学校事件の報道

学校事件: 体罰・不適切な指導

2022年12月27日付朝日新聞デジタル

「一生許せない」 叱責され飛び降りた元生徒、教諭の免職を申し入れ

 男性教諭から長時間叱責(しっせき)され、校舎から飛び降りて大けがをしたとして、静岡県中部の県立高校の元女子生徒(22)が県などに賠償を求めた訴訟で、県に220万円の支払いを命じた判決が確定したことを受け、元女子生徒と代理人の小川秀世弁護士は26日、教諭の懲戒免職処分を求める文書を県教育委員会に出した。記者会見した元生徒は「私と同じように苦しむ人が死を決断するまで追い込まれないように、考えるきっかけになって欲しい」と話した。

 5月の一審・静岡地裁の判決によると、男性教諭は2016年10月、研修に参加できなくなったと申し出た元生徒を翌日未明まで電話などで叱責し、学校でも直接叱り、元生徒はこの直後に校舎3階から飛び降りて腕を骨折するなどした。静岡地裁は「教育的指導の範囲を逸脱している」として県に賠償を命じた。

 申入書では、教諭の長時間の叱責は「生徒の生命にもかかわるようなきわめて危険性の高い行為」で、「他の教員や生徒も見えないところで行われた、きわめて悪質なもの」と指摘した。

 元生徒は「『学校をやめろ。選択肢はないからな』と脅された恐怖は忘れられない。私は楽しみにしていた修学旅行などに参加できなかったのに、今でも変わらない生活を送り続けている教諭を一生許すことはできない」と涙ぐみながら語った。

 県教委の担当者は取材に対し、「申し入れの内容を精査して、今後の対応を検討したい」と話している。(小山裕一)

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2022年12月26日付毎日新聞

 児童いじめで教諭を減給処分 滋賀県教委「人権侵害」と判断

野洲市立小学校での「担任によるいじめ」などで教諭の懲戒処分を発表し、記者会見で謝罪する滋賀県教委の有田知浩・教職員課長(中央)ら=滋賀県庁で2022年12月26日午後4時7分、庭田学撮影
野洲市立小学校での「担任によるいじめ」などで教諭の懲戒処分を発表し、記者会見で謝罪する滋賀県教委の有田知浩・教職員課長(中央)ら=滋賀県庁で2022年12月26日午後4時7分、庭田学撮影

 滋賀県野洲市の市立小学校で男性教諭(51)が特定児童に対し、不適切な言動で「担任によるいじめ」を繰り返した問題で、滋賀県教委は26日、この教諭を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分にした。同校校長に対し、管理監督責任を問い文書訓告を行った。

 毎日新聞の取材や県教委の発表によると、教諭は今年5~7月、授業中に被害児童に対し「本当に言葉を知らんな」「スルー(無視)しよう」などと発言し、他の児童によるいじめを誘発した。県教委は、教諭が児童の人権を侵害したと判断した。学校は教諭のいじめ行為を認めて8月に開いた学級の保護者説明会で謝罪。2学期から担任を交代させた。教諭は8月から体調不良で休んでいるという。

県教委は他2件の懲戒処分も発表。公立中学校の女性教諭(39)は後輩の男性教諭に対するパワーハラスメントで戒告となった。「うるさい」「なんでそんなあいさつやねん」「転職した方がいいんちゃう」などと不適切な言動をした。

町立中学校で女子生徒2人のスカート内を盗撮、県迷惑防止条例違反で11月に罰金50万円の略式命令を受けた男性教諭(24)を懲戒免職とした。【庭田学】

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2022年12月23日付朝日新聞デジタル

生徒を壁に押しつけ平手打ち、髪つかみ暴言 高校教諭を懲戒処分

 熊本市東区のマリスト学園高校で、50代の男性教諭が4人の男子生徒に対し、髪をつかんで怒鳴ったり、平手打ちにしたりするなどの行為や暴言を行っていたことが22日、学校への取材でわかった。

 同校によると、教諭は今年6月、授業中に担任のクラスの男子生徒の髪をつかんで大声で怒鳴り、口元をマスクの上から押さえて、椅子に座っていた生徒の胸元をつかんで体を押した。また、別の男子生徒に対して休み時間に教室の壁に肩を押しつけて頰を平手打ちした。別の男子生徒2人にも指導中にパイプ椅子を投げたり、そばにあった丸椅子を足で蹴ったりした。

 6月下旬に、授業中の教諭の行為を目撃していた複数の生徒から相談があり、学校が7月にクラスの全生徒に聞き取り調査をした結果、4件の行為が明らかになったという。教諭も「自分自身がコントロールできなかった。あってはいけないことだった」と認めているという。

 学校は8月に保護者会を開き、管理職や男性教諭が謝罪。男性教諭のほか、校長ら管理職4人を就業規則に基づき9月12日付で懲戒処分とした。学校は処分の内容を明らかにしていないが、松山秀峰校長は「生徒の心のケアや再発防止に努めたい」としている。

 学校を所管する熊本県私学振興課も報告を受けており「法令にのっとって適切に対応することや生徒のケア、再発防止策について助言をした」という。(大貫聡子)

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2022年12月22日付朝日新聞デジタル

今日もみんなが殴られた、語った息子はもういない だから母は訴える

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中学の卒業前にあった下級生とのお別れ試合後、笑顔で写真に納まる山田恭平さん(左)と母の優美子さん=山田優美子さん提供
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中学3年の夏、地区大会に選手として出場した山田恭平さん(中央)=山田優美子さん提供
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次男・恭平さんが自殺した山田優美子さん。野球部の副部長だった教諭は他の部員へ暴力をふるい、恭平さんはそれに苦しんでいた=2022年11月4日午後5時25分、大阪市内、小若理恵撮影
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次男・恭平さんを亡くした山田優美子さんは愛知県から鹿児島県の屋久島に移住し、大切な人を自殺で失った人のための保養所を営んでいる=2022年11月20日午前9時7分、鹿児島県屋久島町、小若理恵撮影
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スポーツと体罰 桜宮事件から10年 現場編

 「将来、子どもを指導するかもしれない学生のみなさんに、一人の高校生に起こったことを聞いていただきたいと思います」

 日本体育大学世田谷キャンパスで16日にあった「学校・部活動における重大事故・事件から学ぶ研修会」。講演をしたのは、鹿児島県に住む山田優美子さん。

 優美子さんの息子・恭平さんは、2011年6月、自ら命を絶った。愛知県立高校の野球部員だった。高校2年生、16歳だった。

 高1の夏休みごろから「ちょっと嫌だ。すぐ殴る」と、副部長についてもらすようになったこと。

 泣きそうな顔で帰宅し、「きょうもみんなが殴られた。一人は倒れたところに蹴りが入った」と語ったこと。

 将来、保健体育教員を目指したり、スポーツ界や教育界に進んだりする可能性が高い学生たちに、40分にわたって訴えた。

 「みなさんの一挙手一投足が、子どもに与える影響を知っておいてほしいです」

 恭平さんが自殺するまでに何があったのか。

 経緯を調べた県の第三者調査委員会は14年2月、最終報告書を公表した。以下の出来事が記録されている。

 11年5月下旬、副部長の教諭は、校内でトランプをしていた野球部員5人に、平手打ちをしたり、蹴ったりした。恭平さんはそれを目の当たりにしていた。

 恭平さんは、このときは直接暴力を受けなかった。だが、報告書は「自分の周辺で体罰を見聞きし、そのことで心を痛めていた」と認定。「体罰自体の存在に悩む者がいる。それゆえに体罰は禁止しなければならない」とした。

 父母間の暴力を見聞きすることも虐待の一種とみなす「DVウィットネス」の考え方をふまえ、「本人が体罰を受けていないから無関係という短絡的判断はやめたほうがよい。身近に体罰があることに影響を受ける子があることも含めて、体罰をなくしていく重要性を認識しなければならない」などと指摘した。

 恭平さんが亡くなった直後から、優美子さんは野球部副部長の体罰やパワーハラスメントが自殺の原因と考えていた。

 「私が知る限り、野球部以外の悩みをあの子は抱えていませんでした」

部員6人の証言

学校は直後の初期調査で、「生徒が直接体罰を受けたことがなかった」として、体罰と自殺の原因とは無関係と即断した。

だが、優美子さんによると、同級生部員6人が、副部長の体罰についてこんな証言を残している。

自殺の約1カ月後のことだ。

「正座でバットでつつかれ、ボール投げられ……

「エスカレートしてきた。最終的にはみんな蹴られる。マジで半端ねえ、あいつ」

「左から順番にはたかれて……

こうした証言を頼りに、優美子さんは第三者委に「野球部内で何があったのか。全容を知りたい」と、全同級生約300人と野球部の13年生約90人への聞き取り調査を求めた。

しかし、第三者委が文書で依頼した生徒63人のうち、聞き取りに応じたのは7人。そのうち野球部員は1人だった。

聞き取りが難航したことについて、第三者委員長だった故・加藤幸雄氏(日本福祉大名誉教授)は「話しにくくなったり、話したくないと思ったりしたのではないか」と当時の取材に語っている。

報告書には次のような考察もある。

「体罰については、多様な考え方が存在する。体罰によって鍛えられるのであれば体罰を辞さないといった積極的支持さえある。野球部にもそういう空気があった」

優美子さんによると、恭平さんが亡くなった5カ月後の11月、保護者数人が弔問に訪れ、こんな会話を交わした。

「野球部っていうのは、殴る蹴るは当たり前の世界なんですよ」

恭平さんは、幼いころから暴力や大きな声を出す大人が嫌いだった。だから優美子さんは聞き返した。

「じゃあ、弱いやつは死ねっていうことなんですね」

保護者は続けた。

「殴られて甲子園に行けるなら、いくらでも殴ってくださいって言いますよね」

その言葉を思い出すと、優美子さんはいまでも怖くなる。

大阪市立(現・大阪府立)桜宮高校のバスケ部主将が元顧問の暴力を受け自殺した問題では、元顧問への寛大な処分を求める内容の嘆願書が他の保護者から出された。

優美子さんはいま、教員の不適切な指導などで子どもを亡くした親たちでつくる「学校事故・事件を語る会」と「指導死親の会」のメンバーとして、体験を伝えている。

「殴られるのは自分たちが悪いせいだと思わされるスポーツ文化なんて間違っている」(小若理恵、中小路徹

 

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2022年12月22日毎日新聞

体罰で生徒アンケ「おとしめること書くな」担任が指示か 長崎の私立高

瓊浦高=長崎市で、中山敦貴撮影

  長崎市の私立瓊浦(けいほ)高の男子バドミントン部や野球部で監督らによる体罰や暴言があった問題で、19日に学校に体罰アンケートの記載を求められた生徒から「担任に『(加害教職員を)おとしめるようなことは書くな』と言われた」との声や、「体罰についてだけ回答するように言われた」との声が出ていることが関係者への取材で分かった。関係者からは「本当に事実究明や再発防止につながるのか」との懸念が上がっている。

関係者や学校によると、男子バドミントン部や野球部での体罰などを受け、19日に全校生徒を対象に体罰に関するアンケートを実施。4月以降に体罰を受けたかや時期、場面、場所、内容、負傷内容などを尋ね、体罰以外の不適切行為や暴言について直接尋ねる項目はなかった。

関係者によると、実施の際に担任が特定の加害教職員の名を挙げて「おとしめるようなことは書くな」との趣旨の発言をしたり、別の担任が「体に直接触れられたことだけを書くように」などと指示をしたりしたという。

校内では今回のアンケート前から、野球部顧問に無断で寮の部屋に入られたり私物を触られたりするなど、体罰以外の不適切行為や暴言を受けたとの訴えも生徒から上がっている。

アンケートを巡る指摘について、同校の佐藤一司教頭は取材に「うみを出し切らなければいけないと思い、暴言なども含めて把握するためにアンケートをした。驚いている」と答えた。【樋口岳大】

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2022年11月9日付北海道新聞

倶知安の不登校「担任が体罰、暴言」 訴え3年、結論示さぬ町教委 道開示文書ほぼ黒塗り

情報公開請求で開示された町教委の報告書や、教諭の処分を決める道教委内の審査記録。ほぼ黒塗りで、両親は詳細を把握できない状況が続く
情報公開請求で開示された町教委の報告書や、教諭の処分を決める道教委内の審査記録。ほぼ黒塗りで、両親は詳細を把握できない状況が続く

 2018~19年に町内の小学校に通っていた女児が、担任教諭に無理やり嫌いな給食を食べさせられたり、継続的な体罰や暴言などを受けたりした結果、不登校になり、精神疾患を発症したとして両親が事実関係の確認と説明を求め続けている。町教委は教諭への

聴取で給食を強制的に食べさせた事実を認める一方、体罰や暴言などの有無については、問題発覚から3年以上たっても結論が示されていないといい、両親は憤りと不信感を募らせている。

両親によると、女児は小学2年だった19年9月、嫌いなマヨネーズ入りサラダなどを食べられず、担任教諭から教室前方の席に移され、タイマーで時間を制限され、サラダの完食を強要された。女児は口に入れたが、飲み込めずに吐き出してしまった。女児がマヨネーズが嫌いなことは、入学時の調査票に記していた。

女児はその後、登校できなくなり、病院で不安神経症の診断を受け、服薬治療が必要になった。不登校は、教諭が翌春に別の学校に移るまで約半年間続いた。

この間、両親は女児から、授業に臨む態度などを理由に教室後方に一定時間立たされる、教諭の近くの席に1人で座らされる、「頭が良いからっていいと思うな」「泣いても無駄」

と言われるなどの行為を小1の時から繰り返し受けたと明かされた。両親は「不登校や精神疾患は継続的な体罰、暴言が原因」とみて町教委に調査と説明を求めた。

町教委は教諭への聞き取りで給食を強制的に食べさせた件は認め、両親に謝罪。

20年3月、道教委に報告書を提出し教諭は同10月、懲戒処分未満の文書訓告の措置を受けた。だが、継続的な体罰や暴言などの有無は両親が町教委に要望書を出すなど再三確認を求めたが、いまだに説明がないという。道に報告書などの情報公開請求もしたが、21年

3月の開示はほぼ黒塗りで具体的内容や教諭への措置の根拠は分からなかった。

町教委の村井満教育長は北海道新聞の取材に、教諭への聞き取りや学校が児童を対象に行ったアンケートの結果として、教諭が女児を含む複数の児童を一定時間立たせる指導や、女児を教諭の近くに座らせる指導をしたことを認めた。教諭は暴言については「記憶にない」と話しているという。報告書の詳細は「開示する権限がない」とした。

村井教育長は、両親にまだ総括的な説明をしていない理由として、21年3月、道教委に報告書を再提出したことを挙げた。両親の要望を受け、両親の事実認識などを追記したといい、「教諭の処分が変わるかどうかなど、道教委の結論を待って対応したい」と話す。

これに対し、道教委は報告書への対応について「個別の案件には答えられない」(総務課)としている。

現在、女児は小5で別の学校に通うが、自身の証言が認められないままで、精神的なつらさを抱え続けているという。両親は、教諭による児童への暴言を保護者の指摘から3カ月未満の9月に公表、謝罪した滋賀県野洲市教委の対応との違いも踏まえ「なぜ3年以上たっても説明

がないのか。この問題で結論が出ないと家族は前に進めない」と訴えている。(須藤真哉)

早期の説明 町教委の責任

千葉大の大野英彦教授(教育実践)の話 市町村立学校の教員の服務監督権は市町村教育委員会にあり、児童に対する教員の指導に問題があれば、当事者である保護者に説明する責任がある。教員の処分をどうするかは任命権者の道教委が判断することであり、それとは別に調べた事実を保護者に説明することは、町教委として対応があってしかるべきだ。今回の事案では時間がかかりすぎている感は否めず、できる限り早期に結論を示すことが望ましい。

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2021年3月22日付朝日新聞

児童に暴行、担任が誘導か 「やっちゃいな」と呼び掛け

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秋田市の小学校で起きた不適切な指導について説明する市教委の担当者ら=2021年3月22日午後4時12分、秋田市役所、高橋杏璃撮影

 秋田市の小学校で今月、3年生の学級担任の50代の女性教諭がクラスの複数の児童に対して、特定の児童をたたくよう誘導する発言をしていたことが22日、市教育委員会への取材で分かった。学校の調査に対し、教諭は事実関係を認めているという。

市教委によると、教諭は今年3月、昼休みの鬼ごっこで児童間のトラブルがあった際、数人の男子児童に「やっちゃいな」などと呼びかけ、トラブルの原因となった男子児童をたたくよう誘導。複数の児童らはこの男子児童の腹部を1回ずつたたいた。また、学校が児童から聞き取った証言では、教諭が「私がたたくと退職になっちゃうから代わりにやれ」と発言したほか、女子児童が暴力に反対した際に、「この子は殴られないと覚えないから」と言ったとされる。教諭はこれらの発言については「覚えていない」と学校に説明しているという。

また、市教委によると、昨年5月ごろ、教諭は児童らに「好きな人や嫌いな人はいるか」と尋ね、嫌いな人として名前があがった2人の児童に「これが現状だ。これからはみんなに好かれるように頑張らないといけないよ」と発言。発達障害が疑われる転校生の児童に対し、「前の学校の子たちもあなたがいなくなって喜んでるでしょうね」と発言したことがあったという。このほか、欠席しがちな児童が映画を見に行った話をした際に、「映画を見に行くよりも、学校に来て勉強したら」と諭したこともあったとされる。

保護者の有志6人が今月15日に来校し、被害を訴えて発覚。16日以降は、教頭など別の教員1人を同席させた上で、担任教諭が授業を続けた。教諭が勤務を続けたことについて、市教委は「こういう事案があったとはいえ、学級担任の仕事があるので優先させた」と説明している。

学校は19日に緊急保護者会を開き、担任教諭と校長が謝罪した。現時点で心身に不調をきたした児童は確認されていないという。教諭の処分は未定で、市教委が事故報告書を提出した後、県教委が決定する。(高橋杏璃、野城千穂)

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2021年3月1日付朝日新聞

重傷負わせ逮捕も ボランティアの部活指導、現場任せ

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茨城県警察本部

  茨城県小美玉市の市立中学校で剣道部の部活指導にあたっていたボランティアの男性(46)が、男子生徒(13)に重傷を負わせた疑いで逮捕された。慢性的に不足する部活指導を地域の有志が担った結果、役割や責任が明確にされていないことが背景にある。

県警石岡署や市教育委員会によると、事件は小美玉市の市立中で昨年9月1日、男性と剣道部員の男子生徒がつばぜり合いをしていて起きた。男性が突然体当たりしたため、生徒は後方に転倒。直後に生徒は「大丈夫です」と話したが、後日、病院で左手関節の骨挫傷や脳振盪(しんとう)など、3カ月の重傷と診断された。

男性は8月下旬から同中へ指導に来ており、当日が3回目。市教委は「顧問も剣道経験者。(男性は)地域の剣道団体でも活動しており、接点があったかもしれない」と説明する。

署は1月20日、男性を傷害容疑で逮捕した。男性は剣道6段で、生徒は昨春に入学して剣道を始めたばかりの初心者。部員の技量を見極められる男性が、経験の浅い生徒に危険な練習をさせてけがを負わせた責任を重くみたとみられる。

市教委によると、男性の立場はボランティアで、校長の面談を経なくても活動できる。顧問は事件当日、練習に同席していたという。
今回の事態を受け、萩生田光一・文部科学相は1月22日、記者会見で「学校の許可を得ずに部活指導にあたるのは適切ではない」と指摘。県教委は「ボランティアも含め、部活の指導には校長との面談が必要」という趣旨の通知を、県内すべての県立学校や市町村教育委員会などに出した。

部活動や授業中の事故でけがを負った場合、保護者と学校側が掛け金を負担する災害共済給付制度で治療費がまかなわれる。今回のケースは「学校管理下の事故」として、この制度で被害生徒側に治療費が給付される見通しだ。狩谷秀一・市教委指導主事は「長年の習慣で、ボランティア参加に校長面談を課してこなかったが、部活動は教育活動の一環。

学校側の監督責任を明確化するため、校長が把握するよう改めた」と説明する。

「保護者が参加すると断りにくい」

部活の指導は教員だけでは手が回らないことから、これまでも保護者や地元住民が様々な形で指導に関わってきた。県教委は「外部指導者」「部活動指導員」「ボランティア」の3種類を想定している。このうち、定義が最もあいまいなのがボランティアだ。

古くからあるのが外部指導者で、25年以上前に導入された。校長の委嘱を経て、顧問の技術指導を補う人材としての役割を期待されている。顧問不在の時は、指導や試合への引率は認められていない。大半が無報酬だ。

近年、部活に携わる教員の負担の重さが問題視されたことから、国が2017年度に導入したのが部活動指導員だ。市町村教委が任用し、顧問教員の負担を減らせるよう、単独で練習の指導や試合の引率ができる。国の基準で、時給1600円の報酬が出る。

外部指導者については県教委のガイドライン、部活動指導員は学校教育法の施行規則にそれぞれ役割が明記されている。だが、ボランティアについては明確なルールがなく、運用は現場に任されている。ある県教委関係者は「保護者が参加すると断りにくく、指導方法などについて、顧問と意識の共有が難しい場合もある」と打ち明ける。

県教委によると、部活動指導員は事故時の対応を求められるなど、責任が重いからか敬遠する人が多く、県内17市町村で79人(2月8日時点)にとどまる。県教委は市町村立の中学校計219校に1校1人配置する目標を掲げるが、現在配置できているのは計46校で、全体の約2割だ。

こうした事情もあり、部活指導の補助は外部指導者とボランティアが現場を支えているのが現状だ。ただ、県教委は両者について、正確な人数などは把握できていない。教員の負担減をめざしている市町村教委には「校長との面談を要件にすれば、簡単なボランティアもお願いしにくくなる」と障壁の高さを危惧する声もある。県教委の担当者は「ボランティアは幅が広い。

整理して自治体と共有したい」と話している。(鹿野幹男、片田貴也)

技術と指導者としての資質は別

日本部活動学会副会長で学習院大学の長沼豊教授(教科外教育)の話 部活動は学習指導要領に明記されている教育活動の一環。責任の所在を明確化するため、校長がボランティアを把握するのは当然だ。技術が優れていることと指導者としての資質は別。研修が不可欠で、サッカー指導者のようなライセンス制度をほかの種目でも導入すべきだ。指導者不足という点については、負担に見合った報酬を支払うことで解消をめざすのが望ましい。

 

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2021年2月15日朝日新聞

生徒に柔道技「体罰に他ならない」 元教諭に有罪判決

  事件のあった兵庫県宝塚市立長尾中学校=宝塚市長尾町
 生徒2人に柔道の技をかけて重軽傷を負わせたとして、傷害罪に問われた兵庫県宝塚市立長尾中学校の元教諭、上野宝博(たかひろ)被告(50)=懲戒免職=の判決公判が15日、神戸地裁であり、国分史子裁判官は「肉体的苦痛かつ精神的苦痛を加えた」として、懲役2年執行猶予3年(求刑懲役2年)を言い渡した。判決によると、柔道部顧問だった上野被告は昨年9月、同校の武道場の冷凍庫にあったアイスキャンディーを1年生の男子部員2人が無断で食べたとして激高。武道場で、1年生部員に足払いをかけて床に打ち付けるなどの暴行を加え、背骨を圧迫骨折させたほか、別の1年生部員にも寝技をかけ、足などに軽傷を負わせた。国分裁判官は「対話で内省を促すこともできた。教育的効果はなく体罰に他ならない」としたうえで、「過去にも体罰で処分を受け、怒りのコントロールができないことを自覚していた」として刑事責任は重いと指摘。反省の態度を示し、懲戒免職処分を受けたことを踏まえ、執行猶予を付けた。

上野被告は判決の言い渡しの際、一つひとつの言葉をかみしめるようにうなずいていた。(森下友貴)

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2021年2月10日付朝日新聞

吹奏楽部顧問が部員蹴り、暴言…謹慎処分に 広島新庄高

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広島新庄中学・高校=広島県北広島町

 広島新庄中学・高校(広島県北広島町)の吹奏楽部顧問の男性教諭(42)が、部員への体罰や暴言を理由に、昨年12月末から2週間の謹慎処分を受けていたことが、同校への取材でわかった。現在、顧問も外れている。教諭は2018年9月にも別の部員への暴言で謹慎処分となったという。

学校や関係者によると昨年10月、部活動の練習中に筆記用具を忘れた高2の男子生徒に対し、足を蹴る体罰を加えた。生徒にけがはなかった。教諭は学校の調査に「生徒の態度で理性を失いかけた。蹴る意思があった」と認めたという。教諭は部員たちに「バカ」「本気でやらんと殺すよ」などの暴言も繰り返していたという。

さらに、昨年8月の校内合宿中に、飲酒していたとの情報が保護者から寄せられた。当初、学校に「一度きり」と説明したが、その後、複数回飲酒したことを認めた。こうした虚偽報告も処分の理由となった。

学校は、4月から顧問に復帰させることを念頭に、吹奏楽部の指導方法をまとめたガイドラインを作成中という。

保護者からは「女子生徒にマッサージをさせている」との指摘もあった。学校が昨秋調べたところ、教諭は18年以降、女子生徒によるマッサージを頻繁に受けていたことを認めたという。マッサージをした生徒は複数おり、学校側に「自発的にした」と説明したという。

6年連続で中国大会へ 校長「情熱が…」

 18年にも部活指導中に、高1の女子生徒に「クズ」「カス」と暴言を吐いたとして、2週間の謹慎処分を受けた。学校はパワハラなどの研修をしたという。

この教諭は07年に吹奏楽部の外部講師として着任し、数年後に教諭として採用された。同校は11年に全日本吹奏楽コンクール中国大会に初出場し、14~19年の6年連続で中国大会に進んだ。荒木猛校長は取材に対し、「強くしたいという部活動にかける情熱が間違った形で出てしまったと理解している。暴力や暴言は肯定できない」と話した。

学校が昨年、吹奏楽部の全部員に調査したところ、処分の対象となった事案以外にも、この教諭に胸ぐらをつかまれたと話す生徒や、指揮棒を投げたり、譜面台を蹴ったりしたと訴える生徒もいたという。荒木校長は「過去の実態を詳細に把握することは難しく、生徒に重大なけがなどがない限り、調べる予定はない」としつつ、「非常に残念で申し訳ない。生徒、保護者との信頼関係の構築に努めたい」と話した。

県学事課の担当者は「内部管理の問題。校内で適切に対処していただく」と話している。

県吹奏楽連盟の古土井(ふるどい)正巳理事長は「事実であれば非常に残念」と話している。吹奏楽部員の保護者の一人は「子どもは先生の顔色を見ておびえながら部活をしている。教員としてあるべき姿ではないし、クラブは先生の私物じゃない」と憤った。(西晃奈)

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