平成30年7月16日18:35 神戸新聞NEXT

神戸・中3自殺 再調査委で遺族が意見陳述/全文

垂水中3遺族意見陳述

再調査委員会の委員長に就任し、あいさつする吉田圭吾神戸大大学院教授(中央)=16日午前、神戸市役所

2016年10月、神戸市垂水区で市立中学3年の女子生徒=当時(14)=が自殺し、いじめを証言した同級生らの聞き取りメモが隠蔽(いんぺい)された問題で、16日に発足した神戸市の再調査委員会で、女子生徒の母親が意見陳述した。全文は次の通り。

「まず、各方面においてご活躍中でご多忙の皆さま方が再調査委員会の委員としてご就任をご承諾いただき、心から感謝を申し上げます。また、神戸市長さまにおかれましては再調査の決断をしていただいたこと、こども家庭局や弁護士の先生方には、再調査開始にむけての段取りにおいて遺族の意見に耳を傾け、丁寧な協議を積み重ねていただき、感謝しております。皆さま本当にありがとうございます。

私の娘は、動物や絵を描くことや手芸が大好きな、素直で穏やかな心の優しい子でした。また優しさだけではなく、人に流されない自分の考えをしっかりもっていた強さもありました。

そんな娘が一昨年の10月6日の朝、いつものように『行ってきます』と家を出たまま、登校途中に自宅近くを流れる小川で自らの命を絶ってしまいました。私たちは、学校から、娘が登校していないとの連絡を受け必死に探しましたが、自宅のすぐそばである現場の近くまで行きながら見つけてあげることはできませんでした。

娘に対しては本当に申し訳なく思っております。

娘の死後、どうしてこんなことになってしまったか訳がわからず、現実のこととして受け止めきれず涙もでなかったのですが、娘の同級生たちからいじめがあったことを聞いた時は本当に驚きました。

たくさんの聞いたこともない生徒の名前、男子生徒の名前、担任の先生のパワハラ、学校におけるスクールカーストの話。

娘が生きている時に気付いてあげることができなくて本当に娘には申し訳なかったです。

それから私はいろいろな立場の生徒から、高校受験を控える中何度も足を運んでもらい、たくさん話を聞かせてもらいました。

娘がつらかった様子、いじめの話を聞くことは親として本当に言葉では言い表すことができないくらい、悲しく、悔しく、つらいことでしたが、それでも私は『娘に何があったかを知りたい』一心で聞き取りをしました。

その一方で第三者委員会も立ち上がり、私も当初はきちんと調査をしてくれるものと期待しておりました。

しかし、第三者委員会とさまざまなやりとりを重ねるうちにだんだんと不信感に変わっていきました。それでも私が聞き取ったようないじめに関することは第三者委員会も把握できているはずとの思いで昨年8月に受け取った報告書は、いじめの事実をいくつかは認めているものの、いじめの背景もわからない、いじめの広がりについてもふれられていない、自殺といじめの関係も明らかにしない、などいろいろな点において納得できるものではありませんでした。

また、その後の追加調査に応じないという第三者委員会の消極的な対応や、教育委員会によるメモの隠蔽など信じられないこともたくさんありましたが、今回、再調査という機会を与えていただきました。

新しい調査委員会の方々にお願いがあります。

娘の同級生によると、娘へのいじめは仲間はずれや陰口など陰湿でわかりにくく、周りの雰囲気や態度によるいじめと言っていました。分かりやすい暴力とかではないので、娘に対するいじめは、なかなか分かりにくいかもしれませんが、陰口や仲間はずれなどの陰湿ないじめによって精神的に追い詰められるつらさをいじめられる子の立場になって考えていただきたい、また親が思うように『何があったのか知りたい』という思いで調査をしていただきたいと願っております。

また、2年生の時の仲間はずれ・悪口・陰口といういじめは既に他の同級生・部活・男子生徒にまで広がっていたのではないか、それが3年生になった後にも継続し、さらに広がっていったのではないか、そして容姿中傷発言や身体的攻撃にまでつながっていったのではないか、を深く調査してほしいと思います。

2年次のいじめの一部は当時学校の知るところとなっていましたが、特定の生徒とのクラス分けで対応が終わってしまっています。この時に、いじめの広がりを学校がきちんと把握していれば、3年次にいじめが継続し、娘を苦しめ、絶望に追いやることはなかったのではないか、と悔やまれてなりません。2年次から、いじめ防止対策推進法や神戸市・学校のいじめ対策の指針に基づいた対策が取られていなかったことが、3年次のいじめの継続・広がりを招き、娘の自殺につながっていったのではないか、学校の対応の問題点も明らかにしていただきたいと思います。

私も娘の自死に対しては反省や後悔はたくさんあり、娘には申し訳ない思いでいっぱいです。しかしどんなに考えても、いじめがなかったらこんなことにはならなかったという考えにたどり着きます。

早いものでもう娘の死から1年9カ月が過ぎ、関係者はそれぞれの道を歩んでいる中で再調査の運びとなり、また事情を知っている生徒の記憶もあいまいになってきたりして、難しい面もあると思います。

しかし私は、もう二度と娘のようないじめに苦しむ子をだしてほしくはないです。

本件の再調査の事例が全国で同じようないじめで苦しんでいる人たちへのいじめ対策の一考となり、いじめの解決に少しでも寄与できればと願っております。

再発防止策につながる報告書となるよう、委員会におかれましては、娘に対して、どのようないじめがなぜ行われたのか、その背景を含めて、明確にしていただくとともに、娘がなぜ自ら命を絶つことになったのかを明らかにしていただくように切にお願い申し上げます。

以上よろしくお願い申し上げます」

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平成30年7月16日18:35神戸新聞NEXT

神戸・中3自殺 市設置の再調査委が発足、初会合

垂水中3遺族意見陳述

再調査委員会の委員長に就任し、あいさつする吉田圭吾神戸大大学院教授(中央)=16日午前、神戸市役所

2016年10月、神戸市垂水区で市立中学3年の女子生徒=当時(14)=が自殺し、いじめを証言した同級生らの聞き取りメモが隠蔽された問題で、市が設置した再調査委員会の初会合が16日、同市役所であった。黙とうの後、意見陳述した女子生徒の母親は「娘に対してどのようないじめが行われたのか、なぜ娘が命を絶つことになったのかを明らかにしてほしい」と訴えた。

いじめ防止対策推進法に基づく再調査で、市教育委員会の設置した第三者委員会は昨年8月、容姿中傷発言などをいじめと認定する調査報告書をまとめたが、今年4月、遺族は自殺との関連など調査が不十分として久元喜造市長に再調査を申し入れた。その後、第三者委が「破棄」と扱っていた聞き取りメモの隠蔽が発覚。久元市長が再調査を決め、弁護士、精神科医ら委員5人を選任した。

会合では、久元市長が「いじめへの学校の対応や、事案発生後の学校・教育委員会の対応の問題点を明らかにし、具体的な再発防止策を提言してほしい」とあいさつ。委員長には吉田圭吾・神戸大大学院教授(臨床心理学)が選ばれた。

生徒の母親は意見陳述で悪口や仲間外れなど第三者委が認定したいじめについて、関連性や広がりを生徒間の関係や学校の対応など背景を含めて調べるよう求めた。

吉田委員長は会見で「遺族の気持ちに寄り添いつつ、公平中立な調査を進めたい」と述べた。今後、弁護士ら数人を補助委員に任命し、関係者への聞き取り調査などを行い、年内にも報告書をまとめる。(井上 駿、広畑千春)

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平成30年7月12日 神戸新聞

神戸・中3自殺 いじめ再調査委16日発足

2016年10月、神戸市垂水区で市立中学3年の女子生徒=当時(14)=が自殺し、同級生らの聞き取りメモが隠蔽された問題で、神戸市は11日、いじめと自殺との関連などを調べる再調査委員会を16日に発足させると発表した。委員には、加古川市のいじめ自殺問題で第三者委員会委員長を務めた吉田圭吾・神戸大大学院教授(臨床心理士)ら5人を選定。初回会合では遺族も意見陳述し、年内の取りまとめを目指す。

再調査は、いじめ防止対策推進法に基づく。市こども家庭局が委員会を設け、吉田教授ら有識者2人、弁護士2人、精神科医1人の計5人で調べる。

神戸の自殺を巡っては、市教育委員会が遺族に非公表で第三者委を開催。第三者委は昨年8月、女子生徒へのいじめを認める報告書をまとめた。しかし遺族は自殺との関連の調査が不十分として今年4月、久元喜造市長に再調査を申し入れた。直後にメモの隠蔽が発覚し、久元市長は再調査を決定。市が遺族の意向を踏まえ人選を進めてきた。

久元市長は、11日の定例会見で「市教委の第三者委は必ずしも遺族の信頼が得られる形ではなかった」と指摘。「いじめへの対応を調べる中で、市教委や学校のあり方も問われるだろう」と述べた。(広畑千春)

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平成30年6月25日 神戸新聞

神戸・中3自殺 隠蔽メモを「破棄」とした経緯など確認

垂水メモ隠蔽

神戸市教育委員会のメモ隠蔽問題を受けて開催された第三者委員会=24日午前、神戸市中央区

神戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒が自殺し、同級生らの聞き取りメモが隠蔽された問題で、市教育委員会が設置し、いじめの有無などを調べる第三者委員会の会合が24日、同市中央区であった。隠蔽されていたメモを「破棄」と扱った経緯などを確認し、内容が調査報告書に反映されているか最終的な判断を話し合った。

市教委が委託した弁護士による調査でメモの隠蔽が明らかになってから初の会合で、委員7人中5人が出席。この問題を調査した弁護士2人も出席した。

第三者委の報告書では、市教委が前校長に隠蔽を指示したメモを「破棄された」と扱っていた。この日の会合では、第三者委としてのメモに関する経緯の確認▽メモの内容をどこまで把握できていたか▽報告書に修正を加えるか-の3点を中心に話し合ったという。最終的な判断はまとまったが、「欠席した委員や遺族への報告ができていない」として公表は見送られた。

第三者委は月内にも市教委を通じて遺族に報告し、その後公表する方針。(井上 駿)

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平成30年6月18日付朝日新聞社説

自殺調査メモ 隠蔽の罪深さ自覚せよ

わが子が自ら命を絶った無念と疑問、真相を知りたいという遺族の思いに向き合うことが出発点なのに、調査メモを隠蔽するとは言語道断だ。自殺した生徒の尊厳も傷つける背信行為である。

再調査を徹底し、その結果を遺族に包み隠さず説明する。一連の取り組みを通じて、学校や行政への信頼を取り戻していかねばならない。

2016年秋、神戸市の市立中学校に通う3年の女子生徒が自殺した問題で、神戸市が再調査に乗り出す。自殺直後に中学校の教員らが生徒6人と面談し、いじめをうかがわせる聞き取りのメモを作っていたのに、市教育委員会の担当者が主導してメモを隠していた。

遺族がメモの開示を求めていたが、市教委の担当者は「情報開示は終わっており、今さら出せない」と隠蔽を指示し、当時の校長も従った。自殺を受けて設置された外部有識者による調査委員会は昨年夏の報告書で「メモは破棄された」としたが、後任の現校長がメモの存在を把握し、市教委に報告。今年春に隠蔽が発覚した。

自殺直後の聞き取りメモは、中学校の複数の教員らが共有していたという。現校長からの指摘を受けた市教委の当時の教育長も、調査を指示しながら報告を求めず、事態を放置した。

隠蔽について調べた弁護士は、市教委の担当者と当時の校長によってメモは存在しないことにされたと結論づけたが、学校ぐるみ、市教委ぐるみだったと言われても仕方がないのではないか。

神戸市は、これまでの調査は不十分と判断し、市長部局で再調査を進める。昨年夏の報告書は、いじめがあったことを認定しつつ自殺の原因は特定しなかったが、改めていじめと自殺の因果関係を調べる。報告書の作成過程でメモの隠蔽が行われ、調査への信頼が損なわれただけに、当然の対応だろう。

まず問われるのは、市が新たに置く調査委員会のあり方だ。委員の人選を通じて「第三者」の目を徹底し、多角的、専門的に情報を精査する。市議会も当時の教育長らの参考人招致を検討しており、連携しながら真相を解明してほしい。

文科省のいじめ調査に関するガイドラインは、事実関係を明らかにしたいという保護者の切実な思いを理解し、対応することを基本姿勢に掲げている。

丁寧に事実を積み上げ、事実に真摯に向き合う。それが遺族の求めることであり、失った信頼を回復する道である。

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平成30年6月14日付朝日新聞兵庫版

いじめ調査メモの隠ぺい、識者はこうみる

  神戸市垂水区で市立中学3年の女子生徒が自殺し、いじめをうかがわせる他の生徒からの聞き取りメモが神戸市教委首席指導主事の指示で隠蔽された問題が、波紋を広げている。

この件から見えてくるものは何か。子どもを自死で亡くした母親、情報公開に詳しい弁護士、教育行政の研究者の3人に話を聞いた。(聞き手・西見誠一)

 遺族の立場から 小森 美登里さん

小森

神戸市教委の首席指導主事らによる隠蔽行為は二重、三重の意味で罪深い。まず再発防止のためには真実に向き合い、何がいけなかったのかの検証が不可欠なのに、ふたをしてしまったこと。第二に、真実を知りたいと願う遺族の思いを踏みにじったこと。第三に、いじめの加害者の更生の機会を奪ったことだ。

私は1998年に高校1年生だった一人娘を自殺で失った。娘は吹奏楽部でいじめを受けていたが、学校が部内で聞き取りをした調査結果を、「個人情報だから」との理由で見せてもらえなかった。

昨年、「保護者の切実な思いを理解し、対応に当たること」をうたった文部科学省のいじめ調査のガイドラインができたのに、いつまでこんなことを繰り返すのか。行政がガイドラインを平気で無視するのなら、いじめ防止対策推進法に罰則規定を盛り込むことも検討すべきだと思う。

 オンブズマンの立場から 新海 聡さん

新海

行政が集めた情報は誰のものか。政策遂行には正確な情報が欠かせないから、行政自身のものではある。同時に市民のものだ。たとえいま公開できなくても、将来的に市民が行政の

判断をチェックできるようにしておく必要があるからだ。

だが国、地方を問わず、事実の軽視が進んでいる。

今回の問題は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の日報を、「廃棄した」としながら実際は保存していた陸上自衛隊の問題と似ている。公開しない理由を説明できないから、

ないものにしてしまおうという構図だ。だが、事実をもとにしなければ議論もできないし、検証もできない。これでは行政判断の正当性が担保できない。

証拠保全を決定した裁判所を欺いたことにも驚かされる。ほかの情報公開でも、神戸市教委は同じことをしているのではないかとの疑念すら浮かぶ。

 教育学者の立場から 山下 晃一さん

山下

いじめ防止対策推進法は、被害者や保護者に対して必要な情報を適切に提供するよう定めている。首席指導主事なら専門性をもって実務にあたらなければならないのに、法の趣旨

への理解が不足している。

そもそも聞き取りメモが「存在しない」と言う選択肢はありえない。見せられない正当な理由があるのなら、説明を尽くした上で非開示にする方法もあったはずだ。その場合、当然、

組織内で多角的に検討しなければならない。そういう意味でも、首席指導主事の独断を許していた神戸市教委の責任は重い。「縦割り」や「他人任せ」の文化があったのではないか。

教育委員会制度は、市民の信託の上に成り立っている。様々な専門的判断も、市民に成り代わって行っているという自覚が必要だ。神戸市教委は、この原点に立ち返って組織文化を

変えてもらいたい。

こもり・みどり NPO法人ジェントルハートプロジェクト理事。各地でいじめ防止の講演を続ける。

しんかい・さとし 弁護士。全国市民オンブズマン連絡会議事務局長。

やました・こういち 神戸大学准教授。専門は教育制度論。

〈いじめ調査メモ隠蔽問題〉 2016年、神戸市立中学校の3年の女子生徒が自殺した。いじめをうかがわせる他生徒からの聞き取りメモがあったが、市教委の首席指導主事が当時の

校長に指示し、遺族に対しメモを隠蔽。遺族側の申し立てによる裁判所の証拠保全の手続きでもメモを提出しなかった。市教委は関係者の処分を検討しており、久元喜造市長は新たな

調査委員会を立ち上げる方針を明らかにしている。

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平成30年6月14日付神戸新聞NEXT

「遺族、市民への背信行為」神戸中3自殺メモ隠蔽で市長

神戸市垂水区で市立中学3年の女子生徒が自殺し、同級生らへの聞き取りメモが隠蔽されていた問題で、久元喜造市長は14日の定例会見で、長田淳教育長に対し、背景の徹底究明や

組織風土の改革などを求める要請書を出したことを明らかにした。こうした措置は異例という。

要請書は13日付。再発防止に向けた組織風土の改革や人事を含む組織体制の見直し▽適切な情報共有・公開、意識改革の徹底▽その取り組み状況を、市長もメンバーである総合教育

会議に報告すること-などを求めている。

久元市長は会見で「(隠蔽は)言語道断で、遺族や市民への背信行為」と非難。市こども家庭局の下で新たに設置する再調査委員会は弁護士2人と学識経験者2人、精神科医1人で構成

する方針を明らかにし、「ご遺族と相談しながら人選を進めたい」とした。

市教育委員会によると、13日には臨時の教育委員会も開かれ、委員から抜本的な組織改革を求める意見が出たという。(広畑千春)

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平成30年6月11日付神戸新聞

市教委、首席指導主事任せ 対応の異様さ次々に 神戸・中3自殺メモ隠蔽

垂水中3女子2

垂水中3女子3

 

メモの隠蔽を認めた神戸市教育委員会の記者会見で、質問に答える長田淳教育長(右から2人目)ら=3日、神戸市役所

神戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒の自殺を巡り、同級生らの聞き取りメモの存在が隠蔽された問題では、市教育委員会側の対応の異様さが次々に浮かび上がっている。

遺族が聞き取りの情報提供を求めて雪村新之助前教育長宛てに出した質問書に、なぜか前校長名で回答。また、隠蔽を指示した首席指導主事はこの件について、上司らに相談や報告を一切していなかった。市教委が「隠蔽」を認めて10日で1週間となるが、背景の全容はまだ見えていない。(広畑千春、井上 駿、石川 翠)

メモについて調査した弁護士の報告書によると、遺族は2017年1月、学校が市教委に提出した自殺に関する調査資料の開示を請求。同級生らの聞き取り内容が含まれていなかったため同2月、教育長宛てで市教委に質問書を送った。一方、首席指導主事は前校長に聞き取りメモを出さないよう指示。3月6日、前校長名で「記録として残していない」と回答した。

これについて、首席指導主事の当時の所属長は神戸新聞社の取材に「いつの段階かは不明だが、質問書の文面を見た覚えはある」としつつ「教育長宛てとは気付かず、何らかの対応を指示した記憶もない」とする。

通常、遺族への対応については報告や決裁が行われていたが、この件では一切なかったといい、所属長は「異様な(独断の)対応」とした。首席指導主事は重大事態での対応を統括する課長級ポストで校長経験もあり、「信用して任せきっていた。内容も学校が答える話だった」とし、3月中旬に遺族に回答したことを知った後も、理由などを問うことはなかったという。

17年8月8日、いじめなどを調べた第三者委員会の報告書がまとまり、メモは「破棄された」とされた。

報告書を見た現校長は教員にメモの存在を教えられ、前校長に経緯を確認。同23日、首席指導主事が所属する課の課長に「メモは市教委の指示で廃棄されたことになっているが、一部が学校に保管されている」と連絡した。同月下旬、別の部長にも同様の話をし、報告を受けた雪村前教育長が調査を指示した。

課長は連絡の内容を文書にし、上司の部長に報告したが、一連の経緯について市会の委員会で「意味が分からなかった」と答えた。報告を受けた部長も神戸新聞社の取材に「何について言っているのか分からず、まず時系列の整理をさせた」とし、別の部長は首席指導主事に経緯を聞いた際に「メモはあるはずない」と返答されたという。

市教委は前校長にも聴取をしたが、その内容が雪村前教育長らに報告されることはなく、放置された。

こうした対応に対し、文部科学省は組織体制の改善を指示。市教委は今後、前教育長を含めた処分や、組織の抜本的改革などを検討する。遺族は「市教委は『職務怠慢』としたが、黙認ではないのか。最初からいじめでなく個人間トラブルにしようとしていたのでは」と疑念を呈している。

【神戸中3自殺問題】 2016年10月、神戸市垂水区内で市立中学3年の女子生徒が自殺し、市教育委員会は非公表でいじめの有無などを調べる第三者委員会を設置。17年8月、生徒への容姿中傷発言などをいじめと認定する一方、自殺の直接原因とは認めない形で報告書をまとめた。遺族は再調査を求め、久元喜造市長が今年4月、市こども家庭局が新たな調査組織で再調査することを決めた。

【再調査委で隠蔽背景も検証を】 京都精華大・住友剛教授(教育学)の話 これほどの事案で首席指導主事が独断で対応するのは理解しがたい。それが本当なら、複雑な対応を1人に任せてしまった市教委の側にも問題がある。そもそもの背景には、初期対応の段階で、市教委が自殺といじめの関係をどう捉えたかがあり、再調査委員会ではメモ隠蔽問題を含む経緯の検証も必要になる。

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平成30年6月8日付神戸新聞

開示求める遺族に別文書の存在伝えず 神戸・中3自殺

神戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒が自殺し、同級生らの聞き取りメモが隠蔽された問題で、市教育委員会がメモの内容を含む事案の概要をまとめた文書を作成しながら、遺族に存在を伝えていなかったことが分かった。遺族の情報開示請求に対し、市教委は「対象外」として開示しなかった。近く遺族に提供する。(井上 駿)

市教委などによると、文書は「自死事案概要」。自殺した2016年10月6日から1週間の学校の対応を時系列でまとめており、同11日の同級生らへの聞き取り内容も含まれている。

いじめと自殺との関連を調べるため、市教委が同20日に設置した第三者委員会には、基礎資料として提供していた。

遺族は17年1月、学校が市教委に提出した報告書について情報開示請求。2種類の報告書の開示を受けた。しかし、この文書については「市教委が作成した」として開示されなかったという。

市教委は今月3日、メモ隠蔽問題を調べた弁護士調査の結果を遺族に伝える際、この文書について初めて伝えた。長田淳教育長は「遺族に請求の真意を聞き、こうした文書があるということを伝えるべきだった」と話した。

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平成30年6月5日付神戸新聞NEXT

神戸・中3自殺 「ほかの地域で起こらないと言えない」文科省一問一答
垂水中3女子4
文部科学省の生徒指導室長に、一連の問題を謝罪する神戸市教育委員会の川田容三教育次長(右端)ら=5日午後、神戸市役所

戸市垂水区の市立中学3年の女子生徒=当時(14)=が自殺し、同級生らの聞き取りメモが隠蔽(いんぺい)された問題で、文部科学省児童生徒課の松林高樹生徒指導室長らが5日、神戸市教育委員会を訪れ、指導した。市教委幹部との面談後、報道関係者の取材に応じた同室長の一問一答は次の通り。

(冒頭説明)

「市教委職員がいじめに関するメモの隠蔽を当時の校長に指示していたのは不適切で、極めて遺憾だ。いじめ防止対策推進法に規定されている重大事態の調査は、教職員が真実に向き合って真摯に調査に協力するというのが前提だ。不誠実な対応は行政に対する信頼を失墜させる」

「首席指導主事と当時の校長に対応を任せていたために今回の事案が起きた。市教委には組織的な対応を見直し、再発防止策の策定と関わった職員の懲戒処分を検討するよう求めた」

(質疑)

-いじめ防止対策推進法ができてから、市教委を直接指導した事例はあるか。

「年に数件はある。法に基づき、不適切な対応があれば事案に応じて文科省幹部、副大臣が指導に行く。文科省に来てもらって指導することもある」

-今回はどのような点を特に問題視したのか。

「いじめ防止対策推進法の重大事態は任意の調査。教職員が不都合なことも含めて真実に向き合って対応することが前提だが、今回の事案の発生直後にスクールカウンセラーらが事情を聞き取ったメモを『破棄した』と遺族に回答したのは適切ではない」

-市教委は「組織的な隠蔽はない」とするが。

「首席指導主事と当時の校長が話し合ってメモが既になかったことにしようと決めた。市教委全体の判断ではないと考えている。ただ、遺族に伝える前に、首席指導主事の判断だけでなく、上司に報告、相談し回答すべきだった。市教委の重大事態に対する組織対応が不十分だったと言える」

-昨年8月にメモの存在が教育長まで報告されたが、半年放置されたことについては。

「その点も指導した。昨年8月には、新しい校長が、メモが実際にはあると市教委幹部に伝え、教育長まで報告された。その後、調査の指示があったが、『破棄されたはず』との報告だった。説明に食い違いがあり、再度しっかり調べるべきだったが、その後迅速に対応していなかった。この点も、市教委の組織的な対応が十分でなかったと指導した」

-他地域でも同様の事案が起こると、調査の前提が覆る。危機感から指導に来たのか。

「ほかの地域の教育委員会で起こらないとは言い切れない。今回の不適切な事案を神戸市教委が検証し、全国にも教訓事例として周知徹底していきたい」

-いじめに関しては、市長部局での再調査が決まっている。

「ほかにも再調査をした例はある。市長や都道府県のリーダシップの下で適切に調査されたと考えている。今回、破棄したとされるメモや経緯などについて、市教委から市長部局、調査委員会にもしっかり情報提供し、可能な限り協力すると思っている」

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