平成28年3月14日中国新聞社

府中町中3自殺
説明会時期見解に相違
両親調査報告に不信も

広島県府中町立府中緑ヶ丘中3年の男子生徒=当時(15)=が昨年12月、2年前の誤った万引記録に基づく進路指導の後に自殺した問題で、保護者説明会が3ヵ
月後の3月8日に開かれた経緯などをめぐり、学校側の説明と、生徒の両親や代理人弁護士の見解が食い違っている。両親は、学校側による調査報告への不信も
抱いており、第三者委員会での公正な調査を望んでいる。
保護者説明会は、公立高の一般入試(選抜H)が終了した8日の夕方に町教委と学校が開いた。学校側は開催の時期について「同級生の入試が終わるまでは公
表しないでほしいという両親の強い意向があったため」と説明した。
しかし、両親が同11日に中国新聞に寄せた手記や代理人弁護士によると、両親は当初、「入試を控えた同級生を動揺させたくない」との思いから、自殺だった
ことなどは伏せた上で、進路指導の問題を保護者に説明してほしいと願った。しかし、町教委から「生徒の耳に入るリスクが高い」と言われ、入試後に説明会を
開くことをいったん了承したという。
ただ、四十九日の法要後。「やはり、説明会は早くいてほしい」と町教委側に複数回伝えた。学校側はそのたびに「別の方法を提案したり渋ったり」し、「説
明会を行うことすらよろしくない」と受け取れる回答をしたという。
また、調査報告書の作成過程についても認識の差がある。学校側は、作成途中の報告書の内容を両親に旦3回読み上げたとし、意見を踏まえて完成させたとの
見解を示す。
一方、両親は手記に「時間をかけて読みたい要望は聞き入れて貰えず」 「都合のよい言葉を並べて教育委員会が持ち帰ることを3度も繰り返し、やっと持って
きた銀暑は学校が言う事実と称するもののみ」などと記す。弁護士は、学校側が報告書を読み上げたことについて「両親の了解を得たとの担保を取りたかった
のでは」としている。
第三者委は、弁護士や学校経営の専門家たちで構成される見通し。町教委が人選を急いでいる。(府中町進路指導問題取材班)

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平成28年3月13日中国新聞社より

自殺生徒に卒業証書
校長式辞「痛恨の極み」
府中町の中学

昨年12月、誤った万引記録に基づく進路指導の後に自殺した中学3年男子生徒=当時(15)=が通っていた広島県府中町立府中緑ヶ丘中で12日、卒業式が開かれ
た。生徒の遺族も出席した。学校側が用意した卒業証書を受け取った。坂元弘校長は式辞で「(生徒が)帰らぬ人となってしまったことは痛恨の極み。彼は今もここに
いて一緒に卒業していくと考える」と述べた。  (府中町進路指導問題取材班)

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生徒の番クラス全員「はい」

卒業式に出席するため、府中緑ヶ丘中に向かう保護者たち 式には卒業生約220人と在校生、保護者たち計約750人が出席。学校側に
よると、同級生が遺影を持って入場し、全員が黙とう。生徒が座るはずだった席には遺影と制服が置かれた。
担任教諭は体調不良で欠席した。
卒業生は一人一人、名前を読み上げられ、生徒の順番では同じクラス全員が声をそろえ「はい」と返事した。クラスメートが無料通信アプリLINE(ライン)で意見を出し合い、全員での返事を決めたという。
両親は式後のホームルームに出席し父親が副担任から卒業証書を受け取った。
式後に記者会見した坂元校長は声を詰まらせて 「誠に申し訳ない。学校がきちんとしておけばこうならなかった」と謝罪。「原因をつくったのは学校。子どもたちが誇れる学校にする義務が職員にある」と語つた。
学校側が自殺を公表して以降、町教委や学校に対て抗議や批判の電話が損いだ。「式を妨害するとの趣旨の電話もあったため警祭官たち約40人が学校周辺を警戒した。

一緒に卒業したかった/彼の分まで頑張る

「一緒に卒業したかった」-。笑顔で巣立つはずだった卒業生たちは悲しみに包まれた。中3の男子生徒が自殺した府中緑ケ丘中であった12日の卒業式。学校への不信感を漏らす同級生もいた。
両親は級友たちに「息子を覚えていてね」と伝え、涙を流したという。
卒業式後、亡くなった生徒のクラスのホームルーム。級友や保護者によると、生徒の机は、級友がペンで直接書いたメッセージで埋まった。黒板の前ではクラス写真を撮影。その中心には笑顔の遺影があった。級友たちは両親に千羽鶴や寄せ書きを渡した。
同じクラスの男子生徒は「これまでありがとう。彼の思いを受け継ぎ、頑張るという気持ちで千羽鶴を折った。変わった様子はなかった。いなくてすごく寂しい」と語った。
別の男子生徒は「頭が良く、学で分からない部分を教えてもらったことがある。陸上部で部活も熱心だった」としのんだ。
別のクラスの3年男子生徒は「本当に彼は(担任との会話で)万引を否定しなかったのか。もっとやりとりがあったのではないか」と学校の調査への不信感を口にした。3年女子生徒は「ちゃんと確認してほしかったけど、先生たちも後悔していると思う」と複雑な表情で語った。

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平成28年3月13日 中国新聞社朝刊より

緊急連載
府中町中3自殺

解明と心のケア両輪に

再生への道
<下>
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文科省の特別チーム初会合で、徹底的な調査
と再発防止策の検討を求める馳氏(中)(10日)
 広島県府中町立府中緑ケ丘中3年の男子生徒=当時(15)=の自殺を受け10日、文部科学省であった同省特別チームの初会合。「本来は希望に満ちたものである進路指導を受けて生徒が自殺するという最悪の事態に陥った」。馳浩文科相は厳しい口調で語り、原因究明と再発防止策の検討を指示した。
生徒は担任から、1年生の時に万引したという誤った記録に基づく進路指導を受け、志望高への推薦を得られないと告げられた後、死を選んだ。学校がまとめた調査報告書は、指導用資料のずさんなデータ管理や配慮を欠いた指導などが重なり「学校としての責任があった」と結論付けた。
指導死-。教員の指導をきっかけに自殺に至るケースをこう呼び、問題提起する動きが広がっている。
「指導死」親の会代表世話人の大貫隆志さん(59)=恵只都中野区=は2000年に中学2年の次男を失った。「周りが取るに足らないと思うことでも、子どもにとっては重大なことがある。個人の性格に原因を求めるのは間違いだ」

乏しい手掛かり

「なぜこのようなことが起き、何が原因なのか」。11日、亡くなった生徒の両親は、中国新聞に寄せた手記でそう問うた。そして、当事者である学校がまとめた調査報告書に強い疑念を示した。
府中町教委は近く、原因究明のため外部の有識者でっくる第三者委員会を設ける。しかし、どこまで正確に事実関係に迫れるかは未知数だ。
焦点になる面談時のやりとりは、学校調査では担任からの聞き取りで、メモなどの記録はない。誤った万引記録の記された資料が使われた生徒指導推進委員会には会議録もない。
このため学校は全校生徒約630人にアンケートを実施。自殺した生徒に何らかの変わった点がなかったか調べる。

3ヵ月経て調査

ただ受験生への影響を考え、公立高入試の終了を待 つて事態を正式に公表した経緯もあり、アンケート配布は10日付。自殺から約3ヵ月。「時間の壁」が立ちはだかる。12日の卒業式後、坂元弘校長は3年生の約8割から回答があったと公表。卒業後も受け付けるという。
今後の調査過程は、子どもたちに「死」を突き付けもする。町教委は学校にスクールカウンセラーを常駐させた。だが特に心のケアが必要な卒業生たちへの対応は明確に決まっていない。事態におののき、後手に回る学校側の対応のまずさばかりが目立つ。
真相究明と心のケア。学校側はこの二つの重い責務を負う。再発を防ぐ手だての検討はこれからだ。国を含め、全ての学校関係者が当事者意識を持たねばならない。(明知隼二、山本和明)

組織的な再発防止策を
学校事件・事故被害者全国弁護団
定者吉人副代表(広島弁護士会)

 担任教諭だけを責めても、根本的な問題は解決しない。学校が、組織として過ちを起こさないシステムをつくり、共有していくことが求められる。
そのため、原因を究明し、再発防止策を探る第三者委員会が近く設置される客観性を担保するために、学校や町教委は運営に直接関与しない立場を貫く必要がある。一方で、学校は亡くなった生徒をよく知る同級生たちへのアンケートの結果を提供するなど、全面的に協力するべきだ。
責任の所在を明らかにするには、どこに問題があったのか、調査ではっきりさせないといけない。遺族の目線に立って真実に迫るため、遺族や代理人の弁護士が調査委員会に参加することも検討してほしい。
成長することは子どもの人権だ。中学校が過去の非行歴を高校に推薦するかどうかの判断材料とするのは、その成長を認めない考え方だ。教育の意義を自ら否定している。
学校で、しかも教員による誤った指導の結果、。生徒は自殺した。子どもは簡単に死を選ばない。何度も迷い、追い込まれていったのだろう。学校側は子どもの言い分をしっかり聞けていたのだろうか。教諭は、ふさわしい場所で時間をかけて面談していたのか。大きな疑問が残る。第三者委で解明してほしい。(根石大輔)
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「息子の死納得できず」
「間違えたで許されぬ」

府中町中3自殺両親が手記

広島県府中町立府中緑ヶ丘中3年の男子生徒=当時(15)=が昨年12月、誤った万引記録に基づく進路指導の後に自殺した問題で、生徒の両親が11日、中国新聞
に心境をつづった手記を寄せた。「なぜ一生懸命頑張ってきた息子がこんなことになるのか。未だに納得できません」と学校への不信感を吐露している。
(31面に手記全文)
両親は手記で、息子が万引したと誤認されたことについて「五回を間違えたなどで許されるものではありません」とし、学校のずさんな情報管理について「信
じがたい」とした。

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両親の代理人弁護士によると、学校は2月末、調査報告書を完成させ、両親に届けた。その前に複数回、未完成の報告書を両親の前で読み上げるなどしていたという。
両親は手記で、調査報告書について「持ってきてはその場で目を通し意見を求められ、時間をかけて読みたい要望は聞き入れて貰えず≒何度も催促しても今一
生懸命作っていますと答えるばかりで、息子の件に関して、どのくらいの重要性を感じているのか疑いたくなりました」と記している。
「誠実な報道に期待して、地元の方々にも、どうしたら大切な子供を守れるか。
学校という組織の実態が伝わることによって、改善され、生徒が内申点にとらわれ過ぎない、弱い立場の者が守られる社会になってほしい」との願いをつづって
いる。両親は、代理人弁護士を通じ、中国新聞の依頼に応じた。
町教委などによると、生徒は昨年12月8日に進路を話し合う保護者、担任教諭との三者懇談に出席せず、同日夕、自宅で自殺していたのを家族が見つけた。担
任教諭は、11月中旬から懇談当日の朝までに、教室前の廊下で本人と5回にわたって進路について「面談」し、1年時の万引記録を理由に志望校に推薦できない旨を
告げていた。
しかし、生徒の自殺後、当時万引したのは別人と判明。学校側の情報管理のずさんさが浮き彫りとなった。原因究明のための第三者委員会が近く設置される
予定。(府中町進路指導問題取材班)

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町議会で陳謝教育長

広島県府中町教委の高杉良知教育長は11日、町議会本会議開始前の議場で、府中緑ケ丘中3年の男子生徒の自殺について「生徒とご遺族に哀悼の意を表し、生徒や保護者、全ての関係者におわび申し上げます」と重ねて陳謝した。
高杉教育長は、調査のため外部の専門家で構成する第三者委員会を早急に設ける意向を強調した。中井元信議長は「第三者委による調査はもちろん、保護者、職員のケアにも万全を期してほしい」と町側に求めた。
高杉教育長はこの後、生徒が親に「どうせ言っても(担任の)先生は聞いてくれない」と相談体制の不満を漏らしていたことに「教員と子ども、保護者の信頼関係で学校は成り立つ。生徒がそう感じていたことは真摯に受け止める」と述べた。

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府中町中3自殺
生徒の両親の手記全文

広島県府中町の中3男子生徒自殺問題で、両親が11日に中国新聞に寄せた手記の全文は次の通り=原文のまま。
(33面関連)

中国新聞社   様
お手紙拝見いたしました。
このような目まぐるしい環境の変化に戸惑いを感じております。
私たちにも様々な思いがありますが、直接の取材に対して私たちは慣れておりませんので、書面にてお答えさせてください。
お手紙のとおり、誠実な報道に期待して、地元の方々にも、どうしたら大切な子供を生徒の両親の手記全文守れるか。学校という組織の実態が伝わることによって、改善され、生徒が内申点にとらわれ過ぎない、弱い立場の者が守られる社会になってほしいと願っています。
私たち家族は息子が亡くなったことを受け入れなければならない現実と今も戦っています。
なぜ一生懸命頑張ってきた息子がこんなことになるのか。未だに納得できません。
何度も「学校のミスでした。」 「申し訳ありませんでした。」と軽々しく謝られても心には響いてこないのです。
人の命はそんなものではない。名前を間違えたなどで許されるものではありません。
たとえ息子が生きていたとしても許されない事です。あまりにもふざけているので、本気であのような管理体制が日常化していたことが信じがたいです。
何も解決していないのにもかかわらず、あの報告書を基に教職員でどのような学校にしたらよいかを考え、実現に向けて希望が見えてきたと校長から言われ言葉を失いました。
何の希望なのか。この時点では学校はこのことについて何かいけないのか、なぜこのようなことが起きたのか明確に示してこないまま前に進もうと言うのは順番が違います。
調査報告書が実際私たちの手元に届いたのは四十九日の法要直前でした。
持ってきてはその場で目を通し意見を求められ、時間をかけて読みたい要望は聞き入れて貰えず、お渡しするには不十分なのでと、都合の良い言葉を並べて教育委員会が持ち帰ることを3度も繰り返し、やっと持ってきた報告書は学校が言う事実と称するもののみ。なぜこのようなことが起き、何か原因なのかには触れておらずお粗末なものでした。
何度も催促しても今一生懸命作っていますと答えるばかりでヽ息子の件に関して、どのくらいの重要性を感じているのか疑いたくなりました。
保護者への説明については、入試を控えた同級生に動揺させたくない思いから、死因は入試が終わるまで伏せてほしいが保護者には進路指導に事案について説明してほしいと願っていました。教育委員会から生徒の耳に入るリスクが高いと聞き、保護者への説明会も入試が終わった日にと私たちで話し合いました。
私たちは何度も悩み、やはり説明会は早く行ってほしい旨を教育委員長に伝えても理由をつけて私たちを不安にさせ別の方法を提案してきたり渋ったり保護者へ説明する気がうかがえなく、保護者説明会を行うことすらよろしくないようにとれる言い方をし、2ヵ月以上も振り回され、私たちの不安や不満は募り、疲労感が限界に達していました。それでも強い思いを持って必ず3月8日には実行し同級生が試験会場へ到着するまでは生徒に知らせないでほしいという願いは7日の夜に教育委員会自ら記者会見を行う意向を公表したことにより、入試があと1日を残して情報が広まると言う最悪の展開に私たちの願いが簡単に砕かれ、今まで耐えてきた事が意味をなさない状況になってし琵いました。苦しかったあの時間はなんだったのかと思います。
保護者・生徒・私たち何より息子に対して、何の配慮も心く申し訳なさもなく、自分たちの体裁ばかり考えている。それでなにが教育委員長なのでしょう。学校、教育の現場のずれた感覚を改善するすべがあるのか分からないほど、根が深いものだと痛感しました。

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平成28年3月11日 中国新聞社朝刊より
緊急連載
府中町中3自殺
<中>
過ちの背景

学校運営機能不全に

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府中町教委が開示した府中緑ヶ丘中の調査報告書
(画像の一部を修整しています)
「学校運営に大きな問題があり、責任があったと反省している」
広島県府中町立府中緑ケ丘中3年の男子生徒(15)の自殺を受けた8日夜の記者会見。坂元弘校長はそう自らの責任を認めた。なぜ間違った万引記録を基に進路指導するミスが起きたのか。取材や学校の調査報告書から、機能不全に陥っていた学校運営の状況が浮かび上がる。
問題の発端となる2013年10月の万引事案。この時の対応から、既に学校の規定を逸脱していた。生徒の問題行動が起きた場合、事実確認や保護者連絡、面談や別室での指導などを順次行うよう定めていた。
「基本を外れる」
しかし、’教員の対応は保護者への連絡や店舗への謝罪だけにとどまる。事実確認の一環として定める生徒自身による「事実確認票」の記入など、規定通りの対応を取っていなかった。
県教委は04年に文書で示した生徒指導の「留意点」、細部にわたる事実確認の重要性を繰り返し強調している。豊かな心育成課は 「繰り返し指導してきた基本から外れていたと言わざるを得ない」と指摘する。
これだけではない。生徒指導会議への校長たち管理職の不参加、休日に起きた生徒の問題行動に対する連絡体制がないなど、さまざまな不備が重複していた。
管理も明確なルールはなかった。進路指導でも必要な資料作成について前任者から引き継ぎがなかったという。調査報告書には「進路指導主事がどうしてよいか分からないという状況もあった」と記す。
 

「荒れ」で指定校
こうした状況に陥った要さらに、生徒指導の情報因の一つに学校側は「荒れ」を挙げる。同中は13~15年度、県教委の生徒指導集中対策プロジェクト事業の指定校になっている。
生徒の自殺を引き起こした遠因となった、受験で校長推薦を出す基準の厳格化も荒れを理由とした。校長推薦を得て高校に入学した生徒が問題行動を起こした翌年、高校から推薦枠を取り消された事例があったためとした。
それでも広島県教職員組合の石岡修執行委員長は指摘する。「確かに現場の教員は多忙で情報共有しにくい現状はあるが、生徒指導や進路指導は組織でするものだ。通常の運営であれば今回のミスを防ぐ関門はいくつかあったはずだ」 亡くなった生徒の両親は代理人弁護士を通じてこうコメントする。「ずさんなデータ管理ヽ間違った進路一指導がなければ、わが子が命を絶つということは決し
てなかったと親として断言できます」。機能不全に至つた経緯にまず向き合うことが学校再生の出発点になる。  (田中伸武、明知隼二)

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3月11日中国新聞社より

府中町中3自殺
生徒指導 内規沿わず
別人の詳細確認・面談なし

 

広島県府中町立府中緑ケ丘中3年の男子生徒(15)が 昨年12月、2年前の誤った万引記録に基づく進路指導 の後に自殺した問題で、当時実際に万引した別の生徒への対応を、生徒指導上の内規通りしていなかったことが10日までに分かった。発生翌日に教諭間で口頭の報告をノートなどに書かないままパソコンで入力した
ことが誤認につながり、誤認に気付いた後も元データは修正されなかった。
(長久豪佑、根石大輔)

同中の調査報告書によると、2013年10月6日の日曜日、コンビニエンスストアから、当時1年の生徒2人が万引したとの通報が学校にあった。出勤していた教諭が店に行き、2人が事実を認めたため、保護者と一緒に謝罪した。
このため、教諭は「すでに解決している」という認識を持ち、(詳細な)事実確認▽生徒指導主事、生徒、保護者、担任、学年主任を交えた5者面談▽奉仕活動1など内規に定められている対応をしなかった。翌7日に生徒指導担当と担任教諭に口頭で報告。生徒指導担当は生徒指導ノートなどに記録しないまま事実関係
をパソコンに入力し、名前を取り違えた。生徒指導担当は、7日に発生した教師への校内暴力の対応を優先し、万引への指導を怠った。 さらに8日、週1回の生徒指導会議でパソコンのデータを基に作った資料を配布。出席した教諭から名前が誤っているとの指摘があった。しかし、生徒指導記録の整理・`保管の在り方に
関する明確な取り決めはなく、誤ったデータは修正されなかった。資料は会議のたびに記録を追加し、配布。
12月3日までの約2ヵ月間、誤った名前のまま配られ続けた。
同中では生徒指導の会議は校長や教頭、生徒指導主事、学年主任たちが参加するよう定められている。しかし、校長と当時の教頭は13年度、一度も参加しなかった。調査報告書は「管理職が関与しない状況だったため、個人の判断で対応や指導をしなければならなかった」とまとめている。

自殺生徒実名
掲載資料配布
黒塗り忘れ報道陣に

広島県府中町の府中緑ヶ丘中3年の男子生徒が昨年12月、進路指導後に自殺した問題で、同中が10日、亡くなった男子生徒の実名が載ったままの資料を報道陣に配布した。報道陣からの但旧一で気付いたという。町教委は報道各社に連絡を取り、資料を破棄するか、実名を伏せて報道するよう要請した。
資料は再発防止を目的に同日、全校生徒に配布したアンケート用紙や依頼文などA4用紙4枚。報道陣に配る際、男子生徒の実名が記された部分を黒塗りにしたが、計12力所のうち1ヵ所を塗り忘れていた。資料は報道陣の求めに応じて配布された。

 

文科省月内に中間報告
検証へ特別チーム初会合

広島県府中町の中学3年の男子生徒が自殺した問題で、文部科学省は10日、原因究明や再発防止策を考える特別チームを省内に設け、初会合を開いた。事実関係の検証や進路指導の在り方を盛り込んだ中間報告を今月中にまとめることを確認した。
馳浩文科相は、会合の冒頭で「当事者意識を持ち、事実関係を徹底的に調査する。背景を分析し、再発防止策に生かす」と強調した。
ことし半ばまでに、最終的な報告を取りまとめる方向性も示した。
チームは義家弘介副大臣をはじめとする7人で構成。学校や町教委の対応を検証し、情報管理の在り方などを議論する。義家氏は、誤った万引記録に基づく進路指導について「(学校側に)なれ合いや認識の甘さがあったのではないか」と指摘した。
また同省は現地への職員の駐在を当面続け、第三者委員会の委員の人選などを支援する。
(山本和明)

調査報告「事実か疑問」
遺族側弁護士両親意向反映されず

自殺した男子生徒の遺族の代理人を務める武井直宏弁護士は10日、学校が2月末にまとめた調査報告の内容の一部について「事実関係が本当かどうか疑念があ
る。両親の意向が反映されたものではない」との見解を示した。
広島市中区で報道陣に語つた。調査報告には、担任教諭と万引歴があると誤認された生徒が教室前の廊下で5回の「面談」をしたことや、会話の内容が記され
ている。武井弁護士は、やりとりについて「事実かどうか疑問を持っている。担任は万引という言葉自体、本当に使ったのか。仮に事実でも表情や全体の流れが
明らかでない」と指摘。「そもそも廊下でのやりとり。本当の意味での進路面談と言えるのか」と学校側の指導の在り方を批判した。
さらに「両親は万引について心当たりすらない。学校と生徒が知っていて、親が知らない万引なんてあるのか。なぜ生徒は『僕は違います』と言えなかったのか。両親はそれら一つ一つを疑問に思い、悩んでいる」と述べた。両親は生徒の死後、同級生の受験への影響を考え、親しい友人にも真実を伏せていたという。
また学校側の調査能力に限界があるとして、公正中立な第三者奢貝会で調査するよう重ねて要請。町教委や学校に対し「生徒の名誉と尊厳を回復する措置を取
ってほしい」と求めた。゛
(長久豪佑)

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平成28年3月10日 中国新聞社朝刊
自殺後 元の推薦基準に
府中町中3男子 町教委が指摘
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生徒の自殺をめぐる保護者説明会から一夜明け、登校する生徒たち(撮影・今田豊)
広島県府中町立府中緑ケ丘中3年の男子生徒(15)が昨年12月、誤った万引記録に基づく進路指導後に自殺した問題で、学校側が同11月に厳格化した私立高受験の推薦基準を、自殺後に町教委の指摘もあり元に戻していたことが9日、分かった。厳しい基準で認められていなかった19人のうち15人が一転して推薦されていた=31面に関連記事。(田中伸武)
推薦の判断基準で、それまで3年生時の非行歴を対象にしていたが、「1~3年時」に拡大。担任が1、2年生時の非行歴を把握する必要に迫られ、生徒指導で誤った記録を使う一因になったとみられ、学校側の判断が問われそうだ。
町教委や学校によると、基準の厳格化は、最終的に坂元弘校長の裁量で決定した。教諭の間で異論があってまとまらず、決定は11月にずれ込んだ。坂元校長は8日夜の記者会見で「問題行動が多発し、そうでない生徒を推薦したいとの思いがあった」と説明した。
一方、町教委の高杉良知教育長は「基準は各校の判断」としながら、同中の厳格化は「行きすぎだ」と指摘する。同町の別の中学校では1、2年時の非行歴は問わないとしている。
学校は自殺後、元に戻した基準で15人の推薦を決定。各高に校長が出向いて推薦許可を得たという。学校は、誤った万引記録を推薦の可否判断に使っていなければ亡くなった生徒は推薦されていた、としている。

府中緑ケ丘中は9日朝、臨時の全校集会を開いた。坂元校長は、当初は病死と説明していた生徒が自殺していたことや進路指導をめぐる経緯を報告し、謝罪した。
生徒約600人が出席。
終了後、坂元校長は「子どもたちに申し訳なかったという話をした。先生も学校再生のために一生懸命やるから一緒にやってもらえないか、と伝えた」と語った。
学校は全校を対象に、自殺した生徒に変わったことがなかったかアンケートする。町教委は心のケアのため、同中に置くカウンセラーを増やした。
事実関係を調査 文科相
広島県府中町の中学3年の男子生徒が進路指導後に自殺した問題を受け、馳浩文部科学相は9日の記者会見で「省として重大な事案との認識で対処する」と述べ、事実関係の調査を急ぐ考えを示した。
馳氏は、義家弘介副大臣を現地に派遣したことに触れ「事実関係を直接確認し、結果は遺族にできる限り報告する。その上で再発防止に向けて取り組む」と強調
した。
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府中町中3自殺 町教委など会見やりとり

広島県府中町の府中緑ケ丘中3年の男子生徒(15)の自殺を受け、同中と町教委が8日に開いた
記者会見の主なやりとりは次の通り。(33面関連)

-面談の場所や時間は。
昨年‥11月以降に全部で5回あった。場所は全て教室前の廊下。時間は最長で5分程度。担任教諭が男子生
徒と一対一で話した。
-詳しいやりとりは。
担任の「万引がありますね」との質問に男子生徒は「えっ」と言った。「3年でなく1年の時だよ」と聞
くと、男子生徒は間を置いて「あっ、はい」と答えた。担任は否定したとは感じなかったため、万引があった
と思った。

-デリケートな話をなぜ廊下でやるのか疑問だ。
準備室などでゆっくりと子どもの心に届くように話をするべきだった。新年度から必ずそうする。
1万引したのが別の生徒だと分かったのはなぜか。
12月8日に男子生徒の自殺があった後、指導記録を再確認した。校内の記録と町教委への報告資料に記載
された名前に矛盾があった。聞き取り調査をした結果、10日に間違いと分かった。
-なぜそんなことが起きたのか。
2013年に教諭同士が口頭で、万引した生徒の名前の引き継ぎをした。ノー卜などの記録に取らなかっ
た。電子記録に残す際に誤った名前を入力した。会議で気付いた後も元の記録を直さなかった。
-学校推薦の基準を変更したのはいつか。
非常に遅く、昨年11月です。
-なぜ急に変えたのか。
年度当初から非行歴についてどうするかと検討していたがまとまらなかった。
-ハードルを上げた意図は何か。
今の3年生は1年時に問題行動が多発していた。周囲が問題行動をしていても流されず正しい行動をとっ
た生徒を推薦したいという思いがあった。
-生徒の将来に関わることを入試前に変更したことについて今、どう思うか。
非常に甘い判断だった。-変更を生徒や保護者に知らせたか。
知らせなかった。推薦基準はこれまでも学年については書いてなかった。問題ないという意識があった。
-もっと早く公表できたのではないか。
遺族が他の3年生に不安な思いをさせてはいけないと強く思っていると感じたから(公表を控えた)。
-遺族が今日まで公表を控えてほしいと自発的に言ったのか。
はっきりとは言われていない。
-学校や町教委から公表日の具体的な提案をしたことはあるのか。
この日はどうですかということを言ったことはない。
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社説 2016・3・10
その学校の対応に疑問募る
中3男子自殺

 どれほど思い悩んだことだろう。広島県府中町の府中緑ヶ丘中の3年男子生徒が昨年12月、進路指導を受けた後、自ら命を絶った。
学校側が別の生徒の非行事実と取り違え、それを理由に高校受験で学校推薦を出せないと伝えていた。町教委も「誤った記録に基づく指導が原因にあるのは間違いない」と認めた。人を育てる学校が将来ある少年を追い詰めたことになる。
しかも担任教諭が指摘した万引歴は別人のものだった。1年生当時の生徒指導会議で別の教諭が名前を聞き違えて資料を作っていたという。出席者の誰もが誤記と気付いたのに元の電子データを修正する担当が決まっておらず、誤った資料がそのまま引き継がれた。
コメントを出した遺族が「ずさんなデータ管理、間違った進路指導がなければ、わが子が命を絶つことは決してなかった」と憤ったのは当然である。
誰かが電子データを修正してくれるだろうという他人任せな考えが、教員同士や校内になかったか。実際に万引をした生徒の記録についても学校は残していなかった。チェック体制の欠陥は明らかだ。
担任は学校側に「生徒から否定するような発言はなかったので、確認が取れたと思った」と説明しているという。だが亡くなるまで5回にわたる生徒と担任の面談はいずれも廊下で立ち話だったらしい。これでまともな進路指導といえるのか。
周りの目が気になる年代でもある。生徒の物言いや表情から真実を感じ取ることはできなかったのだろうか。今となっては残念でならない。
そもそも学校推薦において非行歴をどう取り扱うべきか。文部科学省は「推薦書類に書くべきか国として基準は示していない」と説明しており、実際は現場任せになっている。
その中で、府中緑ヶ丘中は独自の判断で踏み込んでいた。もともと対象期間は3年時に限っていたが、昨年11月に突然、在校時全体に広げたというのだ。生徒が亡くなった後、元のルールに戻したのも解せない。
その経緯とともに少年少女の立ち直りを学校がどう考えていたかも知りたい。
生徒が亡くなってから3ヵ月もたっている。公立高入試を終わるのを待っての公表となっためは確かだろう。ただ本当に遺族側の求めだったかどうかは必ずしも判然としない。
保護者全体の不安も仕方あるまい。説明会も要領を得ずに紛糾した。設置される第三者委員会での徹底した原因究明と、再発防止策が求められている。
昔に比べ、入試の選択肢は広がっているとはいえ、この年代の多くにとって高校受験は一大事であることは変わりない。人生を左右するとまで深く考える生徒も確かにいる。
だからこそ身近な教員や学校が不安な心に寄り添い、生徒の味方にならねばならない。
子どもが学校の問題で命を絶つニュースに触れるたびに胸が締め付けられる。いじめのほかにクラブ活動などでの行きすぎた指導による「指導死」も相次ぎ表面化している。子どもたちと教師がコミュニケーションを重ね、どう信頼関係を築いていくか。今回の検証から導き出される教訓は重いはずだ。
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平成28年3月10日中国新聞社
緊急連載
府中町中3自殺
<上>

面談5回廊下で立ち話

渦巻く不信

「推薦できないと言われた時、どんな気持ちだったか。(学校側の)間違いで
認められなかったと知ったら本人はどんなに残念か」 広島県府中町の府中緑ケ
丘中3年の男子生徒(15)が昨年12月に、自ら命を絶ってから3ヵ月後の8日夜。
非公開であった保護者説明会で、遺族の悲痛な叫びが響いた。
死後、学校側の明らかなミスが判明する。生徒は別人の万引歴を基に、志願高
校への校長推薦を不許可とされていたのだ。
生徒は公立高を第1志望にし、私立高を第2志望にしていた。私立高は「専願」
推薦という形式で、公立高に落ちた場合、進学すると約束することで受験が有利
になる。推薦には校長の許可を必要としていた。
なぜ生徒に万引歴があると誤認してしまったのか-。学校が説明会や記者会
見で明らかにした、担任教諭と生徒の「面談」は計5回あった。

万引思い込み

1回目の「面談」は昨年11月16日ごろ。担任が「万引がありますね」と伝える
と、生徒は「えっ」と回答。 「1年の時だよ」とさらに聞くと、間を置いて「あっ、
はい」と答えたという。担任は否定する発言がなかったことを理由に、万引があ
ったと思い込んだという。
その後4回のやりとりで担任は「専願は難しい」などと伝え、保護者と話し合
うよう求めた。5回目は12月8日朝で、その後、生徒は自殺を図った。
しかし、面談はいずれも教室前の廊下で5分程度の「立ち話」で、文書などの
記録は残っていない。保護者説明会で出席者の不満が爆発した。「人生を左右す
る高校選びと分かっているのか」
しかも学校側は当初、廊下で面談したと明かさなかった。出席者によると、遺
族側の追及を受け「不適切だった」と認めた。出席した保護者の男性(47)は「事
なかれ主義というか、真摯に話す気がないように思えた」と批判をぶちまけた。
学校側のずさんな対応は次々と明らかになる。誤認の発端は2013年10月。
生徒が万引したとの通報を受けて対応した教諭が、当時の担任に口頭で名前を
引き継ぐ際、ミスが発生。関わっていない自殺した生徒の名が生徒指導の会議
資料に記載され、訂正されないまま残っていた資料が今回の進路指導に使われ
た。
体質を疑問視
今回の問題以外についても、中学校の体質を疑問視する声はある。ある保護者
の40代男性は、喫煙を見掛けて学校へ連絡した際、「指導に行ける教員がいませ
ん」と対応されたことがあると言う。「やっぱりこういうことが起きたか」と受
け止めた。
事態を重く見た文部科学省も動いた。9日、町教委と同中を訪れて事情を聴い
た義家弘介副大臣は「衝撃を受けている」と語り、専門スタッフを置いて事実関
係や問題点の究明に当たる考えを示した。
学校が2月末まとめた調査報告には、生徒が親に漏らしたつぷやきが記されて
いた。「どうせ言っても、先生は聞いてくれない」
(長久豪佑、根石大輔)

学校側の進路指導ミスが原因の可能性が高まっている府中緑ケ丘中の生徒の自
殺。なぜ起きたのか、背景や課題を探る。

厳罰主義誤った指導
教育評論家・尾木直樹氏

私自身、中学3年生の担任や指導主任を何度も務めたが、見たことも聞いたこともない事態だ。「生
徒が万引を否定しなかった」などとする学校側の言い分に憤りを感じる。さらに1年生の時の万引が
3年生になって進路に響くのは、厳罰主義のようでおかしい。二度と同じ過ちをさせないことが重要
であり、指導として完全に間違っている。
昨年11月中旬から12月8日まで5回の進路指導を重ねたとされるが、この短期間では多すぎる。さ
は言わない。多くの人の目に触れる可能性のある場所で、一万引や学校推薦の可否について話すな
ど、生徒のプライドを踏みにじるのも甚だしい行為だ。
第2志望で推薦を受けられないとなると、第1志望の選択にも影響する。受験を控え、ただでさえ
不安な気持ちに襲われるのが中学3年生。その心に寄り添えていないとすれば、非常に問題だ。亡く
なった生徒は志望校をめぐり「親に合わせる顔がない」と追い詰められたのではないか。
第三者委員会の設置に当たっては、遺族の意向をきちんと聞き取ることが最も大事だ。保護者たち
の不安も非常に大きい。自殺公表までの3ヵ月間に、事実の隠蔽や口裏合わせはなかったか。第三者
委員会に加え、文部科学省も調査
に力を尽くしてほしい。
(松本恭治)

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 平成28年3月9日 NHK

中3男子生徒自殺 誤り判明後もデータ未修正で残る

 去年12月、広島県府中町の中学3年生の男子生徒が自殺した問題で、学校と町の教育委員会が8日夜、会見し、生徒の指導の際に使った「万引きの非行歴があった」との誤った資料について、誤りが判明したあとも学校のサーバーにデータが未修正のまま残っていたことを明らかにしました。会見で学校側は、情報管理に問題があったと謝罪しました。

去年12月8日、広島県府中町の町立中学校の3年生で15歳の男子生徒が自宅で自殺しました。

学校や町の教育委員会によりますと、自殺当日までに5回行われた進路指導の際、生徒に万引きの非行歴があったとする誤った資料に基づいて、担任の教諭が、志望校への推薦は出せないと伝えていたということで、誤った資料に基づく指導が生徒の自殺につながった原因とみられるとしています。
8日夜の記者会見で、校長は誤った資料の作成について、「データ入力の過程で生徒の名前を誤った
ことが原因と思われる。その後、ミスと判明したが学校のサーバーの電子データは未修正のまま残されてしまった」と述べたうえで、情報管理に問題があったと謝罪しました。また、学校が教育委員会に報告した別の資料では誤りが修正され、この生徒の非行歴は、誤りに気付けた可能性があったということです。
中学校は9日、全校集会を開き、校長が詳しい経緯を生徒に説明することにしています。

自殺した生徒の両親は弁護士を通じて、「ずさんなデータ管理、間違った進路指導がなければ、わが子が命を絶つということは決してなかったと親として断言できます」とするコメントを出しました。

 

記者会見の詳細

広島県府中町の中学3年生が自殺した問題を受けて、男子生徒が通っていた中学校と町の教育委員会は、8日午後10時半ごろから3時間余りにわたって記者会見を開きました。
この中で、自殺した男子生徒が通っていた中学校の校長は「生徒みずからが命を絶つようなことが
起こったことについて、生徒を預かる学校の責任者として深くおわび申し上げます」と述べ、謝罪しました。

そのうえで、公表が男子生徒の自殺から3か月後になったことについて、「亡くなった翌朝に遺族から『みずからの命を絶った事実を知らせると同級生の動揺が大きく進路にも影響があるかもしれないので進路が一段落するまで急性心不全で亡くなったことにしてほしい』と希望が寄せられた。公立高校の入学試験が終わったので公表した」と説明しました。
また、男子生徒に「万引きの非行歴があった」とする誤った資料については、「男子生徒が1年の時の
生徒指導推進委員会の資料で触法行為をした生徒として名前があった。記録上のミスで、会議の席でミスであると確認したものの、サーバー上の電子データは未修正のまま残されてしまった」と説明しました。
誤った資料が作成された理由については、「当時、生徒が万引きをしたと連絡を受けた教諭が、資料を
作成する生徒指導部の教諭に生徒の名前を口頭で連絡した。データの入力の過程で誤ったと思われる」としたうえで、「あくまで会議で使うための資料だったので、その後、ほかのことに活用するということは考えず、データも直されなかった」と述べました。
さらに校長は生徒を高校に推薦する際の基準について、それまで3年生の1年間で非行歴がある場合は
推薦の対象としないとしていたものを、去年11月に1、2年生の時も含めて非行歴がある場合には推薦の対象にしないと改めたことを明らかにしました。そのうえで、こうした考えは生徒の成長を認め、生徒の意欲を高めるという観点に欠けていたと述べました。
一方、担任の教諭と男子生徒のやり取りについては、「担任は去年11月から自殺した日の朝にかけて5回、
男子生徒と面談した。担任は1回目の11月16日の面談で触法行為があったことの確認を取ろうとしたが、具体的な事実を確認せず、生徒本人の不明確なことばで確認が取れたと思い込んでしまった。5回の面談を通しても担任は生徒が触法行為を否定したと感じなかったため、触法行為があったと確認が取れたとしていた」と説明しました。

 

保護者会開催も批判相次ぐ

中学校は8日夕方から緊急の保護者会を開き、これまでの経緯を保護者に説明しました。
緊急の保護者会は8日午後6時半から、およそ3時間半にわたって中学校の体育館で行われました。

出席した複数の保護者によりますと、中学校の校長と町の教育委員会の教育長が、これまでの経緯を説明し、この中で、学校側は自殺した男子生徒に「触法行為」があったとする誤った資料に基づいて、担任の教諭が生徒に「志望校への推薦は出せない」と伝えたことが自殺に直接結びついた可能性が高いことを認め、保護者に謝罪したということです。
一方で詳しい当時の状況や原因の分析などの詳細な説明はなかったということで、保護者からは
「説明が十分されていない」といった意見や批判が相次いだということです。
会には自殺した生徒の両親も出席しましたが、担任の教諭は出席せず、出席した保護者からは
「担任が直接説明しないのはおかしい」とか、自殺の公表が今まで遅れたことに触れ、「なぜもっと早く説明しなかったのか」といった指摘が相次いだということです。出席した保護者の1人は「説明は体裁を整えているだけで、事実を伝えることから逃げているようだった。先生が生徒の味方になれば、自殺は起きなかったはずで納得がいかない」と話していました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160309/k10010436561000.html

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平成28年3月9日朝日新聞

誤った万引き歴、2年前に気づく 学校側修正せず 広島

1豊美

記者の質問を受け、目を閉じる坂元弘・府中緑ケ丘中校長(右)=8日午後10時56分、

広島県府中町、青山芳久撮影

 

 広島県府中町の町立府中緑ケ丘中学校3年の男子生徒(当時15)が昨年12月に自殺した問題で、学校側が「生徒が万引きした」とする誤った記録にもとづき、同11月から5回、生徒への進路指導を繰り返していたことがわかった。学校側は2年前、この記録が誤りだと指摘され、会議用の紙の資料は直したものの、サーバー上の電子データを修正していなかったという。

 町教育委員会の高杉良知(りょうち)教育長、緑ケ丘中の坂元弘校長らは8日夜に会見を開き、本来なら生徒の志望する私立高校に推薦できたが、誤った記録を根拠に「推薦できないと伝え、生徒を苦しませた」と認めた。高杉教育長は「尊い命が失われるという、あってはならないことが起きた。不安や悲しみを感じた生徒や保護者、関係者に深くおわびする」と謝罪した。

 会見の説明によると、2013年10月6日、「万引きをした生徒がいる」と店から連絡を受けた学校職員は、口頭で生徒指導部の教諭に万引きをした生徒の名前を伝えた。しかし、生徒指導部の教諭は生徒指導用の資料を更新する際、フォルダーに別の生徒名を入力した。さらに同8日に教諭が配った会議資料に万引きをしていない自殺した生徒名が記載されていた。職員から誤りの指摘を受け、教諭は配布した紙の資料は直したが、フォルダーはそのままになっていた。伝達の際、教諭は

メモをとっていなかったという。

 学校側は昨年11月中旬と下旬、担任教諭が生徒に進路指導する際、誤った記録をもとに私立高校に推薦を出すことは難しいと告げた。3回目以降の面談では、学校推薦はできないと親に相談するよう求め、最後の指導となった12月8日朝には、万引きのことを親に話したのか確認したという。いずれも個別の部屋ではなく、廊下などで指導していたという。

 8日は三者面談が予定されていたが生徒は現れず、担任教諭と親だけで面談。生徒は自宅で自殺していた。自宅にメモが残されていたが、自殺の理由について具体的な記載はなかったという。翌9日、全校集会で生徒が亡くなったことを伝えた際、死因を「急性心不全」とし、自殺は伏せて説明していた。

 男子生徒は進路として第1に公立高、第2に私立高の「専願」を希望していたという。私立高の専願受験は、1校だけを受験することで一般入試よりも有利になる制度で、出願のために学校長が認める必要がある。

 昨年11月以降、担任教師は5回にわたり、教室前の廊下などで、男子生徒に対して「万引きのことがあるので専願が難しいことが色濃くなった」などと伝えていた。

 生徒の両親は「杜撰なデータ管理、間違った進路指導がなければ、我が子が命を断つということは決してなかったと親として断言できます」とのコメントを発表した。

 

■「学校の情報管理、あまりにも不適切」

 小松郁夫・流通経済大教授(学校経営学)の話 進路に関する記録は、生徒や保護者にとって極めて重要な書類だ。推薦に関する情報は特に影響が大きく、担任だけでなく、管理職や学年主任もチェックすべきものだ。今回、学校側は万引きをしたとする情報が誤りだったと指摘された後も修正しないなど、二重三重にミスを犯している。生徒の担任も、当時のことを知る先生に事情を聴けば間違いに気づけた可能性が高い。学校の情報管理はあまりに不適切で、責任は免れない。学校側と親、親と生徒のやりとりの詳細はわからないが、生徒は夢を絶たれて将来に絶望したのかもしれない。

 

■中学校で保護者説明会

 自殺した男子生徒が通っていた町立府中緑ケ丘中学校の体育館では8日夜、全校生徒の保護者を対象にした臨時の説明会が報道陣に非公開で開かれた。

 午後6時半からの説明会の会場には次々に保護者らが訪れた。町教委や出席者らによると、説明会は午後8時までの予定だったが、質問する保護者の挙手がやまず、大幅に延びた。

 会場から出てきた3年生の男子の父親(47)によると、冒頭に学校と町教委から説明があった。亡くなった生徒の母親も出席し、泣きじゃくっていたという。会場では担任教諭が出席していないことに質問が殺到した。

「体調不良」との説明に、遺族も「なぜ」と怒っていたという。「学校に説明を求めても詳しい説明はなく、ご遺族からの説明でわかることも多かった」と話した。

 息子は亡くなった男子生徒と同じ陸上部で、男子生徒は自宅に遊びに来るほど仲がよかった。「ものすごく活発で、優しい子だった。亡くなったと聞いてうちの子もショックを受けていた。もう少し教師が生徒の言葉に耳を傾けていれば、このようなことは起きなかったのではないか」と話した。

 説明会に出席した中学2年男子の40代の母親は「学校はミスの経緯を説明したが、なぜ起きたかわからず、納得できなかった。会場で何度も『わからない』という声が上がっていた」と話した。

 3年生の子どもがいる50代の男性は「学校を信頼していただけに、あってはならないことが起きて残念だ。

間違った情報に基づいて進路指導が行われた原因を解明し、対策を考えなければならない」と話した。

 府中町の高杉良知教育長はこの日午前、報道陣の取材に「これまで誤認に基づいて『推薦できない』という指導をしたことについて、教育委員会としても、学校としてもご遺族に謝罪した。保護者会でもきちっとおわびする。生徒を預かる責任者である教育長として、生徒が亡くなったということについてまず申しわけなく思う」と話した。

 

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