子の死から9年、父親が思い語る 大津の中2いじめ自殺

令和2年10月10日付共同通信

2011年、大津市立中2年の男子生徒=当時(13)=がいじめを苦に自殺して11日で9年となるのを前に、父親(55)が共同通信の取材に応じた。原因究明を求め奔走する中で他の被害者に出会い、助言や専門家につなぐ支援を始めた。活動を支えるのは「同じ思いをする人がもう現れないように」との願いだ。しかし生徒と先生の距離が遠い学校の現状に、懸念は拭えないままという。

11年10月11日、出勤した後、息子はマンションから転落し死亡。学校はいじめの情報を含むアンケートを公表しなかった。12年に加害者らを提訴。一方で被害者の相談に乗り、弁護士につなぐなどの支援を始めた。

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宝塚市 いじめの再発防止策案

令和2年10月08日付 NHK神戸放送局

4年前、宝塚市の女子中学生がいじめで自殺した問題を受け、市は、およそ30項目からなる再発防止策の素案をまとめました。
いじめの早期発見に向けて、学校内などでの情報共有の仕組みづくりを徹底するなどとしています。
4年前、宝塚市で当時中学2年の女子生徒がマンションから飛び降りて自殺した問題では、市の調査で、いじめに関する情報提供があったにもかかわらず、教員らが適切に対処していなかったことが明らかになっています。
これを受けて、宝塚市は再発防止策の素案をまとめ、この中では「救えたはずの命を守れなかったことを胸に刻み、教育を一から見直す」として、およそ30項目の対策が盛り込まれています。
具体的にはSOSに早期に気付くために、いじめについてのリーフレットを生徒や保護者に配布するほか、教員がカウンセリングなどを学ぶ機会を設けるとしています。
さらに、生徒などへのアンケート調査を毎年行い、いじめ事案が発生した場合に教員どうしや教育委員会との情報共有を図るルールを明確化するとしています。
さらに、今回、部活動でのいじめも繰り返されていたことから、部活動の実態について大規模なアンケート調査を行い、分析結果を「白書」としてまとめるとしています。
宝塚市は今後、再発防止策を決定し、各学校に周知することにしています。

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福井地裁、遺族が損害賠償請求訴訟

令和2年9月17日付け福井新聞

2017年3月に福井県池田町の池田中の男子生徒が自殺したのは、当時の担任教諭らの厳しい指導・叱責と安全配慮義務違反が原因だとして、母親が県と町に計約5470万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が9月16日、福井地裁(武宮英子裁判長)で開かれた。県と町は請求の棄却を求めた。

訴状などによると、男子生徒は、当時の担任と副担任から課題提出や生徒会活動の準備遅れなどで厳しい叱責を受け「学校に行きたくない」などと訴えることがあった。その後、17年3月14日に校舎3階から飛び降りて自殺した。原告側は「担任や副担任の叱責は、恐怖を覚えさせて精神的に追い詰めるだけの行為で、叱責を止めるなどの安全配慮義務も怠った」と主張している。

母親が意見陳述し「未来ある将来が待っていたはずの息子の命を教師が奪ってしまったことを理解してほしい。事件当時の衝撃は今でも忘れることができない。息子の苦しみに気付けなかったこと、息子を救えなかったことをずっと後悔している」と声を震わせた。

池田町側は答弁書で「教育上不適切な指導があったとしても、教育目的を逸脱していない」と反論した。

母親は閉廷後、「町長は『今後の訴訟に対して誠実、丁寧に対応していく』と言っていたのに、このような結果となり残念。ショックを受けている」と代理人の弁護士を通してコメントした。

池田町の杉本博文町長は「教育上の責任を痛感しており、引き続き再発防止に全力を尽くすが、補償問題については町民への説明責任を果たすため、裁判所の判断を仰ぐべく、真摯に対応していく」とのコメントを発表した。

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生徒自殺 町側が請求棄却求める

令和2年9月17日付NHK福井放送局

3年前、池田町の中学校で、当時14歳だった男子生徒が自殺した問題で、生徒の母親が「教員の厳しい叱責で自殺に追い込まれた」などとして町と県におよそ5500万円の損害賠償を求めた裁判の初めての口頭弁論が福井地方裁判所で開かれ、町と県は「教員の指導に違法性はなかった」などとして争う姿勢を示しました。
この裁判は、平成29年3月に、池田町の中学校で当時14歳だった2年生の男子生徒が自殺した問題を巡って、生徒の母親が「教員の厳しい叱責によって自殺に追い込まれ、精神的な苦痛を受けた」などとして町と県を相手取り5470万円あまりの損害賠償を求めています。
16日、福井地方裁判所で初めての口頭弁論が開かれ、母親は、意見陳述で「未来ある息子の命を子どもを教える立場の教師が奪ってしまった」と指摘したうえで、「裁判所には改めてどのような事実があってこのようなことが起こってしまったのかを明らかにし、責任の所在を明確にしてほしい」と訴えました。
これに対して、町と県側は、男子生徒が自殺した事実は認めるとしたうえで、▼学校側が自殺を予見することはできず、▼教員の叱責と自殺との因果関係は認められないとしたほか、▼体罰を加えるなど指導に明らかな違法性はなかったなどとして、請求を棄却するよう求め争う姿勢を示しました。
この問題を巡っては、町の教育委員会が設置した第三者委員会が「自殺の原因は教員から繰り返し厳しい指導を受けたことで、教職員間の情報共有が不十分で学校の対応にも問題があった」と指摘しています。この問題を巡っては、町の教育委員会が有識者からなる第三者委員会を設置し、生徒の自殺から7か月後に調査報告書を公表しています。
報告書では、▼担任や副担任が繰り返し厳しい指導をしていたことや▼生徒の特性に配慮した指導を怠っていたこと▼それに、教職員間で生徒に関する情報の共有が不十分だったと指摘されていて、こうした結果、生徒が精神的に追い詰められて自殺に至ったとしています。
また、町は、この問題を受けて▼生徒の状況について教職員間の情報共有を徹底することや▼スクールカウンセラーの活用を進めることなど再発防止に取り組む姿勢を示しました。
一方で、町は生徒の母親との間でこれまでも慰謝料についての交渉を行ってきましたが、最終的な金額について双方が合意に至ることができなかったということです。
このため母親側が今回、国家賠償法に基づいて損害賠償を求めて提訴するかたちとなりました。
16日の口頭弁論で、池田町と県は、男子生徒の自殺について国家賠償法上の責任はないとして請求の棄却を求めました。
今回の裁判を通して、生徒の自殺と学校の指導との因果関係や、学校側の責任がどの程度まで認定されるのかが主な争点になります。

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福井・中2自殺 県と町が叱責との因果関係否定、請求棄却求める 地裁初弁論

令和2年9月17日付毎日新聞

福井県池田町立池田中2年の男子生徒(当時14歳)が2017年に自殺したのは、厳しい指導や叱責をした当時の担任らに責任があるなどとして、生徒の母親が県と町に計約5400万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が16日、福井地裁(武宮英子裁判長)であった。県、町側は「叱責と自殺との因果関係は認められない」などとして請求棄却を求めた。

訴状によると、生徒は、生徒会の副会長に選任された2年生の後期以降、生徒会の指導担当だった担任と副担任から厳しい叱責を何度も受けるようになり、17年3月14日に校舎から飛び降りて自殺した。

県、町側は「担任、副担任の指導に教育上、不適切な部分があったとしても、明らかに違法な態様ではなかった」と主張。一方、母親は意見陳述で「当時の教師や関係者は事実と向き合ってほしい」と訴えた。【大原翔】

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勝利至上が生む「ブラック部活動」、コロナ機会に再考を

令和2年9月9日付朝日新聞岐阜版

岐阜県内の中学や高校の部活動で、顧問による暴力や暴言が後を絶たない。2012年には大阪・桜宮高の男子バスケットボール部主将が顧問から受けた体罰などを理由に自殺し、大きな社会問題となった。その後もやまない部活動における体罰やコロナ禍の部活動の将来などについて、「ブラック部活動」の著書がある名古屋大学の内田良准教授(44)に聞いた。

――部活をはじめ学校の中での体罰がなかなかなくなりません。なぜですか。

「日本では、スポーツ活動全般について、厳しいトレーニングによって人を育てるという価値観が根強い。根性論と言われますが、厳しい状況を乗り越えて強くなる、たたかれて強くなるという考え方が依然としてある。だから暴力を正当化してしまう」

ブラック部活動

部活動について語る名古屋大学大学院の内田良・准教授=2020年3月、名古屋市千種区、山下周平撮影

――どう指導すれば良いのでしょう。

「今は人を脅して育てる時代ではない。自分で考える人間を育てるのが教育です。体罰や恐怖による指導はいらない。たとえ教育効果があっても体罰はやめるべきだと考えます」

「体罰について、先生に聞くと、『あれは指導』だと言い、生徒は『先生が真剣に怒ってくれたおかげで自分は育った』と話す人が大勢いる。つまり、体罰には一定の教育効果があるんだろうと思います。しかし、指導と体罰が一体化し、その境界を見えなくしている面があります」

――学校では体罰に反対する声はなかなか表に出てきませんが。

「部活や校則など学校で起きる問題に共通するのが、『これはおかしい』とみんなが思っているのに、声が上がらない、上げられないという点です」

「部活について言えば、試合に勝つことが目標になると、顧問の権限が強くなる。暴力を目にし、おかしいと思いつつ文句を言ったら、レギュラーになれなくなるかもしれないし、いじめのターゲットになりかねない。こぼれ落ちる恐怖があるから、生徒たちはなかなか声を上げられない。そのうちに、その文化に適応してしまう現実がある」

――どうすれば、体罰は減らすことができますか。

「顧問の力が強いので、部活をまず学校から切り離す、内申書や入試から切り離すことが重要です。週3日くらいのゆとりある活動にしていく。勝利至上主義ではなく、趣味のような場にしていく必要があります。こうした動きはすでに加速していて、文部科学省は教員の働き方改革の一環で、土日の部活の指導を教員に担わせず、地域の活動とする改革案を

まとめています」

――コロナ禍で部活も大きな影響を受けました。部活はどこに向かいますか。

「今年、多くの部活動の全国大会は中止になりました。練習時間も減らされた。強制的ですが、この夏、体験したことは部活動の理想型です。代替的に行われた交流試合などにより、子どもたちは勝ちにこだわらず、スポーツや文化を楽しむことができた」

「部活は楽しく、達成感や一体感を味わうことのできる意義があります。だからこそ、体罰を含め過熱してきました。しかし、教員の働き方改革が進む中で、教育課程外の部活はそもそも縮小の方向に進んでいます。この夏、経験した『縮小』の意味を考え、部活動のあり方を見直す契機と捉えるべきなのです」(聞き手・山下周平)

うちだ・りょう 1976年、福井市生まれ。名古屋大学経済学部卒業後、児童虐待などに関心を持ち、教育学の世界へ。専門は教育社会学。柔道や組み体操などの事故についての研究で知られ、教員の働き方改革や校則など学校問題全般について発信をしている。

 

岐阜県内であった暴力・暴言の事例

・私立高校剣道部で、女性コーチが部員を平手打ち

・県立高校野球部で、男性監督が木製バットで部員の頭をたたく。「死ね」「消えろ」などの暴言も

・公立中学校剣道部で、男性顧問が耳をけがした部員に、「反対側も聞こえなくしてやろうか」と暴言

・県立高校野球部で、男性監督が部員にメガホンを投げる。「死ね」「消えろ」などの暴言も

・公立中学校ソフトテニス部で、社会人指導者の男性が部員の足をける

・県立高校の女子ハンドボール部で、男性コーチが部員3人の足をける

・県立高校の女子バスケットボール部で、男性顧問が部員にパイプ椅子を投げつける。

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大島商船高専学生自殺 新第三者委で再調査へ 遺族「同級生の卒業前に真実を」

令和2年8月31日付毎日新聞

2016年5月に自殺した大島商船高専(山口県周防大島町)の1年生男子学生(当時15歳)の遺族が30日、岩国市内で記者会見した。高専を運営する国立高専機構が、現在いじめの有無を調査している第三者委員会とは別に、新たに第三者委を設置して再調査する方針を決めたことを明らかにした。【大山典男】

男子学生は寮生で16年5月21日未明、寮を出て校舎から飛び降りて亡くなった。遺書は確認されず、学校側は17年3月に「自殺の原因は不明」とする調査報告書をまとめたが、遺族が第三者委の設置を要請。弁護士や大学教授らによる第三者委が18年6月に初会合を開き、調査を続けてきた。しかし、遺族側は20年6月、調査開始から2年が経過しても結果が出ていないなどとして、新たな第三者委を設置し再調査するよう求めていた。

遺族側によると、現在の第三者委は報告書を10月中旬までにまとめる見通し。これに対して遺族側が報告書の疑問点や問題点を指摘した上で、新たな第三者委が資料などを引き継ぎ、再調査に着手する予定だ。新たな第三者委は委員3人程度で、人選に当たっては遺族の意見を聞くという。

機構側は、男子学生の同級生が卒業する21年9月までに再調査を終えたいとしているという。男子学生の母親は記者会見で「月日がたつにつれ、息子がどんな思いでいたのか、どうして追い詰められたのか、息子のためにも真実を知りたいとの気持ちが強くなった。同級生が卒業する前に1カ月でも2カ月でも早く真実を示してほしい」と述べた。

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顧問暴言で「絶望感」 バレー部員自殺で第三者委

令和2年7月23日付朝日新聞岩手版

バレー部員自殺で第三者委

佐藤博教育長(右)に調査報告書を手渡す第三者委の佐々木良博委員長=2020年7月22日、盛岡市

バレーボール部員だった高校3年の男子生徒(当時17)が自ら命を絶ってから2年。22日に公表された第三者委員会の調査報告書は、遺族が問題視していた顧問の暴言が、男子生徒が死にたいと思うようになった一因になったと認めた。学校や県教委の対応にも不備があったとしている。

全国選抜チームの合宿に参加した経験もあった新谷翼さん。2018年7月3日、自室で亡くなっているのを家族が見つけた。

報告書は18年の高校総体でチームが負けた際、顧問が責任を翼さんなどに押しつける発言をするなど、顧問の各発言は社会的相当性を欠き、教員としての裁量を逸脱していたと指摘した。その上で、高校総体県予選の敗北で自責の念に駆られ、自身の苦しみが受け入れられなかったことで絶望感や孤立感を深め自死以外を考えることができない状態になったと結論づけた。

高校や県教委にも「適切な対応をとるべきだった」と指摘。顧問が過去に在籍していた高校での言動が裁判で争われていたにもかかわらず、「県教委は顧問の指導の内実を軽視し再発防止に生かそうとする姿勢に欠けていた」と指摘。指導や対応を怠ったことが本件事案につながった可能性は否定できないと強調した。

佐藤博教育長は会見で「学校や県教委の対応、不適切、不十分さについて指摘があった。すべてを厳粛に受け止め、二度とこのようなことが起きてはいけないという思いを強くした」と述べた。近く県立学校長を集め事案の内容や再発防止について周知する考えを示した。(御船紗子、上地一姫)

「翼の名誉は若干回復した。でも、これが区切りだとは思わない」。調査報告書を受け取った翼さんの父、聡さん(53)は複雑な胸の内を語った。

翼さんの遺書に、バレーボールで「ミスをしたら一番怒られ、必要ないと、使えないと言われた」などと記されていたことから、聡さんら遺族側は、顧問の暴言が翼さんを追い込んだと主張。

第三者の立場で調査するよう、県教委に求めていた。

遺族側の弁護士は「暴言や暴行があったという当時の事実が明らかになったことは評価する」とした。一方で、顧問が今も同じ高校で教師を続けていることについて、「生徒への聞き取りなど、調査が公平であったか強い疑問がある。何より県教委がパワハラを容認することにつながるのではないか」と指摘した。

聡さんは2018年11月、顧問が翼さんの顔面などにボールを投げつけたとして暴行罪で刑事告訴したが、盛岡地検は今年4月、男性顧問を不起訴処分としている。

顧問を巡っては、別の高校でバレー部顧問を務めていた際、元部員が体罰で精神的苦痛を受けたとして提訴し、県側に40万円の支払いを命じた高裁判決が確定している。聡さんは「あの事件を学校や県教委がしっかりと受け止め、顧問に指導していれば翼は死ぬことはなかったかもしれない。同じような事案が起きないように、県教委には対策を改善してほしい」

と訴えた。(中山直樹)

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登別・中1転落死、いじめ有無は 第三者委調査

令和2年7月23日付朝日新聞北海道版

北海道登別市中1年男子生徒転落死

初会合で審議する第三者委員会。左が竹内亮平会長=7月22日、北海道登別市

北海道登別市で6月22日、市立中学校の1年男子生徒(13)が転落死した問題の本格的な調査が始まった。22日、登別市教育委員会が設置した第三者委員会が初会合を開いた。

生徒が死亡した原因は「いじめ」なのか、学校の指導力に問題はなかったのか。母親(39)は「真相を明らかにしてほしい」と訴えている。

男子生徒は6月22日午前8時すぎ、自宅の集合住宅から転落死した。道警は自殺の可能性もあるとみて調べている。母親が「長男はいじめで自殺した」と学校側に訴えたことなどから、市教委は第三者委を設置した。

第三者委の会長は竹内亮平氏(精神保健福祉士)、副会長は水上志子氏(臨床心理士)。増川拓氏(弁護士)、阿知良洋平氏(室蘭工業大講師)、皆川夏樹氏(登別市PTA連合会理事)の計5人の委員で構成されている。

初会合は午後6時から始まった。市教委は委員に対し、いじめの有無、学校や市教委の対応、再発防止策について検討を求めた。

校長によると、男子生徒の性格は「だれとでも分け隔てなくつきあえる子。休み時間には自然と友だちが集まる明るい人柄だった」という。しかし、部活の仲間との関係で悩んでいた。

亡くなる4日前の18日、腹痛を起こして保健室に行き、養護教諭に「部活で疲れている」「人間関係です」と話したが、養護教諭は担任や校長には伝えなかった。校長は「生徒のサインを見逃した」と謝罪している。

市教委などによると、通夜前日の23日、校長の立ち会いのもと、母親が部活の生徒たちと会い、「なぜいじめたのか」などと問い詰めた。生徒たちは「からかったけど、いじめていない」と答えたという。

市教委は、全校生徒292人を対象にアンケートを実施。同じ部活の生徒から体形の特徴や運動能力についてからかわれていたことを確認した。

母親は長男が悩んでいることに気づいていなかった。母親によると、死後、長男のスマホをみて、部活のグループLINEで筋トレをしている動画を送るように指示され、体形について書かれていたことを見つけた、という。さらに、オンラインゲームの対戦相手に「相談できる相手もいないし、つらい」と悩みを打ち明けていた。

母親は22日、第三者委について「いじめの真相を明らかにしてほしい」と話した。「からかっただけというが、受け取る側の気持ちはまた別。いじめがあったことを認め、謝罪すべきだ。

真実を明らかにして、二度と繰り返さないようにしてほしい」と訴えている。(西川祥一、芳垣文子)

福井雅英・滋賀県立大教授(元北海道教育大教授、臨床教育学)の話 保健室を訪れて悩みの一端を吐露した事実は重要だ。養護教諭が専門力量を発揮できていたか、その学校における保健室の位置づけや教職員集団の認識も問われるだろう。悩みの内実を深くつかむ教師のセンスと共有する集団力量が求められる。男子生徒の苦悩は何だったかを考え合うこと、

なぜそれが把握できなかったのか、その深い悩みから救い出すにはどうすればよかったか、緊急の介入と日常の実践の見直しなどが必要だろう。「いじめ」かどうかの事実認定に傾斜して問題を限定するのは危険だ。

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いじめ根絶誓い黙禱 岐阜市の中3自殺から1年

令和2年7月4日付朝日新聞岐阜版

岐阜市の中3自殺

加藤義人会長(左)が柴橋正直市長に提言書を手渡した=2020年7月3日午後4時5分、岐阜市役所、高木文子撮影

昨年7月に岐阜市立中学3年の男子生徒がいじめを苦に自殺してから、3日で1年が経った。生徒が通っていた中学では在校生が祈りを捧げ、亡くなった現場で手を合わせる人の姿もあった。

生徒が飛び降りて亡くなった岐阜市内のマンション前には早朝、男性公務員が訪れた。「(献花の)花はないが手を合わせにきました」。午前7時半すぎには制服姿の男子生徒が立ち寄り、現場に向かって手を合わせると、すぐに学校へ向かった。

近所の女性は「悲しい出来事。口には出さないけれど気にかけていました」と声を落とした。

市内の小中学校は今年度から、生徒の月命日にあたる毎月3日を「いじめを見逃さない日」としている。

亡くなった生徒の中学では、朝の全校放送で呼びかけ、在校生が黙禱。校長は「いじめにどう向き合うか決意することが、亡くなられた仲間に対して、本当の意味で哀悼の意を表すことではないか」と語りかけた。

午後の全校集会では、次男をいじめによる自殺で失い、同校のいじめの実態調査にもあたった大河内祥晴さんが講話した。

いじめによる生徒の自殺を受けて設けられた諮問機関「岐阜市公教育検討会議」(会長=加藤義人・岐阜大客員教授)は3日、柴橋正直市長に答申した。「すべての子どもが互いの自由を大切にする」ことをめざし、生命や人間関係への深い学びや、教員の多忙の解消などを提言した。

会議は学識者や企業経営者、PTA関係者らでつくり、昨年10月に発足した。市長は答申を踏まえて教委と話し合い、年度内に市教育大綱の見直しをめざす。

提言は、最も重要な教育方針に「自由の相互承認」を盛り込んだ。他者との違いを認め、他者と自分の自由を大切にするという意味合いで、柴橋市長は「突き詰めれば命の尊厳に行き着くという、大きな命題をいただいた」と話した。

提言は、市の公教育の課題も挙げた。中学3年時点の学力は高いが、自己肯定感のある子の割合が全国より低い。不登校の児童生徒の割合も全国より高い。

具体的な施策は、探究型の学びを核としたカリキュラム▽義務教育学校の導入の検討▽教員の業務の「見える化」やチーム担任制の検討などを提案。生命や人間関係についての学びは、優先度が高いとした。

加藤会長は「施策のPDCA(計画、実行、評価、改善)を、定期的に検証する仕組みを設けることが望ましい」と助言した。(高木文子)

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