平成28年11月7日 朝日新聞社

自殺した高2の実名公開 母親「いじめ問題を考えて」

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亡くなる3カ月前(2014年4月)に父親が撮影した大森七海さん

 2014年に青森県立八戸北高校2年生の大森七海さん(当時17)が亡くなり、いじめによる自殺の可能性が高いと訴えてきた両親が七海さんの実名と写真を公開した。母親(52)は公開の理由について「いじめを身近な問題として考えてほしい」と話している。

 東京都内で5日に開かれたシンポジウムで明らかにした。母親は8月に青森県内で2人の中学生が自殺したことにも触れ、「いじめの認識不足や情報共有の不備を何度繰り返したら学校は気づくのか」と憤りを語った。七海さんは高校入学後に同級生から無視や悪口などのいじめを受けていたといい、14年7月に八戸沖で遺体でみつかった。

県教育委員会の第三者機関はいじめについて「悪質性を認めるに至らない」などとして死亡との因果関係を否定したが、県知事の第三者機関は再調査で15年3月に「いじめと自殺には一定の因果関係があった」と認めた。

 母親はこれまで匿名で体験を語ってきたが、今年7月「いじめを他人ごとだと思う人にも考えてもらいたい」と、七海さんの写真にメッセージを添え、全国の学校でいじめ防止のための講演をしているNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)に提供。同法人主催の5日のシンポジウムでも展示された。(榎本瑞希)

 

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平成28年11月6日 朝日新聞青森版

「娘は必死に耐えていた」 自殺生徒の父が訴え

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青森市で今年8月上旬にあった「青森ねぶた祭」に友人と参加したときのりまさんの写真。母親がメッセージを寄せた=遺族提供

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娘のりまさんについて語る葛西剛さん=東京都港区

  青森市立中学2年の葛西りまさん(当時13)がいじめを訴える遺書を残して自殺した問題で、父の剛さん(38)が5日、都内であったシンポジウムで心境を語った。りまさんが同級生からSNSで「死んで」「学校に来るな」と言われていたと語り、「娘は一人で必死に耐えていた。いじめを学校に認識してもらい、厳しく取り上げてほしかったと思う」と話した。

 シンポジウムはいじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)が親の知る権利について考えようと開き、子どもを亡くした遺族や教育関係者、国会議員ら約80人が出席。剛さんは「いじめをなくすために、娘の置かれていた状況を知ってもらう必要がある」と参加した。

 剛さんによると、1年生の6月ごろ、りまさんと友人に対し、同級生から無視や暴言が始まった。次第にネット上でうわさを流されたり、SNSで「ブス」「キモい」「死んで」「学校に来るな」といった暴言を吐かれたりするようになったという。

 りまさんや両親は1年生時も2年生時も担任に相談し「相手の保護者に伝えてほしい」と頼んでいた。青森市教育委員会は学校が当時「よくあるトラブル」と認識していたことを明らかにしている。当時どのような指導をしていたか、学校からは遺族にまだ説明がないという。

 「いつも明るく、笑顔だったりま。ほとんど弱音を吐かず、逆に友達の悩みを一生懸命聞いて、解決する方法を考えていた」。剛さんは娘についてそう振り返った。「なぜ死ななければならなかったのか。その答えをずっと探していくと思います」と話した。

 会場にはりまさんが亡くなる約3週間前に友人と撮った青森ねぶた祭での写真や、国語の授業で書いた「幸せ」という詩が展示された。母(39)や姉(16)が「もっともっと、私の作ったご飯食べて欲しかった」「夢でもいいからりまちゃんと会いたい」などとメッセージを添えた。(榎本瑞希)

     ◇

 幸せ

             葛西りま

朝、眠い目をこすって起きて面倒臭いと言いながら学校に来て睡魔と戦って授業をして一日終わって楽しかったと家に帰って宿題して温かいごはんを食べてお風呂に入ってぐっすり眠ってこんないつもの生活が一番幸せ何だなとふと(し)た時感じる

(かっこ内は脱字を補足したもの)

 

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平成28年11月6日 東京新聞

命守るのは指導者 部活中や体罰子どもの死亡ゼロへ

スポーツ指導者を多数輩出する日本体育大は七日から、部活動や体育の授業中の事故や体罰で子どもを亡くした遺族らを講師に招いた研修会を始める。実際に起きた事例を学び、安全への意識を高める狙い。講師の一人で、二〇〇三年七月に高校の部活動で長女を亡くした草野とも子さん(66)=東京都江戸川区=は「教員になる人たちには、親のつらさ、悲しさと命の大切さを分かってほしい」と話している。 (小林由比)

草野さんの長女恵さん=当時(15)=は専修大付属高校(杉並区)一年の時、バレーボール部の合宿中に倒れ、二日後に熱中症と急性硬膜下血腫で亡くなった。

湿度が70%近い真夏の体育館で、一つの動きをできるまで繰り返させられた。経験が浅かった恵さんは水を飲む時間すらなかった。二日目には吐き気などの熱中症の症状があったにもかかわらず、顧問の指示で練習を続け、転倒した際に床で頭を強打した。症状が悪化しても、顧問は病院に連れていかず、コートの外にいた恵さんは意識を失った。

病院に駆けつけた草野さんは、人工呼吸器につながれ、目を半分見開いたままの恵さんを前に、泣き叫ぶしかなかったという。

「なぜあんなに元気だった娘が亡くならなくてはいけなかったのか」 学校から詳しい説明はなく〇六年、学校を相手に損害賠償訴訟を起こし、〇九年に和解した。和解条項には、学校に専門家らによる安全対策委員会を設置することが盛り込まれ、自らもメンバーに加わった。

「娘と同じ目に遭う子が二度と出ないよう学校や教員の意識を変えたい」。その一心で、今も学校に通い続ける。

学校側も草野さんの声に耳を傾け、安全対策に力を入れている。

「スポーツ指導者に無知や、健康や命を大切にする認識がないことは許されない」と草野さんは言う。「命は一度消えたらもう灯をともせない。次世代の教員として子どもたちの命を預かる学生たちに、そのことを伝えたい」 

◆安全意識低い現状に危機感 企画の南部准教授

研修会を企画したのは、体育学部の南部さおり准教授。法医学が専門で、前任の横浜市立大では柔道事故などを医学的に検証し、学校に指導や対応を提言してきた。その中で「指導者になる人たちが子どもの命を守るという視点で自分を律したり、合理的な判断をするための教育を受けていない」と、現状に対する危機感を強く

感じたという。

今年四月から日体大でスポーツ危機管理学の教員として、運動中の子どもが熱中症になったり、脳振とうを起こしたりしたときの危険性や、体罰、指導がきっかけで子どもが自殺に追い込まれる「指導死」などの問題を教えている。

スポーツの分野で国内トップクラスの学生たち自身が、熱中症などの危険な状況を経験していることが多いといい、「それが普通という感覚を持つのは怖い」と指摘する。

研修会は、講義を受ける学生だけでなく、幅広く教職志望の学生らに聞いてもらおうと初めて企画。遺族ら八人に講師を依頼した。「先生の卵」を対象に遺族が講師を務める研修会は全国でも珍しいという。

初回の七日は住友剛・京都精華大教授(教育学)が学校事故の現状について講演するほか、剣道部で体罰を受け亡くなった子どもの遺族らが参加する。第二回(十二月十二日)は、草野さんらが講演。第三回(来年一月三十日)は、いじめや指導死がテーマ。一般の人も無料で参加できる。会場は日体大世田谷キャンパス。申し込み、問い合わせは南部准教授=045(479)7115=へ。

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平成28年11月5日 朝日新聞デジタル

自殺したりまさんの父が訴え 「いじめをなくしたい」

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上京し記者会見する、葛西りまさんの父・剛さん(左から2人目)ら=4日、文部科学省 

 いじめを訴える言葉を残し、8月に自殺した青森市の中学2年、葛西りまさん(当時13)の父親剛さん(38)が4日文部科学省を訪れ、いじめ問題に取り組むほかの遺族らとともに、再発防止を求める要望書を出した。

「学校ではまだいじめが続いていると聞く。いじめをなくしたい。それが娘の願いだ。少しでもできることがあれば」と会見で語った。

 要望書は、いじめ防止対策推進法の見直し議論が進む中、いじめで自殺した子の遺族らでつくるNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」がまとめた。いじめの発生後3日以内に全校生徒にアンケートをすることや、学校側が遺族と情報共有し、調査方法などに遺族の意見を積極的に取り入れること、いじめに特化した教員研修を義務づけることなどを求めている。

 青森市では第三者委員会が事実確認を進めているが、剛さんは、学校側の情報提供のあり方に不信感があるとして、「謝罪を求めているのではなく、何があったのかを知りたいだけだ」と訴えた。

 青森県黒石市の夏祭りの写真コンテストでは、生前にりまさんが写った作品が最高賞の市長賞に内定したが、取り消された。その後、剛さんは「娘の笑顔を世間に知ってもらい、いじめをなくしたい」とりまさんの写真や名前を公開。これを受けて市長は剛さんに謝罪し、「改めて市長賞を授与したい」と伝えた。(榎本瑞希、木村司)

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平成28年11月5日 朝日新聞広島版

生徒と教師の信頼関係築けず 中3自殺で第三者委

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最後の調査検討委員会を開いた後に会見する第三者委員会のメンバー=府中町本町1丁目

 

 府中町立府中緑ケ丘中学校3年の男子生徒(当時15)が誤った万引き記録を基にした進路指導を受けた後に自殺した問題で、町教委は4日、第三者委員会がまとめた報告書の全文を報道陣に公開した。

「生徒との信頼関係を丁寧に築いていく姿勢が不十分」とし、生徒指導への姿勢や推薦基準の機械的な運用など多くの課題を示した。

 個人情報を伏した報告書によると、第三者委は男子生徒と同学年の生徒・保護者にアンケートを実施。

生徒指導について「丁寧に細かく指導してくださった」と肯定的なものもあったが、「頭ごなしに物事を決めつけ生徒の話を聞こうともしない先生がいた」「先生方は『生徒はうそつきだから』と平気で言っていた」などの意見があった。

 第三者委員会は3日夜、25回目の調査検討委員会を開催。委員長の古賀一博・広島大大学院教授が町教委の高杉良知教育長に報告書を手渡した後に会見した。

 報告書は、志望する私立高への推薦が認められず、生徒と担任の間に適切なコミュニケーションがなかったことが男子生徒の自殺のきっかけと指摘した。副委員長の阿形恒秀・鳴門教育大大学院教授は「『どうせ言っても先生は聞いてくれない』という(亡くなった)生徒の言葉が象徴している」と説明した。

 また、入学後に触法行為があれば一律に認めないと昨年11月に推薦基準を変更したことについて、報告書は法律で14歳未満の行為は有責性がないとしていることを指摘。「少年法の理念の無理解」と断じた。

 最後に古賀委員長は「教員たちは今回の答申を共有して自分たちの問題ととらえてほしい」と意識改革を求めた。報告書を受け、県教育委員会の下崎邦明教育長は「このような悲しいことが二度と起こらないよう全力で取り組みを進める」とのコメントを出した。

     ◇

 府中緑ケ丘中は5月に推薦の方針を改めた。志望理由が明確か、学習や部活に意欲的かなどの観点から、生徒に努力や成長がみられるかを踏まえ、総合的に判断しているという。(泉田洋平、加治隼人、久保田侑暉)

 

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平成28年11月5日 朝日新聞

有識者会議のいじめ防止提言、どう読む 尾木さんに聞く

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尾木直樹氏=東京都千代田区の法政大

■教育評論家・尾木直樹さんに聞く

 いじめ防止を話し合ってきた文部科学省の有識者会議が同省への提言をまとめた。今後、提言がいじめ防止対策推進法の改正につながる可能性もある。教育評論家の尾木直樹さんに、どう読み解いたらいいか聞いた。

 ――提言を読んだ感想はいかがですか。

 私の満足度は高い。最大のポイントは、教職員にはいじめの情報を学校の対策組織に報告・共有する義務があると改めて強調し、懲戒処分に言及した点だ。「罰則」については3年前、法律を作るときも議論になった。だが、当時は教育現場にはなじまない、との結論だったし、私自身も「ちょっと待て」という立場だった。

 ただ、この3年間だけでもいじめの情報が共有されず、何人もの子どもが自殺する事態を招いた。情報共有しないのは、明らかな法令違反であり、処分の対象にするべきだ。

 教職員の日常業務で、自殺予防といじめへの対応を最優先に位置づけるよう促すことが盛り込まれた点も評価したい。

 学校現場に行くと、校長先生に「いじめ対策組織の会議はどの程度機能していますか」と必ず聞き、構成メンバーも尋ねる。生徒指導の委員会と兼ねている学校が多い。そして、多くの校長は重ねて「いじめ対策組織の会議はやりたいけれど、忙しくてなかなかできない」と言う。それではいけない。いじめ対策は命にかかわるもので、職員会議や学年会議、

部活指導などより圧倒的に大事だ。月に2回とか毎週とか、定例的にやらないといけない。

 ――法に位置づけられた「いじめ対策組織」が十分認識されていないとの指摘があります。

 ある学校のPTA会長が、いじめられている子の親に相談を受けて担任の先生に伝えたのに、学校がなかなか動いてくれないとぼやいていた。そこで私が「いじめ対策組織」に頼むよう提案したら、その会長は「うちの学校にはありません」と。

学校が組織の存在を周知していない。重大な事件が起きているのは、こういう学校だ。

 提言には、いじめ対策組織の先生が朝礼であいさつするなど、組織の存在を子どもや保護者に知らせる取り組みが盛り込まれた。こんなことを3年たって書かないといけないのは恥ずかしいと思う。

 ――加害者側への指導という観点からはどうですか。

 「いじめという言葉を使わず指導する」と提言に入ったのは画期的だ。現場での長年の経験からいえば、「お前、それいじめだぞ」と言っても、ほとんどの子は認めない。本当にふざけているつもりの子が圧倒的に多い。だからいじめという言葉を使わず、相手の子のつらさを理解させることが大事だ。こんなに苦しんでるんだよ、君がされたらつらいでしょ、だからもうやめようよ、君ならできるよ、と持っていく。内容で迫り、納得して申し訳なかった、と理解できるようにするべきだ。

 一方、被害者の側には、いじめという言葉を使う。決して許されない人権侵害だよ、と言わなきゃいけない。

 ――提言には「児童生徒の主体的な参画」という要素も入りました。

 法律ができる時、参院での付帯決議に「児童等の主体的かつ積極的な参加」という文言が入ったが、衆院での決議には入らなかった。学校の主役は子どもたちなのに、いじめ防止活動に子どもが参画する、という発想が衆院には理解されなかった。子ども観が古かった。

 いじめが起きたらその日のうちにクラスの半分はわかるし、子どもの参加によってダイナミックな活動ができる。子どもの主体的な参画が盛んな京都市では、いじめを認知する割合が高い。やっと今、その重要性が理解されるようになってきたと思う。

 ――いじめ防止対策推進法を改正して盛り込むべきだと考える点はどこですか。

 いじめへの対応を最優先に位置づけたこと、情報共有、それと児童生徒の主体的な参画、の三つだと考える。

(聞き手・片山健志)

     ◇

 〈いじめ防止の提言〉 文部科学省の有識者会議がまとめた。いじめを教職員の業務の最優先事項に位置づけ、いじめの情報共有が義務であると周知▽いじめの認知件数が少ない都道府県に文科省が個別指導する▽学校の「いじめ対策組織」に外部の人材の参画を進める――などを盛り込んだ。

     ◇

 おぎ・なおき 1947年生まれ。法政大教職課程センター長・教授。東京都内の私立高、公立中教員として22年間、子どもを主役とした教育実践を展開。

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平成28年11月4日 朝日新聞

「万引き」誤記録で自殺、第三者委「強権的な指導」

 広島県府中町の町立府中緑ケ丘中学校3年の男子生徒(当時15)が昨年12月、誤った「万引き」の記録に基づく進路指導後に自殺した問題で、原因や再発防止策を調査、検討する第三者委員会が3日、町教育委員会に報告書を提出した。強権的・抑圧的な指導に陥り、学校が共感的な支援をしなかったことなどを問題点に挙げ、生徒指導や情報管理の見直しを求めた。

 報告書は、やっていない「万引き」を理由に私立高への推薦はできないと告げられたことが、生徒の自殺要因の一つになったと指摘。教諭と生徒の信頼関係が不十分で、教員間の不適切な引き継ぎに基づく「万引き」との指摘に生徒が否定できなかった点など複数の要因が重なり、自殺に至ったとした。

 また合格を最優先にする「出口指導」の結果、生徒の意識や適性への配慮を欠いた「心の通わない進路指導に陥った」と指摘。町教委や県教委も的確な情報把握をせず、指導や助言が十分ではなかったとした。

 さらに学校側が、3年生の進路決定直前の昨年11月に推薦基準を変更し、入学後に万引きなどの触法行為があれば機械的に私学推薦を認めないことにした点について、他の中学では行われておらず、平等性を欠く「不利益処分」と批判。そのうえで再発防止策として、組織的な学校運営体制の確立や教員と生徒の信頼関係の確立、教育相談体制の充実などを提言した。

 第三者委は生徒の自殺を受けて町教委が今年3月、弁護士や教育の専門家ら5人で設置。生徒の遺族や他の生徒、教員らに聞き取りをし、生徒へのアンケートを分析するなどしてきた。

 委員長の古賀一博・広島大大学院教授は会見で「教員たちは今回の答申を共有して自分たちの問題ととらえてほしい」と話した。

 男子生徒の遺族は、代理人の弁護士を通じて「息子の気持ちを考えると、今でも胸が痛い。答申の内容を拝見する限り、我々の思いをくんでくれたと思います。これを受けて教育委員会や学校、個々の先生がどう受け止め、どう対処されるのか見守りたい」とのコメントを出した。

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2016年11月4日 中国新聞社

推薦基準変更きっかけ 第三者委が報告書提出 教育的視点欠く

広島県府中町立府中緑ケ丘中3年男子生徒=当時(15)=が昨年12月、誤った万引記録に基づく進路指導後に自殺した問題で、町教委が設けた第三者委員会は3日、学校推薦の基準変更で男子生徒が志望校を受験できなくなったことが自殺のきっかけだったとする報告書をまとめ、町教委に提出した。推薦基準を機械的に運用し、教育的視点を欠いていたとし、学校運営に問題があったと結論付けた=23・25面に関連記事。(長久豪佑、山田太一)

担任教諭が誤った万引記録を基に推薦を出せないと伝えた点について報告書は「生徒は親にどう伝えればよいか苦悩したと思われる」と指摘。男子生徒が万引をしていないと言い出せなかった理由は「教員と信頼関係が築かれておらず、適切なコミュニケーションが成立しなかった」とした。その上で「複数の要因を背景として自死に至った」と判断した。

同中では、問題行動が多発した時期があり、入試を控えた昨年H月、推薦を出すかどうかの判断基準とする非行歴を例年の「3年時のみ」から「1~3年時」に広げた。担任は男子生徒の非行歴を調べ、校内のデー夕に残っていた誤記録を基に指導したとされる。

報告書はこの点に関し「進路指導を検証すると、推薦基準を機械的・形式的に運用した問題点が見いだせる。生徒一人一人の状況を踏まえ総合的に判断するという教育的視点を欠いている」と批判した。

この日は、委員長を務める古賀一博・広島大大学院教育学研究科教授が高杉良知教育長に報告書を提出。「各教員が自分の問題とし捉えてほしい」と求めた。高杉教育長は「真摯に受け止めたい。再発防止もしっかり実行する」と述べた。

生徒の両親は代理人を通じ「個々の先生がこの報告をどう受け止め、どう対処するか見守っていきたい」とのコメントを出した。

報告書骨子

〇自死のきっかけは、推薦・専願基準の運用変更で、生徒の志望校の専願受験が認められなかったことと考えられる。

〇推薦・専願基準を機械的・形式的に運用した。生徒ー人一人の状況を踏まえ総合的に判断するという教育的視点を欠いた。

〇生徒と教員の間に日常的な信頼関係が十分に構築されておらす、学校が 共感的なサポートをしなかったなど、複数の要因を背景に自死に至った。

〇学校運営に大きな課題かおる。生徒に寄り添った進路指導が十分でなく、強権的・抑圧的な指導に陥り、信頼関係を築く姿勢が不十分たった。

生徒自殺の原因究明には至らず
解説
第三者委員会の報告書は再発防止に力点を置き、進路指導の問題点に踏み込んだ一方で、生徒が自殺した原因を突き詰めるには至らず、限界も示した。
委員会は、2月に学校がまとめた調査報告には頼らない姿勢で、独自に生徒アンケートや聞き取りを重ねた。しかし新たな事実は出ず、この日の記者会見ではしばしば「学校の報告書の通り」と説明。生徒との面談の様子も「担任の報告に大きな食い違いはない」と学校報告を追認した形だ。 なぜ自殺に至ったかという最大の課題に対する説明も、「原因」という言葉は一切使わず、「複数の要因が背景」とした。具体的な責任の所在も不透明なままのもどかしさが残る。
一方で、学校推薦基準の運用は、学校報告にない法的視点なども加えて批判。
1年生時の非行を挙げるのは「14歳未満の責任を認めない刑法、少年法の無理解」「不利益処分の遡及」と指弾した。
町教委や県教委に「指導・助言が不十分」と苦言を呈しただけでなく、私立高の推薦制度にも踏み込んで課題があると警鐘を鳴らした。教育界全体に対する委員会のメッセージとなった。
(田中伸武)

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府中町の中3自殺 昨年12月8日、府中町立府中緑ヶ丘中3年の男子生徒=当時(15)=が自宅で自殺した。学校側が「1年時に万引をした」との誤った記録を基に、私立の志望校入試で推薦をしないと伝えた後だった。複数の教員の内規違反が重なって誤記録が引をした」との誤った記録を基に、私立の志望入試で推薦をしないと伝えた後だった。複数の教員の内規違反が重なって誤記録が引き継がれていたことなど不適切な対応が相次いで判明。町教委は第三者委員会を設け、自殺の背景と原因究明▽学校と町教委の対応検証▽再発防止策-などを諮問した。

(23面)

「誤り認められた」府中町中3自殺

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委員とともに記者会見に臨み、報告書について説明する古賀一博委員長(中)

<男子生徒の自殺問題の経緯>

2013年10月 別の生徒が万引。学校のデータに誤って当時1年生の男子生徒の名前が記録される

15年11月20日 高校入試の推薦・専願基準の運用変更を決定。 1年生時までさかのぼり、非行歴があった生徒の推薦・専願を認めないこととする

12月4日 担任教諭が1年生時の資料を調べ、志望校への推薦ができないと男子生徒に伝える

12月8日 三者懇談に男子生徒は出席せず、自宅で自殺

12月9日 全校集会で急性心不全と説明

12月10日 万引記録が別人だったと判明

16年3月8日 学校と町教委が保護者説明会を開き男子生徒が自殺だったと報告

3月9日 文部科学省副大臣が来町、調査

3月31日 町教委が委嘱した第三者委員会が初会合

11月3日 第三者委員会が報告書提出

遺族、報告書に心境

「生徒と教員の間に日常的な信頼関係が構築されていなかった≒生徒に寄り添った進路指導が十分でなかったす。広島県府中町立府中緑ヶ丘中3年男子生徒=当時(15)=が昨年12月、誤った万引記録に基づく進路指導後に自殺した問題で3日、町教委の第三者委員会の報告書は指摘した。遺族や保護者は一定の理解を示す一方、再発防止の提言に物足りなさを指摘する声も上がった=1面関連。      (有岡英俊、明知隼二、木原由維)

防止策望む保護者も

「息子の気持ちを考えると今でも胸が痛む。家族の思いをくんで、学校側の対応がおかしかったということを認めてもらえた」。生徒の両親はこの日、同委員会から報告書の説明を受け、代理人の武井直宏弁護士を通じて報道陣に心境を伝えた。

同委員会は、教員による内規違反が重なって生徒の1年生時の誤った万引記録が引き継がれ、事実と異なる記録を基に、担任が進路面談をしていたなどとする学校の調査報告を改めて認定した。両親は「教師の言葉は重みがある。教師の接し方次第でこのような悲しい結果になることを心にとどめてほしい」と願った。

東広島市でも2012年、教諭の指導後に中学2年男子生徒=当時(14)=が一自殺した。「遺族はどうして防げなかったのかという気持ちを持ち続ける」とその父親(47)は言う。府中町の同委員会の報告書について「教諭とのやりとりや学校での様子を含め、なぜ命を絶つことになったのか納得できる内容だったのだろうか」と両親を気遣った。。

報告書は、再発防止策として、教員と生徒の信頼関係に基づく生徒指導の確立などを求めた。府中緑ケ丘一中の自殺した男子生徒と子どもがクラスメートだった会社貝男性(45)は「全く物足りない。どこかで聞いたような理想像ではなく、具体策を聞きたかった」。同校に次男が通う女性(43)は「子どもを信頼するのは大前提。教員は、その子のためにという思いを持って子どもに向き合ってほしい」と求めた。

佐藤信治町長は4日、高杉良知教育長から報告書の説明を受ける予定。「自殺の背景やきっかけがあることを深刻に受け止める。町として中身の伴った対策に取り組んでいく」とする。

広島県教委の下崎邦明教育長は「内容を精査し、速やかに必要な対応を検討し、二度と起こらないよう全力で取り組みを進める」とのコメントを出した。

推薦基準見直す″中緑ヶ丘中

府中緑ヶ丘中は昨年12月の男子生徒の自殺を受け、本年度から私立校入試の校長推薦の基準を変更するなど進路指導の在り方を改善している。

推薦を出すかどうかの基 準は入試を控えた昨年11月、3年生時だけでなく、1年生時にまでさかのぼって非行歴がある場合には推薦を出さないと変更したが、現在は生徒の成長を踏まえて総合的に判断するように見直した。アンケートをして保護者の意見も採り入れ、本年度初めに生徒や保護者に考え方を示した。

受験先などを決める生徒、保護者、担任の三者懇談は例年12月上旬に開くが、本年度は11月初めにも開催。よりきめ細かい指導を目指す。

教職員は4月以降、男子生徒の月命日に黙とうして始業する。PTAは、本年度から有志がボランティア組織「緑の輪」をつくり、校内の清掃や草刈り活動をする。「地域で支える意識が強まった」と話す保護者もいる。  (田中伸武)

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検証十分といえず

「指導死」親の会の大貫隆志代表世話人の話

学校側の当時の対応を厳しく指摘している点は評価するが、自殺の背景を「複数の要因」としたのはあいまいで、一検証の役割を十分果たしたとはいえな い。だから、再発防止策も総花的になっているように思える。指導による生徒の自殺が全国で相次いでいることをもっと重く受け止めてほしい。また、自殺の背景で生徒「パーソナリティーの特性」を挙げたことはヽ同じく子を失った親としてたまらない。追い込まれ、正常な思考ができなくなるのが自殺だからだ。


問題点捉えた内容

東広島市の中学2年男子生徒の自殺問題で第三者委員会の委員長を務めた吉中信人広島大大学院教授(少年法)の話

任意の聞き取りで事実関係を浮かび上がらせる難しさがある中、抑圧的な生徒指導の問題をよく押さえた内容だ。ただ、再発防止策で強調している「信頼関係の構築」には注意が必要だ。多忙な教員をさらに追い詰めかねない。教員と生徒の信頼は大事だが、あくまで両者は指導する側と指導される側の関係にあり、相性が合わないこともある。教員の繁忙解消に加え、スクールカウンセラーのような第三者を有効活用できる体制整備が必要だ。


(25面)

府中町中3自殺報告書 要旨

自殺の背景・要因

自死の要因の一つで、きっかけとなったのは、推薦・専願丞準の運用変更で、男子生徒が志望する高校の専願受験が認められなかったことと考えられる。このことは、三つの点で男子生徒に動揺を与えた。第一に、唐突な進路指導の変更で驚き・戸惑いを感じ、第二に、自分なりのプランが崩れることに衝撃を受け不安を抱き、第三に、期待してくれている親に対し、どう伝えればよいか苦悩が生じたと思われる。

これに加え、男子生徒と教員の間に日常的な信頼関係が十分に構築されておらず、1年時の触法行為の確認の際に担任との間で適切なコミュニケーションが成立しなかったこと、学校が共感的・支援的なサポートを行わなかったことも自死要因の一つというのが委員会の見解である。

また、男子生徒のパーソナリティーの特性から、家族や親しい友人にも苦悩や自死を疑わせるような会話や発言は一切行っておらず、周囲は誰も気づくことなく、自死を阻止する対応ができなかった。以上のように、複数の要因を背景として、残念ながら自死に至ったと考えられる。

学校対応の問題

学校運営に大きな課題があり、万引の事実誤認につながった。生徒に寄り添った進路指導が十分ではなく、強権的・抑圧的な指導に陥り、生徒との信頼関係を丁寧に築いていく姿勢が不十分だった。

校長のリーダーシップが発揮されず、組織的対応が的確でなかった。万引の記録の際に名前が取り違えられ、ミスが発覚し、訂正の機会があったのに、必要な訂正が行われなかったなど進路指導の記録の作成、保存などが不適切だった。

推薦基準の運用

基準変更の問題もある。男子生徒たちが1年時は、推薦・専願の基準で「3年間触法行為がないこと」との要件はなかった。生徒・保護者、教員も1年時に触法行為を犯した場合は、受験の際に推薦・専願が不可となることは想定していなかった。(1~3年の全非行歴を判断材料に含めるとした)年度途中の基準変更は極めて遅すぎる不適切な対応である。

少年法の理念を踏まえると、社会で「有責性なし」とみなされたものは学校でも「有責性なし」とみなすべきだ。1、2年時の生徒の触法行為を理由に、機械的に推薦・専願を認めない不利益処分を課すのは同法の理念の無理解で問題だ。

1年時に触法行為を犯した場合に高校受験の推薦・専願が不可となるのは「不利益処分の遡及(そきゅう)適用」行為で問題だ。方針変更の説明か一切ない点や他校の進路指導との平等性・公平性を欠く点も問題だ。

進路指導を検証すると、推薦・専願基準を機械的・形式的に運用した問題点が見いだせる。問題行動かあった生徒は、自動的に推薦・専願不可となっている。生徒一人一人の状況を踏まえ総合的に判断するという教育的視点を欠いている。町教委は的確に情報把握しておらず、指導や助言が十分でなかった。県教委も町教委の指導状況の把握が十分でなく、的確な支援策が提供されなかった。

再発防止策 

校内の会議や指導上の重要な記録は、速やかに作成・保管し、管理職などの確認が徹底できる体制つくり▽全教員が共感的姿勢で生徒・保護者の声に耳を傾け信頼関係の構築▽町教委は各学校と情報共有し、速やかな指導・助言、援助ができる体制の整備-などに取り組むべきだ。

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平成28年11月2日 神戸新聞社

いじめ調査/実態を把握できているか

  全国の小中高校などが2015年度に把握したいじめが、過去最高の22万4540件となったことが、文部科学省の調査で分かった。前年度から3万6468件増えた。

 兵庫県内の公立学校で確認されたいじめは6401件で、前年度の約2・7倍に上った。

 文科省は軽微ないじめも報告するよう指導している。件数の増加は、教員が積極的に把握しようとした結果とみるべきだろう。

 ただ、都道府県別の千人当たりの件数は最少と最多で約26倍差がある。4割近い学校が「1件もなかった」と回答した。兵庫でも市町でいじめの認知にばらつきがみられた。

 いじめはどこでも起こりうるが、大人からは見えにくい。早期の対応が、自殺につながるような深刻な事態を防ぐ。そうした認識が教育現場に十分に浸透していない可能性がある。本当に実態を把握できているのだろうか。

 児童生徒が心身に大きな被害を受けるなど、いじめ防止対策推進法で規定された「重大事態」は前年度より136件減ったが、298校で313件あった。いじめの問題に絡んで自殺した児童生徒は9人いた。

 大津市の男子中学生の自殺を受けて13年に施行された同法は、3年が経過し、見直しの時期を迎えている。防止のための基本方針策定や対策組織の設置などを学校に義務づけたが、その後もいじめを苦にした自殺は後を絶たない。

 文科省の有識者会議は、提言を大筋でまとめた。いじめを最優先で取り組むべき業務と位置づけ、いじめなどの解釈が学校や教員によって異なるため、具体例を示すよう求めている。「重大事態」を把握した際、学校に義務づけられている調査の方法や被害者側への説明の手続きを定めた指針を国が作成すべきとした。

 調査では、学校が認知したいじめのうち約9割が「解消した」と報告された。ただ、相手に謝罪したことで「解消」とみなしたケースもあるという。子どもたちの変化をもっと丁寧に見守る必要がある。

 端緒を教員がつかんでも、その後の対応を誤れば、子どもの命が失われかねない。教員が情報共有を徹底し、学校全体で問題意識を持つ姿勢が問われる。一方で専門教員の配置など、多忙な業務に追われる教員の負担軽減策も進めていくべきだ。

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平成28年11月1日 河北新報

<青森中1自殺>「複数によるからかいあった」

  青森県東北町の上北中1年の男子生徒=当時(12)=が8月にいじめ被害を示唆する遺書のような書き置きを残して自殺した問題で、町いじめ防止対策審議会は31日、「複数の生徒による、からかいや心ない言葉があった」とする中間報告を町教委に提出した。町教委は同日、遺族に中間報告を説明した。
 町教委は中間報告を非公表とした。町教委によると、中間報告の内容は遺族や男子生徒が通っていた
小中学校の関係者に対する聞き取り調査の結果を反映した。遺族と学校関係者の話で食い違う部分があるため、事実関係をさらに調査する必要があるという。
 漆戸隆治教育長は「いじめと思われる行為があったと捉えている。現段階では聞き取りがまだ不完全
なため、中間報告の公表は難しいと判断した」と話した。
 中間報告について説明を受けた男子生徒の父(49)は「『複数の生徒』という部分は知らなかった。

学校で何が起きていたのかをより深く追及してほしい」と語った。
 審議会は、いじめの事実関係、死に至った背景や再発防止策などをまとめた最終報告を年内に町教委
へ提出する方針。

 

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