令和元年5月6日付朝日新聞デジタル

中高の事故、半数は部活で 柔道技や打球…頭をどう守る

中学・高校で起きる事故の半分以上は運動部の部活動中で、年間35万件に上る。特に頭のけがは命にかかわることがあり、学校現場では重大事故を防ぐための模索が続いている。

硬球直撃 予防策を尽くしていたが

死球を受けた2年生の男子部員(当時16)は声を上げ、尻から落ちて仰向けに倒れた。よけようとした球が、ヘルメットの耳当て部分と左耳の下に当たった。昨年11月18日、熊本県立熊本西高校(熊本市)で行われた野球部と他校の練習試合。部員らが駆け寄ると、意識がなかった。翌朝、亡くなった。

野球部は事故防止に力を入れてきた。複数箇所で行う打撃練習は、打球が飛び交う。防球ネットの穴を抜けて投手に当たらないように37枚のネット1枚ずつに担当を割り当て、点検や補修を続ける。イレギュラーバウンドを防ぐため、ノックの合間にトンボをかける。ヘルメットは昨春、各部員に合うように三つのサイズを買いそろえた。

それでも事故は起きた。横手文彦監督(43)は「亡くなった部員は野球が大好きだった。彼も、投手も、誰も悪くないのに……」と声を絞り出す。

地元の軟式野球出身者ばかりの野球部は、昨秋の九州大会で8強入りし、今春の選抜の21世紀枠の県推薦校に選ばれていた。事故を受け、横手監督は辞退も考えた。

そのチームに、遺族が葬儀で語りかけた。「前を向いてほしい。21世紀枠を辞退しないで、甲子園を目指して下さい」。頭を下げる相手校の投手にも「野球を続けて下さい。夏の藤崎台(球場)で投げる姿を楽しみにしています。本人も同じ思いでしょう」。参列者のすすり泣きが漏れた。

野球部は今春の選抜に初出場した。ネット管理をまとめる3年の中本景土(けいと)君(17)は「大変だけど、練習に集中するためにも安全確認が大切」と話す。

事故後、スポーツ用品会社がヘルメットの両耳にあたる部分に、着脱式の金属板を付けて首や後頭部を守る試作品を持参した。まだ商品化の見通しはないが、横手監督は「事故をなくそうと動いてくれたことがありがたい」と話す。

日本高校野球連盟によると、死球による死亡は記録が残る1974年以降で3件目。事故の直後、熊本県高野連の工木(くぎ)雄太郎理事長は日本高野連に伝えた。「硬球を扱う以上、どの学校でも起き得る。不慮の事故で終わらせてはいけない」。日本高野連は製品の安全性を管理する協会に事故の調査と予防策の検討を要請。協会は各ヘルメットメーカーと議論を始めた。

全国の野球部で頭部事故は年間2千件超。打撃練習やノック時が目立つ。日本高野連の竹中雅彦事務局長は「防球ネットの点検やグラウンド整備などを徹底すれば、防げる事故が繰り返し起きている。指導者の知見を高める必要がある」と話す。

日本高野連は01年、打撃投手のヘッドギア着用を義務化した。以来、打撃投手の死亡事故はない。16年には女子部員に甲子園大会前の甲子園での練習参加を認める一方で、ヘルメット着用を義務づけた。昨年3月には全国の高野連と野球部の指導者を大阪市に集め、事故防止のシンポジウムを初めて開催。専門家が事故事例や安全対策を説明した。防球ネットについては適切な補修方法や死角をなくす配置、事故が起きにくい新製品などを紹介。練習中の野手の顔を覆うフェースガードの着用も勧めた。その後、各地の高野連は安全対策に関する勉強会を開くなどしている。

野球部

今春の選抜高校野球の21世紀枠に選ばれた日も、熊本西野選手たちは供花の前で手を合わせた=2019年1月25日、熊本市西区、金子淳撮影

部活中の死亡事故、10年間で152件

運動部の部活動での事故は、中学・高校で起きた全事故の5割を超える。特に頭のけがは命に関わることがあり、重大事故を防ぐための模索が続いている。

日本スポーツ振興センター(JSC)の学校事故データを産業技術総合研究所(産総研)が分析。部活動の事故は2014~16年度、年間平均で35万件あった。小学校8千件、中学校18万7千件、高校15万6千件。部員数の多いバスケットボール、サッカー、野球の順。年間約1万2千件に上る頭のけがでは、野球、サッカー、バスケットボールの順になる。

部活動の死亡事故は16年度までの10年間に152件。交通事故が大半の登下校中に次いで多い。亡くなった原因で最も多いのは、突然死を除くと頭のけが25件。柔道が突出し、ラグビー、野球と続く。ただ、柔道は12年度の中学での武道必修化に伴い安全対策が強化され、近年は大幅に減っている。

サッカー部の合宿中、ボールが頭に 練習を続け……

東京都内の私立高校に通う男子生徒(17)は中学2年だった16年3月、サッカー部の合宿中に頭に大けがを負った。ゴールキーパーをしていて、コーチが蹴ったボールが右側頭部に当たった。

練習後、頭痛を感じたが、合宿を続けた。

深刻さに気づいたのは合宿後の練習試合。頭痛がひどく、普段はしないようなミスで失点。試合途中で交代して早退したが、痛くて家まで帰れない。母親に助けを求め、自宅近くの大学病院に駆け込んだ。

CT検査で、強い衝撃によって頭蓋内の血管が破れ、血の塊ができる急性硬膜下血腫とわかった。広がれば脳を圧迫して頭痛や嘔吐、けいれんなどが起き、短時間で意識障害や呼吸停止に至ることも。空中でヘディングをして地面に頭を打つ例が多いが、角度や強さによってボールが当たるだけでも起きるという。

2日後に血腫が縮小して退院したが、医師からは体がぶつかるスポーツはやめるように告げられた。頭に再び衝撃が加われば、深刻な事態になりかねないという。

学校は合宿参加者から聞き取り調査を実施。大けがにつながるとは誰も思っていなかった。コーチは強めにボールを蹴っており、「生徒の力を踏まえず、未熟だった」と述べた。学校は生徒と両親に謝罪した。顧問の教諭は取材に「異変に気づけなかったことにじくじたる思いがある」と話す。

生徒は中学最後の夏の大会にマネジャーとして参加した。今も体育の柔道や体育祭の騎馬戦などを控える。定期的な検査を受け、学校生活を送っている。取材に「レギュラー争いをしていて休みたくないと思い、練習を続けて悪化させてしまったかもしれない」と振り返り、自身の経験を予防に役立てて欲しいと話した。

柔道はじめて1カ月、大外刈りで奪われた命

柔道部の練習中に福岡市立中学1年の大場彩さん(当時13)を亡くした父親の重之さん(53)=同市博多区=は、悔やみ続けている。「こんなに柔道が危険だとは知らなかった」 2015年5月、彩さんは練習を終えて帰宅すると、「練習で打って頭が痛い」と、夕食を残した。翌日の朝、体調を聞くと、「大丈夫」との返事。「気分が悪かったら先生に言いなさい」と送り出した。

学校を休ませて病院に連れて行っていれば、事故は避けられたとの思いは消えない。

この日の夕方、彩さんは中学の武道場で2年の女子部員の大外刈りで倒れ、頭を強く打って意識不明になった。救急車で病院に運ばれ、手術を受けたが、意識は戻らなかった。急性硬膜下血腫のため5日後に亡くなった。

福岡市教育委員会が公表した有識者による調査報告書によると、事故は技を伝えてから投げる「約束練習」で起きた。相手は大外刈りと伝えたうえで、スピードを緩めてかけた。

彩さんは運動は得意でなかったが、「警察官になりたい」と柔道部に入った。柔道を始めて1カ月の彩さんに対し、相手は5年目。身長は6・5センチ、体重も12キロ上回っていた。

武道場には顧問の教諭とボランティアの指導員2人の計3人がいたが、事故の瞬間は見ていなかった。

報告書は「体格差や能力差を把握し、きめ細かな指導を行う必要がある」と指摘。事故を防ぐため、受け身の練習を3、4カ月以上は行い、大外刈りなど危険性のある技で受け身の練習をしないよう求めた。

日本スポーツ振興センター(JSC)が重大事故に限定して公表しているデータを名古屋大学の内田良准教授が分析したところ、17年度までの35年間に、柔道の部活動や授業などで121人が死亡していた(突然死や熱中症なども含む)。1年生が74人を占めた。頭のけがで亡くなったのは121人のうち77人で、大外刈りが最も多かった。近年は中学の体育の武道必修化に伴い、安全対策が強化されるなどして重大事故は減っている。

それでも16年度、群馬と栃木の中学生2人が大外刈りで一時重体となった。彩さんの事故の後に起きたことに衝撃を受けた大場さんは17年、小中学生に限って大外刈りを禁止すべきだとブログで訴えた。事故の重さを伝えようと、彩さんの脳のX線写真も掲載。昨年11月には、大外刈りの危険性を伝えたいとの思いを込め、柔道のルールを決めている全柔連を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。「二度と重大事故が起きないように、指導者の人たちに安全に対する気持ちを持ち続けてほしい」と願う。(木村健一)

大場さん

柔道事故で中学1年だった大場彩さんを亡くした父重之さん。彩さんの机の前で=福岡市博多区

頭のけが「事後の対応が重要」

頭のけがは外見上、骨折や出血がなくても注意が必要だ。運動中の頭部外傷に詳しい東京慈恵会医科大の大橋洋輝講師(脳神経外科)によると、中でも急性硬膜下血腫は死亡や重い後遺症につながる頻度が最も高い。頭痛などがあるのに無理してプレーを続けると、命に関わる危険がある。脳への衝撃で一時的に意識や記憶を失うなどする脳振盪も、状態が万全でないまま競技を続ければ、二次的なけがで急性硬膜下血腫などにつながりかねない。ほとんどの脳振盪は回復するが、頭痛やめまい、集中力低下といった症状が続くこともあるという。

これらはラグビー、アメリカンフットボール、柔道など選手がぶつかり合うスポーツのほか、野球やサッカーなどで幅広く起きている。産総研の分析では、急性硬膜下血腫は多い年で160件、脳振盪は1800件ほど起きていた。深刻なけがを防ぐには、種目ごとの対策はもちろん、体調不良時に運動させないことも必要だ。大橋さんは「競技によっては頭のけがを完全に防ぐのは難しく、事後の対応が重要だ」という。

脳振盪の頻度が高いスポーツでの深刻なけがを防ごうと、日本臨床スポーツ医学会(脳神経外科部会)は「頭部外傷10か条の提言」をまとめ、脳振盪を簡易的に判断する方法を紹介している。

同会の「のじ脳神経外科・しびれクリニック」の野地雅人医師は「頭を打った後に、頭痛、めまい、吐き気など普段と違う様子が見られたら脳振盪を疑い、指導者がプレーから離脱させ、専門医を受診させてほしい」と呼びかけている。(北林晃治)

脳振盪

柔道部で頭のけがの多い技

技名    件数

大外刈り   124

背負い投げ  113

払い腰     24

大内刈り    19

内股      19

体落とし    12

小外刈り     9

一本背負い    8

産総研が2014~16年度のJSCデータから、技が明記された事例を集計

14~16年度

けがの多い部活動

全てのけが    頭のけが

1  バスケットボール 野球

2  サッカー     サッカー

3  野球       バスケットボール

4  バレーボール   ラグビー

5  テニス      テニス

6  陸上競技     バレーボール

7  ハンドボール   柔道

8  ラグビー     ソフトボール

9  バドミントン   ハンドボール

10 柔道       陸上競技

11 ソフトボール   剣道

12 剣道       卓球

13 卓球       バドミントン

14 空手       水泳

15 水泳       ホッケー

産総研がJSCデータを分析。サッカーはフットサル、野球は軟式、テニスはソフトテニスを含む

日本臨床スポーツ医学会脳神経外科部会の「頭部外傷10か条の提言」

1 頭を強く打っていなくても安心はできない

2 意識消失がなくても脳振盪である

3 どのようなときに脳神経外科を受診するか

4 搬送には厳重な注意が必要

5 意識障害から回復しても要注意

6 脳振盪後すぐにプレーに戻ってはいけない

7 繰り返し受傷することがないよう注意が必要

8 受診する医療機関を日ごろから決めておこう

9 体調がすぐれない選手は練習や試合に参加させない

10 頭部外傷が多いスポーツでは脳のメディカルチェックを

詳しくは、https://concussionjapan.jimdo.comへ。

 

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令和元年5月5日朝日新聞デジタル

卒業式前の大掃除で転落死 「息子の死、防げたのでは」

あれは、虫の知らせだったのか。

2014年2月4日。福岡県に住む原藤(はらとう)弘憲さん(57)はふと、長男の圭汰さん(当時18)に触れたくなった。大学受験から戻った息子は、うれしそうに「できた」と笑顔で話した。気をもんで待っていた父は相撲をしようと誘った。居間で親子の触れ合いが続いた。

翌5日、圭汰さんは越境入学していた大分県中津市の県立中津南高校の掃除中に、校舎4階の窓から転落して亡くなった。

2カ月半後、弘憲さんは県教育委員会から調査報告書を受け取った。事故当日は年7、8回の大掃除で、ワックスがけや窓拭きなどを行っていた。朝礼で担任は、最後の清掃なので心を込めるようにと、生徒に伝えていた。

大掃除に取りかかった圭汰さんは、分担された1階のトイレを掃除。3年生の教室がある4階に戻ると、級友が廊下の窓から庇(ひさし)に出て窓の外側を拭いていた。庇の幅は1・1メートル。

手すりや柵はない。手伝おうとした圭汰さんは、庇に下りる際に転落。約9メートル下の2階テラスで全身を打った。

進学校の同校は、もとは弘憲さんのあこがれだった。その夢を圭汰さんが実現したとき、2人で泣いた。絵が得意で、役場で働きながら漫画家を目指すと話していた。その息子は、自宅に届いた大学の合格通知を受け取れなかった。

事故後の示談交渉で、県教委側から、責任のすべてが県にあるとは考えていないとの説明を受けたという。傷つき、悔しさがこみ上げたが、法知識や支援もなく、事故後に心筋梗塞で入院もした。

裁判を起こすには心も体も限界だった。

「安全であるべき学校で子どもが死ぬなんて保護者は思わない。なぜ事故が起きる前に手を打てなかったのか」。弘憲さんはやり場のない憤りを語り、涙をぬぐった。

圭汰さんが掃除中に転落して亡くなったのは、卒業式を控えた最後の登校日だった。学校で掃除に励んでいた息子がなぜ命を落とさなければならなかったのか。あの日から5年余。弘憲さんは毎日遺影を磨き、心の中で問い続けている。

県教育委員会の報告書によると、2014年2月の大掃除で、同じクラスの女子生徒らが4階廊下の窓を拭いていた。隣のクラスの男子が庇(ひさし)に出て窓の外側を拭くのを見たが、怖くて

できない生徒もいた。そこに、1階のトイレ掃除を終えた圭汰さんが戻ってきた。手伝うために窓際のロッカーに乗り、そこから庇に下りようとしてバランスを崩したという。

同校では当時、窓掃除の取り決めはなく、教員たちは以前から庇に出て窓を拭く生徒を知っていた。だが、気を付けるよう注意するだけだった。

弘憲さんは「息子は真面目に掃除をしただけ。窓の外側の掃除は慣例として行われ、教員も知っていた。事前にしっかり禁じていれば、息子の死は防げたはずだ」と話す。

事故を受けて県教委は県立67校を調査。児童・生徒が窓掃除をしていた59校のうち55校で取り決めがなく、現場に任されていた。23校は事前に安全指導もしていなかった。県教委は事故後、原則として2階以上の窓の外側は拭かせないよう県内各校に通知した。

だが、高校生が掃除中に転落する事故は繰り返された。隣の宮崎県で15年4月、宮崎市の県立高校1年の男子が掃除中、教員の指示で2階の窓の庇に落ちた靴入れを拾おうとして落ち、頭や腕を骨折した。

愛媛県西予市の県立高校では16年1月、2年男子が3階廊下の窓の外側を拭いていて約8メートル下の中庭に落ち、顔を骨折した。すぐ横に1メートルほどの置き石があった。母親は「落ちた場所や当たりどころが悪かったら、どうなっていたか。振り返るだけで怖い」と話した。近県で起きた事故は知らなかったという。高校では、窓の外側の清掃は事故以前は無理しないよう指導するだけだったが、事故後は禁止し、窓が大きく開かないようにした。

17年5月には、神戸市の中学校で男性教諭が4階の美術室から転落して死亡。窓を拭こうとした男子生徒に「危ない」と言って代わっていた。

転落事故をめぐっては、08年6月に東京都杉並区立小学校で、6年の児童が天窓に乗っていて中央部分が割れ、そこから落ちた死亡事故をきっかけに文部科学省が防止策を取りまとめて通知。

10年にも鹿児島県霧島市と兵庫県丹波篠山市の小学校で児童の転落事故が起き、改めて周知した。

転落事故の防止策では、窓から身を乗り出す危険性を十分に理解させる▽窓の下に足がかりになる物を置かない▽庇への立ち入り禁止の徹底を図る、などとした。ただ、窓掃除については

「転落しないよう細心の注意を払う」との記述があるだけ。窓の掃除をどう指導するかは各自治体の判断となっている。

兵庫県丹波篠山市立古市小学校では、保護者が参加する毎月の安全点検を続けて9年になる。教諭と一緒に安全管理マニュアルに従って校内を見て回る。その中に酒井順子さん(48)の姿がある。

10年6月2日、順子さんは1年生の長女綾菜(あやな)ちゃん(当時6)の授業参観に出た。綾菜ちゃんは粘土で作ったアイスやすしを机に並べていた。カエルが卵とおなかのどちらから生まれるか問われると、大きく手を挙げて「おなか」と答え、皆を笑わせた。

その後、順子さんは担任との懇談会などに参加。綾菜ちゃんは他の児童と一緒に3階の図書室で預かってもらった。

「落ちた――」。保護者の女性が叫びながら階段を駆け下りてきた。1階の教室で懇談していた順子さんが校舎裏に出ると、綾菜ちゃんが抱きかかえられていた。

呼びかけると口を動かし、うなずいたように見えたが、搬送先の病院で死亡が確認された。

市教委の調査報告書によると、綾菜ちゃんは窓際に置かれた高さ0・8メートルの本棚の上で遊んでいて、窓から誤って落ちたとみられる。20人弱の児童は宿題や読書をしていたが、2時間近く経ち、落ち着きがなくなっていった。非常勤講師がしばらく見守っていたが、事故が起きた時は監督役が不在になっていた。

その2カ月前、鹿児島県霧島市の小学校で天窓から児童が転落し、大けがを負った。事故を受け、丹波篠山市教委は危険な場所を調べるよう各校に指示していた。それでも窓際の本棚は見落とされた。監督役を置かなかったとして学校側は刑事責任を問われた。

父秀樹さん(49)は、おしゃれが好きで、ヘアバンドを着けた綾菜ちゃんの姿が今も目に浮かぶ。五つ年下の弟を抱きかかえ、よく面倒を見ていた。あと20日で7歳の誕生日。ローラーが付いたスニーカーがほしいと話していた。明るくて、誰とでも話す子だった。

信頼して預けた学校で、なぜ娘は命を失ったのか。真実を知りたかった。事故後、市長が自宅を訪れ、「市の責任です」「分からないことは調べる」と話した。学校や市教委も「当日は暑くて窓を

開けていた」などと説明した。保護者たちは、亡くなる直前に見た娘の様子を伝えてくれた。

事故後、市教委は各校を点検して転落防止の手すりを設け、安全管理マニュアルを作るなどした。古市小では綾菜ちゃんが転落した場所に花壇が作られ、毎年6月2日に「安全のつどい」が開かれる。

同小の毎月の安全点検では、「上りません」と書いたステッカーが窓からはがれていないか、足がかりとなるものはないかなどを見回る。事故直後は多くの保護者が参加したが、最近は少なく

なってきた。順子さんは「みなさんが頑張ってくれて、学校が安全を取り戻したから」と思う。ただ、慣れは怖いとも感じる。初めて参加した人が、気づかなかったことを指摘してくれることもある。同じ思いをする人がもう出ないことを願い、今後もできる限り参加する。(塩入彩、木村健一)

学校での転落死、10年間で35件

日本スポーツ振興センター(JSC)の事故データを産業技術総合研究所が分析すると、2階以上か2メートル以上から転落した事例は、16年度までの3年間で198件。場所は窓からが101件だった。転落時の状況は、屋根に乗った物を取ろうとしたのが43件、庇などに落ちた物を取ろうとしたのが19件で、掃除中は12件(高校生6件、中学生4件など)だった。掃除中の12件のうち8件は窓拭き中で、5件は外側を拭いていた。

死亡事故について、産総研は別に分析。自殺の疑いと明記されたケースを除く転落死が、16年度までの10年間に計35件あった。高校生19件、中学生9件、小学生7件。経緯の記載が不明確なものも多いが、掃除中のほか、窓に腰掛けていてバランスを崩したものなどがある。

「子供の不注意」で片付けずに対策を

学校事故について研究している名古屋大の内田良准教授は「転落事故がまだ起きていることに驚きを隠せない」と話す。内田准教授は10年ほど前、JSCのデータをもとに過去27年間に起きた転落死亡事故を分析。小学校は窓、高校は庇からの転落が多かったとして、論文などで事故防止策の重要性を指摘してきた。

3年間で198件という事故件数について、内田准教授は「幸いにも死亡まで至らなかった事故も、打ちどころが悪ければ亡くなっていたかもしれない。これだけ事故が起きていることを国は真摯に受け止めるべきだ」と話す。

屋根や庇に「乗るな」と注意するだけでなく、庇に落ちた物を取る道具を用意するなど具体的な対応が必要だと提案。窓の下を植え込みや花壇にし、転落しても衝撃を和らげるなどの安全対策も

考えられるという。「『子供の不注意』『偶然』と片付ければ対策は進まない。国は全国の事故情報を収集・分析し、専門家を交えて対策を講じる必要がある」と訴える。

転落事故の件数

高校    48

中学校 116

小学校   34

幼保    0

合計  198

産総研調べ。2014~16年度の3年計。自殺や自殺未遂の疑いと明記されたケースは除いた。

転落1

転落2

転落3

転落4

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令和元年5月5日付朝日新聞デジタル

学校死亡事故、検証報告は1割未満 遺族に募る「なぜ」

相次ぐ学校事故を受け、国は全国の事故の検証報告書を集約し、その教訓を学校現場と共有する取り組みを2016年度から始めた。だが、文部科学省が把握した全国の死亡事故のうち、集まった報告は1割に満たず、再発防止の枠組みは十分に機能していない。

文科省が16年に示した「学校事故対応に関する指針」では、死亡事故が起きると、学校は3日以内をめどに教職員や生徒から聞き取る基本調査を実施。そのうえで、授業や部活動など教育活動による場合や、家族から要望がある場合などは、学校設置者は外部の専門家らによる詳細調査を行う。都道府県教委などは報告書を国に提出。国は全国の学校に教訓を伝え、事故の再発を防ぐ狙いだ。

文科省は取材に、17年度までの2年間に56件の死亡事故を把握しながら、詳細調査の報告書は4件しか提出されていないと明らかにした。残り52件は、事故の大まかな概要のみ説明。

自治体名などを明かさないため、朝日新聞は過去の報道などから31件を特定し、事故後の対応を調べた。

すると、詳細調査をしていないのは27件もあった。調査を終えたが、文科省が把握していなかったのが2件、報告の準備中が1件、調査中が1件あった。詳細調査をしない理由は「保護者の要望がなかった」「警察の捜査が行われた」など。調査を望むか意向を聞かれていない遺族もいた。

指針は事故に遭った遺族や保護者らに対し、誠意をもって支援を継続していくことを求めている。背景には、学校で重大事故が起きても、遺族らが望む検証と十分な情報提供が行われなかったことがある。

「全国学校事故・事件を語る会」の代表世話人で、長男をラグビー部の活動中に熱中症で亡くした宮脇勝哉さん(61)は「ようやく指針ができたが、相談を寄せてくる遺族らの多くは現状に納得していない。きちんとした対応がとられず、『私たちの人権は守られていないのではないか』と感じている。遺族らが求めているのは事実の解明だ」と話す。

指針が徹底されていないことについて、文科省の担当者は、調査すべき事故で実施されていない例や報告漏れがあると認めつつ、「教育委員会の独立性も尊重する必要がある。指針に強制力はなく、周知に努めていくしかない」と述べる。集まった教訓をどう生かしていくかも「具体的な方法は決まっておらず、今後の課題」としている。

溺れて亡くなった息子 「分からないことだらけ」

「事故は息子のせいで起きたというのか」

金沢市の松平忠雄さん(48)は、17年11月に石川県立高校1年だった航汰さん(当時15)を亡くした。野球部の試合中、近くの川に落ちたボールをすくおうとして転落し溺れた。

事故後、ネットに「勝手に落ちた」「どんくさい」など航汰さんを中傷する言葉が出た。現場ののり面は傾斜が急で、過去に近くで小学生も亡くなっていた。それでも、落ちたボールを網で拾うのは野球部の慣習になっていた。

忠雄さんが事故原因などを学校に尋ねる中で、15年に野球部の監督がボールを拾おうとして川に落ち、マネジャーに救助されていたことが分かった。その後は川沿いのガードレール越しに網ですくうことになっていたが、県教委は取材に「指導が徹底されていなかった」と説明した。

事故後、学校は教職員らへの聞き取りをする基本調査をしただけで、県教委は詳細調査をしなかった。遺族が調査を求めることができるとの説明は、忠雄さんにはなかった。県教委は取材に、説明しなかったことを認め、「遺族への対応は校長に任せ、それ以上の説明が必要と認識していなかった」とする。

忠雄さんは「どんな安全策をしていたのか、落ちた後にどう助けようとしたのか。今も分からないことだらけで、調査を求めることができると教えてくれれば、当然要求した」と語る。「そもそも危ない川でボールを取らせることが必要だったのか。物も大切だが、命より大切なものはない」。そうした思いを込めて、事故後、野球部に2ダースのボールを寄贈した。

「失念」 報告書を国に提出しない県教委

文科省の指針では、治療期間30日以上などの重大事故も、保護者の意向を踏まえて教育委員会などが必要と判断すれば、学校が基本調査を実施する。その後、詳細調査に移る流れは死亡事故と同じで、文科省に報告書が届いたのは6件。

群馬県伊勢崎市の中学校の校庭で17年8月、駅伝大会に向けた朝の練習中、1年の女子生徒が熱中症で倒れ、左足が動かなくなる後遺症が残った。市教委は詳細調査を行ったが、報告書を受けとった群馬県教委は朝日新聞から指摘を受けるまで文科省に報告していなかった。「失念していた」(担当者)という。

報告書によると、教員は遅れた生徒たちに指導する際、「ばか」「足を休めるな」と声をかけていた。水分補給の時間を十分に設けず、体調不良を訴える生徒も相次いでいた。倒れた生徒を教員がトラックの内側に移動させて給水させようとしたが、飲めない状態だった。教員たちは応急処置をしていて、救急車を呼ぶまでに9分かかっていた。

両親は取材に「なぜ日陰に移動させなかったのか。なぜ多くの教員がいたのに通報に時間がかかったのか。事故時の状況を全く掘り下げていない」と話し、報告書の内容にも納得できていない。

(塩入彩、赤井陽介)

文科省の指針作成に関わった京都精華大学の住友剛教授(教育学)

指針は、従来の「事態の沈静化」を念頭に置いた学校対応から、「事実を明らかにし、共有する」対応への転換を目指したものだ。だが、現状は教育委員会や学校の現場で指針の趣旨が理解されておらず、文科省も理解してもらう努力をしてきたのか疑問に感じる。

まずは文科省が指針を周知徹底させるとともに、全国の状況を正確に把握することが必要だ。すでに集まった報告については、有識者による検証を早急に行うべきだ。検証の質を高めるため

には、実務を担う専門家の養成も欠かせない。

文科省をはじめとする教育行政が、検証をしない口実ばかりを探していては、事故は防げない。子どもの安全確保の責任を負っている自覚を強めてほしい。

文科省の指針作成の有識者会議座長だった渡辺正樹・東京学芸大教授(安全教育学)

以前は重大事故が起きた後の統一的な指針がなく、遺族が望んでもすぐに検証が行われないなど、学校の対応でつらい思いをする遺族もいた。指針ができたことで基本調査を速やかに行うよう方針が示され、それを基に詳細調査をする例もでてきた。

しかし、詳細調査をしたのに、文科省に把握されていない事例があるのは問題だ。各教委や担当課にまだ十分指針が浸透していないのではないか。基本的に学校管理下で起きた事故は、調べる姿勢でいてほしい。保護者への説明をしっかりするべきことも、指針に書かれている。

文科省は有識者会議を立ち上げるなどし、現状を分析する必要がある。指針がきちんと運用されているか、運用する中で問題はないかを検証し、必要に応じて見直していくべきだ。

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平成30年11月4日NHK

児童・生徒の自殺 昨年度は250人 30年間で最多に

全国の学校で、昨年度、自殺した児童・生徒は250人に上り、この30年間で最も多かったことが文部科学省の調査でわかりました。

文部科学省によりますと、昨年度、全国の小中学校と高校から報告があった児童・生徒の自殺者数は、前の年度より5人増えて250人でした。 内訳は小学生が6人、中学生が84人、高校生が160人となっています。 自殺の原因について複数回答でたずねると、「不明」が最も多く140人、次いで、卒業後の進路に悩むなどの「進路問題」が33人、「家庭不和」が31人、「いじめの問題」が10人などとなっています。 全世代の自殺者数はここ数年、3万人を下回るなど減少傾向にありますが、子どもたちについては高止まりしているのが実情です。 自殺総合対策推進センターの本橋豊センター長は「子どもの自殺の場合、遺書がないケースが多く、原因がわからないため対策が立てづらくなっている。まずは未然に防ぐよう、子どもたちのSOSをつかむ仕組み作りが必要だ」と指摘しています。

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平成29年10月29日河北新報社説
いじめ過去最多/痛みに向き合い早期対応を

 全国の小中高校などが2016年度に把握したいじめが32万件を超えた。文部科学省が公表した児童生徒の問題行動・不登校調査によると、前年度より約10万件増え、過去最多を更新した。
 「けんか」や「ふざけ合い」など小さなトラブルを広く見渡すよう文科省が促したことが増加の一因だという。
 いじめの兆候を早期に見つけ、対処することは深刻な事態を招かないための鍵だ。発見の手段はアンケートが5割超。本人の申し出は約18%で、積極的に言い出せない傾向に変わりはなかった。
 学校関係者は当事者らの話を丁寧に聞いて、問題の解決に導いてほしい。
 実際、全体の約90%が解消したというが、一件一件の経過をフォローすることが欠かせない。形を変えて再発したり、見逃されたりしているいじめは少なくないはず。
 肝心なことは、数値上の成果を上げることではない。子どもたちが発するSOSのサインに大人がどうやって気付けるかだ。その感度を高めることに全力を挙げてほしい。
 東北各県も今回、全県で増加した。子ども1000人当たりで見ると宮城が77.9件で全国3位の高水準だった。
山形が5位。青森、岩手の件数は前年度に比べ激増した。
 ここ数年、いじめによる中学生の自殺が各地で相次いだことと無関係ではあるまい。原発事故で福島から他県に避難した生徒が転校先でいじめに遭うケースも表面化した。
 学校現場の危機感が高まっているのなら、増加を肯定的に捉えることもできよう。
 しかし、自殺に至った事例などでは、学校や教育委員会が、いじめ被害を認識しながら適切に対応しなかったことが、度々問題になった。
 いじめ防止対策推進法は、子どもの心身に大きな被害を与えるいじめを「重大事態」と規定。発覚次第、直ちに調査に入るよう求めている。16年度の重大事態は全国で400件と増加の傾向にある。
 仙台市青葉区で今年4月にあった中2男子の自殺では、昨年行われたアンケートで本人がいじめを訴えていたにもかかわらず、校長は当初「その都度解消した」と、いじめとの関連を認めなかった。
 その後に教諭2人に体罰を受けていたことも発覚。重大事態を見過ごした学校や市教委と遺族との信頼関係は断たれ、第三者機関による調査すらいまだに始まっていない。
 いじめ根絶は、依然厳しい道のりと言わざるを得ない。多忙な学校現場だけで全てに対応できないのは明らかだ。
地域や外部団体との連携、カウンセラーなどサポート体制の強化は不可欠であろう。
 ただ、子どもの痛みに向き合う姿勢を欠いたままでは、いくら綿密なアンケートや防止策を講じても問題は先に進まない。
保護者や地域との信頼を築く要であることを学校や行政は肝に銘じるべきだ。

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平成29年9月2日毎日新聞
自殺 夏休み明け相次ぐ 東京、埼玉で中高生3人死亡

 8月30日から9月1日にかけ、東京と埼玉で中学生や高校生計4人が首をつったり、マンションから転落するなどし、3人が死亡していたことが警察への取材で分かった。いずれも自殺の可能性が高い。子どもの自殺は夏休み明けに集中する傾向があり、専門家は注意を呼びかけている。
 8月30日朝、東京都台東区で中学2年の男子生徒(13)がマンションから転落して死亡しているのが見つかった。
渋谷区では同31日午後11時ごろ、高校1年の男子生徒(16)が自宅で倒れているのが見つかり、死亡が確認された。
警視庁は生徒が首をつって自殺したとみている。
 埼玉県所沢市でも同31日午前2時ごろ、県営住宅の敷地内で、近くに住む県立高校1年の男子生徒(16)が死亡しているのを住民が見つけた。埼玉県警は飛び降り自殺したとみている。生徒が通う高校は1日が始業式だったという。
 1日午前には、東京都八王子市の市立中学校で2年生の女子生徒が倒れているのが見つかった。4階の音楽室から飛び降りたとみられる。命に別条はなかったが、足や首の骨を折る重傷。市教委などによると、生徒は直前に友人に対人関係の悩みを打ち明けていたという。
 内閣府が2015年に公表した「自殺対策白書」によると、1972~2013年に自殺した18歳以下の子どもは計1万8048人。内閣府が分析したところ、多くの学校で新学期が始まる9月1日が131人と突出して多く、9月2日94人▽8月31日92人と9月1日前後も目立った。
 九州女子短期大の田中敏明教授(児童心理学)は「自殺や不登校は、いじめや友人関係だけでなく、成績や先生との関係など複合的な要因が多い。夏休み中は一時的に解放されるが、学校が始まると再び不安が高まる。新学期は危険な時期だからこそ、多くの人が気にかけているということを子どもに伝えることが大切」と指摘する。田中教授は対策として「担任だけでなく、養護教諭やスクールカウンセラー、部活動の顧問など複数の教員らが連携して取り組む必要がある」と語る。 【遠藤大志、野倉恵、円谷美晶、石山絵歩】
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◇子どもの相談窓口◇
チャイルドライン(0120・997777)月~土曜の午後4~9時、一部地域は日曜や深夜も相談可。6日まではウェブサイト
(http://www.childline.or.jp/)でも受け付け。
文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」(0120・0・78310)24時間対応。
いのちの電話(0570・783・556)午前10時~午後10時
こころの健康相談統一ダイヤル(0570・064・556)土・日曜は休みの地域もあり。
子どもの人権110番(0120・007110)平日午前8時半~午後5時15分

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平成29年8月29日東京新聞
いじめ疑い自殺に専門官 文科省が設置検討

 文部科学省は二十八日、学校でいじめが原因とみられる子どもの自殺などが起きた際、現地に赴き、学校や教育委員会への指導のほか、遺族対応などを担う「いじめ・自殺等対策専門官」を省内に配置する方針を決めた。教職経験者や有識者など外部人材の活用を検討し、二〇一八年度の機構定員要求に盛り込む。
 一三年施行のいじめ防止対策推進法は、いじめが原因で子どもが重大な被害を受けた場合は「重大事態」として対処するよう求めているが、最近は学校や教委の初動ミスで遺族が不信感を抱くケースが目立つ。
文科省は知識と経験が豊富な専門官を派遣することで、早期に適切な対応をとるとともに、再発防止につなげたい考えだ。
 専門官は同省でいじめ問題を担当する児童生徒課に二人程度配置することを検討。通常時は全国を回って協議会などに出席し、いじめの早期発見や予防のための研修を実施するなど普及啓発活動に取り組む。
 いじめが原因とみられる子どもの自殺が起きた際は、教委などの要請がなくても現地に入り、情報を収集。
警察など関係機関との連絡も行う予定という。
 文科省は来年度から、教員や保護者の法的な相談に乗るなど仲介役を果たす弁護士を派遣する「スクールロイヤー制度」の創設も決めており、将来的にはこうした専門家との連携を強め、対応を充実させていくことも想定している。

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平成28年11月5日 朝日新聞

有識者会議のいじめ防止提言、どう読む 尾木さんに聞く

 写真・図版

尾木直樹氏=東京都千代田区の法政大

■教育評論家・尾木直樹さんに聞く

 いじめ防止を話し合ってきた文部科学省の有識者会議が同省への提言をまとめた。今後、提言がいじめ防止対策推進法の改正につながる可能性もある。教育評論家の尾木直樹さんに、どう読み解いたらいいか聞いた。

 ――提言を読んだ感想はいかがですか。

 私の満足度は高い。最大のポイントは、教職員にはいじめの情報を学校の対策組織に報告・共有する義務があると改めて強調し、懲戒処分に言及した点だ。「罰則」については3年前、法律を作るときも議論になった。だが、当時は教育現場にはなじまない、との結論だったし、私自身も「ちょっと待て」という立場だった。

 ただ、この3年間だけでもいじめの情報が共有されず、何人もの子どもが自殺する事態を招いた。情報共有しないのは、明らかな法令違反であり、処分の対象にするべきだ。

 教職員の日常業務で、自殺予防といじめへの対応を最優先に位置づけるよう促すことが盛り込まれた点も評価したい。

 学校現場に行くと、校長先生に「いじめ対策組織の会議はどの程度機能していますか」と必ず聞き、構成メンバーも尋ねる。生徒指導の委員会と兼ねている学校が多い。そして、多くの校長は重ねて「いじめ対策組織の会議はやりたいけれど、忙しくてなかなかできない」と言う。それではいけない。いじめ対策は命にかかわるもので、職員会議や学年会議、

部活指導などより圧倒的に大事だ。月に2回とか毎週とか、定例的にやらないといけない。

 ――法に位置づけられた「いじめ対策組織」が十分認識されていないとの指摘があります。

 ある学校のPTA会長が、いじめられている子の親に相談を受けて担任の先生に伝えたのに、学校がなかなか動いてくれないとぼやいていた。そこで私が「いじめ対策組織」に頼むよう提案したら、その会長は「うちの学校にはありません」と。

学校が組織の存在を周知していない。重大な事件が起きているのは、こういう学校だ。

 提言には、いじめ対策組織の先生が朝礼であいさつするなど、組織の存在を子どもや保護者に知らせる取り組みが盛り込まれた。こんなことを3年たって書かないといけないのは恥ずかしいと思う。

 ――加害者側への指導という観点からはどうですか。

 「いじめという言葉を使わず指導する」と提言に入ったのは画期的だ。現場での長年の経験からいえば、「お前、それいじめだぞ」と言っても、ほとんどの子は認めない。本当にふざけているつもりの子が圧倒的に多い。だからいじめという言葉を使わず、相手の子のつらさを理解させることが大事だ。こんなに苦しんでるんだよ、君がされたらつらいでしょ、だからもうやめようよ、君ならできるよ、と持っていく。内容で迫り、納得して申し訳なかった、と理解できるようにするべきだ。

 一方、被害者の側には、いじめという言葉を使う。決して許されない人権侵害だよ、と言わなきゃいけない。

 ――提言には「児童生徒の主体的な参画」という要素も入りました。

 法律ができる時、参院での付帯決議に「児童等の主体的かつ積極的な参加」という文言が入ったが、衆院での決議には入らなかった。学校の主役は子どもたちなのに、いじめ防止活動に子どもが参画する、という発想が衆院には理解されなかった。子ども観が古かった。

 いじめが起きたらその日のうちにクラスの半分はわかるし、子どもの参加によってダイナミックな活動ができる。子どもの主体的な参画が盛んな京都市では、いじめを認知する割合が高い。やっと今、その重要性が理解されるようになってきたと思う。

 ――いじめ防止対策推進法を改正して盛り込むべきだと考える点はどこですか。

 いじめへの対応を最優先に位置づけたこと、情報共有、それと児童生徒の主体的な参画、の三つだと考える。

(聞き手・片山健志)

     ◇

 〈いじめ防止の提言〉 文部科学省の有識者会議がまとめた。いじめを教職員の業務の最優先事項に位置づけ、いじめの情報共有が義務であると周知▽いじめの認知件数が少ない都道府県に文科省が個別指導する▽学校の「いじめ対策組織」に外部の人材の参画を進める――などを盛り込んだ。

     ◇

 おぎ・なおき 1947年生まれ。法政大教職課程センター長・教授。東京都内の私立高、公立中教員として22年間、子どもを主役とした教育実践を展開。

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平成28年11月2日 神戸新聞社

いじめ調査/実態を把握できているか

  全国の小中高校などが2015年度に把握したいじめが、過去最高の22万4540件となったことが、文部科学省の調査で分かった。前年度から3万6468件増えた。

 兵庫県内の公立学校で確認されたいじめは6401件で、前年度の約2・7倍に上った。

 文科省は軽微ないじめも報告するよう指導している。件数の増加は、教員が積極的に把握しようとした結果とみるべきだろう。

 ただ、都道府県別の千人当たりの件数は最少と最多で約26倍差がある。4割近い学校が「1件もなかった」と回答した。兵庫でも市町でいじめの認知にばらつきがみられた。

 いじめはどこでも起こりうるが、大人からは見えにくい。早期の対応が、自殺につながるような深刻な事態を防ぐ。そうした認識が教育現場に十分に浸透していない可能性がある。本当に実態を把握できているのだろうか。

 児童生徒が心身に大きな被害を受けるなど、いじめ防止対策推進法で規定された「重大事態」は前年度より136件減ったが、298校で313件あった。いじめの問題に絡んで自殺した児童生徒は9人いた。

 大津市の男子中学生の自殺を受けて13年に施行された同法は、3年が経過し、見直しの時期を迎えている。防止のための基本方針策定や対策組織の設置などを学校に義務づけたが、その後もいじめを苦にした自殺は後を絶たない。

 文科省の有識者会議は、提言を大筋でまとめた。いじめを最優先で取り組むべき業務と位置づけ、いじめなどの解釈が学校や教員によって異なるため、具体例を示すよう求めている。「重大事態」を把握した際、学校に義務づけられている調査の方法や被害者側への説明の手続きを定めた指針を国が作成すべきとした。

 調査では、学校が認知したいじめのうち約9割が「解消した」と報告された。ただ、相手に謝罪したことで「解消」とみなしたケースもあるという。子どもたちの変化をもっと丁寧に見守る必要がある。

 端緒を教員がつかんでも、その後の対応を誤れば、子どもの命が失われかねない。教員が情報共有を徹底し、学校全体で問題意識を持つ姿勢が問われる。一方で専門教員の配置など、多忙な業務に追われる教員の負担軽減策も進めていくべきだ。

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平成28年3月4日朝日新聞

「ブラック部活顧問」改善求める署名、文科省に提出

部活動の顧問を務める中学や高校の教員が、休日返上で働いている現状を変えようと、若手教員らが2万3522人分の署名を集めた。3日、代表の本間大輔さん(34)が文部科学省を訪れ、署名と、教員が顧問をするかどうかを選べるようにすることを求める要望書を提出した。

署名は30~36歳の公立中教員ら6人が呼びかけ、インターネット上で集めた。顧問をする意思があるかを教員に毎年確認するよう文科省が各教育委員会に指示することや、文科省が導入を検討中の「部活動指導員(仮称)」を十分に確保することなどを求めた。

本間さんは取材に、「部活で時間がとられ、不登校の子に会いにいけない現状がある。

長時間拘束は大きな損失だ」と話した。

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