平成29年11月5日毎日新聞
ブラック部活 NOの声上げ始めた先生たち

ブラック企業1
部活動の現状を巡り、関連本の刊行が相次いでいる=和田大典撮影
ブラック企業2
 学校の部活動を見直す動きが本格化している。生徒の貴重な成長の場である一方、教員の過重労働が指摘されているのだ。年内に発足する「日本部活動学会」に現役教師が参加するなど現場も声を上げ始めた。しかし、その多くは匿名や仮名だ。部活動への異論はなぜ職場で口にしづらいのか。学校現場の同調圧力やその背景を、先生たちの声から読み解くと……。
【小国綾子/統合デジタル取材センター】

意見投稿、活動は匿名や仮名でいま、ツイッター上で「部活未亡人」という言葉が飛び交っている。休日返上で部活動にかかわる教員を夫に持つ妻を指す。「部活孤児」は、そんな教員を親とする子どもたち。果ては「部活離婚」という話も。教員や家族が次々と悲惨な現実を匿名で投稿する。
 部活動見直しの機運は数年前にツイッターで盛り上がり、部活動顧問を引き受けるかどうか選べるようにすべきだ--と署名活動がネット上で広がった。昨年3月に2万人超の署名が文部科学省に届けられた。
 これに触発され、現役教員らが今年4月、部活動を話し合う会を結成した。会員は約70人。中心メンバーで部活動学会
の発起人にも名を連ねる高校教諭「斉藤ひでみ」さん(仮名)は、職場に配慮して本名も性別も明かさずに活動する。
 「リアルな仲間を得て勇気づけられ、職場で行動を起こすメンバーも出てきました」。「斉藤」さんは取材に言うが、壁は厚い。顧問を拒んで「教師を辞めたらどうか」と校長に責されたり、過酷な実態を描いた話題の書「ブラック部活動」を職員室の自席に置いていて「撤去しろ」と注意されたり……。そんなケースも珍しくないという。
 「若手や非常勤講師など発言力の弱い存在に部活動の負担が集中しがちです。特に講師は『来年も仕事があると思うな』
などと暗に言われることもある。自分の時間が持てず、『部活離婚』以前に『部活非婚』もある。結婚し、子供を持てても、忙しすぎて子育てはとても無理」。そう語る「斉藤」さん自身も子を持つのをあきらめた一人だ。
「正直、疲れてしまった」
 生徒にとって部活動は、異学年ともつき合って授業では得られない社会性を身につけ、成長する場となっている。高額の
月謝もなくスポーツや文化活動を楽しめ、家庭の経済事情にもあまり左右されない。でもそれは、教員の大きな負担の上
に成り立っている。
 「斉藤」さんは今年9月、教員有志のグループ「現職審議会」を結成。働き方についてネット上で意見を募ると、数週間で約70件寄せられた。その多くは、部活動や授業準備などで休日が取れない、などと過重労働の実態を訴えていた。
 <就寝は24時過ぎ、土日も半分以上は授業準備です>
 <正直、土日もすべてつぶして仕事をするこの職業に疲れてしまいました。今年度をもって退職しようかどうかという
ところです>
 <部活動をボランティア感覚で行っている人はいません。趣味か、強制か、どちらかです。家庭を顧みないか、犠牲に
しているか、どちらかです>
 <昨年はほぼ土日もなく部活動に参加していました。私自身は、小学生と保育園に通う子どもがいましたが、時には
学校に連れて行き、図書室で過ごさせ、時には家で留守番をさせながら部活動に参加しました。夫も中学校教員で当然、
土日は部活動があるので、我が家の子どもたちは「部活孤児」なのでは、と思ってしまいました>

現場をむしばむ勝利至上主義
 寄せられた声では、部活動を「勝利至上主義」が過熱させている、との指摘も。2年目の高校教員はこう書いた。
 <部活動に関する精神的肉体的疲労は想像以上のものでした。特に、現場にまんえんする勝利至上主義には心から辟易しています。勝利にこだわり過ぎるがゆえ、土日も休ませない無理な部活スケジュールになってしまっているのです。
部活に意義がないとは思いません。しかしこのようなやり方では、誰のための部活なのかもはやわからない状態です>
 土日に大会や試合があることを問題とする声も目立った。
 <土日連続した大会日程を原則禁止とすべきだ>
 <試合の組み方や日程、試合数も見直していき、試合の回数を減らしていくべきだと思います。国が動かないと各学校
レベルではなんとかすることができません>

同調圧力の背景に「聖職」意識
 一方、職場で改善を求める声を上げにくい事情を訴える人も多かった。多くの人が挙げるのが、「聖職」「生徒のため」
という言葉を持ち出されると反論しづらい事情や、「全員顧問制」をめぐる同調圧力の強さだ。
 <教員は『聖職』であり、『生徒のためを思えば』というのも分かります。しかし、それは強制されるものでもないし、限度というものがあります。権利を訴えたり、楽をしたりしようとする者への陰口をたたき、鼻で笑う。現場の教員たちはもはや、自分たちの権利を訴えることに恥ずかしさやいけないことをしているような感覚を覚えるほど>
 また、同調圧力についてはこんな声もあった。
 <「生徒のためにもっと学校に残って部活を見るべきだ」と批判されたりします。「自分たちは夜遅くまで頑張っているのにずるい」と思われていると感じます。同調圧力に負けて早く帰れない人も帰れるよう、法の整備が必要だ>
 また、部活顧問を断れない心情をつづった意見も。
 <(教員という仕事は)同じ学年で協力しあう場面も多く、(顧問拒否は)ほとんどの教員には難しい>
 自分が顧問を拒否すれば、代わりに顧問を引き受けることになる同僚の負担が増えるし、顧問確保ができずに廃部と
なれば生徒が悲しむ……。そんなしわ寄せを案じて、「やりたくない」となかなか言えないのが実態のようだ。

「生徒のため」過労限界
 部活動学会発起人の一人で「ブラック部活動」を著した内田良名古屋大准教授(教育社会学)は、問題の背景に「全員顧問制度」がある、と言う。部活動は学習指導要領で「自主的、自発的な参加」をうたい、顧問はかつては希望する教員が務めるのが普通だった。「制度」と言うが慣習に過ぎない。だが、部活動での事故などを踏まえ教師の立ち会いを国から求められた結果、苦労をみなで分かち合うとの発想で全国に広がった。採用校はこの20年で6割から9割に増え、同調圧力は強まる一方だ。

部活熱心派の強い発言力
 こうした異論に対し、部活動に熱心な教師からの強い反発が存在するという。
 <部活動で学校を立て直したんだと、昔から、ある熱血体育教員は語り続けており、いまだにその雰囲気が残っています>
 <教員による自己改革は不可能。「部活屋」があまりに多い>
 <管理職は、部活動を熱心に行い、それによって結果を残し、認められてきた方が多い。部活動に熱心で、指導できる
先生方がいろいろな面で発言力を持っています。率先して部活動に関わっていない教員は、中学校の現場の中で、特に、
部活動については発言しづらい現状があります>
 かなり深刻な声もあった。
 <未経験の運動部顧問を任され、問題が起きた時に生徒指導部長から怒鳴られ、教頭からは指導を否定され、去年は危うく精神的におかしくなりそうになりました。それからボイスレコーダーを持ち歩くようになりました>

保護者の意見も割れる
 部活動の見直しへの反発は、部活に熱心な教師からだけではなく保護者の間にもある。保護者から、こんな批判も届いた。
 <本当にごくごく一部の教員がわがままを言っているようにしか聞こえませんし、顧問拒否している教員は即刻辞めて
いただきたい。子どもの教育上、害でしかありません。部活は生徒にとって、とても意義があるものです>
 逆に、見直しを求める保護者の声もある。
 <我が家の場合、子どもが今でも学校や部活の悪夢を見ると言います。学校の部活は、レクリエーション程度にして、
しっかりやる場合は外部で行うのが正しいと思います>
 また、文科省が進める外部指導者の導入についても慎重な意見がある。
 <教員は休めるかもしれない。しかし、子どもの休みはどうなるのでしょう? 外部コーチが成果を出すために、さらに
過熱させることが心配です>

抜本的な解決を求める声も
 寄せられた中には「教員数が足りない」などと問題の根っこを指摘する意見や、地域の協力が必要だとの声もある。
 <圧倒的に足りてない教員数を増やすべきだ。非常勤の支援員でごまかすべきではありません>
 <部活動の問題から、教員の労働問題にまで話を広げ、考えなければ、本当の意味での問題解決にはならないと思います>
 <やりたい方はやればいいし、やりたくない方はやらない。顧問が集まらない部活動については、地域の人材を集めて指導をお願いする。地域のスポーツチームや習い事などに参加する取り組みが広がればいいなと思います>
 「現職審議会」は、集まった意見をもとに10月、部活動見直しを含む働き方改革を文科省や中央教育審議会に緊急提言。今月6日には東京都内で記者会見する。だが、現役教員は顔も実名も伏せて会見に臨むという。
 日本部活動学会の発起人代表で教育学者の長沼豊学習院大教授は言う。「教員が匿名でしか発言できない現実が、部活動改革を阻む同調圧力の強さを示す。実名で声を上げられる社会にしなければなりません」

「現職審議会」の緊急提言(骨子)
・教員の「サービス残業」の温床である給与特別措置法を改正
・部活動で教員の全員顧問制と生徒の強制入部の是正、土日祝日の活動禁止、小学生の部活動は地域クラブへ移行
・時間割に授業準備や休憩の時間を設定
・生徒の在校時間は勤務時間内に
・違法労働を通報できる専門機関を設置

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平成29年10月4日中国新聞
「学校の姿勢に失望」
三原組み体操提訴の両親会見
両親
「真実を明らかにしたい」と会見で訴える生徒の両親
 三原市館町の広島大付属三原中3年の男子生徒=当時(14)=が昨年6月、運動会の組み体操に参加した2日後に死亡した問題で、同市の生徒の両親が3日、弁護士と市内で記者会見した。両親は「事実を隠そうとする学校の姿勢に失望した」と提訴決意の思いを語った。
 遺族側は組み体操の移動ピラミッド(3段騎馬)を解体する際に崩落があったと主張。昨年7月と12月、生徒が亡くなった経緯や原因調査への協力を保護者の会合で依頼したいと同校に要望した。事前に内容も通知したが、2度とも出席を拒否されたという。父の会社社長男性は「息子の最期に何かあったのか知りたか
った」と声をつまらせた。
 取材に対し同校は「騎馬が崩れていないのに、崩れた前提で保護者に話をしてもらうことはできない」と説明している。
 遺族は、学校が十分な安全対策を講じなかったとして今月1日、学校を運営する広島大(東広島市)に約9千万円の損害賠償を求める訴訟を広島地裁尾道支部に起こした。

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平成29年11月3日中国新聞
学校側「再調査しない」
三原組み体操問題生徒遺族に回答

 三原市館町の広島大付属三原中3年の男子生徒=当時(14)=が昨年6月、運動会の組み体操に参加した2日後に死亡した問題で、組み体操と死亡の因果関係の再調査を求める遺族に対
し、学校側は再調査の意向はないと伝えていたことが2日、分かった。取材に対し同校は、運動会後に調査をしたと説明している。
 同市の遺族は、生徒が参加した組み体操「移動ピラミッド」を解体する際、崩落する事故があったと主張。死亡から1年たった6月、「事実が明らかになっ
ていない」として質問状を同校に提出した。当日の指導教員の配置など27項目について見解を求め、再調査を求めた。
 同校の6月15日付の回答によると、「生徒の死亡を引き起こすような行動、状況はなかったと考えている」と説明。「今後、再調査は予定していない」とした。同校は生徒の死亡後、
組み体操に参加した生徒に聞き取りを実施。「崩れていなかった」との回答を得たとしている。
 取材に対し同校は「聞き取りをした生徒は既に卒業している。聞いたことは間違いないので再調査の必要性はない」と説明した。
 遺族は、学校が十分な安全対策を講じなかったとして今月1日、学校を運営する広島大(東広島市)に約9千万円の損害賠償を求める訴訟を広島地裁尾道支部に起こした。同校は「内容については訴状が手元にな
いので回答できない」としている。(中島大)

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平成29年11月2日中国新聞
広島大付属三原中 運動会2日後に生徒死亡
「組体操が原因」提訴
  遺族、安全措置問う
広大付属三原
 三原市館町の広島大付属三原中3年の男子生徒=当時(14)=が2016年6月に死亡したのは運動会の組み体操が原因として、同市の遺族が1日、学校を運営する広島大(東広島市)に約9千万円の損害賠償を求め広島地裁尾道支部に提訴した。生徒は運動会の2日後に死亡。学校が十分な安全対策を講じなかったと訴えている。(中島大)
 提訴したのは、父親の会社社長男性と家族。訴状によると、運動会は16年6月18日に同校グラウンドであり、生徒は組み体操などに参加した。20日未明に自宅
で体調が悪化。病院に運ばれ、同午前5時50分ごろ脳内出血で死亡した。
 遺族は、組み体操「移動ピラミッド」 (3段騎馬)で生徒が頭の痛みを訴えており、後頭部に衝撃が加わったと主張。演技後、ピラミッドが崩落したとし、「学校が演技内容と危
険性を十分認識しておらず、事故を未然に防ぐ措置を取っていなかった」と訴える。
 同校によると、ピラミッドは上段(1人)中段(2人)下段(6人)の3段。
下段が歩いて退場する。男子生徒は中段で四つんばいになっていた。
 同校は、生徒の死亡後、他の生徒から聞き取りを実施。中国新聞の取材に「ピラミッドは崩れなかった。事故とは考えていない」と説明した。17年6月の運動
会は移動ピラミッドを中止した。「危険性があった。遺族の心情にも配慮した」としている。

専門家は危険性指摘
国も昨年対策通知
移動ピラミッドのイメージ
「移動ピラミッド」のイメージ
 広島大付属三原中の運動会で実施された組み体操「移動ピラミッド」は、「動きがあるため危険性が高い」と指摘する専門家もいる。全国的に多発する組み体操事故を受け、国は昨年、各学校に安全対策の徹底を通知していた。
 学校事故の問題に詳しい名古屋大大学院の内田良准教授(教育社会学)は「生徒の死亡と組み体操の因果関係は分からない」とした上で、「国立の学校として玄夷して見直しをすべきだった」と話す。
 同校であった移動ピラミッドは高さは3段と極端に高くはないが、内田准教授は「土台が動くので崩れる可能性がより高くなる」と指摘。「段数が少ないから安全だという誤解が学校にあったのではないか」と推測する。
 スポーツ庁が2016年3月に出した通知は、タワーやピラミッドの組み体操は「確実に安全な状態で実施できるかどうかを確認し、できないと判断される場合は実施を見合わせる」とした。同庁によると、1969年度以降、組み体操で死亡した子どもは全国で9人、障害が残った子どもは92人いる。
 学校に男子生徒の死亡についての再調査を求めるのは、教育評論家の尾木直樹さん。「責任追及という意味ではなく、学校の行事で死亡の疑いがある場合は、遺族の立場に立って調査に入るべきだ」と話す。
 尾木さんは日本の学校で・の死亡事故が、他の先進国に比べて多い現状も指摘。
 「現場の学校や保護者も、子どもの安心安全を第一に考えてほしい」と訴えている。(中島大)

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平成29年10月29日河北新報社説
いじめ過去最多/痛みに向き合い早期対応を

 全国の小中高校などが2016年度に把握したいじめが32万件を超えた。文部科学省が公表した児童生徒の問題行動・不登校調査によると、前年度より約10万件増え、過去最多を更新した。
 「けんか」や「ふざけ合い」など小さなトラブルを広く見渡すよう文科省が促したことが増加の一因だという。
 いじめの兆候を早期に見つけ、対処することは深刻な事態を招かないための鍵だ。発見の手段はアンケートが5割超。本人の申し出は約18%で、積極的に言い出せない傾向に変わりはなかった。
 学校関係者は当事者らの話を丁寧に聞いて、問題の解決に導いてほしい。
 実際、全体の約90%が解消したというが、一件一件の経過をフォローすることが欠かせない。形を変えて再発したり、見逃されたりしているいじめは少なくないはず。
 肝心なことは、数値上の成果を上げることではない。子どもたちが発するSOSのサインに大人がどうやって気付けるかだ。その感度を高めることに全力を挙げてほしい。
 東北各県も今回、全県で増加した。子ども1000人当たりで見ると宮城が77.9件で全国3位の高水準だった。
山形が5位。青森、岩手の件数は前年度に比べ激増した。
 ここ数年、いじめによる中学生の自殺が各地で相次いだことと無関係ではあるまい。原発事故で福島から他県に避難した生徒が転校先でいじめに遭うケースも表面化した。
 学校現場の危機感が高まっているのなら、増加を肯定的に捉えることもできよう。
 しかし、自殺に至った事例などでは、学校や教育委員会が、いじめ被害を認識しながら適切に対応しなかったことが、度々問題になった。
 いじめ防止対策推進法は、子どもの心身に大きな被害を与えるいじめを「重大事態」と規定。発覚次第、直ちに調査に入るよう求めている。16年度の重大事態は全国で400件と増加の傾向にある。
 仙台市青葉区で今年4月にあった中2男子の自殺では、昨年行われたアンケートで本人がいじめを訴えていたにもかかわらず、校長は当初「その都度解消した」と、いじめとの関連を認めなかった。
 その後に教諭2人に体罰を受けていたことも発覚。重大事態を見過ごした学校や市教委と遺族との信頼関係は断たれ、第三者機関による調査すらいまだに始まっていない。
 いじめ根絶は、依然厳しい道のりと言わざるを得ない。多忙な学校現場だけで全てに対応できないのは明らかだ。
地域や外部団体との連携、カウンセラーなどサポート体制の強化は不可欠であろう。
 ただ、子どもの痛みに向き合う姿勢を欠いたままでは、いくら綿密なアンケートや防止策を講じても問題は先に進まない。
保護者や地域との信頼を築く要であることを学校や行政は肝に銘じるべきだ。

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平成29年10月29日社説
指導死 教室を地獄にしない

 子どもたちの可能性を伸ばすべき学校が、逆に未来を奪う。そんな過ちを、これ以上くり返してはならない。
 教師のいきすぎた指導が生徒を死に追いやる。遺族たちはそれを「指導死」と呼ぶ。
 福井県の中学校で今年3月、2年生の男子生徒が自死した。宿題の提出や生徒会活動の準備の遅れを、何度も強く叱られた末のことだった。
 有識者による調査報告書を読むと、学校側の対応には明らかに大きな問題があった。
 周囲が身震いするほど大声でどなる。副会長としてがんばっていた生徒会活動を「辞めてもいいよ」と突き放す。担任と副担任の双方が叱責一辺倒で、励まし役がいなかった。
 生徒は逃げ場を失った。どれだけ自尊心を踏みにじられ、無力感にさいなまれただろう。
 管理職や同僚の教員は、うすうす問題に気づきながら、自ら進んで解決に動かなかった。肝心な情報の共有も欠いていた。追いつめられた生徒が過呼吸状態になっても、「早退したい」と保健室を訪ねても、校長らに報告は届かなかった。
 生徒が身を置いていたのは、教室という名の地獄だったというほかない。
 だがこうしたゆがみは、この学校特有の問題ではない。「指導死」親の会などによると、この約30年間で、報道で確認できるだけで未遂9件を含めて約70件の指導死があり、いくつかの共通点があるという。
 本人に事実を確かめたり、言い分を聞いたりする手続きを踏まない。長い時間拘束する。複数で取り囲んで問い詰める。冤罪を生む取調室さながらだ。
 大半は、身体ではなく言葉による心への暴力だ。それは、教師ならだれでも加害者になりうることを物語る。
 文部科学省や各教育委員会は教員研修などを通じて、他の学校や地域にも事例を周知し、教訓の共有を図るべきだ。
 その際、遺族の理解を得る必要があるのは言うまでもない。調査報告書には、通常、被害生徒の名誉やプライバシーにかかわる要素が含まれる。遺族の声にしっかり耳を傾け、信頼関係を築くことが不可欠だ。
 文科省は、いじめを始めとする様々な問題に対応するため、スクールロイヤー(学校弁護士)の導入を検討している。
 求められるのは、学校の防波堤になることではない。家庭・地域と学校現場とを結ぶ架け橋としての役割だ。
事実に迫り、それに基づいて、最良の解決策を探ることに徹してほしい。

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平成29年10月28日毎日新聞
宮崎中1自殺 いじめと関係あり…第三者委が報告書

 宮崎市立中学1年の男子生徒がいじめを示唆するメモを残して2016年8月に自殺した問題で、市教委が設置した第三者委員会が、同級生らによるいじめがあったと認めたうえで自殺との因果関係もあったとする調査結果を盛り込んだ最終報告書をまとめたことが27日、関係者への取材で分かった。
 市教委や関係者によると、男子生徒は16年8月31日に自殺。自宅から生徒が書いたとみられるメモが見つかり、同級生らの名前とともに「たたかれた」などの記載があった。
 このため、市教委は「重大事態の疑いを払拭できない」として16年9月から全校生徒へのアンケートや聞き取り調査を実施。弁護士や大学教授らでつくる第三者委を設置して調べてきた。今年8月にまとめた中間報告書は、最終報告書でいじめが複数あったことを認める方針を示したが、自殺との因果関係については不明としていた。【塩月由香】

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平成29年10月27日東京新聞社説
福井中2自殺 寄り添う心を欠く怖さ

 教師は絶大な権力を持つ。一方的に振りかざせば、生徒は追い込まれてしまう。福井県池田町で三月、中学二年の男子がその犠牲になった。生徒に寄り添う心を欠いた指導は、教育とは呼べない。
 精神的に追い詰められ、逃げ場を奪われたその男子生徒は、生徒会室前の廊下にかばんを残して校舎三階から飛び降り自殺した。
 自殺の原因について、池田町の調査委員会の報告書は「担任、副担任の厳しい指導叱責にさらされ続けた生徒は、孤立感、絶望感を深めた」と結論付けた。生徒の痛みを理解できない教師像を強くうかがわせる。
 母親は手記に「『教員による陰険なイジメ』で息子は尊い命を失ったのだと感じています」とつづった。生徒の声なき訴えに、全国の教師は耳を傾けねばなるまい。
 一学年一学級の小規模校。隅々にまで目が行き届くはずの環境下で、なぜ悲劇は起きたのか。報告書からは、まるで教師の暴言を当たり前のようにみなす独善的な学校の様子が読み取れる。
 マラソン大会の準備が遅れ、担任は校門前で大声で怒鳴った。周りが身震いするくらいだったという。職員室の前で「おまえ辞めてもいいよ」と、生徒会役員だった生徒に大声を出しもした。
 忘れた宿題を執拗にとがめる副担任の前で、土下座しようとしたり、泣きだして過呼吸の症状が出たりしたこともあった。だが、管理職にも家族にも伝えなかった。
 担任、副担任の双方から厳しく責め立てられては、生徒は心のよりどころを失ってしまう。校長ら管理職も二人の振る舞いを知っていたという。適切な対応を怠った学校の責任は極めて重大だ。
 福井県は全国学力テストで常に上位の成績を上げる。それは評価できるとしても、学力重視に傾き過ぎて、子どもの思いや気持ち、特性を蔑ろにしていないか。
 教師の体罰や叱責の犠牲となった子の遺族らは「指導死」とも呼ぶ。二〇一二年に大阪市の高校生が部活動顧問から体罰を受け自殺した。二月には愛知県の中学生が「担任に人生を壊された」とのメモを残して命を絶った。
 文部科学省調査では、教職員との関係に悩んで自殺したとみられる小中高校生は〇七年度からの十年間で十六人に上る。
問題の担任は指導方法を助言した同僚に「手加減している」と返したという。
 子どもの身になって考え、感じる力が欠かせない。「指導死」という言葉などあってはならない。

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平成29年10月25日朝日新聞福井版
池田中の自殺 知事「胸痛む」 県教委は5人派遣

 池田町の町立池田中学校で今年3月に2年生の男子生徒が自殺した問題で、西川一誠知事は24日の定例会見で「非常に悲しいことであり、胸が痛む」と語った。その上で、「町がしっかり対応できるよう、県教委はバックアップしてほしい。
県も支援する」「学校や地域で動揺があってはいけない。安心して落ち着いた学校運営や授業ができるよう、県として可能な限り応援する」などと述べた。
     ◇
 県教委は23日から、池田中と町教委に計5人の教職員を派遣した。
 校長が19日に退職願を出して自宅待機になり、教頭が職務を代行している。学校の管理・運営を支えるため、県教委義務教育課の指導主事(50)と池田小学校の教諭(55)を派遣した。
 男子生徒を叱責した、当時の30代の副担任(国語の教諭)も17日から休んでいるため、義務教育課の指導主事(46)を送った。
 一方、町教委などには抗議の電話が殺到し、業務に支障が出ているため、県教委の職員2人を交代で派遣する。
(堀川敬部)

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平成29年10月25日河北新報
<仙台中学生自殺>あす半年 調査始まらず「専門委」の人選難航

仙台市青葉区の折立中2年の男子生徒(13)が教諭から体罰を受けた上、いじめを訴えて自殺してから26日で半年がたつ。市教委の第三者機関「いじめ問題専門委員会」は人選が難航し、背景などの調査は始まっていない。真相究明の第一歩すら踏み出せないまま時間だけが過ぎ、遺族は市教委に不信感を募らせている。
24日あった市議会いじめ問題等対策調査特別委員会で、市教委は専門委の人選を巡って遺族が要求していた臨時委員3人のうち、難航していた1人の人選が決まったことを報告。さらに遺族の求めに応じ、4人目の委員を加える方向で調整していることを明らかにした。
ただ、半年がたっても調査のスタートラインすら見えない現状に、市議から「異常事態と言わざるを得ない」といら立ちや不満の声が上がった。
臨時委員の選定は紆余(うよ)曲折をたどった。遺族は当初、自死予防の相談団体など3団体からの推薦を求めたものの、市教委は「信頼性や専門性を担保するには、職能団体からの選出が望ましい」と難色を示した。
次善の策として、遺族は仙台弁護士会からの推薦を要望。選ばれた委員候補は遺族が求めた弁護士ではなかったが、今回委員に決まった。市教委は「弁護士会がふさわしい人物を選んだ」と説明。遺族は疑問を抱きつつ、心を痛めている。
2014年9月に泉区館中、16年2月に同区南中山中で発生した生徒の自殺では、ともに発生から約2カ月後に調査が始まった。折立中の事案にかかる準備期間の長さが際立つ。
大津市の中学2年の男子生徒が11年にいじめを苦に自殺したケースで、同市教委の第三者委の委員長を務めた横山厳弁護士(大阪弁護士会)は「遺族の要望はできるだけ受け入れるべきだ。遺族らと特別な利害関係がない限り、第三者の立場は十分に担保できる」と指摘している。

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