2021年3月30日付毎日新聞
鹿児島高1いじめ死去 調査機関常設を提言 再発防止検討会
再発防止策検討会の提言を受けて記者会見する田中さんの母親=鹿児島県庁で2021年3月29日午後1時20分、足立旬子撮影(毎日新聞)
◇母会見「意見反映された」
2014年に鹿児島県立高1年の田中拓海さん(当時15歳)がいじめを受けて自殺した問題で、県の再発防止策検討会は29日、速やかに事実究明しなかった県教育委員会の対応を批判し、児童生徒の自殺が起きた場合に公正・中立に調査する機関の常設などを塩田康一知事に提言した。17回の会議をすべて傍聴するなど再発防止を願ってきた母(58)は「遺族の思いを尊重した提言。今度こそ、県教委は変わってほしい」と語った。【足立旬子】
田中さんは14年8月に命を絶った。県教委が設置した第三者委員会は17年、「いじめの存在を特定できない」と結論づけた。しかし、県の再調査委員会は19年、田中さんがかばんに納豆巻きを入れられるなどのいじめを受けていたと認め、「いじめを中心とする学校での事情が自殺に大きな影響を与えた」と判断した。
この結果を受け、県と県教委で構成する総合教育会議が再発防止策検討会を設置した。検討会は提言で、田中さんが亡くなってから県教委が詳細調査を始めるまでに1年4カ月もかかったのは遅すぎるとして「国の指針にそぐわない」と批判。速やかな調査や再発防止策の履行状況を検証するための機関の設置を求めた。
また、田中さんの死後、事実究明を求めた遺族に特定の若手教員が対応するなど学校が組織的に動いておらず、検討会は「場当たり的だ」と指摘。教員や管理職らが子どもを失った家族の痛みを学ぶため、遺族に思いを聴かせてもらう研修会の実施を提言した。検討会の高谷哲也会長(鹿児島大准教授)は記者会見で「『いじり』や『からかい』でも心の大きな傷となりうる。いじめをどうとらえるのかを、問い直してほしい」とも語った。
提言を受け、田中さんの母は記者会見で「私たちの意見が反映された」と安堵(あんど)しながら、「県教委が実践するのか、心配している」と語った。再調査委が田中さんがいじめを受けていたと認めた調査結果について1月に県教委側から説明を受けたが、教職員の対応に問題がなかったとする従来からの見解が繰り返されるなど、息子の命に真摯(しんし)に向き合っているとは思えなかったからだ。
提言で盛り込まれた遺族による研修について、母は「我が子を失うことがどういうことなのかを知ってほしい。依頼されれば私も語りたい」と話した。いじめで子どもの命が失われない学校現場に変わるのか。自らの目で見届けるつもりだ。