフォンには元々の部の生徒からのいじめとみられるメッセージが残っていた。自殺の背景に学校の対応不足を疑う遺族は、県教委が遺族と詳しい協議をしないまま調査を進めたことにも不信感を抱いており、命日を前に「公正に調査してほしい」と訴えた。【樋口岳大、土田暁彦】
生徒は昨年7月26日午前1時10分ごろ、同市のJR駅構内で列車にはねられて死亡した。スマートフォンに遺書のような書き込みがあり自殺とみられる。
遺族によると、生徒は元々テニス部に所属していた。野球経験はなかったが、部員が少ない野球部顧問の男性教諭に「助っ人」を頼まれ、死の8日前から練習に参加し始めた。だが生徒は、初日から家族に「きつい。やめたい」とこぼし、顧問から命じられていた丸刈りも嫌がっていた。
死後、遺族は、生徒がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に手の指の皮がむけた写真とともに「部活頑張ったよ……野球をニートがやると死ぬんだよ」などと書き込んでいたことを知った。顧問からは「1日200~300回バットを振っていた」と聞かされたが、顧問は「嫌がっているとは思わなかった」と釈明したという。
一方、テニス部の練習に出られなくなった生徒は、部員からSNSで「部室にあるお前の荷物全部池にすてる」などのメッセージを受け取っていた。
こうした経緯を知った遺族は、部活動での指導やいじめが自殺の原因ではないかと疑い、学校側に真相解明を要望。
昨年8月、県教委に常設しているいじめ問題調査委員会が調査部会を設置したが、遺族は「事前に知らされておらず、(調査部会の設置を報じた)テレビのニュースで初めて知った」という。校長経験者や弁護士ら調査部会のメンバーも遺族と協議することなく決められており、遺族は「公平性や中立性に疑問がある」と訴えている。
県教委学校安全・体育課は取材に「(メンバーの選定について)遺族と協議はしていないが、どういった職能団体から入ってもらうかについて説明した」と話した。
国「人選、要望に配慮を」「息子がなぜ自死の道を選ばなくてはならなかったのか。原因が分かるまでは一歩も引けない」。生徒の母親(40)は6月、山口県教委が設置したいじめ問題調査委員会に宛てた手紙にこう記した。
いじめ防止対策推進法に基づく国の基本方針は、調査組織の構成や方法などについて「できる限り、遺族と合意して
おくことが必要」と規定している。県教委は自分たちが事務局を務める調査委に調査を依頼した上、実際に調査を担う部会のメンバーも遺族と協議することなく決められており、遺族は「一方的だ」と反発する。
いじめ自殺を巡る調査委のメンバー選定で遺族が不満を持つケースは少なくない。2013年に奈良県橿原市の中1女子生徒が自殺した事案では、市教委が設置した第三者委の委員に市の元顧問弁護士が就いていたことが分かり、中立性を問題視した遺族の訴えで委員が選び直された。
こうした実態を受け文部科学省は今年3月、いじめ重大事態調査のガイドラインを作成。「被害生徒や保護者の「『何があったのか知りたい』という切実な思いを理解し、対応に当たること」と明記し、メンバー選定でも「被害生徒・保護者からの要望」に配慮するよう改めて求めた。
今回の山口県教委の対応について、いじめ調査に詳しい渡部吉泰弁護士(兵庫県弁護士会)は「法やガイドラインの趣旨に反している。被害者の権利がどのように侵害されたのかを明らかにするのが調査委の職責であり、遺族の意向を踏まえるのは大原則だ」と指摘した。

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