令和元年5月23日付朝日新聞西部本社版

高1自殺、元同級生に10万円賠償命令 熊本地裁

熊本市内の県立高校1年の女子生徒(当時15)が2013年に自殺したのはいじめに学校側が適切な対応をしなかったためなどとして、遺族が県と元同級生1人に損害賠償を求めた訴訟の判決で、熊本地裁(小野寺優子裁判長)は22日、元同級生に11万円の支払いを命じた。一方、高校の教職員の対応と自殺との因果関係は否定し、県に対する請求は棄却した。

判決によると、女子生徒は13年4月に入学し、付属の学生寮で生活。夏休みで帰省していた同年8月、実家で亡くなった。母親らが16年7月、提訴していた。

判決は、女子生徒が13年5月ごろから、寮の同級生らから、LINEで「レスキュー隊呼んどけよ」などと書き込まれたり、中学校の卒業アルバムに落書きをされたりしたと認定。「『いじめ』に該当するか、準じた行為」と判断した。

書き込みについては、「加害行為などの可能性を想起させ、違法な脅迫行為だ」と指摘。落書きの件と合わせて「不法行為に当たる」として、慰謝料など計11万円の支払いを元同級生に命じた。

一方、寮生を指導する立場の教諭「舎監長」の対応については、「適切さを欠くとは言えない」と指摘。遺族側は「いじめの認識を持つべきだった」と主張したが、判決は、教諭が女子生徒と元同級生らに他人の中傷をしないよう指導するなど合理的な措置をとったとして、「いじめと判断しなかったからといって、安全配慮義務に違反したとはいえない」との判断を示した。

担任の教諭については、女子生徒が生活状況などを尋ねるテストで「死んでしまいたいと本当に思う時がある」との項目にマークをしたことを見逃し、舎監長の教諭にその事実を伝える義務があったのにしなかったと認定。そのうえで、「テストの回答が直ちに自殺を図る具体的なおそれがあることに結びつくまでとは言いがたく、自殺を予見できたともいいがたい」と指摘し、「自殺との因果関係は肯定できない」と結論付けた。

この問題をめぐっては、学校の調査委員会が16年2月、「いじめが直接的な影響を与えたとは認め難い」とする報告書をまとめた。しかし、調査委のメンバーに校長らが含まれていたことなどから遺族が反発。改めて調査した県の第三者委員会は17年7月、LINEの脅迫的な書き込みなど6件をいじめ行為と認めたが、自殺の直接の原因は「特定できなかった」と結論づけた。

ただ、LINEの書き込みなどが「『寮生活を続けたくない』と思うきっかけになったことは否定できない」とも指摘。退寮の願いがかないそうにないと感じる中でうつ状態となり、「改善されないまま自死につながったのではないかと考えられる」とした。(杉山歩)

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令和元年5月22日付神戸新聞

遺族ら第三者委の在り方問う

学校事故語る会 来月神戸

学校での事故やいじめ、体罰などで子どもを亡くした遺族らでつくる「全国学校事故・事件を語る会」の集会が6月1、2日、兵庫情報開示など事後対応の改善を求める要望書を文部科学省に提出した。
2日のシンポは午前9時半~午後4時。午前の部は、県立のじぎく会館(神戸市一同会代表世話人で、小学生中央区山本通4)である。シンポジウムなどを通じ、事実が明らかになった場合に学校や教育委員会などがどう対応すべきなのかや、調査委員会の在り方についても考える。

同会は事実解明や情報公開について行政機関への要望活動などに取り組んでおり、昨年12月には、学校や教育委員会による積極的なの長男が担任からの体罰後に自殺した内海千春さん=たつの市=が「第三者委の使命と望ましい事後対応の在り方」と題して基調講演する。

事後調査を巡っては手法や報告内容に不満を抱く遺族らの反発で、調査をやり直すケースが全国各地で相次ぐ。講演後、奈良県橿原市立中でいじめを苦に自殺した女子生徒の遺族や、名古屋市立高校で柔道部の練習中に事故死した男子生徒の遺族が登壇。いじめが原因で自殺した加古川市立中の女子生徒の遺族代理人、渡部吉泰弁護士も加わり、第三者委の問題点について意見を出し合う。参加費500円。これに先立ち、1日午後1時半ら5時、学校事故・事件の被害者や遺族、保護者らが経験を語り合い、情報を交換する交流会(参加費500円)が同会館である。

いずれも申し込みが必要。同会090・4908・6844(佐藤健介)

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令和元年5月11日付朝日新聞

(縦横無尽)「言葉の暴力」また部活動で 中小路徹

部活動指導における暴力は殴る、蹴るだけではないことを見つめ直すべき出来事が、また起こってしまった。

茨城県高萩市立中学3年の女子生徒が4月30日に自死した。市教育委員会によれば、生徒が残した紙に、所属していた卓球部の顧問の指導の様子が記されていた。

市教委が記述内容を顧問に確認したところ、顧問は、部員が練習に集中できていない時などに「殺すぞ」「殴るぞ」などの暴言を部員全体に発したこと、練習態度が悪いと感じた時に何人かの肩を小突いたこと、気合を入れるために道具を床に投げつけたり、物をたたいたりしたことを認めたといい、市教委も「不適切」とした。

生徒は3月15日から部活に参加していなかったが、学校には通っていた。部活動が自死につながったかどうかは、今後設けられる第三者委員会の調査を待つ必要がある。しかし、顧問の指導が正しかったかどうかは別問題だ。

2013年、大阪市立桜宮高校バスケットボール部主将が顧問から暴力を受けて自死した事件が明らかになったことなどを機に、指導で直接的な暴力は認められないという認識は高まりつつある。

だが、それ以外の言動についての軽率な考え方はまだ根強く、今回の卓球部の指導からも推し量れる。13年に日本体育協会(現・日本スポーツ協会)などが採択した「暴力行為根絶宣言」では、身体的制裁のみならず、言葉や態度による脅迫、威圧についても「スポーツの価値を否定する暴力行為」と定める。文部科学省も、パワハラと判断される言葉や態度による脅し、威圧は許されない

指導とするガイドラインを作成している。それが、なかなか浸透しない。

昨夏には、岩手県立高バレーボール部に所属していた3年生の新谷翼さんが自死した。原因は県教委の第三者委員会が調査中だが、これまでの調査では、顧問が「背は一番でかいのに、プレーは一番下手だな」「どこにとんでるんだ、バカ」などの言葉をぶつけ、顧問も発言をほぼ認めている。

父親の聡さんは「指導者は悪気もなく、生徒を追い詰める。一人の世界に完結せず、指導者本人が言葉の暴力を自覚できるよう、複数による体制など、誰かの意見が入る機会が必要だ」と話している。(編集委員)

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令和元年5月10日付東京新聞社説

いじめ防止法 悲劇防ぐ改正進めよ

超党派の国会議員によるいじめ防止対策推進法の改正作業が難航している。学校の負担増に配慮し、当初の対策強化案が後退。遺族らは反発している。悲劇をなくすため一歩でも前進できないか。

十連休の後にも、埼玉県では電車にはねられ亡くなった高校生がいる。目撃情報から自殺とみられている。原因は分からないが、学校に行くのがつらかったのかもしれないと思うと胸が痛む。

子どもたちをどうやったら救えるか。そこを原点に考えたい。

法は、二〇一一年に大津市の中学二年男子がいじめ自殺した事件をきっかけに制定された。国や地方自治体、学校はいじめ防止の方針を定める。自殺や長期の不登校は「重大事態」と位置付け、第三者委員会をつくって原因究明にあたり、再発防止につなげる。

しかしその後も全国で子どもが命を絶つ事態は続いている。第三者委員会の調査結果に遺族が納得せず、再調査になるなど、法は必ずしもうまく機能していない。

昨年公表された改正案のたたき台には、いじめ対策委員会の設置や学校で作るいじめ防止基本計画に盛り込むべき項目などがきめ細かく盛り込まれていた。しかし四月の案ではそれらが削られた。

いじめの定義が広すぎるなど、現行法でも学校は疲弊しているとの指摘もある。一方でいじめ自殺の遺族らには、学校でいじめ問題の深刻さが共有されていないという、もどかしい思いがある。

両者の溝を埋めていくためには、余裕をもっていじめに向き合える体制づくりが必要なのではないか。スクールカウンセラーなどの配置は進んでいるが、それに加え大津市はいじめ対策主任を学校に置けるよう、国が財政支援することを提案している。

市は事件後の一三年度から、いじめ対策に専念する教員をほぼ全校に配置した。増員分の人件費は市が負担している。担当教員は子どもたちの様子を見守るとともに、靴箱や教室の細部まで日々、目をこらすのだという。靴に画びょうや虫が入れられていたり、窓枠や机に「死ね」などの落書きがされていたりの危険な兆候が見つかることもあるからだ。いじめの早期発見につながっているという。

子どもの死があって国や地方自治体が重い腰を上げる。これまでのいじめ対策はその繰り返しだった。その情けないありようを克服するため、法改正にも知恵を絞りたい。

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令和元年5月10日付北海道新聞

札幌高1自殺訴訟、母親が控訴 元顧問の責任否定に不服

2013年に札幌市の道立高校1年の男子生徒=当時(16)=が自殺したのは、所属する吹奏楽部のトラブルで当時の男性顧問教諭から叱責(しっせき)されたのが原因として、生徒の母親(51)が道に損害賠償を求めた訴訟で、母親は9日、自殺に対する元顧問の責任を否定した一審札幌地裁判決を不服とし札幌高裁に控訴した。

4月25日の一審判決によると、13年1月に生徒と他の部員がメールのやりとりでトラブルになった際、元顧問は生徒だけを叱責した。同3月にも別の部員に対する生徒の発言をとがめ「部員に一切メールをしないこと」などを部に残る条件として要求。生徒は翌日に自殺した。

一審判決は、生徒のメールや発言の内容から「指導の必要があり、方法も違法ではない」と判断。自殺との因果関係も認めず「元顧問に法的責任はない」とした。一方で高校が自殺の原因を調べた在校生アンケートを保管期限前に廃棄したことについて「遺族に苦痛を与えた」と認定し、高校を設置する道に110万円の賠償を命じた。

母親は取材に対し「元顧問の言動を正当化する判決は受け入れられない。指導の範囲を超えた違法な行為だとあらためて訴えたい」と述べた。道教委は「控訴状を確認しておらずコメントは差し控える」とした。(松下文音、中秋良太)

 

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令和元年5月7日付東京新聞夕刊

茨城・高萩 中3自殺、部活顧問暴言か 卓球部員に「殺すぞ」

茨城高萩

記者会見で謝罪する高萩市教育委員会の大内富夫教育長(右)ら=6日午後、茨城県高萩市役所で

茨城県高萩市教育委員会は六日、市立中三年の女子生徒(15)が四月末に自殺したと発表した。所属する卓球部顧問の男性教諭が、暴言を吐くなど不適切な指導をしていたことが判明。

今後、第三者委員会を設置して自殺との因果関係を調べる。 (水谷エリナ)

市教委によると、女子生徒は四月三十日、自宅で自殺し、家族が見つけた。女子生徒が自筆で残したメモに、教諭が部活中、全部員に対し「ばかやろう」「殺すぞ」などと発言したほか、物を床に投げ付けたり、複数の部員の肩を小突いたりしたことなどが記されていたという。

学校側の調べに、教諭は大筋で事実関係を認め「行きすぎた指導だった」と話したという。

女子生徒は昨年九月、学校のアンケートに「学校は楽しいけれども、部活動はつまらない。やっているとイライラする」と記述していた。女子生徒は今年三月十五日以降、登校していたが、部活には参加していなかった。

教諭の指導を巡っては三月二十日、市教委に匿名の電話があり、学校側が教諭を指導し、部活の様子を見守るなどしていた。

大内富夫教育長は「学校や教委の責任はとても重い。本当に申し訳ない」と述べた。

女子生徒の中学校では七日、全校集会が開かれた。市教委によると校長が「命を大切にしてほしい。悲しみを乗り越え学校生活を充実させて」と呼び掛けた。涙を流す生徒もいたという。

市教委はスクールカウンセラーを常駐させ、心のケアに努めるとしている。

 

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令和元年5月7日付奄美新聞

再発防止対策検討委設置し初会合

奄美再発防止1

男子生徒の死を悼み黙とうする再発防止対策検討委の委員ら

奄美再発防止2

遺族への謝罪の思いを語る要田教育長(右)ら

中1自殺問題で奄美市教委

要田教育長、遺族へ謝罪

遺族や第三者委の招致示唆

奄美市教育委員会は7日、同市の公立中学1年の男子生徒=当時(13)=が2015年11月に自殺した問題で、再発防止に向けた在り方などについて検討する「再発防止対策検討委員会」を設置し、初会合を開いた。要田憲雄教育長が冒頭にあいさつし、「第三者委員会の調査結果を重く受け止め、今後二度と起こらないための再発防止対策について皆さんのご意見を聞きたい。遺族の皆様には大変なご心痛をおかけしまして、心からおわび申し上げたい」と、遺族への謝罪と再発防止への思いを述べた。

委員には、大学教授、市の顧問弁護士、公認心理士、PTA代表、校長、教頭、生徒指導主任、養護教諭、市教委職員の計10人を選任。委員長には、鹿児島大大学院教育学研究科(教育心理学)の假屋園昭彦教授が就いた。会合は冒頭のみ報道機関に公開され、委員全員で黙とうし、亡くなった男子生徒の冥福を祈った。

市教委によると、今年度末までに計5回の委員会を開き、▽生徒指導態勢▽いじめ防止に向けた対応▽不登校児童生徒への対応▽教育相談態勢▽生徒指導等に関する教育委員会の対応▽生徒指導等に関する研修ーについて、その在り方を協議、再発防止対策としてまとめる。同対策委がまとめた要綱は、市内の小中学校の全教職員に配布するなどし、再発防止に生かす方針という。

委員会終了後、假屋園教授と要田教育長が取材に応じ、同対策委の今後の方針などについて説明した。假屋園教授は「最終的には再発防止が委員会の目的。そのためにどうしたらよいのか、共通理解を得ることができた。具体的な内容については、今後、話し合っていく。それぞれの分野から選出された委員が自由に意見を出せる場にしたい。学校と家庭、地域の連携についてもしっかり行えるような提案をしていきたい」と語った。

また、遺族が教育長による謝罪や同対策委についての説明を求めていることについて、要田教育長は「具体的な再発防止策がまとまった段階で、しっかりと報告したい。委員会に遺族や第三者委にも来ていただき、ご意見を聞くこともある」と説明、直接の謝罪については「具体的な状況を判断し、謝罪したい。時機については、弁護士とも相談し検討したい」と述べた。

次回の委員会は7月16日の開催を予定している。

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令和元年5月6日付朝日新聞デジタル

中高の事故、半数は部活で 柔道技や打球…頭をどう守る

中学・高校で起きる事故の半分以上は運動部の部活動中で、年間35万件に上る。特に頭のけがは命にかかわることがあり、学校現場では重大事故を防ぐための模索が続いている。

硬球直撃 予防策を尽くしていたが

死球を受けた2年生の男子部員(当時16)は声を上げ、尻から落ちて仰向けに倒れた。よけようとした球が、ヘルメットの耳当て部分と左耳の下に当たった。昨年11月18日、熊本県立熊本西高校(熊本市)で行われた野球部と他校の練習試合。部員らが駆け寄ると、意識がなかった。翌朝、亡くなった。

野球部は事故防止に力を入れてきた。複数箇所で行う打撃練習は、打球が飛び交う。防球ネットの穴を抜けて投手に当たらないように37枚のネット1枚ずつに担当を割り当て、点検や補修を続ける。イレギュラーバウンドを防ぐため、ノックの合間にトンボをかける。ヘルメットは昨春、各部員に合うように三つのサイズを買いそろえた。

それでも事故は起きた。横手文彦監督(43)は「亡くなった部員は野球が大好きだった。彼も、投手も、誰も悪くないのに……」と声を絞り出す。

地元の軟式野球出身者ばかりの野球部は、昨秋の九州大会で8強入りし、今春の選抜の21世紀枠の県推薦校に選ばれていた。事故を受け、横手監督は辞退も考えた。

そのチームに、遺族が葬儀で語りかけた。「前を向いてほしい。21世紀枠を辞退しないで、甲子園を目指して下さい」。頭を下げる相手校の投手にも「野球を続けて下さい。夏の藤崎台(球場)で投げる姿を楽しみにしています。本人も同じ思いでしょう」。参列者のすすり泣きが漏れた。

野球部は今春の選抜に初出場した。ネット管理をまとめる3年の中本景土(けいと)君(17)は「大変だけど、練習に集中するためにも安全確認が大切」と話す。

事故後、スポーツ用品会社がヘルメットの両耳にあたる部分に、着脱式の金属板を付けて首や後頭部を守る試作品を持参した。まだ商品化の見通しはないが、横手監督は「事故をなくそうと動いてくれたことがありがたい」と話す。

日本高校野球連盟によると、死球による死亡は記録が残る1974年以降で3件目。事故の直後、熊本県高野連の工木(くぎ)雄太郎理事長は日本高野連に伝えた。「硬球を扱う以上、どの学校でも起き得る。不慮の事故で終わらせてはいけない」。日本高野連は製品の安全性を管理する協会に事故の調査と予防策の検討を要請。協会は各ヘルメットメーカーと議論を始めた。

全国の野球部で頭部事故は年間2千件超。打撃練習やノック時が目立つ。日本高野連の竹中雅彦事務局長は「防球ネットの点検やグラウンド整備などを徹底すれば、防げる事故が繰り返し起きている。指導者の知見を高める必要がある」と話す。

日本高野連は01年、打撃投手のヘッドギア着用を義務化した。以来、打撃投手の死亡事故はない。16年には女子部員に甲子園大会前の甲子園での練習参加を認める一方で、ヘルメット着用を義務づけた。昨年3月には全国の高野連と野球部の指導者を大阪市に集め、事故防止のシンポジウムを初めて開催。専門家が事故事例や安全対策を説明した。防球ネットについては適切な補修方法や死角をなくす配置、事故が起きにくい新製品などを紹介。練習中の野手の顔を覆うフェースガードの着用も勧めた。その後、各地の高野連は安全対策に関する勉強会を開くなどしている。

野球部

今春の選抜高校野球の21世紀枠に選ばれた日も、熊本西野選手たちは供花の前で手を合わせた=2019年1月25日、熊本市西区、金子淳撮影

部活中の死亡事故、10年間で152件

運動部の部活動での事故は、中学・高校で起きた全事故の5割を超える。特に頭のけがは命に関わることがあり、重大事故を防ぐための模索が続いている。

日本スポーツ振興センター(JSC)の学校事故データを産業技術総合研究所(産総研)が分析。部活動の事故は2014~16年度、年間平均で35万件あった。小学校8千件、中学校18万7千件、高校15万6千件。部員数の多いバスケットボール、サッカー、野球の順。年間約1万2千件に上る頭のけがでは、野球、サッカー、バスケットボールの順になる。

部活動の死亡事故は16年度までの10年間に152件。交通事故が大半の登下校中に次いで多い。亡くなった原因で最も多いのは、突然死を除くと頭のけが25件。柔道が突出し、ラグビー、野球と続く。ただ、柔道は12年度の中学での武道必修化に伴い安全対策が強化され、近年は大幅に減っている。

サッカー部の合宿中、ボールが頭に 練習を続け……

東京都内の私立高校に通う男子生徒(17)は中学2年だった16年3月、サッカー部の合宿中に頭に大けがを負った。ゴールキーパーをしていて、コーチが蹴ったボールが右側頭部に当たった。

練習後、頭痛を感じたが、合宿を続けた。

深刻さに気づいたのは合宿後の練習試合。頭痛がひどく、普段はしないようなミスで失点。試合途中で交代して早退したが、痛くて家まで帰れない。母親に助けを求め、自宅近くの大学病院に駆け込んだ。

CT検査で、強い衝撃によって頭蓋内の血管が破れ、血の塊ができる急性硬膜下血腫とわかった。広がれば脳を圧迫して頭痛や嘔吐、けいれんなどが起き、短時間で意識障害や呼吸停止に至ることも。空中でヘディングをして地面に頭を打つ例が多いが、角度や強さによってボールが当たるだけでも起きるという。

2日後に血腫が縮小して退院したが、医師からは体がぶつかるスポーツはやめるように告げられた。頭に再び衝撃が加われば、深刻な事態になりかねないという。

学校は合宿参加者から聞き取り調査を実施。大けがにつながるとは誰も思っていなかった。コーチは強めにボールを蹴っており、「生徒の力を踏まえず、未熟だった」と述べた。学校は生徒と両親に謝罪した。顧問の教諭は取材に「異変に気づけなかったことにじくじたる思いがある」と話す。

生徒は中学最後の夏の大会にマネジャーとして参加した。今も体育の柔道や体育祭の騎馬戦などを控える。定期的な検査を受け、学校生活を送っている。取材に「レギュラー争いをしていて休みたくないと思い、練習を続けて悪化させてしまったかもしれない」と振り返り、自身の経験を予防に役立てて欲しいと話した。

柔道はじめて1カ月、大外刈りで奪われた命

柔道部の練習中に福岡市立中学1年の大場彩さん(当時13)を亡くした父親の重之さん(53)=同市博多区=は、悔やみ続けている。「こんなに柔道が危険だとは知らなかった」 2015年5月、彩さんは練習を終えて帰宅すると、「練習で打って頭が痛い」と、夕食を残した。翌日の朝、体調を聞くと、「大丈夫」との返事。「気分が悪かったら先生に言いなさい」と送り出した。

学校を休ませて病院に連れて行っていれば、事故は避けられたとの思いは消えない。

この日の夕方、彩さんは中学の武道場で2年の女子部員の大外刈りで倒れ、頭を強く打って意識不明になった。救急車で病院に運ばれ、手術を受けたが、意識は戻らなかった。急性硬膜下血腫のため5日後に亡くなった。

福岡市教育委員会が公表した有識者による調査報告書によると、事故は技を伝えてから投げる「約束練習」で起きた。相手は大外刈りと伝えたうえで、スピードを緩めてかけた。

彩さんは運動は得意でなかったが、「警察官になりたい」と柔道部に入った。柔道を始めて1カ月の彩さんに対し、相手は5年目。身長は6・5センチ、体重も12キロ上回っていた。

武道場には顧問の教諭とボランティアの指導員2人の計3人がいたが、事故の瞬間は見ていなかった。

報告書は「体格差や能力差を把握し、きめ細かな指導を行う必要がある」と指摘。事故を防ぐため、受け身の練習を3、4カ月以上は行い、大外刈りなど危険性のある技で受け身の練習をしないよう求めた。

日本スポーツ振興センター(JSC)が重大事故に限定して公表しているデータを名古屋大学の内田良准教授が分析したところ、17年度までの35年間に、柔道の部活動や授業などで121人が死亡していた(突然死や熱中症なども含む)。1年生が74人を占めた。頭のけがで亡くなったのは121人のうち77人で、大外刈りが最も多かった。近年は中学の体育の武道必修化に伴い、安全対策が強化されるなどして重大事故は減っている。

それでも16年度、群馬と栃木の中学生2人が大外刈りで一時重体となった。彩さんの事故の後に起きたことに衝撃を受けた大場さんは17年、小中学生に限って大外刈りを禁止すべきだとブログで訴えた。事故の重さを伝えようと、彩さんの脳のX線写真も掲載。昨年11月には、大外刈りの危険性を伝えたいとの思いを込め、柔道のルールを決めている全柔連を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。「二度と重大事故が起きないように、指導者の人たちに安全に対する気持ちを持ち続けてほしい」と願う。(木村健一)

大場さん

柔道事故で中学1年だった大場彩さんを亡くした父重之さん。彩さんの机の前で=福岡市博多区

頭のけが「事後の対応が重要」

頭のけがは外見上、骨折や出血がなくても注意が必要だ。運動中の頭部外傷に詳しい東京慈恵会医科大の大橋洋輝講師(脳神経外科)によると、中でも急性硬膜下血腫は死亡や重い後遺症につながる頻度が最も高い。頭痛などがあるのに無理してプレーを続けると、命に関わる危険がある。脳への衝撃で一時的に意識や記憶を失うなどする脳振盪も、状態が万全でないまま競技を続ければ、二次的なけがで急性硬膜下血腫などにつながりかねない。ほとんどの脳振盪は回復するが、頭痛やめまい、集中力低下といった症状が続くこともあるという。

これらはラグビー、アメリカンフットボール、柔道など選手がぶつかり合うスポーツのほか、野球やサッカーなどで幅広く起きている。産総研の分析では、急性硬膜下血腫は多い年で160件、脳振盪は1800件ほど起きていた。深刻なけがを防ぐには、種目ごとの対策はもちろん、体調不良時に運動させないことも必要だ。大橋さんは「競技によっては頭のけがを完全に防ぐのは難しく、事後の対応が重要だ」という。

脳振盪の頻度が高いスポーツでの深刻なけがを防ごうと、日本臨床スポーツ医学会(脳神経外科部会)は「頭部外傷10か条の提言」をまとめ、脳振盪を簡易的に判断する方法を紹介している。

同会の「のじ脳神経外科・しびれクリニック」の野地雅人医師は「頭を打った後に、頭痛、めまい、吐き気など普段と違う様子が見られたら脳振盪を疑い、指導者がプレーから離脱させ、専門医を受診させてほしい」と呼びかけている。(北林晃治)

脳振盪

柔道部で頭のけがの多い技

技名    件数

大外刈り   124

背負い投げ  113

払い腰     24

大内刈り    19

内股      19

体落とし    12

小外刈り     9

一本背負い    8

産総研が2014~16年度のJSCデータから、技が明記された事例を集計

14~16年度

けがの多い部活動

全てのけが    頭のけが

1  バスケットボール 野球

2  サッカー     サッカー

3  野球       バスケットボール

4  バレーボール   ラグビー

5  テニス      テニス

6  陸上競技     バレーボール

7  ハンドボール   柔道

8  ラグビー     ソフトボール

9  バドミントン   ハンドボール

10 柔道       陸上競技

11 ソフトボール   剣道

12 剣道       卓球

13 卓球       バドミントン

14 空手       水泳

15 水泳       ホッケー

産総研がJSCデータを分析。サッカーはフットサル、野球は軟式、テニスはソフトテニスを含む

日本臨床スポーツ医学会脳神経外科部会の「頭部外傷10か条の提言」

1 頭を強く打っていなくても安心はできない

2 意識消失がなくても脳振盪である

3 どのようなときに脳神経外科を受診するか

4 搬送には厳重な注意が必要

5 意識障害から回復しても要注意

6 脳振盪後すぐにプレーに戻ってはいけない

7 繰り返し受傷することがないよう注意が必要

8 受診する医療機関を日ごろから決めておこう

9 体調がすぐれない選手は練習や試合に参加させない

10 頭部外傷が多いスポーツでは脳のメディカルチェックを

詳しくは、https://concussionjapan.jimdo.comへ。

 

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令和元年5月5日朝日新聞デジタル

卒業式前の大掃除で転落死 「息子の死、防げたのでは」

あれは、虫の知らせだったのか。

2014年2月4日。福岡県に住む原藤(はらとう)弘憲さん(57)はふと、長男の圭汰さん(当時18)に触れたくなった。大学受験から戻った息子は、うれしそうに「できた」と笑顔で話した。気をもんで待っていた父は相撲をしようと誘った。居間で親子の触れ合いが続いた。

翌5日、圭汰さんは越境入学していた大分県中津市の県立中津南高校の掃除中に、校舎4階の窓から転落して亡くなった。

2カ月半後、弘憲さんは県教育委員会から調査報告書を受け取った。事故当日は年7、8回の大掃除で、ワックスがけや窓拭きなどを行っていた。朝礼で担任は、最後の清掃なので心を込めるようにと、生徒に伝えていた。

大掃除に取りかかった圭汰さんは、分担された1階のトイレを掃除。3年生の教室がある4階に戻ると、級友が廊下の窓から庇(ひさし)に出て窓の外側を拭いていた。庇の幅は1・1メートル。

手すりや柵はない。手伝おうとした圭汰さんは、庇に下りる際に転落。約9メートル下の2階テラスで全身を打った。

進学校の同校は、もとは弘憲さんのあこがれだった。その夢を圭汰さんが実現したとき、2人で泣いた。絵が得意で、役場で働きながら漫画家を目指すと話していた。その息子は、自宅に届いた大学の合格通知を受け取れなかった。

事故後の示談交渉で、県教委側から、責任のすべてが県にあるとは考えていないとの説明を受けたという。傷つき、悔しさがこみ上げたが、法知識や支援もなく、事故後に心筋梗塞で入院もした。

裁判を起こすには心も体も限界だった。

「安全であるべき学校で子どもが死ぬなんて保護者は思わない。なぜ事故が起きる前に手を打てなかったのか」。弘憲さんはやり場のない憤りを語り、涙をぬぐった。

圭汰さんが掃除中に転落して亡くなったのは、卒業式を控えた最後の登校日だった。学校で掃除に励んでいた息子がなぜ命を落とさなければならなかったのか。あの日から5年余。弘憲さんは毎日遺影を磨き、心の中で問い続けている。

県教育委員会の報告書によると、2014年2月の大掃除で、同じクラスの女子生徒らが4階廊下の窓を拭いていた。隣のクラスの男子が庇(ひさし)に出て窓の外側を拭くのを見たが、怖くて

できない生徒もいた。そこに、1階のトイレ掃除を終えた圭汰さんが戻ってきた。手伝うために窓際のロッカーに乗り、そこから庇に下りようとしてバランスを崩したという。

同校では当時、窓掃除の取り決めはなく、教員たちは以前から庇に出て窓を拭く生徒を知っていた。だが、気を付けるよう注意するだけだった。

弘憲さんは「息子は真面目に掃除をしただけ。窓の外側の掃除は慣例として行われ、教員も知っていた。事前にしっかり禁じていれば、息子の死は防げたはずだ」と話す。

事故を受けて県教委は県立67校を調査。児童・生徒が窓掃除をしていた59校のうち55校で取り決めがなく、現場に任されていた。23校は事前に安全指導もしていなかった。県教委は事故後、原則として2階以上の窓の外側は拭かせないよう県内各校に通知した。

だが、高校生が掃除中に転落する事故は繰り返された。隣の宮崎県で15年4月、宮崎市の県立高校1年の男子が掃除中、教員の指示で2階の窓の庇に落ちた靴入れを拾おうとして落ち、頭や腕を骨折した。

愛媛県西予市の県立高校では16年1月、2年男子が3階廊下の窓の外側を拭いていて約8メートル下の中庭に落ち、顔を骨折した。すぐ横に1メートルほどの置き石があった。母親は「落ちた場所や当たりどころが悪かったら、どうなっていたか。振り返るだけで怖い」と話した。近県で起きた事故は知らなかったという。高校では、窓の外側の清掃は事故以前は無理しないよう指導するだけだったが、事故後は禁止し、窓が大きく開かないようにした。

17年5月には、神戸市の中学校で男性教諭が4階の美術室から転落して死亡。窓を拭こうとした男子生徒に「危ない」と言って代わっていた。

転落事故をめぐっては、08年6月に東京都杉並区立小学校で、6年の児童が天窓に乗っていて中央部分が割れ、そこから落ちた死亡事故をきっかけに文部科学省が防止策を取りまとめて通知。

10年にも鹿児島県霧島市と兵庫県丹波篠山市の小学校で児童の転落事故が起き、改めて周知した。

転落事故の防止策では、窓から身を乗り出す危険性を十分に理解させる▽窓の下に足がかりになる物を置かない▽庇への立ち入り禁止の徹底を図る、などとした。ただ、窓掃除については

「転落しないよう細心の注意を払う」との記述があるだけ。窓の掃除をどう指導するかは各自治体の判断となっている。

兵庫県丹波篠山市立古市小学校では、保護者が参加する毎月の安全点検を続けて9年になる。教諭と一緒に安全管理マニュアルに従って校内を見て回る。その中に酒井順子さん(48)の姿がある。

10年6月2日、順子さんは1年生の長女綾菜(あやな)ちゃん(当時6)の授業参観に出た。綾菜ちゃんは粘土で作ったアイスやすしを机に並べていた。カエルが卵とおなかのどちらから生まれるか問われると、大きく手を挙げて「おなか」と答え、皆を笑わせた。

その後、順子さんは担任との懇談会などに参加。綾菜ちゃんは他の児童と一緒に3階の図書室で預かってもらった。

「落ちた――」。保護者の女性が叫びながら階段を駆け下りてきた。1階の教室で懇談していた順子さんが校舎裏に出ると、綾菜ちゃんが抱きかかえられていた。

呼びかけると口を動かし、うなずいたように見えたが、搬送先の病院で死亡が確認された。

市教委の調査報告書によると、綾菜ちゃんは窓際に置かれた高さ0・8メートルの本棚の上で遊んでいて、窓から誤って落ちたとみられる。20人弱の児童は宿題や読書をしていたが、2時間近く経ち、落ち着きがなくなっていった。非常勤講師がしばらく見守っていたが、事故が起きた時は監督役が不在になっていた。

その2カ月前、鹿児島県霧島市の小学校で天窓から児童が転落し、大けがを負った。事故を受け、丹波篠山市教委は危険な場所を調べるよう各校に指示していた。それでも窓際の本棚は見落とされた。監督役を置かなかったとして学校側は刑事責任を問われた。

父秀樹さん(49)は、おしゃれが好きで、ヘアバンドを着けた綾菜ちゃんの姿が今も目に浮かぶ。五つ年下の弟を抱きかかえ、よく面倒を見ていた。あと20日で7歳の誕生日。ローラーが付いたスニーカーがほしいと話していた。明るくて、誰とでも話す子だった。

信頼して預けた学校で、なぜ娘は命を失ったのか。真実を知りたかった。事故後、市長が自宅を訪れ、「市の責任です」「分からないことは調べる」と話した。学校や市教委も「当日は暑くて窓を

開けていた」などと説明した。保護者たちは、亡くなる直前に見た娘の様子を伝えてくれた。

事故後、市教委は各校を点検して転落防止の手すりを設け、安全管理マニュアルを作るなどした。古市小では綾菜ちゃんが転落した場所に花壇が作られ、毎年6月2日に「安全のつどい」が開かれる。

同小の毎月の安全点検では、「上りません」と書いたステッカーが窓からはがれていないか、足がかりとなるものはないかなどを見回る。事故直後は多くの保護者が参加したが、最近は少なく

なってきた。順子さんは「みなさんが頑張ってくれて、学校が安全を取り戻したから」と思う。ただ、慣れは怖いとも感じる。初めて参加した人が、気づかなかったことを指摘してくれることもある。同じ思いをする人がもう出ないことを願い、今後もできる限り参加する。(塩入彩、木村健一)

学校での転落死、10年間で35件

日本スポーツ振興センター(JSC)の事故データを産業技術総合研究所が分析すると、2階以上か2メートル以上から転落した事例は、16年度までの3年間で198件。場所は窓からが101件だった。転落時の状況は、屋根に乗った物を取ろうとしたのが43件、庇などに落ちた物を取ろうとしたのが19件で、掃除中は12件(高校生6件、中学生4件など)だった。掃除中の12件のうち8件は窓拭き中で、5件は外側を拭いていた。

死亡事故について、産総研は別に分析。自殺の疑いと明記されたケースを除く転落死が、16年度までの10年間に計35件あった。高校生19件、中学生9件、小学生7件。経緯の記載が不明確なものも多いが、掃除中のほか、窓に腰掛けていてバランスを崩したものなどがある。

「子供の不注意」で片付けずに対策を

学校事故について研究している名古屋大の内田良准教授は「転落事故がまだ起きていることに驚きを隠せない」と話す。内田准教授は10年ほど前、JSCのデータをもとに過去27年間に起きた転落死亡事故を分析。小学校は窓、高校は庇からの転落が多かったとして、論文などで事故防止策の重要性を指摘してきた。

3年間で198件という事故件数について、内田准教授は「幸いにも死亡まで至らなかった事故も、打ちどころが悪ければ亡くなっていたかもしれない。これだけ事故が起きていることを国は真摯に受け止めるべきだ」と話す。

屋根や庇に「乗るな」と注意するだけでなく、庇に落ちた物を取る道具を用意するなど具体的な対応が必要だと提案。窓の下を植え込みや花壇にし、転落しても衝撃を和らげるなどの安全対策も

考えられるという。「『子供の不注意』『偶然』と片付ければ対策は進まない。国は全国の事故情報を収集・分析し、専門家を交えて対策を講じる必要がある」と訴える。

転落事故の件数

高校    48

中学校 116

小学校   34

幼保    0

合計  198

産総研調べ。2014~16年度の3年計。自殺や自殺未遂の疑いと明記されたケースは除いた。

転落1

転落2

転落3

転落4

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令和元年5月5日付朝日新聞デジタル

学校死亡事故、検証報告は1割未満 遺族に募る「なぜ」

相次ぐ学校事故を受け、国は全国の事故の検証報告書を集約し、その教訓を学校現場と共有する取り組みを2016年度から始めた。だが、文部科学省が把握した全国の死亡事故のうち、集まった報告は1割に満たず、再発防止の枠組みは十分に機能していない。

文科省が16年に示した「学校事故対応に関する指針」では、死亡事故が起きると、学校は3日以内をめどに教職員や生徒から聞き取る基本調査を実施。そのうえで、授業や部活動など教育活動による場合や、家族から要望がある場合などは、学校設置者は外部の専門家らによる詳細調査を行う。都道府県教委などは報告書を国に提出。国は全国の学校に教訓を伝え、事故の再発を防ぐ狙いだ。

文科省は取材に、17年度までの2年間に56件の死亡事故を把握しながら、詳細調査の報告書は4件しか提出されていないと明らかにした。残り52件は、事故の大まかな概要のみ説明。

自治体名などを明かさないため、朝日新聞は過去の報道などから31件を特定し、事故後の対応を調べた。

すると、詳細調査をしていないのは27件もあった。調査を終えたが、文科省が把握していなかったのが2件、報告の準備中が1件、調査中が1件あった。詳細調査をしない理由は「保護者の要望がなかった」「警察の捜査が行われた」など。調査を望むか意向を聞かれていない遺族もいた。

指針は事故に遭った遺族や保護者らに対し、誠意をもって支援を継続していくことを求めている。背景には、学校で重大事故が起きても、遺族らが望む検証と十分な情報提供が行われなかったことがある。

「全国学校事故・事件を語る会」の代表世話人で、長男をラグビー部の活動中に熱中症で亡くした宮脇勝哉さん(61)は「ようやく指針ができたが、相談を寄せてくる遺族らの多くは現状に納得していない。きちんとした対応がとられず、『私たちの人権は守られていないのではないか』と感じている。遺族らが求めているのは事実の解明だ」と話す。

指針が徹底されていないことについて、文科省の担当者は、調査すべき事故で実施されていない例や報告漏れがあると認めつつ、「教育委員会の独立性も尊重する必要がある。指針に強制力はなく、周知に努めていくしかない」と述べる。集まった教訓をどう生かしていくかも「具体的な方法は決まっておらず、今後の課題」としている。

溺れて亡くなった息子 「分からないことだらけ」

「事故は息子のせいで起きたというのか」

金沢市の松平忠雄さん(48)は、17年11月に石川県立高校1年だった航汰さん(当時15)を亡くした。野球部の試合中、近くの川に落ちたボールをすくおうとして転落し溺れた。

事故後、ネットに「勝手に落ちた」「どんくさい」など航汰さんを中傷する言葉が出た。現場ののり面は傾斜が急で、過去に近くで小学生も亡くなっていた。それでも、落ちたボールを網で拾うのは野球部の慣習になっていた。

忠雄さんが事故原因などを学校に尋ねる中で、15年に野球部の監督がボールを拾おうとして川に落ち、マネジャーに救助されていたことが分かった。その後は川沿いのガードレール越しに網ですくうことになっていたが、県教委は取材に「指導が徹底されていなかった」と説明した。

事故後、学校は教職員らへの聞き取りをする基本調査をしただけで、県教委は詳細調査をしなかった。遺族が調査を求めることができるとの説明は、忠雄さんにはなかった。県教委は取材に、説明しなかったことを認め、「遺族への対応は校長に任せ、それ以上の説明が必要と認識していなかった」とする。

忠雄さんは「どんな安全策をしていたのか、落ちた後にどう助けようとしたのか。今も分からないことだらけで、調査を求めることができると教えてくれれば、当然要求した」と語る。「そもそも危ない川でボールを取らせることが必要だったのか。物も大切だが、命より大切なものはない」。そうした思いを込めて、事故後、野球部に2ダースのボールを寄贈した。

「失念」 報告書を国に提出しない県教委

文科省の指針では、治療期間30日以上などの重大事故も、保護者の意向を踏まえて教育委員会などが必要と判断すれば、学校が基本調査を実施する。その後、詳細調査に移る流れは死亡事故と同じで、文科省に報告書が届いたのは6件。

群馬県伊勢崎市の中学校の校庭で17年8月、駅伝大会に向けた朝の練習中、1年の女子生徒が熱中症で倒れ、左足が動かなくなる後遺症が残った。市教委は詳細調査を行ったが、報告書を受けとった群馬県教委は朝日新聞から指摘を受けるまで文科省に報告していなかった。「失念していた」(担当者)という。

報告書によると、教員は遅れた生徒たちに指導する際、「ばか」「足を休めるな」と声をかけていた。水分補給の時間を十分に設けず、体調不良を訴える生徒も相次いでいた。倒れた生徒を教員がトラックの内側に移動させて給水させようとしたが、飲めない状態だった。教員たちは応急処置をしていて、救急車を呼ぶまでに9分かかっていた。

両親は取材に「なぜ日陰に移動させなかったのか。なぜ多くの教員がいたのに通報に時間がかかったのか。事故時の状況を全く掘り下げていない」と話し、報告書の内容にも納得できていない。

(塩入彩、赤井陽介)

文科省の指針作成に関わった京都精華大学の住友剛教授(教育学)

指針は、従来の「事態の沈静化」を念頭に置いた学校対応から、「事実を明らかにし、共有する」対応への転換を目指したものだ。だが、現状は教育委員会や学校の現場で指針の趣旨が理解されておらず、文科省も理解してもらう努力をしてきたのか疑問に感じる。

まずは文科省が指針を周知徹底させるとともに、全国の状況を正確に把握することが必要だ。すでに集まった報告については、有識者による検証を早急に行うべきだ。検証の質を高めるため

には、実務を担う専門家の養成も欠かせない。

文科省をはじめとする教育行政が、検証をしない口実ばかりを探していては、事故は防げない。子どもの安全確保の責任を負っている自覚を強めてほしい。

文科省の指針作成の有識者会議座長だった渡辺正樹・東京学芸大教授(安全教育学)

以前は重大事故が起きた後の統一的な指針がなく、遺族が望んでもすぐに検証が行われないなど、学校の対応でつらい思いをする遺族もいた。指針ができたことで基本調査を速やかに行うよう方針が示され、それを基に詳細調査をする例もでてきた。

しかし、詳細調査をしたのに、文科省に把握されていない事例があるのは問題だ。各教委や担当課にまだ十分指針が浸透していないのではないか。基本的に学校管理下で起きた事故は、調べる姿勢でいてほしい。保護者への説明をしっかりするべきことも、指針に書かれている。

文科省は有識者会議を立ち上げるなどし、現状を分析する必要がある。指針がきちんと運用されているか、運用する中で問題はないかを検証し、必要に応じて見直していくべきだ。

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